10.決意の夕暮れ
前回のあらすじ
少女は明かしたくなかったけど、身分を明かしました。
「…まぁ、そうじゃないと納得出来ねぇよな」
セレナが身分を明かしたあと、一番初めに反応したのは意外にも男だった。
「て、事は、俺は攻撃術のトップに刃向かっていた訳か。そりゃ強いわ」
男は乾いた笑いをしている。
どこか、虚ろな目をしている。
「…では、これは連れて行きます。後はごゆっくり」
マリノは、男を連行していく。多分、投獄だろうな。
セレナは二人の背中を見送る。
「セレナ…」
後ろから声が掛けられる。
ルナはいつの間にかセレナさん、からセレナとよび方が変わっている。
「今まで黙っていたんです。ごめんなさい」
セレナは頭を下げる。
誠心誠意の謝罪だ。
三組のセレナが、この国の攻撃術のトップ。
この事実は、一組のルナのプライドを傷つけた可能性がある。
「あ、いや。謝って欲しい訳でないの。びっくりはしたけれど…」
歯切れが悪い。
上手く呑み込めていないのか。
セレナにはあまり関係ない。
「安心してください。退学届を出すので」
息を呑んだ、気がする。
セレナには見えない。視線を落としたままだ。
…退学届。どこにあるっけ。入学式の時貰った気がする…。
いや、貰ってないっけ。
…学園長に言えば貰えるかな。
退学届の行方をグルグル考えている。
「な、なんで…」
「わたしが望むのは平穏な学生生活だから」
──平穏で何も無い。ただの平凡な日。
セレナが一番願っていることだ。
学園の中で優秀とされるのは一組生徒。
普通とされるのは二組生徒。
落ちこぼれと言われるのは三組生徒。
セレナの実力だったら一組生徒にもなれた。
ただ、セレナは三組になるように入念に戦略を立て、見事三組生徒になった。
理由は、ただ一つ。目立たない為。
「…セレナ。私と取引しましょう」
ルナは真剣です。と言う顔をしている。
「私はセレナの秘密守ります。なので、その…」
ルナはスカートを掴んだり、髪の毛を触ったりして、忙しない。
そして、息を整えてセレナの目を見て真っ直ぐに告げた。
「──私の友達になってください!」
セレナの頭には疑問符が浮かんだ。
は?友達?
「わ、私を助けるとでも思って。嫌なら断って、ください…」
所々詰まりつつ、手は忙しない。
ただ、視線だけはセレナから外れない。
「ただ、断られたらじ、情報、バラまいちゃうかも、しれない、ですよ?」
ルナの脅しはとても可愛らしいものだった。
思わず笑いそうになる程には。
だから、セレナはこう返した。数時間前彼女に返されたように。
「どうして疑問形なの?」
うぐっと呻き声を上げている。
(…友達ね。なれば、秘密を守られた上で今まで通り平穏な生活が送れる。ならなくても正直問題はない。けど…)
何となく、嫌だった。
「…よろしくね、ルナ様」
その言葉にルナは一瞬嬉しそうにしたが、すぐに不服そうに頬を膨らませていた。
「お友達なのに様付けは無いよ。ルナ。ルナって読んで」
ルナの笑みに押され、セレナは戸惑う。
「…よろしくね、ルナ」
「うん、よろしくね。セレナ!」
✿✿✿
日はすっかり暮れた。
会議から戻ってきた警備員が休憩を取りに行き、もう一人が来るその数秒で抜け出してきた。セレナは神経を使い、少し疲れている。
ルナは、校門を出た後、馬車で帰って行った。
馬車に乗っても様になる。やっぱりルナは貴族だ。
「主ー!」
「ユリ」
今までどこに行っていたのか。セレナが学園内を必死に探していたユリはアッサリと呑気に現れた。
「主聞いてくれ!建物から少し離れた所の物置?みたいな所に行ったんだ。そしたら人がいたんだ!びっくりして声を出したら相手魔術使ってきたんだよ‼︎」
…待って、そういえば、爆発音がした倉庫を見た時、コバルトブルーの羽を見たけど…。
「対抗しようとしたら、バンってなったんだ!ひっどいよな」
ため息をセレナは着いた。
あの男は故意に魔術を付けたのではない。
ユリに驚いて魔術を使っただけ…か…。
「主?どうしたんだ?」
「…特に」
今度から、何かあったら真っ先にユリを疑おう。
そんなセレナの決意にユリは気づかない。
セレナとユリはのんびりと会話をしながら帰路に着く。
「──と、友達⁉︎主に⁉︎」
明日、世界滅びるのか⁉︎
そんな声が夕暮れの街に響いた。
1章 陽気な春 [完]




