騎士団長サイド「異世界勇者、本当に強いのか?」
騎士団長・ガルヴァンは、剣を手入れしながら眉をひそめた。
(……どうにも腑に落ちん)
王は勇者ワイを「計り知れぬ力を秘めた存在」だと確信している。
民衆もすでに彼を「救世主」として崇拝している。
だが──
(本当に、そんなに強いのか?)
ガルヴァンは長年、王国の騎士団を率いてきた。
剣の道を極め、強者と渡り合ってきた経験から、直感で分かる。
「本物の強者は、見れば分かる」
しかし、勇者ワイには、それがない。(当然である。)
「勇者の動きを観察してみたが……」
ガルヴァンは、これまで王城でのワイの様子を観察してきた。
結論を言うと──
「あの男、全然動かん」
・剣の訓練は「ワイの戦い方は違う」と言って回避
・騎士たちとの実戦稽古の話をすると、曖昧な笑顔で流す
・王宮の庭園で昼寝ばかりしている
(こやつ、本当に強者なのか……?)
普通、歴代の勇者は到着したその日から、剣の修行に励んでいた。
しかし、ワイにはその気配がない。
むしろ、ただの貴族より怠けている。
団長は騎士団の若手に、ワイについてどう思うか聞いてみた。
「勇者様は……すごい方です!」
「……何がすごい?」
「それが……言葉ではうまく説明できないのですが……勇者様の言葉を聞くと、なぜか"納得してしまう"のです」
「……」
「まるで、何か見えない力で導かれているような……」
(なんだそれ……)
王も、民衆も、騎士団すらも、勇者ワイに絶対的な信頼を置いている。
しかし、ガルヴァンは納得できなかった。
(勇者ワイが本物かどうか、確かめる必要があるな)
その日、ガルヴァンは王宮の庭園にいたワイを訪ねた。
「勇者様、剣の稽古をお願いできますか?」
「ん?」
ワイは豪華なソファに寝転び、葡萄を摘まみながら顔を上げた。
「え、なんで?」
「勇者様の実力を、この騎士団長自ら確かめたく」
「いやぁ……ワイの戦い方はちょっとちゃうからなぁ……」
ガルヴァンは目を細めた。
(……これは、逃げているのか? それとも、本当に力を隠しているのか?)
「ご安心を。本気の試合ではなく、軽い手合わせです」
ワイは、しれっと逃げようとしたが、両脇を騎士に固められている。
(……なんかヤバい雰囲気やん)
「勇者様、そろそろ剣の腕前を見せていただきたい」
「……え?」
「この国の騎士団が、そなたの実力を確かめたがっているのです」
ワイは冷や汗をかいた。
(いやいやいや、ワイ、戦ったら確実に負けるで!?)
これまでは「ワイの戦い方はちゃう」とか言って誤魔化してきたが、
今回はどうやら逃げられへん空気になっとる。
騎士たちが見守る中、ガルヴァンが木剣を手に取る。
「勇者様、いざ──」
(あかん、ガチでやる気や……!!)
「ワイ、模擬戦を回避しようとする」
ワイは必死に言い訳を考えた。
「いやぁ……ワイの戦い方って、剣とかそういうんちゃうからなぁ……」
「ならば、その"戦い方"とやらを見せていただきたい」
(詰んどる!!!)
「そ、それよりも"魔王討伐の作戦会議"とかせえへん? 戦略を決めるほうが大事やろ?」
「剣技を知らぬ者に戦略は語れぬ」
(こいつ、意外と頭ええな!?)
ワイは後ずさりしようとしたが、周囲の騎士が道を塞ぐ。
(完全に逃げ道ふさがれとる……!)
詰んだ。
(ワイ……終わった……)