ワイ、勇者候補として城に滞在することになった
──こうして、ワイは異世界転生してたった一日で「勇者候補」として王城に住むことになった。
ワイが勇者かどうかは「時間が証明する」とかなんとかいう王の判断のおかげで、ワイは戦うこともなく、働くこともなく、ただ城で暮らすだけの生活を手に入れてしまった。
(これ、最高すぎるやろ……)
朝起きれば豪華な朝食、昼は広い庭園でくつろぎ、夜はふかふかのベッドで寝る。
訓練とか任務とかも特にない。
ワイ、ついに異世界転生成功者になってもうたんちゃうか?
異世界の城での暮らし、快適すぎる。
ワイの滞在する部屋は、広々とした貴族の客室やった。
豪華なベッドに、ふかふかのカーペット、窓からは庭園が見える。
食事も最高や。
朝は焼きたてのパンとスープ、昼は豪華な肉料理、夜はワイン付きのフルコース。
(なんやこれ……完全に王族待遇やん)
しかも、給仕のメイドさんまでおる。
異世界メイドとか、これもうワイの転生ボーナス確定やろ。
「勇者様、お食事をお持ちしました」
「おぉ……ありがとやで」
メイドが優雅にワイの前に皿を置く。
そこには、香ばしく焼かれた肉と、とろけるようなソースがかかった野菜。
ナイフとフォークを握りながら、ワイはしみじみ思う。
(異世界転生、めっちゃええやん)
「勇者候補」って聞いたときは、
「毎日訓練させられるんちゃうか?」とか、
「国のために何かしなあかんのちゃうか?」とか思ったけど……
そんなことはまったくなかった。
誰もワイに何もさせへん。
「異世界の勇者」ってだけで国賓扱いされてるらしく、
「勇者候補の意見を尊重しろ」というお達しが出てるらしい。
(つまり、ワイは何もせんでもええんや……!)
毎日飯を食い、風呂に入り、ベッドで寝るだけの生活。
戦うことも、修行することもなく、
ただ「勇者っぽい感じ」で城にいればそれでええらしい。
異世界の城での生活に慣れてくると、ワイはちょっと調子に乗り始めた。
「せや、勇者やし、もっと贅沢してもええんちゃう?」
例えば、飯を食うとき。
「ワイ、異世界の勇者やし、ちょっと特別な料理食いたいわ」
すると、シェフたちが慌てて厨房に走り、
「勇者様のために最高の料理を!」と気合を入れ始める。
(なんやこれ、めっちゃ気持ちええやん)
湯浴みをするときも、
「ワイ、異世界では"神の泉"で浄化される習わしがあってな……」
とか適当なことを言ったら、王宮の風呂を貸し切れるようになった。
(これ、やりたい放題やんけ)
異世界転生、チート能力なしでも口八丁だけでここまで上り詰められるんやな……と実感する。
そんな感じでワイが王宮ニート生活を満喫していたある日──
ある騎士がワイの部屋に訪ねてきた。
「勇者様」
「ん?」
「そろそろ剣の訓練を始めませんか?」
(は?)
「……いや、なんで?」
「勇者として魔王と戦うには、やはり剣の鍛錬が必要かと」
ワイは一瞬、冷や汗をかいた。
(ちょ、待ってくれや……)
訓練とか言われたら、ワイがただの雑魚やってバレるやんけ!
しかし、ここで断るのも怪しまれる。
(どうする……どうする……!?)
ワイは必死に脳内で考えた。
「屁理屈で乗り切る」
ワイは、ゆっくりと目を閉じ、深いため息をついた。
「……分かってへんな、お前」
「……え?」
「本当の勇者ってのは、"剣を振るうだけ"が仕事やと思っとるんか?」
騎士がキョトンとする。
「勇者の本質はな、"戦うこと"やなくて、"勝つこと"なんや」
「……!?」
ワイは思いつくままに言葉を紡いだ。
「過去の勇者たちが剣で戦ったんは、"剣が必要やったから"やろ?」
「せやけど、ワイは違う。ワイがここにおるってことは、"ワイの戦い方こそが正しい"ってことなんや」
「……!」
ワイが"勇者"として認められてしまったことを利用し、
「ワイ流の戦い方こそが正義」という流れに持ち込む作戦や。
「つまり、ワイが"剣を振るわんでも勝てる"っていうんやったら、それが正しいんや」
騎士の目が揺れた。
「たしかに……!」
「勇者様が"剣を振らずに勝つ"というのなら、それが真の勇者の姿……!」
(おお、なんかまた勝手に納得されとる!)
こうして、ワイは「剣の訓練をする必要がない勇者」として認められてしまった。
「ワイ、しばらくこのままニートできるんちゃう?」
訓練すら回避し、ワイの王宮ニート生活は続く。
(このまま行けば、魔王討伐の話もワイ流のやり方で誤魔化せるかもしれん……!)
ワイは確信した。
この世界、口八丁だけで生きていけるぞ。