0.名も無き一撃
街の外は赤く染まっている。
夕暮れ、という訳ではない。古くから存在する、竜が吐く炎のせいだ。
幸い今はここに結界が張られている。後は耐え忍ぶのみ。
「ねぇ、いつ、出られるの…」
「大丈夫、もうすぐ天八座様がいらっしゃるからね」
近所に住む親子の声がしている。子供の方はまだ幼い。不安もあるだろう。
しかし、じっとしている。
皆に迷惑が掛からないように。
その間も炎は広がり続けている。結界の外は焼け野原だ。街の魔術師を集め創り上げた強力な結界でも、もうすぐ壊れてしまう。
あぁ、ここで終わりか。
諦め。という物が頭に浮かんだ時、ふわりと風が舞ってきた。魔術師達は思わず上を見上げる。
街一番の時計台の天辺に誰かが立っている。顔はよく見えない。
皆が目を凝らすと目の前を何かが高速で通り過ぎた。
その何かは時計台の天辺にいる者の近くで止まった。
先程から吹いている風によって、時計台の者のフードらしきものが取れた。
肩くらいの金髪に髪。幼い身長には見合わない長過ぎるローブ。
その人物が天に向かって指を向けた。
その瞬間、結界は壊された。バリンとガラスが割れるように、脆く、ズタズタと。
「お前…何しているんだ‼︎」
魔術師の一人は思わず怒鳴ってしまう。結界が壊れた。そしたら竜が侵入してしまう。街が壊されてしまう。あの者のせいで。自分達は必死に街を守ろうとしているんだ。邪魔するな。そんな魔術師達声は虚しくも届かない。
竜は街に突撃してくる。壊す気なのだろう。
皆が逃げ出した。魔術師も子ども達と。
竜はスピードを上げ近づいてくる。
時計台の者は動揺せずに、竜に指先を向けた。
そして、誰も見た事が無いような大きさの魔法陣を出現させた。
それは全ての者の目を奪う程美しい紋様が描かれている魔法陣だった。繊細で美しく、無駄が無い。
「──」
その者が口を動かす。
それと同時に無数とも言える矢が現れ放たれた。流星の様に、雷の様に、まっすぐ光を帯びてそれは竜へ向かっていく。
辺りは静まりかえる。
時計台を見るも魔術師は居ない。
そばにいた何かも居ない。
竜は瞬きする間もなく、月が光る空から削り取られた様に地に落ちた。
竜を討伐したのはただ、一人の魔術師。
その逸話は本物なのか、偽りなのか。
その場にいた者達だけが、真実を知っている。




