第五話 新しい世界
「さて。順番がめちゃくちゃな気もするが……。私の名はリルクート・リアクロンビー。君の引受人となった。いきなり連れ去った無礼を許してくれ。だが、私の元に身を寄せる以上、悪いようにはしないと約束しよう」
リルクート・リアクロンビー公爵は私の手を取ると、優しくキスをした。男性にキスされるなんて初めて……!! 体が燃え上がりそうだ。
「わ、私はセシル・ニルヴァルです。さらってくださって……じゃなくて、私をあの家から連れ出してくださってありがとうございます。置いてくださるなら、きっと役に立って見せますわ。でも、なぜこんなにご親切にしてくださるのですか?」
「見過ごせなかったんだ。生まれのせいで伯爵令嬢を使用人扱いするなんて……。私の屋敷にいる間は『役に立たなきゃ』なんて考えなくていいのです。好きなだけいて、希望するなら縁談を取り持ってもいい。元々立派な生まれなのですから、良縁に恵まれますよ。それよりも、お顔を見せていただけませんか?その黒いベールはあの家の異常さを象徴しているようでいただけない」
「……ですが、私は醜いのです。リアクロンビー公爵様のお気を害するのではないかと……それだけが不安です」
「そんなことを気にする必要はない。あなたはあなたらしく、胸を張って生きていけばいい」
「……そうおっしゃるのなら」
ベールに手をかける。素顔を晒すのはいつぶりだろう?
私だって、自分の顔を最後に見たのは7歳の時だ。
もし、リアクロンビー公爵が私の醜さに耐えられなかったら?
公爵様はお優しい。だからお義母様のようにきつい言葉はかけてこないだろう。
でも、驚かれたり、目を逸らされたりしたら……。きっと耐えられない。
心臓がバクバクと音を立てる。
自分を受け入れてもらえるのか。
希望が見えた後の絶望は、一層辛い――。
目を閉じ、深呼吸をする。
(私にできることは、信じることだけだわ)
公爵様を。
そして、新しい世界を。
ベールを持ち上げ、ゆっくりと目を開いた。
新しい世界がーー
より色の濃い世界が。
そして、驚き顔面蒼白になる公爵様の姿が――そこにはあった。
(あの時のお義母様と一緒だわ……)
15年前の光景がフラッシュバックする。
私の顔を見て、蒼白になるお義母様。そして投げかけられた「なんて醜い子なの」という言葉――。
(やっぱりベールなんて外すんじゃなかった……)




