第七話 「君は、大切にされるべき人だ」
「醜い」という義母たちの言葉は嘘だったーー。セシルは義母たちが自分にむけていた悪意の苛烈さに気づく。
正直、頭が混乱している。お義母たちは私に強烈な悪意を抱いていた……。
(何だか気分が悪い……)
嫌われていることは知っていた。
でも、きっとどこかで――心の深いところで――情けや愛があると信じていた。
塞ぎ込んでしまった私の頭を、公爵様はポンと撫でてくれた。
大きくて、温かい手だった。
「大丈夫か?」
「……はい……」
「混乱してしまうのも当然だ。でも、きっと時間が癒してくれる。だから今は、それよりもこれからやりたいことを考えていてほしい。最高のもてなしを約束するから」
「私には、そんな価値なんて……」
「どうしてそんなことを言うんだ? 君は大切にされるべき人だ。それに、これからは一緒に暮らしていくんだから、遠慮なんていらない。爵位ではなく、俺のことは『リルク』と呼んでくれ」
リルク様はそう言うと「仕事があるから」と作業に入ってしまった。大量の書類が次から次へと出てくる。
私は今日起きたことに頭を巡らせ、気づいたら眠りに落ちていた。
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「……たぞ、起きなさい」
「ん……」
微睡が覚めると、外はすでに真っ暗だった。
リルク様に手を引かれ、馬車から降りると……。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
ずらりと並んだ人、人、人……!
ゆうに100人を超える使用人たちが私たちを出迎えていた。
「ただいま」
こんなことは日常茶飯事かのように、平然としているリルク様。
(それにしても……。なんて豪華な家なの!!)
四階建ての巨大な屋敷は、家というより城に近いかもしれない。本館は赤い煉瓦づくりだけれど、増改築を繰り返しているのか、複数の建築様式が異なる別館がうねうねと取り付けられている。とてもじゃないけれど、一見では全体像が分からない。
前庭は円形の花庭を中心に左右対称に手入れされ、その几帳面さと屋敷の構造のアバウトさが、不思議な魅力を生んでいた。
(こんなすごいところ……私は入れない)
気後れしている私に気がついたのか、リルク様は私の手をより強く握った。
「今日からここがあなたの家だ。遠慮しないで」
そう言われても、人目が気になる……!
リルク様の使用人たちは何も言わず、礼儀正しく私を迎えてくださった。
屋敷の中は外見よりも更に魅力的だった。天井は高く開放的で、趣味のいい家具が要所を抑えて設置されている。窓がたくさん設けられているので、日中はさぞ日当たりが良いだろう。
清潔で温もりがある、理想的な家だった。
私が屋敷に見惚れていると、
「セシル、彼女はミリルだ。君の世話係だ」
紹介されたのは、おそらくまだ10代の少女だった。
茶髪の豊かな髪はふわふわ、ハシバミ色の瞳は好奇心でキラキラと輝いている。
「ど、どなた様ですの!? この超絶美女は!?」
「こら、ミリル。きちんと挨拶をしなさい」
「失礼しました、お嬢様。付き人に命じられました、ミリル・ルカリエールです! 精一杯お世話をさせていただきます」
「セシル・ニルヴァルです。よろしくお願いいたします」
「お部屋にご案内いたしますわ。お荷物は?」
「恥ずかしいのですが、この身一つですの」
「あら! ちょうどいいわ。私、こないだ突き指したばかりなんです。荷物がないのは大歓迎ですわ!」
「ミリル、セシルは大事な客なんだぞ。くれぐれも余計なことを言ったり、軽率な行動は慎むように」
「はーい!」
「早速だが、ミリルに頼みがある。この通り、セシルは何も持っていない。至急商会に連絡して、ドレスや小物などを持ってきてもらうように。その他の必要品も用意してやってくれ。細かいことは男の俺には分からないから、上手くやってくれると助かる」
「かしこまりました。ご予算は?」
「いくらでも。セシルを頼んだぞ」
そういうとリルク様は去ってしまった。もっときちんとお礼を言いたかったのに……。
リルクート・リアクロンビー公爵ーー。
突然現れ、私をあの家から救ってくれた方。
新しい自分に出逢わせてくれた方。
胸がいっぱいで、この感情をどう表現していいのか分からない。
はっきりしているのは、一つだけ。
(もっとリルク様とお話しがしたい。もっと知りたい……)




