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星撃ちの魔術師  作者: 星宮 しずく
1章 陽気な春
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2.書類の山


前回のあらすじ

面倒くさがりの少女の元に、最悪の来客が訪れました。

「相変わらずの部屋ですね。掃除という言葉知ってますか?」

我が物顔で部屋の椅子に座っているのは美青年。マリノ・プラターヌ。

天八座精神感応術筆頭。

男爵家の長子。

王国の歴代最高成績の持ち主。

上級貴族から平民まで多種多様の人脈を持つ。

まさに非の打ち所のない人。それがマリノという人物だ。

「それで書類は何処でしょう。探したのですよね」

傍から見たら笑顔で少女に話しかける良い人のように見える。

それは見かけだけだ。

一つ一つの言動に底計り知れぬ圧力が掛かっている。

この笑みの裏には一体何が潜んでいるのか、と何度も考えた事がある。

セレナは人付き合いは無いに等しいが、それなりに考えを読む事は得意である。

しかし、同僚であるはずの彼の思考は全く読めないのである。

「……あの、えっと、その、ですね」

セレナは自身の入れた紅茶に手をつけず、手をきつく結んでいる。視線は辺りを泳ぎ過ぎている。

「おい、深海。主をいじめるな」

ユリが飛んできた。先程までは傍観していたはずだがどんな心変わりなのか。

「……深海、とはどちらの事でしょう。まさかと思いますが、私の事では無いですよね」

「お!勘がいいな深海」

「……セレナさん。貴方は使い魔にどんな教育をしているのですか」

視線がさらに鋭く向けられる。セレナはどんどん小さくなっていく。ユリはケラケラ笑って机の周りをクルクル飛んでいる。

そんな家の家主と使い魔に呆れた様子のマリノは、カップをソーサーに置いた。その時ふと視線に白い何かが入り込んできた。

「…床でも張り替えたのですか」

「いえ、そんな、器用な事は、出来ません」

「ではこれは一体」

セレナは全く答えない。

「それは主がやったんだ。タワーに触ったらバッサバサと落っこちたんだぜ」

セレナの家は基本的にごちゃごちゃだ。正確には机の上が。書類は常に山を作り、インクとペンは紙の山に埋もれている。

今も例外ではない。

カップが置かれている場所以外は書類が積み上げられている。

その束が崩れるとなると…容易に想像できる光景である。

家に尋ねた時、扉の向こうで派手な音がした事をマリノは思いだした。

思わず、というようにこめかみに指を当てている。

あぁ、怒ってる。

これ、まずいかも…。

セレナは、オロオロし始めた。

「…もう少しどうにかできませんかね」

「ど、努力はしています…」

「さらに努力してください」

笑顔を崩さずに言われた、容赦無い言葉を浴びたセレナは縮こまる。

「深海は何しに来たんだよ、昨日も遊びに来ていたじゃないか」

ユリは心底不思議そうに聞いている。

そんなユリの様子にマリノは本日何度目かのため息を零した。

「書類を受け取りに来たのですよ。遊びには来ていません。仕事です。貴方にも言っていたはずです。セレナ・リブロに書類を探しておけと伝えなさいと」

「それか!さっき言ったぞ!」

ドャと言う効果音が聞こえてきそうな態度だ。

「…さっき?」

マリノはふむと指を顎に当てた。

少し考えているようだ。

その間にセレナはやっと紅茶に手を付けた。

冷めてしまった事に少し落胆している。

「……あぁ、なるほど」

そう呟いた後、マリノはセレナの方を向いた。

「貴方の状態はお察ししましょう」

良かった。怒られない。

セレナは安堵した。

しかし、その次の言葉に青ざめることになったのだ。

「だからといって仕事を放棄する訳にはいきません。貴方の部屋でしょう?待ちますので今すぐに見つけなさい」

「え、あ、えっと」

「見つけなさい」

「は、はい!」

セレナは椅子から思いっきり立ち上がり、紙の山に手を付け始めた。

その手つきは危なっかしい。

そんな自身の主をしり目にユリは、マリノに近づく。

「主は毎日何かを書いているが深海は何しているんだ?もしかしてあれか?サボリ魔か!」

「そんな訳ないでしょう。毎日仕事ですよ」

強めに否定された言葉にユリは納得がいかなかった。

「じゃあ何しているんだ。主みたいに何か書いているのか?」

カップの縁をなぞりながらマリノは答えた。

「部分的に正解、部分的に間違い。というところですね」

「なんだよ!じゃあ何しているんだよ‼︎」

ユリは地団駄を踏んだ。いや、羽をバタバタしてる。

その隣ではバサバサと山が崩れる音と、情けない小さな悲鳴が聞こえてきた。

マリノはため息をついた。

「…仕事ですか?」

「そうだ!その態度で主より働いてなかったら許せないからな‼︎」

マリノの面倒くさいな、そんな声が聞こえてきそうな態度にさらにユリは苛立っているようだ。

そんな様子のユリにマリノは興味無さそうだ。

答えながら指を立てていく。

「魔物の討伐に竜討伐、経費の見直し、定期的な会議の出席に精神を壊した魔術者のメンタルケアに……」

「ストップ!ストップだ!!」

突然止められた事にマリノは不思議そうにしている。

ユリは全力疾走をした後のように息を切らしている様に見える。

「お、お前、仕事しすぎだ‼︎」

「えぇここ数ヶ月はそうですね。…おかげで最近は妻にも会えていないのです」

思わず零れた声だった。それにセレナは書類を探す手を止めてしまう。

「…ご結婚されていたのですか?」

「えぇ、半年ほど前に。既に周知の事実ですが」

淡々とマリノが告げた言葉にセレナの脳は追いつかない。

ロード中。そんな言葉が似合う状態だ。

「…ほら、早く探してください。身の上話は今度聞かせてあげましょう」

「い、いえ。大丈夫です」

シッシッと払うように促されるとセレナはまた、書類を探す手を動かし始めた。


✿✿✿


数十分後、セレナは山の中から、約束の書類をやっとの思いで発掘した。

「お、お待たせしました…」

差し出された書類をマリノは受け取った。

「確かに頂きました」

書類の内容を目に通してから、マリノは立ち上がった。

「次の書類は…?」

セレナの言葉にマリノはため息をついた。

「…貴方はこの部屋を片付けなさい」

「な、何故…ですか?お忙しいのですよね、書類は私が──」

「確かに忙しいです。どこかの誰かさんがやりたがらない魔物と竜の討伐。報告書の作成。おかげさまで毎日が目まぐるしいですよ」

セレナはギクリと体を固くした。

図星だ。何も言い返せない。

マリノの言う通りなのだ。

セレナは竜と魔物討伐をやりたがらない。

その為、全て他の天八座に任せっきりなのだ。

その代わり書類の作成に物資の管理。貴族と平民から来るクレームの返信等。

よく言えば裏方。悪く言えば雑用係だ。

セレナが探していた書類も、先月マリノから貰った仕事だったのだ。

「今月分は無いのですか?代わりの仕事無しで討伐を任せるのは、少し…」

「えぇ、ありません。ですが、ご安心ください。いつも通り、貴方の代わりに魔物討伐はしますので」

そう告げるマリノはにこやかな笑顔を向けている。

だが、彼の目の下にある薄らとしたクマは隠しきれていない。

「い、いえ。お忙しいなら、尚更やります。奥様にも会えていないのですよね。だったら負担を軽くしないと…。奥様に悪いですので…」

セレナは家から出ようとするマリノを引き止める。ここで帰したら本当に申し訳ない。マリノにも多分健気に待っているであろう奥様にも。

「…では、こうしましょう。近い内にまた来ます。その時、あれが消えていたら仕事を渡しましょう」

マリノが指を指した方を恐る恐る見てみる。先程いた場所だった。

書類の山がまた一つ崩壊した。

「…ど、努力します」


✿✿✿


マリノが帰った後、言いつけられた通り書類をまとめていた。

使わないのは処分もしろと言われたが、セレナにとっては三番目位に大事な書類達だ。

捨てる事なんてできない。

チラリとユリを見てみると書類の山の頂上に止まっている。

「…ちなみに、マリノさんに付けているあだ名。何が由来なの?」

ずっと気になっていた事をユリに聞いてみる。

「深海?顔は穏やかなのに、思考が読めないから深海って呼んでいるんだ。それに、あいつの使い魔も言ってるしな」

くだらないな。と一瞬セレナは思ってしまった。

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