表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/37

第十一話 ヤドリギの下で

 「こ、婚約者……?」


 「例の秘密の恋人ってヤスミン様だったのね!? デドリウス様の妹で小さい頃から一緒に遊んでいましたものね。むしろなんで思い当たらなかったんだろうってくらい納得ですわ」


 ミリルは呑気に「なるほど!!」と膝を打った。

 ヤスミン嬢の怒りは収まらなかった。


 「そうよ、私とリルク様はずっと昔から結ばれていたの。さっさと諦めることね。私からリルク様を奪えると――その顔だったら思っちゃうかもしれないけど――、そんなことは不可能なんですからね! リルク様は顔なんかで落ちるそこら辺の男とは違うんだから!」


 「なんの騒ぎだ?」



 そこに現れたのは他でもないリルク様だった。状況がいまいち読み込めず、混乱している様子だ。


 「ヤスミン? ここで何をしている?」


 「リルク様……!! お久しぶりですわ。酷いじゃないですか、私に相談せずに女性を家に迎え入れるなんて!」


 「酷いも何も、この家の主は俺だからな。君こそ何の権利があってセシルに喧嘩を売っているんだ?」


 「それはもちろん、婚約者としてです!!」



 リルク様は目を丸くして……ため息をついた。


 「また、始まった。セシルのことは誰から聞いたんだ? ああ、デドリウスに決まっているか……」


 呆れ顔のリルク様。ヤスミン嬢は今や目に涙をいっぱい溜めている。



 (リルク様の婚約者はこの子だったのね。幼馴染の妹だとおっしゃっていたっけ……)


 登場の仕方こそ品位を欠くが、とても可愛らしい子だ。

 濃いブルネットと白い肌のコントラストが美しい。身につけているものもどれも上等で、センスもいい。


 リルク様と並ぶと幼さを感じさせるものの、洗練された容姿だ。

 あと数年すれば、驚くほどお似合いの二人になるだろう。


 (この子は我を忘れるほどにリルク様を好きなのだわ。そんな風に必死にならなくても、彼はあなたのものなのよ……)


 悲しくはあるが、納得している自分がいた。



 でも、次にリルク様が放ったのは驚きの言葉だった。


 「ヤスミン、子供じみた真似はいい加減やめるんだ。俺たちは婚約なんてしてないだろう?」


 (え……!?)


 みんなが顔を見合わせた。


 ど、どういうこと……?


 「ううん、確かに婚約したわよ。5年前のクリスマスに、宿り木の木の下でキスしたじゃない!!」


 「あれはお前が無理矢理してきたんだろ、チョコレートがついてるとか言って……。大体、何でそれが婚約になるんだ」


 「宿り木の木の下でキスした二人は、永遠の愛を誓ったことになるのよ。だから、リルク様の婚約者は、私。私なのよ! 浮気なんて許さないんだからね!」


 そういうとヤスミンはわんわんと泣きながら出て行ってしまった。


 残された私たちは呆然とするしかなかった。

 なんて激しい子……!!



 私たちとは対照的に、リルク様は平然としていた。どうやらヤスミン嬢が癇癪を起こすのは、これが初めてではないらしい。


 「セシル、ヤスミンに代わって謝るよ。悪い子じゃないんだが、如何せん幼くて……。まだ13歳だから、許してやってくれ」


 「13歳!?」


 13歳にしてはとても大人びた容姿だった。中身は……確かに年相応かもしれない。


 「気になさらないでください。確かに驚きましたが……」


 「気を取り直して、散歩でもしないか?まだ夕食まで時間があるから」


 迷うことなく頷いた。


 (ヤスミン嬢は婚約者じゃない……。では、リルク様の秘密の恋人とは、一体誰なの……?)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ