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第7話 風の少年と記憶の旋律

丘を下りた先に、小さな家が並ぶ通りがあった。

その中でひときわ大きな声が響く。


「おーい、そこの旅人!」


灯里が振り向くと、風車の下で少年が手を振っていた。

年は自分と同じくらい。髪は風に乱れて、笑顔がまぶしい。


「君たち、丘で風の歌を聞いてただろ」


「うん。すごくきれいだったよ」


灯里が答えると、少年は胸を張った。


「だろ! あれ、俺が調整してるんだ」


「えっ!? あれって機械なの?」


「風が通る角度で音が変わるんだ。昔の人の仕組みを真似してるだけだけどな」


リアムが感心したようにうなずいた。


「昔の人、ってことは古代の技術か?」


「多分な。うちのじいちゃんが“記録の残響”って呼んでる」


灯里はその言葉に反応した。


「記録の……残響?」


「そう。風の音が昔の歌を覚えてるって話。意味は分かんないけどな」


少年は笑い、手を差し出した。


「俺、リュカ。風の修理屋やってる」


「私は佐倉灯里。アカリでいいよ!」


「へぇ、変わった名前だな。光って意味か?」


「うん! よく分かったね!」


灯里が嬉しそうに笑うと、リュカも少し照れたように頬をかいた。


「風の塔の音、気になるなら聞かせてやるよ。今日、風が強いんだ」


「ほんと!? 行きたい!」


リアムは少しだけ苦笑いをした。


「また面白い子を見つけたな」


「ね? なんかワクワクするでしょ」


三人は並んで坂を登った。

風の塔は石造りで、上部に細い管が何本も伸びていた。

風が通るたび、管が音を鳴らす。


「ほら、聞こえるか?」


――ヒュウウ……ウウ……。


「わぁ……。ほんとに音がしてる。風が歌ってるみたい」


リュカが微笑んだ。


「じいちゃんが言ってた。“この音は、人の記憶を運ぶ”って」


「記憶を……?」


灯里は空を見上げた。

風の音の中に、誰かの声が混じっている気がした。


――アカリ。


小さく、でも確かに聞こえた。

灯里はハッとして振り向いた。


「今……誰か、私の名前呼んだ?」


リアムとリュカが顔を見合わせる。


「俺たちは何も言ってないけど」


「そうか……気のせい、かな」


灯里は胸に手を当てた。

風が頬を撫で、心臓が静かに高鳴る。


「この音……懐かしいのに、悲しい」


リュカは空を見上げながらつぶやいた。


「たまにさ、俺も誰かに呼ばれる気がするんだ。風の向こうから」


灯里はリュカの横顔を見つめた。

同じ“何かを思い出せない人”の顔。


リアムがゆっくりと口を開いた。


「この風の歌、きっと何かを伝えてる。風が運ぶのは、ただの音じゃない」


三人の間を風が通り抜ける。

その風の中に、確かに“声”があった。


――戻ってきて。


灯里の目が見開かれる。

けれど、風はそれ以上何も言わなかった。


「……ねぇリアム。やっぱり、この世界、どこかおかしいよ」


「そうだな。でも、それを確かめるために俺たちは旅をしてる」


灯里は小さく頷き、風に髪を揺らした。


遠くで、風の塔がまた鳴った。

まるで、これから始まる長い旅を祝福するように――。

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