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第5話 古びた塔と記録の欠片

翌朝、レフルの街は薄い霧に包まれていた。

石畳の上を白い靄が流れ、鐘の音が遠くで響く。


灯里は宿の前で伸びをして、深呼吸をした。


「うわぁ、空気ひんやりしてる。朝の匂いだね」


「この街は海が近いからな。霧が出やすいんだ」


リアムが肩の荷を直しながら言う。


「昨日の遺物、まだ気になってるんだろ」


「うん、あの光、どうしても忘れられなくて」


「なら、ちょうどいい場所がある」


「え、どんな場所?」


「レフルの外れに古い塔がある。昔、学者が“記録の塔”って呼んでた」


「記録の塔……なんか、名前からして気になるね」


リアムは頷き、街の門を出て坂を上る。

丘の向こう、霧の中に黒い影が見えた。

崩れかけた石の塔。

上のほうは折れ、ツタに覆われていた。


「これが……塔?」


「そうだ。もう誰も近づかない場所だ」


灯里は足を止めて見上げた。

灰色の石壁に鳥の巣、風に揺れるツタ。

どこか、悲しいけど綺麗だった。


「……ちょっと怖いけど、行ってみたい」


「気をつけろ。中は崩れてるかもしれない」


リアムが剣を抜き、扉を押す。

錆びついた金具がギィと軋んだ。


中は静まり返っていた。

風の音も、鳥の声も、何も聞こえない。

床には紙みたいなものが散らばっていた。


灯里がそれを拾い上げる。


「これ……紙? でも、ボロボロだね」


「古い記録の欠片だな。触ると崩れるほど古い」


灯里はそっと指先で触れた。

すると、指先がかすかに光った。


「えっ、ちょっと、リアム! 見て、これ光ってる!」


リアムが近づき、目を細める。


「この文字……昨日見た遺物の印と同じだ」


「ほんとだ……丸い形に、線が三本」


灯里の胸がドクンと鳴る。

頭の奥が少しだけチカチカした。


――これ、どこかで見た気がする。

――でも、どこで……?


光はすぐに消え、紙は砂のように崩れて床に落ちた。


「……消えちゃった」


「記録が生きてたんだ。まだこの塔のどこかに、何かが残ってる」


リアムは奥の階段を見た。


「上に行ってみよう」


階段は崩れかけていたが、かろうじて登れた。

上の階には、割れたガラスと倒れた机。

中央には、金属の筒のようなものが転がっていた。


「なにこれ……ドラム缶みたい」


リアムが筒を調べ、慎重に手を伸ばす。

その瞬間、かすかに光が漏れ、声が響いた。


――記録装置、作動開始。


「えっ、今の、声!?」


「聞こえた。まだ動くなんて、信じられない」


――時刻、不明。状況、崩壊後。生存者の記録を――


音はそこで途切れた。


「崩壊後って……どういう意味?」


灯里は思わずリアムを見上げた。

リアムの表情が少し険しくなる。


「分からない。でも、これが記録装置なら……この世界に何かあったんだ」


「何かって、例えば……戦争とか?」


リアムは頷かなかった。

ただ、静かに言った。


「この世界は一度、壊れたのかもしれない」


灯里の胸の奥がぎゅっと痛んだ。

どうしてか分からないけど、その言葉に涙が出そうになった。


風が塔の窓から吹き込み、古びた紙が舞い上がる。

光の粒が、その中でゆっくり揺れていた。


「アカリ」


「なに?」


「この塔は、まだ何かを隠してる。ここで見つけたものが、きっと鍵になる」


「鍵……」


灯里は小さく頷いた。


塔を出る頃には、霧が晴れ始めていた。

空が少しだけ青く見える。


「ねぇ、リアム。あの声、ちょっと人間っぽかったよね」


「ああ。けど、ずっと昔の誰かだ。この世界が“変わる前”の記録だろう」


「変わる前……」


灯里は空を見上げた。

太陽の光が雲の切れ間から差し込む。

あの光の石と同じ、やさしい色だった。

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