ワイ、国民の前でスピーチをする羽目になる
王宮での快適なニート生活を満喫していたワイだったが、ある日、とんでもない話が舞い込んできた。
「勇者様、王が謁見を望んでおられます」
朝食を終えて、ふかふかのソファでゴロゴロしていたワイは、そう告げられて一気に緊張した。
(えっ、ワイなんかやらかしたか?)
たしかに最近、ちょっと調子に乗って贅沢しすぎたかもしれん。
昨日なんて「ワイ、異世界の神秘を学びたいんや」みたいな適当なことを言って、風呂を貸し切りにしてもらったばっかりや。
(まさか、贅沢しすぎて怒られるんちゃうやろな……?)
嫌な予感を抱えながら、ワイは王の待つ玉座の間へ向かった。
王の前に立つと、予想外の言葉が飛び出した。
「勇者よ、そなたに頼みがある」
「は、はぁ……?」
「そなたの存在は、すでに国中に知れ渡っている」
(そらそうやろな。勝手に「勇者」とか言われてるし)
「民衆は、そなたの言葉を待ち望んでいるのだ」
「……え?」
「勇者として、国民にスピーチをしてほしい」
ワイは一瞬、頭が真っ白になった。
(いやいやいや、無理やろ!!!)
ワイ、政治家ちゃうし、リーダーでもないし、人前でスピーチなんて小学生のころみんなの前で盛大に噛んで馬鹿にされた以来、記憶にないで!?
「え、でも……ワイ、何を言えばええんや?」
「そなたの考えを述べればよい」
「ワイの……考え……?」
「うむ。民は勇者の言葉を求めておる。そなたがどのような覚悟を持ち、この国に来たのか──それを語ってほしいのだ」
(え、ワイの覚悟? そんなんないけど??)
異世界に来た理由は、たまたま寝落ちしたら転生しとっただけやし、
勇者になる覚悟とか、そんなもん持ってへん。
どうする……どうする……!?
「ワイ流のスピーチで乗り切るしかない」
このままやと、ワイが「勇者としての覚悟ゼロ」なのがバレる。
でも、ここで逃げたら、国王や民衆の信頼を失い、最悪ニート生活も終わってしまうかもしれん。
(せや……適当にそれっぽいことを言えばええんや!)
ワイはなんとか気持ちを切り替えた。
そうや、なんJ民のレスバ力を駆使すれば、いくらでもそれっぽいことを言えるはずや!
「……分かったで。ワイ、話すわ」
(そろそろちょっとは何かせんと怪しまれるかもしれんからな)
王は満足そうに頷いた。
翌日、ワイは王城前の広場に立っていた。
目の前には数千人規模の群衆。
民衆たちはみんなワイを見つめてる。
(うわぁぁぁ、めっちゃ緊張する……!)
でも、ここで適当にごまかさなあかん。
ワイは一歩前に出て、大きく息を吸った。
そして──
「えー……ワイ、異世界の勇者やで!」
広場に歓声が響いた。
「おおおおお!!!」
「勇者様!!」
「ついにお言葉をいただけるぞ!!!」
ワイはひそかに胸をなでおろした。
まずは勢いで場を温めることに成功した。
(ここからや……!)
「ワイはな、突然この世界に来たんや」
「……!」
「最初は何も分からんかった。でも、一つだけ確信してることがあるんや」
「それは……?」
ワイはゆっくりと拳を握り、堂々とした態度で言い放った。
「ワイがここにおるってことは、ワイが必要やからや!」
「……!」
「ワイはまだ、自分がどんな勇者なのか分からん。でも、一つだけ分かっとることがある!」
「それは……?」
ワイは手を広げ、民衆を見渡した。
「ワイがここにおる限り、この国は滅びへん!!!」
「おおおおおおお!!!!」
群衆が歓喜の声を上げた。
「勇者様!!!」
「なんと力強いお言葉だ……!!」
「希望の光や!!!」
ワイの言葉が、なぜか異常に刺さったらしい。
スキル「なんJ民の話術」(話し相手が話を飲み込みやすくなる)の影響で、
民衆たちはワイの適当なスピーチを「深い意味があるもの」と思い込んでしまった。
国王もうなずき、側近たちは感動している。
「勇者様……! なんと崇高な思想……!」
「『ワイがいる限りこの国は滅びない』──まさに未来を照らす言葉!」
「今後の歴史書にも記録されるべき名言ではないか……!」
(いや、適当に言っただけやねんけど!?)
でも、もう止まらへん。
民衆も、貴族も、みんな「ワイはすごい勇者や!」と思い込み始めてる。
ワイは胸を張りながら、心の中でひそかに安堵した。
(……よし、なんとか誤魔化せた)
ワイは、こうして「伝説の勇者」としての地位をますます強固なものにしてしまった。