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第三十七話 革命の結末

 「な、なんだって――」

 「本当の王じゃない?」

 「追放された正妃ってシシー様のこと? でも結婚は無効になったんじゃ――」

 

 群衆がざわめく。クラウス8世は顔を真っ赤にして怒鳴った。


 「――っっこの者は、乱心しているのだ! 見ろ、腕が折れているだろう? 先日バルコニーから飛び降りて頭を打ったのだ。それからというもの、不意に気絶して突拍子もないことを口走ったり――」


 「わたしの頭は正常です! リルク様は確かにこの方の兄で――」

 「黙れッッ――!」


 クラウス8世は激しく怒り、私に飛びかかってきた。押し倒され、折れた右腕に体重をかけられる。激痛に思わず叫んでしまった。

 

 「ーーっっ!!」

 「この女ッッ――僕に嘘をついたな!?」


 「嘘はついていません……! 『陛下』に身を捧げるとは言ったけれど、それが『あなた』だとは言ってない――。あなたは偽物だもの!」

 「……!! そんな馬鹿げた理屈でーー!!」


 出遅れた衛兵たちがこちらへ駆け寄ろうとしたその時――。


 大広間の重い扉が、雷のような音を立てて勢いよく開いた。


 外からまばゆい光が差し込み、金色の輝きが大広間いっぱいに広がる。

 光の中から一人の影が現れた――それはリルク様だった。


 「そこまでだ!! その人から離れろ!!」


 力強い声が響き渡り、場内の空気が一瞬で変わった。


 「――リ、リルク様っっ……」


 光を背に、リルク様がゆっくりと進み出る。

 その背後には何百、いや何千もの騎士が整然と並び、まるで伝説の一場面のようだった。

 横にはデドリウス様、背後にはクロス神父の姿も見える。


 「クラウス8世。お前を王位簒奪罪(おういさんだつざい)で捕縛する!」


 その一声に、誰もが息を呑んだ。騎馬隊が中央通路を駆け抜けると、参列者たちは悲鳴とどよめきに包まれた。


 「何が起きてるんだ!」

 「革命か!?」

 「わけがわからない!」


 混乱の声が飛び交う中、リルク様の騎士たちは迷いなく動き、衛兵たちを次々と制圧していく。やがて壇上にたどり着いたリルク様は、クラウス8世を私から引き離し、すぐに縄で縛り上げた。怒声を上げるクラウス8世も、もはや抵抗できなかった。


 「こんなことをして、分かっているな? お前ら全員処刑だ!」

 「俺のことより自分の身を案じるんだな。これからお前を清めの塔に収監する。申し開きは裁判でしてくれ」

 「――っっ!! 何が望みだ? この気の狂った女のために、『兄さん』はすべてを――っ!」


 クラウス8世の顔がみるみる青ざめていく。自分が「兄さん」と口にしてしまったことに気づいたのだ。


 「今、『兄さん』と言った――?」「じゃあ……本当なのか!?」


 ざわめきが一気に広がり、会場の空気が揺れた。


 「ち、違う! こいつは兄さんなんかじゃない――僕は嵌められたんだ――!」


 クラウス8世が必死に叫ぶ中、静かで落ち着いた声が響いた。


 「我がアラシア国も、この女性の発言を真実だと保証しよう」


 参列席にいたアラシア国派遣団の文官が立ち上がった。見れば、リルク様の軍には、アラシアの騎士たちも加わっている。


 「我が国は事前にこの計画を知らされ、賛同している。その上で宣言しよう。アラシア国はリルクート・リアクロンビー卿をインテルヴィア国の真の王位継承者として認める!」


 その言葉は決定打となった。クラウス8世の兵たちは制圧され、参列者たちはただ呆然と立ち尽くしている。


 「ふざけるな、真の王は僕だ!」


 連行されていくクラウス8世の怒声だけが、大広間に虚しく響いていた。


 私はそうした一部始終をただ放心状態で見ていた。リルク様が私の前に立ち、手を差し伸べてくれた。


 「大丈夫か? 遅くなって悪かった。軍勢を集めるのに手間取ってしまって」

 「リルク様……」


 立ち上がろうとしたが、力が抜けてその場に崩れてしまう。


 「あれ……? もう……本当に……怖かったぁぁ……」


 しゃくり上げながら泣く私を、リルク様は優しく抱き上げた。


 「もう大丈夫だ。すべて終わったよ」


 そのまま私をお姫様抱っこし、リルク様は壇上で高らかに宣言した。


 「参列いただいた方々――混乱をお見せしたことをお詫びする。クラウス8世――旧国王は取り調べのうえ、然るべき裁きを受ける。無駄な血は流したくないから、冷静に対応してくれ。私の王位の正当性と裁判の結果が出るまでは、定めに則り、貴族の合議制で統治する。私も自分の血統を証明すべく、全力を尽くす」


 群衆は静まり返り、息を呑んでリルク様を見つめていた。


 「威厳のある方だわ……」

 「新国王のもとなら混乱が収まるかもしれない」


 誰もがリルク様の揺るぎない存在感に心を奪われていた。


 (革命は……成功したんだわ。これでリルク様も、デドリウス様も、領民のみんなも、アラシア国の皇女様も……みんな救われるのね。そして――私も)


 ほっとした気持ちと涙が胸の奥で混ざり合い、世界がかすんでいく。

 リルク様の声を聞きながら、私は静かに意識を手放した。

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