ワイ、謁見室に連行される
「勇者様、参りますぞ」
騎士に両脇を固められながら、ワイは広々とした王宮の廊下を進んでいた。
足取りは重い。
(いや、絶対あかんやつやろこれ……)
普段なら、「勇者様、こちらへ」なんて案内されるときでももっと軽い雰囲気やったのに、
今日に限って騎士たちの歩き方が無駄にキビキビしとる。
明らかに「今から何か重要なことを決める」って感じの空気が漂っていた。
ワイはどうにかならんかと、隣の騎士に声をかけた。
「なあ……これってどんな話なん?」
騎士はピシッと背筋を伸ばし、誇らしげに答えた。
「勇者様の力を示す時が来た、とのことです!」
(終わったァァァァァ!!!)
もうこの時点で確定やん。
今から行くのは、間違いなく「魔王討伐の命令を受ける場」。
(ここで何を言おうが、どうせ勝手に解釈されるんやろ……)
ワイの足が震える。
しかし、騎士たちに囲まれていて逃げ道はない。
そして、ワイはついに謁見室の巨大な扉の前に立たされた。
「勇者ワイ様、入られます!」
騎士の声とともに、扉がゆっくりと開かれる。
金色の装飾が施された広大な謁見の間。
王・グランバート三世は、玉座に悠然と座っていた。
王の両脇には、側近のデルマー卿、軍を統括する将軍たち、そしてガルヴァンも並んでいる。
(なんやこの重役勢揃い……!? どう考えてもヤバいやつやんけ!!)
ワイは足を引きずるように前へ進み、中央の赤い絨毯の上で立ち止まった。
「勇者よ、よくぞ来た」
王が落ち着いた声で言う。
「そなたの功績、すでに国中が知るところとなっておる」
(功績って……ワイ、まだ何もしてへんのやけど)
王は満足げに頷き、続けた。
「そして、そなたの戦い方はまさに伝説級。触れずして相手を屈服させるその力……」
(いや、それただの事故やん!!)
「そろそろ、そなたの力を存分に発揮する時が来たのではないか?」
王がゆっくりと身を乗り出した。
「魔王討伐の命を、ここに下す」
「ワイ、全力で誤魔化そうとする」
(ヤバいヤバいヤバい!!)
ワイは一瞬、心臓が止まりかけた。
そして、全力で言い訳を考えた。
「ええと……いや、その……」
ワイは、適当にそれっぽい雰囲気を作ってから、言葉を発した。
「ワイの力は、まだ"完成"してないんや……!」
王の目が光る。
「ほう……?」
(しまった、食いつかれた!!)
「そなたの力が"完成"したとき、一体どれほどの境地に至るのか……」
(いや、適当に言っただけやねん!!)
王は目を細めてしばらく考えた後、頷いた。
「なるほど。つまり、そなたは"まだ本気を出していない"というわけか」
(ちがう!!! そういう意味ちゃう!!!)
ワイはさらに言葉を続けた。
「それに、魔王を倒すには、ただの力やなくて……もっとこう……戦略が必要やろ?」
「うむ、まさにその通りだ」
(通じたか……?)
ワイはホッとしかけた。
しかし、王は続けた。
「だからこそ、勇者よ。そなたには"総指揮官"として討伐軍を率いてもらう」
(え??????)
ワイは絶望しながら口を開いた。
「え、ワイが軍を率いるん?」
デルマー卿が笑顔で頷く。
「当然です。勇者様が前線に立てば、魔王軍は恐怖し、戦わずして崩壊するでしょう!」
「ええ……」
(いや、そんな保証どこにあるんや!?)
王はさらに追い打ちをかけた。
「魔王軍との戦いにおいて、そなたの"触れずして敵を制圧する力"こそ、最大の武器であろう」
「……まぁ……(???)」
ワイはどう返事すればいいのかわからず、とりあえず曖昧に頷いた。
それが、決定打になった。
「ならば決まりだ!」
王が高らかに宣言する。
「勇者ワイを総指揮官とし、魔王討伐軍を編成する!!!」
「「「おおおおお!!!」」」
ワイの意志とは無関係に、場内は盛り上がった。
ワイは遠くを見つめた。
結局、「戦わずして勝つ最強の勇者」としてのワイの伝説が広まりすぎたせいで、
今や「魔王討伐軍を率いる立場」になってしまった。
ワイは、震える声で確認する。
「え、ほんまに行かなあかんの……?」
「当然だ、勇者よ!」
デルマー卿が笑顔で答えた。
「そなたの力で、世界を救ってください!」
(救いたくない!!!!)
こうして、ワイは魔王討伐軍の総指揮官として戦場へ行くことが決定してしまったのだった──。