表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/50

第四話 公爵様との出会い

リルクート・リアクロンビー公爵に引き取られることになったセシル。彼女の止まった時が動き出すーー


 食後に出す紅茶を準備していると、厨房の入口付近が騒がしくなった。


 「黒いベールの令嬢はいるか?」


 「こ、公爵様!?」


 キャアと悲鳴が上がった方に目をやると、長身の男性が人をかき分けるようにして突き進んでいる。


 ――なんて美しい方なの。


 濃紺の瞳にカラスの濡羽のような黒髪。少年の面影を残した可愛らしい顔立ちなのに、キュッとした口元が意志の強さを語っているようだった。


 彼の美しさと、麗人がこのキッチンにいることの両方に驚いて固まってしまった。しかもその彼は、私の目の前で止まった――。


 「君が前妻の残したという令嬢だね?」


 (こ、これは現実なの? 言葉が出てこない……)


 「……」


 「突然だけれど、君を引き取ることにした。10分で支度をしてほしい。必要なものは私が揃えるし、後で送らせることもできる。とにかくこの家からすぐに出よう」


 「……」


 「嫌か?もちろん君が残りたいというならその意志を尊重するが……」


 「そっ、そんなわけありませんわ! ただ、あまりのことに状況が飲み込めなくて。私、今すぐにでもここを出ることができます。必要なものなど何もございません!」


 「よし、では行くぞ」


 公爵様に手を引かれるまま、屋敷を出ていく。先ほど親切にしてくれたそばかす顔の女給が、驚きであんぐりと口を開いているのが見えた。


 (本当に現実なのかしら?こんなことが私の身に起こり得るの……?)


 我が家の物とは比べ物にならないほど豪華な馬車に乗り込み、発車しようとした瞬間、


 「待ちなさい!!」


 金切り声が響いた。

 ――お義母様だった。


 淑女の嗜みを忘れ、全速力でかけてくる。その鬼のような形相を見て体の震えが止まらなくなった。


 「公爵とはいえ、そんな勝手は許さないわよ。その子はうちの使用人。我が家の財産を勝手に持ち出すなんて許さない!!」


 「暴言は大概にしてください。そもそもこの方は使用人ではなく、あなたの娘のはずだ――たとえ血は繋がっていなくてもね。それに伯爵から『令嬢を任せたい』と言質もとっている」


 「そ、それはネピーかルカのことかと勘違いしただけで……!! 屁理屈言うなら、法に訴えますわよ!」


 「面白いことを言いますね。法というなら、前妻の令嬢を使用人扱いすることも立派な人権侵害でしょう。不利になるのはどちらだろうか? さあ、もう馬車を出してくれ」


 ピシッ。鞭の音が空気を切り裂いた。さすがのお義母様も馬車を止めることはできない。


 「……っ!! あなたも何とか言ってください! 痛い目に合わせてやるからねっ、今に見てなさいぃぃ」


 地団駄を踏んで悔しがるお義母様、後ろでわんわん泣いているお姉様たち、そしてどうしていいかわからずオロオロしているお父様……。

 そんな姿を見たら心が痛んでもいいはずなのに、私の胸はチクリともしなかった。


 (実感が湧かないというのもある。でも私、ずっとお義母様たちを恨んでいたのかもしれないわ……もうあの家にいなくていいと思うと、胸がスッと軽くなった……)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ