第14話 砂丘の底に眠るもの
風の向きが変わった。
三人が歩き始めてから、もう半日が過ぎていた。
砂丘の谷間を抜けるたび、
灯里の耳にかすかに声が混じる。
――アカリ……こっちへ……
「また……聞こえた」
灯里が立ち止まると、
リアムとリュカも足を止めた。
「どの方向だ?」
リアムが風を読むように目を細める。
灯里は胸に手を当て、静かに息を吸った。
風の音に意識を合わせると、
どこか遠くで呼ばれるような感覚がした。
「……あっち。西の方から聞こえた気がする」
リュカは眉を上げた。
「昨日と方向違くないか?
風向きで変わってるとか?」
「いや……呼んでるのは、風じゃない」
灯里の声は小さかったが、震えてはいなかった。
むしろ、確信に近いものがそこにはあった。
リアムは短く頷いた。
「行こう。アカリの感覚は、当てになる」
歩き出した三人の影が、長い砂丘に伸びる。
しばらく進むと、砂の色が少しずつ変わっていくことに灯里が気づいた。
「ここ……なんか、砂が黒い」
「火山砂じゃないな。もっと細かい」
リュカはしゃがみ込み、砂をすくって指の上で流した。
「金属っぽいんだけど……なんだこれ」
リアムは足元を注意深く見つめ、
砂がわずかに磁石のように固まっているのを発見した。
「……人の手が加わった跡かもしれない」
「え、人がこんな砂作るの?」
「作るというより……残したんだ」
リアムがそう言った瞬間――
灯里の耳に、はっきりと声が届いた。
――アカリ……もうすぐ……
灯里は息を飲んだ。
「今の……!」
リアムが剣に手を添える。
「どこだ?」
灯里はゆっくり振り返り、砂丘の斜面を見上げた。
まるでそこだけ風が巻いているように、砂が渦を作っている。
「……あそこ」
駆け上がると、砂丘の頂上には
古い石の柱が一本だけ突き出していた。
「建物……?いや、もっと古い」
リアムが石柱を触る。
ひび割れの中に、金属のような光が走っていた。
「これ、遺物だ……」
リュカが息を呑む。
「でも、こんな砂丘の真ん中に?」
灯里は石柱に近づき、刻まれた文字を見た。
三本の線と、円。
地下施設の記号と同じ。
「やっぱり……ここにもあったんだ」
その瞬間――
足元が揺れた。
「きゃっ!」
砂が崩れ、灯里の体が沈み込む。
リアムが腕を掴もうとしたが、砂の流れが速すぎた。
「アカリ!」
「大丈夫、離さない……!」
灯里は必死にリアムの手を掴む。
だが次の瞬間、
砂の下から強い風が吹き上がった。
――アカリ。来て。
風が言葉を形にした。
「……っ!」
灯里はその声に引かれるように、
リアムの手をそっと離した。
「アカリ!」
リアムとリュカの叫びが遠ざかる。
灯里の体は砂の中へと吸い込まれ、
真っ暗な空洞へと落ちていった。
落下の途中で、
灯里の頬を黒い風が撫でた。
まるで優しく導くように。
やがて、視界の下に
青白く光る巨大な空間が広がった。
「……ここ、なに……?」
灯里は光の底へ向かって落ちていく。
その光の中心には――
古代の機械のような巨大な輪が静かに眠っていた。
輪の中心にだけ、
揺らめくような白い光がふわりと浮かんでいる。
その光は灯里の方を向き、
まるで微笑むように形を変えた。
――アカリ。ようこそ。
灯里は息をのんだ。
ここには“誰か”がいる。
自分を呼び続けた存在が。
風の記憶は、
ついに灯里をこの場所へ導いたのだった。




