表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/50

第二十二話 迎え

カウントリーハウス公開に協力しながらリルク様の帰りを待つセシルはーー

 2日目になっても、リルク様は戻ってこなかった。

 その日の夜はほとんど眠ることができなかった。


 (一体、何が起きているの……なぜ、リルク様から連絡がないの)


 カントリーハウス公開があって心底良かった。

 待つだけだったら、精神が崩壊していただろう。

 

 公開の日は明け方から大忙し。私もご馳走の準備に加わり、昼には来客をもてなしていた。


 「こ、この絵画は200年前に宮廷で描かれ、王によって下賜されたもので……」


 私の拙い説明にも感じよく頷いてくれる良客にもめぐまれ、出来ばえはなかなか上々。


 (なんだか人前に出ることにも慣れてきた気がする。私だって、頑張ればいろんなことができるんだわ)


 リアクロンビー家の屋敷や家宝の展示を楽しみにしていた者もいたが、来訪者のほとんどは振る舞われる料理が目的だったようだ。


 前庭には料理をもらおうと、大量の領民が列をなしていた。いくらサーブしても追いつかない。

 特にケーキは大好評で、全員に行き渡らせるために、おかわり禁止令を出さざるを得ないくらいだった。

 たくさんの領民と接しているうち、気がついた――。


 「なんだか皆さん、痩せているように見えるわ」


 館内のガイドに参加していた客は身なりが良かったが、今この庭で食事を頬張る人々は……とても生活にゆとりがあるようには見えない。


 「食事目当てで来てる人のほとんどは、隣の領地からなのです。王の機嫌を損ねて、ここ数年で領主が2回ほど代わっていましてね。凶作と政治的混乱で、疲弊しているんです」

 「気の毒に……リルク様はそうした方のことも案じているのね?」


 「ええ、このカントリーハウス公開も、一番の目的はこうした生活援助なのです。大々的にすれば角が立つでしょう? 隣りの領主を立てつつ、穏便に生活支援するための方策なんです」


 (リルク様はそこまで民を思っているのね……)


 その時、神父と名乗る人物が複数の市民を従えて話しかけてきた。


 「本日、リアクロンビー卿に謁見したく参りました」

 「これはこれは、クロス神父様。せっかくお越しいただいて申し訳ありませんが、あいにくご主人様は宮廷に出立しておりまして――本日戻る予定ですが」


 「そうですか……。直接お話ししたかったが、仕方がない。これは私共がしたためた嘆願書です。何卒良きようにお計らいいただきますよう、お願い申し上げます」


 神父一行は深々と礼をし、去っていった。書簡を受け取ったメイド長は困った、というようにため息をついた。


 「リルク様は立派な方。でも、ご面倒に巻き込まれるんじゃないかって心配で堪らないです」

 「この中身は……?」


 「大方予想はつきます。クロス神父様が担当しているモント地区は、特に荒廃が進んでいる地区。リルク様が領主だったら……そういう一縷の望みにかけているのね。王に目をつけられないことを祈るわ」


 夕方にはカントリーハウス公開は終了した。祭りが終わった寂しさと、現実が――リルク様がまだ戻ってこないという現実が、私の胸をつまらせた。


 (大丈夫、信じるって決めたじゃない!)


 片付けをしていると、馬車の到来を知らせるファンファーレが、夕方の空気を貫いた。


 「リルク様のお帰りだわ!」


 そんな声がして、使用人たちがリルク様を出迎えようと列をなした。


 私の胸はドキドキと高鳴った。


 (リルク様! やっとリルク様が帰ってきたわ!)


 私もみんなにならい、片付けをする手を止めて、出迎えの準備をした。

 

 先頭馬が門扉から顔を出した――しかし、その馬に載る従者の胸には盾と弓の紋章が輝いていた。


 (違う、これはリルク様の馬車じゃない――デドリウス様の馬車だわ!)






✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


 「デドリウス様が何の御用かしら?」


 メイドたちが口々に呟く。

 豪華な馬車から降り立ったデドリウス様に、メイド長が駆け寄った。


 「申し訳ありませんが、リルク様は留守なのです」


 「問題ない、今日はセシル嬢に用があってきた」


 「?? セシル様に……??」


 「セシル……!」


 逃げようとした所を見つかってしまった。デドリウス様は3歩で私に追いつくと、私の腕を掴み、耳元で囁いた。


 「騒ぎを起こしたくない。とりあえず話がしたい。馬車に乗ってくれるか」

 「でも……」

 「こんな衆人環視の中でまともに話せると思うか?」


 見渡せば、みんなが興味津々の顔で私たちを見つめていた。窓からも覗いている顔がちらほら……。


 「わ、わかりました」


 手を引かれ、渋々馬車へと向かう。ステップが思いのほか高く、裾を気にして足を上げあぐねていると――ふいに背後から腕が伸び、ひょいと抱き上げられてしまった。


 「きゃっ……!」

 「ちょっと軽すぎるな。こんなに簡単に抱き上げられるなんて」


 耳元で聞こえた低い声に、心臓が跳ねる。


 「……こ、子供じゃないんだから、自分で上がれますっ」

 「子供じゃないことくらい、よくわかってる」


 一瞬、目が合った。熱を帯びたその眼差しに、思わず視線を逸らしてしまう。


 馬車は6人ほどが裕に座れる広さだったが、なるべく距離を取ろうと、私はデドリウス様の対角線上に腰掛けた。

そんな私をデドリウス様はじっと見つめていた。


 「会いたかった」

 「わ、私は決めたんです。リルク様をお待ちすると。だから、デドリウス様の申し出は受けられません」

 

 意を決して告白したが、デドリウス様はそれには答えず、背後の従者に声をかけた。


 「馬車を出してくれ」


 ピシッッ!!


 鞭の音が空気を裂き、馬車が走り出した。


 「な、なんてことを……! 私は今お断りしたのに!」

 「言っただろう、俺は『力づくでも構わない』と。そういう男にこんなに簡単についていくなんて……隙がありすぎて心配になるな」


 「止めてください! 今すぐ」

 「だめだ」

 「なら、ここから飛び降ります」


 扉に手をかけるも、あっさりと引き離されてしまった。


 「まったく……とんでもないおてんば令嬢だな。セシルの気持ちは分かったよ。で、肝心のリルクは今どこにいるんだ?」

 「リルク様は宮廷に行かれているのです。婚約をお断りするために」

 「そうか。……あいつも本気ということだな」


 デドリウス様はため息をつき、しばらく考え込んだ。単なる恋敵ではなく、幼馴染として思うところがあるといった風だった。

 

 (やっぱり私たちは、とんでもない間違いを犯そうとしているのかもしれない……)


 深刻そうな反応を見て、改めて現実を突きつけられた気分だった。私の表情が曇ったのを見てか、デドリウス様は吹っ切るようにして言った。

 

「まっ、いいさ。とりあえず、俺の屋敷でじっくり待てばいい。リルクの館で待ってても気が滅入るだけだろ。あいつには書簡を残しておくから、安心してくれ」


 有無を言わせぬ口調に、胸の奥で小さな反発が芽生えた。

 けれど、扉の外では馬車がすでに走り出している。逃げ場はない。


 こうして私は押し切られる形で、デドリウス様の館でリルク様を待つ――なんとも不安定で、奇妙な立場に置かれてしまったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ