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第三十三話 革命前夜

時は現在に戻りーー

脱走したセシルは、リルク様とデドリウス様から革命の計画を告げられる。

 「『カクメイ』を起こす……?」


 リルク様とデドリウス様にそう打ち明けられ、私は胸の奥がざわつくほどの衝撃を受けていた。


 ――かくめい、革命。


 脳内で何度変換しても、その言葉の重みが現実味を帯びない。


 「本気なのですか?」

 

 声が震えているのが自分でも分かった。


 「ああ、本気だ。こんなこと冗談でも口にできるわけない。見てくれ、俺たちに賛同して集まってくれた人たちを」


 リルク様はゆっくりと手を広げ、部屋の光景を示した。厚い石壁の部屋には、屈強な兵士たちや威厳ある貴族と思しき人物たちがひしめき合い、熱気で空気がゆらめいている。百人を優に超える男たちの視線が、リルク様に集まっていた。


 「これ以上、この国をクラウス8世に蹂躙させるわけには行かない。あいつがやっているのはゲームのように人を動かす『お遊戯』だ。そこに血の通った政治はない」

 「そうだそうだ!」

 「玉座には、正当な王位継承者であるリアクロンビー卿が座るべきだ!」

 「クラウス8世に今こそ鉄拳を!」


 リルク様の言葉に同調する声が次々と上がり、怒号とも歓声ともつかぬ響きが石壁に反射して部屋を満たしていく。熱気が皮膚を焼くようだった。


 (ほんとの、本当なんだわ……)

 

 膝がガクガクと震えた。足先から伝う震えを必死に押しとどめるが、身体は正直だった。


 「リルク様、お願いです。2人でお話させてください」


 私は声を絞り出し、リルク様を熱気に包まれた部屋から引き離した。

 部屋の外に出ると、さっきまでの熱が嘘のように冷たい風が頬を撫で、私は堪えきれずその場に膝をついた。涙が視界をぼやかし、指先まで震える。


 「セ、セシル……!! どうしたんだ?」


 慌てて駆け寄るリルク様の声。


 「革命だなんて……失敗したら、どうなさるんですか? 殺されてしまいます! 他の方と結婚なさることは受け止められますが、亡くなってしまったら……耐えられるわけないです! なぜこんな酷いことを」


 「……すまない。だが、これ以上傍観者ではいられないんだ。クラウス8世は王の器ではない。君も、兵士も、民も——あいつに傷つけられた。歪んだ政治が国を蝕むのを、もう見過ごせないんだ——だから立ち上がる。これが、俺の為すべきことだ」


 嗚咽が喉の奥でつかえて声にならない。リルク様は無言で私を抱き締めてくれたが、胸の奥にこみ上げる怒りとも悲しみともつかない感情は収まりきらなかった。頭の片隅で、「これがリルク様の運命」だと理解してしまっている自分がいるのが、なおさら悔しかった。


 「それが国にとって正しいことだとしても、私はリルク様に危険な橋を渡ってほしくないです。今からでも……?」

 「もう無理だ。引き返せない……。勝手なことを言うが、セシルだけは守りたいんだ。宮廷から移動してもらうぞ」

 「イヤです!」

 「無茶を言わないでくれ。俺が君をどれほど大切に思ってるか、分かるだろう?」

 「私だけ安全地帯にいて幸せだと思うんですか? 全然私の思いはくんでくださらないのね。一緒に死んだほうがマシだわ」


 リルク様の瞳にも涙が光っていた。互いに一歩も引けない思いがぶつかり、空気が張り詰める。


 「取り込み中悪いな。リルク、みんなお前のことを待ってる。戻ってやってくれ」


 デドリウス様が現れ、修羅場に割って入った。


 「ほら、早く。士気が下がりかねない」


 淡々とした声が逆に鋭く響き、リルク様はなすすべもなく頷くしかなかった。


 「なんとか時間を作るから、あとで話し合おう。こんな形で別れるなんて……俺も耐えられない。分かってくれなんて、傲慢な自覚はある。それでも」


 名残惜しそうに私の髪を撫で、リルク様は人々のもとへと去っていった。デドリウス様は泣きじゃくる私の背中を、そっと撫でてくれる。


 「セシル。辛いだろうが、一度決意したあいつを止めることはできない。リルクも、そして俺たちも――この国を変えることを望んでるんだ。そしてそれが出来るのは、リルクだけなんだ」

 「……分かってます。だけど、それと気持ちは別なんです。もっと自分勝手に……自由に生きていいじゃないですか」

 「……それがあいつの良いところだろ? 困っている人を見捨てられないんだ」


 分かっていた。そういう人だからこそ、私をあの家から救い出してくれたのだ。ベールを被っていた、まだ何者でもなかった私を。


 「デカいものを背負った奴に恋すると辛いな」


 デドリウス様が苦笑しながら頭を撫で、私は少しずつ呼吸を取り戻していく。デドリウス様はやっぱり優しくて、安心感を与えてくれる。子どもに戻ったみたいに、素直にわがままを言える相手だった。


 「……リルク様は、私の気持ちを全然分かってくれてないと思うんです。私の覚悟なんて、全然気にしてないみたい」

 「ああ……確かにあいつのエゴ丸出しだな。だが、愛する女に傷付いてほしくないっていうのは分かるだろう? 俺だってセシルには宮廷にいてほしくない。協力してくれる貴族がいるから、その屋敷に匿ってもらうんだ。革命の結果は……否応なしにすぐに分かるだろう。うまく行けば真っ先に呼び戻そう」

 「いやです! 私だって革命に加わります。死ぬなら一緒に死ぬわ。私、陛下に嫌がらせをされて腕まで折りました」

 

 私はデドリウス様に、連行されてから今日の脱走劇に至るまでの一部始終を話した。骨折までの話は聞いていたようで、それはデドリウス様を激怒させたが、シーツを使った脱走までは想定外だったらしい。


 「シーツを切り裂いて綱にした……? それで降りたと?」

 「はい、骨折してなかったらもっとスムーズにできたはずだわ」


 その言葉を聞いた瞬間、デドリウス様は思わず吹き出し、大笑いした。


 「君は猿なのか?」

 「サルって?」

 「東洋の伝説上の生き物だ。それにしても――いや、悪いな。笑い事じゃないのは分かってるんだ。でもセシルがあまりにも行動派で突拍子がないのが可笑しくて……こんなにキレイなのに、君は最高に面白い女だな」

 「……あんまり笑わないでください。私も死ぬ気の覚悟だったんですよ?」

 「そうだよな、すまんすまん。俺たちは君の覚悟を軽く見ていたのかもしれん」


 デドリウス様は目尻の涙を拭い、表情を引き締めた。


 「……セシル、本当に後悔しないか? もし革命に失敗したら、君も殺されることになるんだぞ。謝罪しても嘆いても、取り返しはつかない」


 私は彼の瞳を真っ直ぐに見て、深く頷いた。


 「後悔なんてしません。今一人で去る方が後悔と恥になります」

 「分かった。じゃあ俺が全力でリルクを説得しよう」

 「……!! はい、ぜひお願いします」

 「大丈夫だ、俺が君を守る」


 陛下はデドリウス様をただの「お人好し」と切り捨てた。けれど、月明かりに照らされたデドリウス様の顔はまさに物語に出てくる騎士そのものだった。

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