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魔王便シリーズ

魔王便、夏祭りに行く

作者: しゅうらい
掲載日:2025/08/03

 とある街の路地裏に、『魔王便』という店があった。

 そこは、なんでも配達してくれる宅急便なのだ。

 しかし、セミが鳴くこの日、店の周りに人通りはない。

「なによーっ、全然人が来ないじゃない!」

 人形でお茶出し担当のリリーは、ただいまお怒りのご様子。

 魔王で店長のマオと、魔物で従業員のセバスは、知らないふりを続けていた。

 今のところ、店で働いているのは、この三人である。

「せっかくセバスちゃんが作ってくれたこの服、見てもらいたかったのに……」

 リリーはフリルのついたワンピースを握り、しょんぼりモードである。

 入って間もないリリーの表情は、コロコロ変わる。

「まぁ、暇なのはいつものことですし、今日は夏祭りというのもありますね」

「夏祭りって、なーに?」

「夏に行う祭礼行事の総称です。人間界では、金魚すくいや食べ物の屋台を出していたりもしますね」

「ふーん、そうなんだ」

「他にも、花火や盆踊りもありますよ」

「……詳しいな、セバス」

「えっ、そうでしょうか」

「よく知っているとは思ったが……」

 マオに睨まれ、セバスはタジタジする。

「もしかしてお主、夏祭りとやらに行きたいのか?」

 それを聞いたリリーは、目を輝かせながらセバスを見つめる。

 それに観念したのか、セバスはため息をついた。

「はい……一度どういうものか知りたかったのです」

「なら、今夜でも行ってみたらよかろう」

「本当ですか!」

「あたしも行きたい!」

「なら、全員で行きましょう!」

「なに?」

 セバスの発言に、マオは顔を引きつらせる。

「今、全員と言ったか?」

「はい。あっ、それなら急がないと!」

「なにをそんなに急ぐのだ」

「祭りは夜七時からなので、それまでには用意しておきますね」

「待て、わしの話を聞かんかーっ!」

 マオの制止も聞かぬまま、セバスは店を出ていった。

★★★

 そして時は過ぎ、あっという間に夜の七時である。

「いやぁ、お二人ともよくお似合いですよ」

 マオとセバスは男物の浴衣で、マオは紺色でセバスはうぐいす色の浴衣である。

 リリーは、紺にひまわりが描かれている浴衣を着ていた。

「嘘をつけ。明らかに不自然ではないか」

「それは、ターバンがあるからじゃないの?」

 そうなのだ。マオは角を隠すため、頭にターバンを巻いていた。

「そうですねー。でも、それが無いと角が目立ちますし……」

「だからわしは残ると言うたのに……」

「いいじゃないですか。ここまできたら、皆で行きましょうよ!」

 大通りに出ると、車を心配そうに見ている初老の男性がいた。

「どうかしましたか?」

「実は、祭りの会場に花火玉を持って行く途中なんですが、タイヤが溝にはまってしまって……」

「それは大変ですね。私たちもそのお祭りに行くので、持って行きましょうか?」

「おぉっ、それは有り難い! でも、一般の方にお渡しするのは……」

「私たちは『魔王便』と申します。配達ならお任せください」

「そうかい? なら、お願いしようかね」

 ほっとした男性は、車から花火玉が入った箱を取り出し、セバスに渡した。

「ありがとう。他の花火は持って行ったんだが、これは特注品でね」

「かしこまりました。きちんとお届けいたします」

「あのー、お代の方は……」

「今回は初めてのご利用なので、けっこうです。では、失礼します」

 マオたちは一礼して、お祭り会場へ向かった。

 会場では、たくさんの人で賑わっていた。

 屋台も人が並んでおり、はんじょうしていた。

「すごーい! 人がいっぱいだわ!」

「では、私はこの箱を渡してくるので、屋台でも見ててください」

「うむ、わかった」

「いってらっしゃーい!」

 マオはセバスと別れ、リリーを肩に乗せて見て回ることにした。

「いっぱい屋台があるわね。あっ、マオちゃん、金魚すくいがあるわ」

「いらっしゃい。一回五百円だよ」

「リリー、やってみるか?」

「任せて! いっぱいとってやるわ」

「チビッ子に出来るかい?」

「甘く見ないでよね。とりゃっ!」

 リリーがポイを操ると、金魚たちが宙を舞う。

 そして、おわんの中へと落ちていった。

 それを見ていた周りは、驚いた人と拍手する人で賑わっていた。

「どうやら目立っているようだな。すまぬが、金魚を一匹だけくれ」

 マオは金魚をもらうと、リリーを抱えてその場から逃げていった。

「マオ様ーっ! こんな所にいたんですか。探しましたよ」

 マオたちがいたのは、休憩所で、セバスは手を振り駆け寄った。

 だが、マオたちの様子に固まることとなる。

 リリーはお面をつけており、マオはヨーヨーや串焼きを持っていた。

「……ずいぶん楽しそうだったみたいですね」

「ちっ、違う! これは全部リリーが欲しがったからで……」

「まぁ、いいでしょう。こちらも届け終わりましたし」

「そういえば、さっきから花火が上がっていたな」

「多分、そろそろ渡した花火が上がるんじゃないでしょうか」

 三人が話していると、ヒュルルルー……と音が聞こえた。

 しかし、それが花火になることはなかった。

「あれ? バーンってならないね」

「おかしいですね……」

「ん? なにか落ちてきていないか?」

 その時、マオは何かを感じ取る。

 周りを見れば、まだ誰も落ちてきていることに気づいていない。

「まったく、世話が焼ける!」

「マオ様?!」

 マオは羽を広げて、急いで花火玉の所に向かった。

 そしてそれをキャッチし、上空へと投げ飛ばした。

「飛んでいけーっ!」

 するとタイミングよく、玉は花火になったのである。

 そこに現れたのは、『アイラブユー』の文字であった。

「告白だと?! わしの努力は一体なんだったのだーっ!」

 マオの悲しい悲鳴は、花火によって消えたのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

これは、私の作品である『魔王便、はじめました』の一部を、

企画参加用に、加筆・修正したものとなります。

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― 新着の感想 ―
人間界とは異なる世界出身の彼等にとって、日本式の夏祭りは新鮮に感じられるでしょうね。 なるほど、メッセージ入りの特注花火ですか。 それは確かに他の花火では代用できませんし、何としても祭りに間に合わせな…
∀・)おもしろい(笑)想像すれば想像するほど(笑) ∀・)マオさま、大好きだわ♡♡♡
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