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あなたの落書きが消せない。

作者: 雪傘 吹雪

 物で散らかった部屋。


 床や机にはお菓子の袋や、プリント、ノートなどが広がっている。


 椅子から降り、床に座ってそのひとつ、ひとつをゴミ袋に入れる。プリントは一応見ているつもりだが、それでも何となくだ。大事なプリントではないと分かった瞬間捨てる。ノートも例外ではない。


 しばらく掃除していると、一冊の数学のノートが目についた。特に表紙に何かが書いてある訳ではない。


 私はノートを開き、一ページ目からペラペラとめくった。


 さっきとは違い、一ページ、一ページ、しっかりと確認する。探しているのだ。「アレ」を。


 半分位進んだ所で見つけた。


 右の隅に描かれた、少年漫画の主人公の落書き。下手とも上手ともつかない、ただの落書き。私はコイツに詳しくは無いけど、知ってはいる。


 数秒見つめる。


 そうすると、あの頃の思い出が、少しずつ思い出される。


 幸せだった。


 そう、今になって。


 これはいつ書かれたんだったけ。


 確か貴君(あなた)が学校を休んだから、その分の授業のノートを見せた。その時に描かれたんだったけ。


 懐かしい。


 あの時の、夏から聞こえる蝉の声さえ、まだ覚えている。貴君が居なくなったあの夏は何も聞こえていなかったかの様に覚えていないのに。

 いや、覚えていないんじゃない。忘れちゃったんだ。忘れようとしたから。


 あぁ、そうだった。私は貴君を忘れようとしていた。


 でも、貴君はまだ私に残っている。


 現に今でも、貴君が好きだったアーティストの曲をたまに聴いている。


 それだけじゃない。


 貴君が好きだったスマホゲームがまだ入っている。


 貴君のSNSアカウントをまだフォローしている。


 貴君が好きだった漫画をたまに本屋で探している。


 貴君をまだ探している。


 こんな話を思い出した。


 運命の人は二人居いて、一人目は別れの辛さを、二人目は永遠の愛を教えてくれる。


 貴君が二人目だと思った。


 思ったんだけどなぁ……。


 私は散らかった床に寝っ転がった。見上げた天井は滲んで見え、ライトは星のように瞬いていた。


 スマホを開いて、貴君が好きだったスマホゲームをタップする。


 正直、このゲームを面白いと感じた事は無かった。私が好きなタイプのゲームでは無かった。それなのに、消せないんだ。貴君との記憶が詰まっているから。

 消しっちゃったら、それまで無くなる気がするから。


 次は、LINEを開いた。


 貴君とのやり取りを振り返る。特に言う事も無いような内容ばかり。くだらない事ばかり。それが大好きだった。


 その時、丁度あの人からメッセージが届いた。


 慌てて、画面上部に出た帯を押す。


「今度の土曜、カラオケ行かない?」


 呼吸が少しだけ早くなる。


 それは、嬉しさもあったけど……。


 勿論、行きたい。


 でも、本当は貴君と行きたっかったのにな。


 まぁ、とはいえ、そろそろ進まないといけないな。あの人との恋物語に。いい加減、次の恋に進まないと……、幸せには成れない。


「行く!」


 と、打って送った。


 楽しみである。


 ゆっくりと起き上がり、立った。そして、ノートを閉じ、机の引き出しへと入れた。いつかこの落書きを消せる日がくるように願って。

 私は掃除を再び始めた。

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