第十九話 三日間だけ
リルク公爵はセシルに自身の出生の秘密を語るーー
デドリウスが去った後の部屋は、重苦しい沈黙に支配されていた。
「……大丈夫か?」
ようやく絞り出した声に、セシルは小さく首を横に振った。
「……何か私に隠していませんか? 幼馴染の方があんなに言うなんて……」
ーーこんな形で彼女に知られたくなかった。
俺はセシルに全てを打ち明けた。
自分が王の異母兄弟であること。
幼少期に母と共に王宮を追放されたこと。
そして、王が手配した縁談の相手について。
彼女を引き止めようと、必死だった。
セシルは動揺を隠しきれない様子だったが、黙って最後まで聞いてくれた。
「リルク様……本当に、私でいいのですか?」
「“君が”いいんだ」
「でも……縁談の相手は隣国の姫様なのでしょう?」
「……」
確かに、縁談はこれ以上ないほどの好条件だった。
相手は隣国・アラシア国の第二皇女。
我が国とアラシア国は長年領土を巡って戦争を繰り返してきたが、経済交流の拡大を背景に、関係は改善。同盟締結の道を歩み始めていた。その象徴として、俺の縁談が組まれたのだ。
「まだ顔合わせもしていない。向こうだって、俺である必要がないんだ。心配するな、明日の朝一番に宮廷に行き、正式に縁談を断ってくる」
「でも……」
「俺を信じてくれ。同盟を強化する方法は、なにも結婚だけじゃない。これからは経済こそが国と国を結ぶ架け橋になる。だからこそ、貿易業にも力を入れてきたんだ」
それでも、セシルの顔は晴れない。言葉が響いているのか心配で、不安が胸を冷たくした。
「3日間だけ待ってくれ。全てを片付けて、デドリウスの馬車がくる13日の夜までに必ず戻ってくるから」
そうと決まれば、一刻の猶予もなかった。
晩餐会を打ち切り、「まだいたい」とごねる客たちを半ば強制的に追い出した。
出立の支度を手早く済ませ、床についたものの――眠れるはずもなかった。
まぶたを閉じれば、浮かんでくるのはセシルの不安げな表情ばかり。
(それに……デドリウスーーあいつは本気でセシルを奪うつもりだ……)
胸の奥が焼けるようにざわめき、呼吸は浅く乱れていく。
ーーどうしてもセシルに会いたい。
時刻はすでに深夜一時を過ぎていた。
妻ではない女性の寝室を訪れるなど、決して許されないことだ。
頭では分かっていた。
だが、抑えきれない衝動に駆られ、俺の足はセシルの寝室へと向かっていた。




