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第10話 砂丘の灯台

翌朝、風の集落を出た三人は、東へと続く街道を進んでいた。

空は青く澄み、雲の流れが速い。


「ねぇ、ノアって遠いの?」


灯里が背中の荷物を直しながら尋ねる。


「地図によると、ここから三日ほど歩けば着くはずだ」


リアムの声は落ち着いていたが、

風の向きが少しずつ変わっているのを彼は感じていた。


「でもさ、この辺、なんか風の音が違わない?」


リュカが顔を上げて耳をすます。


――ヒュウウ……ザザ……。


「砂の音が混じってる。たぶん、砂丘が近い」


「砂丘?」


「この先は“風砂の原”って呼ばれてる。昔、海だった場所だ」


灯里は思わず立ち止まった。


「海だったって……ここが?」


「そう。百年以上前に干上がったらしい」


「へぇ……海がなくなるなんて、信じられない」


「けど、残ってるものもある」


リアムの指す方向に、

白く光る塔のようなものが見えた。


「なにあれ?」


「灯台だ。海があった頃に建てられた」


三人は砂を踏みしめながら近づいた。

風が頬を打ち、足元の砂がさらさらと流れる。


灯里の靴が少し埋まって、歩きにくそうだった。


「わ、これけっこう沈むね」


「手を貸す」


リアムが手を差し出すと、灯里は照れくさそうに笑って握った。


「ありがと」


リュカが前を歩きながら振り返る。


「塔、思ったより大きいな。崩れずに残ってるのが不思議だ」


塔の表面は白い石でできていて、

ところどころに青い線が走っている。

風が吹くたび、光が線をなぞるように流れていく。


「うわ……なんか光ってる」


「これも遺物かもしれない」


リアムが壁を軽く叩くと、

塔の中から低い音が響いた。


――ドゥン……。


「今の、なに?」


「中が空洞だ。もしかしたら内部に仕掛けが残ってるかも」


リュカが入口らしき場所を見つけ、

錆びた扉を押し開けた。


「うわ、暗っ」


灯里がランプを掲げる。

中はひんやりしていて、

砂の匂いと少しだけ金属の匂いがした。


壁には何かの記号が刻まれている。

三本の線――そして円。


「またこの印……!」


灯里が息をのむ。


「やっぱり全部つながってる。塔も、地図も、あの光の石も」


「これは偶然じゃないな」


リアムが壁をなぞりながら言った。


「でも、これ……動いてる?」


灯里の言葉どおり、

壁の線がゆっくり光を帯び始めた。


「ちょ、ちょっと待って、なんかヤバくない?」


リュカが慌てて下がる。

光は塔の中心へと集まり、床に円形の模様を描いた。


――ピィィィ……ン。


耳をつんざくような音と共に、

空気が震えた。


灯里は思わず耳を塞ぐ。


「な、なにこれっ!」


「装置が起動したんだ!」


リアムが灯里の肩を掴む。


光が天井へと伸び、

塔の先端から空に向かって一本の光線が放たれた。


砂丘全体が淡く照らされる。


「うわぁ……キレイ……」


灯里の瞳が光を映す。

空に浮かぶ雲が、虹のように色を変えていく。


しかし、その美しさの裏で、

塔の奥から低い声が響いた。


――“記録信号、確認。観測地域、ノア。状態、消滅。”


「……消滅?」


灯里の心臓が跳ねた。


「ノアが……消えた?」


「アカリ、外へ!」


リアムが灯里の腕を引いた。

三人は塔を飛び出す。

直後、塔の内部で光が弾け、音が止んだ。


外の風だけが、静かに吹き抜ける。


リュカが肩で息をして言った。


「な、なんだったんだよ、今の……」


「記録信号。つまり、この塔は観測施設だったんだ」


「観測……ノアを見てたってこと?」


リアムが頷く。


「そうだ。あの街が消える瞬間を記録していたのかもしれない」


灯里は塔を見上げた。

その表面には、ひびのように光が走っている。


「……ノア、ほんとに消えたんだ」


風が吹き、灯里の髪を揺らした。

その風の中で、再びあの声が響く。


――アカリ、思い出して。


灯里は息を飲み、振り向いた。

けれど、誰もいない。

ただ、風と砂の音だけが広がっていた。


リアムが静かに言った。


「行こう、アカリ。ノアが消えた理由を確かめる」


「……うん」


灯里は胸の奥に小さな痛みを抱えながら、

再び砂丘を歩き出した。


遠くの地平線には、

光の名残が、まだゆらめいていた。

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