1、インドア脱却?
「失礼しました」
頭を下げ職員室の扉を閉める。
ふぅと一息をついて歩き始める。今日は当直で、日誌を置きに来たのだ。
(明日から連休か。何しよう。とりあえず、書類を片付けたいな。あ、あとユリに新しい花が欲しいって言われてた。…外出たくないな。)
ゆっくりと昇降口まで歩いた。夕暮れの光が校舎には差し込んでいる。
自身の靴箱を開けて、ローファーに履き替える。
少し遅いため、校舎内に生徒の姿は無い。
セレナは欠伸をしながら校門に向かう。校庭の方からは生徒の声がする。放課後活動だろうか。
(…眠い。流石に四時まで論文を読み耽っていたのは不味かったかな)
本来はオールする予定だったのだが、いつの間にか寝落ちをし、ユリに今朝は叩き起された。
今日こそ、論文を最後まで読もう。
そんな決意を固めたセレナ。
「セレナ!」
声がかけられたので顔を上げる。
そこには、大きな馬車と大きく手を振っているルナが居た。
小走りでルナの元に向かう。
「…どうしたの。こんな遅くまで」
ルナの前に着く頃には少しの息切れを起こしていた。
日々の運動不足がここにも影響している。
「明日から連休でしょ。だから、一緒に遊びに行かない?」
「あ、遊びに?」
「そう!」
ルナは目を輝かせている。
対して、セレナはタジタジだ。
「えっと、その…、あの」
「もしかして予定があるの、かな?それなら大丈夫だよ」
こういう気遣いが出来る所がルナのいい所だと最近思う。
ただ、どこか悲しそうな、寂しそうな顔をされると断りにくい。
「…うん。大丈夫だよ。行こうか」
セレナがそう言えば、ルナは、満面の笑みを浮かべる。
「ほんと⁉︎じゃあ、明日の九時にクロース街の門集合で!」
ルナはそう言うと馬車に乗った。
扉が閉まる前にルナは振り向き、手を振っていた。
反射的に振り返す。
馬車は、ゆっくり動き出した。
あの馬車は確か凄くいい品物だったな、と思いながらセレナは自分の家に帰る。
「遊ぶ…か…」
(最後に遊んだのいつだっけ)
そんなつぶやきは、オレンジ色の空に消えた。
✿✿✿
木製の扉に鍵をさし開ける。
紙の匂いと甘い花の匂いが家から流れてくる。
「ただいま」
「おかえり主。遅かったな」
「そうかな」
ユリが、奥から出てくる。
きっとまた、食器棚の隙間に居たのだろう。
最近のお気に入りポイントらしい。
セレナは、鞄を机に置き、ノートと教科書を取り出す。
その後、ロフトに鞄を投げ入れる。
「ユリ、今日は誰か来た?」
「来てないぞ」
この間はユリのお陰で酷い目にあった。
そこから毎日、お客さんが来ていないか確認するのが帰宅後のやることになった。
「そう」
セレナはノートを、ペラペラと捲る。
ほとんど書いてない真っ白なページと、呪文のように書いているページがある。
ユリが覗き込んでくる。
「…主はこれに何を書いているんだ?」
「…色々」
「色々ってなんだよ!」
ユリの突っ込みをスルーして、セレナはページを捲り続ける。
「…あった」
セレナが、手を止めたページは国内の地図が貼られているページだ。
万年筆をとり街の名前を探していく。
「主、何しているんだ」
「街を探しているの」
「街?」
セレナはどんどん北から街の名前を探していく。
(クロース、クロース。確か東の方。王都に近かったよね)
「主は、なんで街を探しているんだ。仕事か」
「遊びに行くの」
「へぇ、遊びに…。遊びに⁉︎主が⁉︎」
天八座にインドアの塊って言われているあの主が⁉︎
そんな声はセレナに届かない。
ユリは一人で騒いでいる。大慌てだ。
セレナは、そんな中地図に万年筆を走らせる。
しばらく学園と自分の住む街しか外に出ていない。
たまに王都に出向く事もあるが、ほとんど行かない。
王命でない限り行かない。流石に逆らう事は出来ない。
「あった」
王都から馬車で一時間ほど掛かる街。セレナの住む街からは五時間掛かる。
「主はここに行くのか」
「そう」
「ユリも行っていいか⁉︎」
今までなら快くいいよ、と言っていた可能性が半分程あった
ただ、ユリには前科がある。
使い魔はどうしても目立つ。そして、ユリの性格的にいつ迷子になるのか分からない。
「…ダメ」
今回は諦めて貰おう。
そう思い言うとユリはガーンというような状態。
「…花買ってくるから…ね、」
「仕方ない、このユリ様が留守番をしよう!」
良くも悪くもユリは単純だ。
単純で真っ直ぐ。セレナはユリのそんな所は評価している。
「よろしくね」
「まっかせろ!」
そんな会話が、繰り広げられた。




