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星撃ちの魔術師  作者: 星宮 しずく
1章 陽気な春
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1.使い魔のやらかし


前回のあらすじ

名も無き魔術師が竜を倒しました。

窓の外には澄み渡る青い空が広がっている。春の陽気が心地いい。

そう思いながら一人の少女は窓から視線を外し、黒板へ向き直る。

三組の教室は静か、というよりも張り詰めている。

担当教師が黒板に何かを書いている。

『魔術とは』

書き終わったであろう教師はこちらに視線を向けた。

「魔術とは技術だ。才能では無い」

チョークをコトンと置く音がした。静かな教室には十分に響く。

「魔力は誰でも持ち合わせている。差が出るのは、魔術への理解と制御だ。魔法陣は──」

教師が授業をしているにも関わらず、生徒達は俯いている。メモを取る者もいるが、ペンを置いて、ただ、下を向いている者もいる。

ここが一組だとしたら、大半が自信に満ちた顔をして授業を受けているのだろう。自身の魔術力を知り、それなりに扱える。一組とはそんな人種の集まりだ。

「──そして、この国には、天八座と言われる者達がいる」

天八座。と言う言葉に反応して下を向いていた生徒も顔を上げた。

(…珍しい、さっきまで死んだような空間だったのに)

窓側に座る少女はふとその様に感じた。

「天八座とは、この国にある各魔術体系のトップに君臨する者達の事を言う」

黒板に八つの円が書かれる。

攻撃術。

精神感応術。

結界術。

幻創術。

治癒術。

魂術。

強化術。

空間術。

魔術師にもよるが、大体の人が使う事が可能な八つの魔術。

「天八座は古い星座に由来して名付けられている。何故、星座なのかはまだ分かっていない。だが、この者たちがこの国の平穏を守っている。各魔術体系、試験に出るからな」

試験と言う言葉に反応し、皆がメモを取り始める。

「この中で攻撃術筆頭は君達と同じ十六歳だ。つまり、君達にも天八座になれる可能性は十分にあると言う事。そう、最近の天八座の功績だと──」

話は次々に転換して行く。

天八座の功績、実務。魔術師への道のり。完全な教師の私情。全てが濁流のように流れていく。

このクラスの教師も生徒も授業にやる気なんて起きないものだった。

なんと言ったってこの学園の三組とは落ちこぼれ。

魔術を上手く扱えない者達の集まりだからだ。

三組を担当する教師も大した魔術が使えない事が多い。

その為魔術師になる為の授業を受ける意味、行う意味など無いのだ。

魔術師志望にとって絶望的な三組は魔術の授業よりも一般授業を受けたい人が多い。

来年の大学校受験を受ける人が多いからだ。

その為魔術の授業はただ、時間を潰す為のものになっている。

教師の雑談を聞いていると学園の鐘が響いた。今日の授業が終わる合図だ。

「では、今日の内容は復習しておくように」

そう言うと教師は教室を出ていった。

すぐに、それぞれが学園から下校する準備を始める。話し声も笑い声も聞こえない教室。

教科書を揃える音、カバンを開ける音のみがクラス中に広がっていた。


✿✿✿


「ただいま」

「主、おかえり。遅かったな」

この家に住んでいるのは少女一人。では、誰が返事をしたのだろうか。

「そうかな、いつも通りだよ。ユリ」

ユリ、と呼ばれたのは蝶。少女の使い魔である。青い羽根を持つ蝶。本来の名はユリシス。ただ、ユリ自身が別の名が良いと言い出した為ユリシスから取り『ユリ』と呼ばれている。

「ふーん、で、新学期の学園生活はどうなのさ。何か面白い事あるか?」

「何も無いよ」

少女はユリと会話をしながら荷物をロフトに投げ入れた。バラバラという音がした気がするが、少女は全く気にしない。

「主…」

ユリは呆れた様な声色で主に視線を向ける。

「…別にいいでしょ。効率大事」

「人間界ではそれを面倒くさがり、と言うのだろう」

「…合理的って言ってほしいな」

面倒くさがり、と言うことをどうも認めたく無いような様子。

「そういう事にしておいてあげよう」

ユリは、ロフトの方へ飛んで行った。カバンの状態を見ているのか、はたまたお気に入りのお花の蜜を吸いに行ったのか。

少女はユリの向かった先を一目見てから本棚から書類を取り出した。

書類の一部を抜き取り机の上に置いた。また、山が一つ完成した。

少女は台所へ行き、紅茶を入れようとポットに火をかけた。

持ってきていた書類に目を通しているとユリがやって来た。

「主。お前にお届け物があった」

「…?」

ユリは、書類の山の中に飛んだ。その方向へ進み、ユリがいる場所に行く。書類の上にポツンと二つ折りにされた便箋が置かれてあった。

少女は便箋を持ち上げ開く。

『本日の昼、約束の書類を取りに来ました。貴方の家は何故、散らかっているのか私には到底理解出来ません。おかげで書類を探す羽目になりました。ですが、見つけるのも手間だと思い貴方に探させようと考え今に至ります。明日の午後、また向かいます。それまでに見つけるように。 マリノ・プラターヌ』

「主に言おうと思って昨日から忘れてたんだ。大した事、書いていないだろうし大丈夫だろ」

そんなユリの言葉は少女に届かない。便箋を持つ手は震えている。冷や汗が止まらないとはこの事だろう。

「大体何で、深海は主が居ない時間に来るんだ?別に夜でいいじゃないか」

ユリはブツブツと疑問を言っている。少女は少しして、やっと処理能力が追いついたようだ。

「…まって、ユリ。なんて言った…?」

「はぁ?何で深海は主が居ない──」

「違う、その前」

少女の声は震えていた。何かに怯えているような、恐れているような声。

ユリは気付かず考える。

「えーその前?えっと、あっ、そうだ。深海が帰った後、主に言おうと思って忘れてたんだ!昨日、深海はここに手紙を置いていったぞ」

「昨日…」

少女は便箋をもう一度見る。

『明日の午後』

昨日時点で指す明日は今日の事…。すなわち…。

少女が思考を必死で回していると扉がノックされた。

ヒッと少女は飛び上がる。

「何、そんなにビビっているんだ。客だろ客。出ろよ」

「いや、だって、その、」

少女はモゴモゴしている。

そんな事をする間に二度目のノック音が響く。

ビクっと少女の肩が上がる。

「早くしろよ。待たせるの悪いだろ」

「まって、今、書類探すから…」

少女はバタバタと机の上を探す。

「…あっ」

焦ったせいか、書類の山は崩れた。崩れ無いように支えようとした手は宙に浮いたまま。書類は虚しく床に散らばった。一種のカーペットの様にも見える。

呆然としていると三回目のノック音。強く、大きめに響いた。

向こうの相手が苛立っているのが良く分かる。

「主、さっさと行け。出ろ」

「……はぁ」

ノロノロと少女は扉に向かう。その足取りは非常に重い。

出たくないです。帰って欲しいです。そんな言葉が本気で聞こえてきそうな背中だ。

少女は少し悩んだ後覚悟を決めて扉を開けた。

「…はい」

外の光が部屋に差し込む。そこには人影が。

「遅かったですね。セレナ・リブロさん。お約束の書類を取りに来ましたよ」

扉の前に立っていたのは好青年。周囲を通る人から視線を集めている。

人当たりが良さげな柔らかな笑みを浮かべている。

だが、その視線に逃げ場は存在していない。

「まさかとは、思いますけど用意していない、なんて有り得ませんよね?」

彼こそが、天八座精神感応術筆頭。

この国で一番の天才だ。

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