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暗殺者ですが、狂戦士扱いされて困ってます  作者: 砂糖 多朗
第一章 狂乱の暗殺者、ノガミ
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暗殺技術でストーキング

突然だが、アステリア王国について軽く説明しておこう。

この国は言うなれば二権分立。司法のみが独立し、行政と立法は王家と貴族が合同で保有している。

基本的に国家の運営方針は各貴族家の代表と国王による会議で決定されるが、一貴族の発言であれば他の貴族、王の反対意見で見直し、或いは撤回になるが王の発言は議会の貴族の半分が反対しない限りそのまま通る等、発言力の差が大きい。

その上貴族の中でも格差があり、例えばギザドア家は自分から意見を提示する機会が滅多にないが、ゼパルス家は積極的に法案を提言できる等、王家との関係が深い貴族であればあるほど王に近しい発言権を持つ。


また、王家に近しい一部の貴族家は特別な役職を世襲する権利を与えられている場合もある。

例えばアステリア王立学園の学園長、理事長の権限は初代国王の甥の家系であるダルダリア家に与えられている、とか。

この世界、人の命が軽い癖に血のつながりがとても重要視される。だから王家と今まで一度も血縁関係になれていないギザドア家は辺境の貧しい土地しか与えられず、王家に頻繁に娘を嫁がせたり、王女に男を送り込んだりしているゼパルス家は貴族の中でも一際有力なのだ。


貴族同士ですら格差が激しいのだから、貧民層や富裕層、他種族の扱いはもっと酷い―――と、思われるだろうが存外そんな事は無く。

例えばアステリア王立学園は(難易度はかなり高いが)貧民出身であっても学費さえ払う事が出来るなら入学も卒業も可能だし、王国騎士団を労う為に王が直々に訓練所に出向いた事もある。貴族が主導して平民へ食事を配る事もあり、獣人だろうと魔人だろうと亜人だろうとまとめて同じ人間だと扱う等、あまり差別や偏見と言った物は存在しない。

良くも悪くも、あらゆる階級、種族の距離が近いのだ。


「実際この国は四種全てが入り混じった国だし、ルール的には獣人でも魔人でも亜人でも、この学園に通う事は出来るんだよな。とはいえ大半が平民で学費を払えないから、普段学園の中で人間以外の種族を見る事が無いんだけど」

「じゃあ、アタシは平民の獣人って扱いなのか?」

「そういう事」


俺が学園長に大金を渡して認めてもらった方便だ。これなら怪しまれずにガルムと一緒に行動できる。


因みに辺境貴族の次男に過ぎない俺が大金を持っている事を怪しまれなかったのは、暗殺者としての俺の稼ぎを、投資で得た金であると嘘をついているからだ。両親も学園長も、俺が国内外のいくつかの商人に出資している話はしているので、収入はこそこそと隠しておく必要はない。

とはいえ実際に投資の真似事のような事は各地で行っているので、あながち嘘ではないが。まぁそっちの出資はまだしばらく帰ってこないだろうし、誰にも教えていないんだけど。


廊下を歩く俺達の姿は、出会った時の私服ではなくこの学園の制服に変わっている。白を基調とした高貴なデザインの制服は、前世の高校の制服にそっくりである。

ガルムの制服は尻尾を出す為の穴が付いている獣人仕様になっていて、実は素材も少し違うらしい。


「まぁ、無理に平民の真似をする必要はないさ。最悪王女って事を隠して、獣王国出身って事だけ明かせば良い。学園生活に興味があったって言えば皆もわかってくれるだろ」

「そういうもん、か。あまり気張らずに居りゃいいって事だな!あんまり良い事じゃねぇけど、なんだかワクワクしてきたな」

「言っとくがあんまり俺から離れるなよ?もしかしたらお前が生きてる事を知った依頼主が、他の暗殺者を仕向けて来る可能性もあるからな」

「……依頼主、か」


声のトーンが落ち、歩くペースが遅くなる。

彼女は王都へ向かう馬車に乗っている間ずっと依頼主の正体を考えていたのだが、思い当たる節が多く、搾り切れていないのが現状だった。

最悪怪しい奴全員殺せば良いんじゃないかとも提案したが、その怪しい奴全員が何らかの形で獣王国の重要な役職に携わっている為、一気に全員が居なくなるのは不味いとのこと。依頼主を確定してから、ソイツだけを何とかしたいそうだ。

俺とて誰彼構わず殺したいわけでは無いのでその言葉は大変ありがたかった。


「気にするな、とは言わねぇけどさ。俺が一番信頼してる情報屋に依頼する予定だし、問題ねぇって」

「……今のアタシにできる事は、待つ事くらいだしな。なら、あまり気負っても無駄だな」


気合を入れるように両の拳を握りしめた彼女は、再び意気揚々と歩き始める。廊下の窓から見える景色に感嘆の声を漏らしていた彼女は、ふと思い出したかのようにこちらを向き、口を開いた。


「そういや、アタシの国に学校が無いみたいな言い方してたけど。ちゃんとあるんだからな?」

「アレは学園というか、戦士養成所だろ」

「なんだとぉ!?」


※―――


ガルムが生徒としてアステリア王立学園に編入してから早一週間。学園唯一の獣人である彼女は始めこそ獣人や平民について気になる生徒たちから質問攻めに遭っていた物の、やはりというかすぐにあっさり受け入れられた。

最初の方こそ刺客を警戒して俺の傍を離れようとしなかったが、今では友人達と一緒に行動する機会が増えた。学園生活を楽しんでいる分には全然構わないのだが、彼女の護衛という立場でもある俺が傍から見たらストーカーのようになっているのが困った所だ。

暗殺者になるべく鍛え上げてきた隠密技能が、まさかストーキングで活きる事になるとは。俺の暗殺者としての誇りとかそう言った物がどんどん破壊されている気がする。というか自ら破壊している気がする。


「相変わらず王女様のストーキングかい?ノガミ君」

「人聞き悪い事言うなよ。ってかお前の仕事もストーカー紛いの事ばっかじゃねぇか。カルマ」


今日も今日とて木の上からガルムとその近辺を監視していた俺に、背後から声をかけて来るヤツが一人。今回は男の姿でご登場のようだ。基準が良くわからん。


「失礼な事言うなよなぁ。そのストーカー紛いの事のおかげで、お前の知りたかった情報がわかるんだから良いじゃないか」

「ははは、んじゃ俺のやってる事も二度とストーキングと言うなよ」


女子生徒たちと談笑するガルムを見つめたまま会話に応じ、報告書を受け取る。結構な枚数だが、俺の要求した情報が全てまとまっているというなら少ない方だと思う。

ガルム達を視界に映しながら書類を見ると、俺が調査するように頼んだ連中が―――ガルムが疑っていた連中全員の情報が、細かく記されていた。


「お前が、というか王女様が怪しんでたヤツらは、書いてある通り白だ。とはいえ今回の依頼者かどうかという点だがな。実際王女を引きずり下ろしたい、或いは王女に死んでもらいたい連中である事に変わりはない。遅かれ早かれ何らかの行動は見せるだろうな」

「……で?肝心な依頼者の情報は?結構大金積んだんだから、教えてくれても良いだろ」

「あぁ、ただ依頼主についてなんだが―――これを」


背後に立っていたカルマが、俺の隣に腰かける。枝一本で男二人分の体重を支えられるのか、と一瞬不安になったが、普通に耐えてくれた。自然って偉大だな。多分感想間違ってると思うけど。


新たに渡された紙を見ると、そこにはガルムの話で一度も出てきたことのない名前が書かれている。

さっきの紙の奴ら全員が白なら当然なんだろうが、本当に全く知らない奴が出てきたな……ん?


「リュカオン・シィム・オルトリンデ……って、オルトリンデってことは」

「あぁ。ソイツは獣王国の現王家、オルトリンデ家の女。王女様の妹だ。そこにも書いてあるが、母親も父親も同じ、双子の妹らしいな」


現王女、ガルム・リザシラ・オルトリンデ。今友人達と楽しそうに談笑している少女を、故郷に帰すなと、いっそ殺せと命令したのは、血の繋がった妹。

同情するつもりは無いが、難儀な事になっているようだ。


一筋縄じゃ行かなさそうだ、と溜息を吐くと、カルマは何を勘違いしたか「珍しいな」と笑ってきた。

だから同情でもなんでもないって。


「あー、それとお前に二つ程言っておくことがあるんだ」

「なんだ、依頼か?」

「いや、一つは命令。なんでも総合部所属のバカが買収されたらしくってな。ほら、海跨いだ所にある、最近できた国の」

「ポゴフィレス帝国か」

「そうそう。ウチで集めてたアステリアの要人達の情報とかその他諸々、結構持ってかれたみたいでさ。一応お前以外にもゼロとかオッドとかが呼び出されて、ゼロ辺りが早速向かってるらしいけど」

「ならそれで十分じゃねぇか」

「それがな。買収されたのがあのアインなんだと」

「……なるほど、そりゃ俺も呼ぶわな」


暗殺ギルドには俺やカルマ以外にも、裏家業に携わっていない人にも噂程度には知られている暗殺者……所謂ネームドが数人在籍している。ゼロやオッド、アインもネームドの一人だ。

ゼロもオッドも優秀ではあるが、ゼロもオッドも絡め手メインな為、ゴリ押しもできるアインの相手は荷が重いのだろう。


アインは総合部のナンバー1だ。依頼失敗はたった一度で、戦闘力、暗殺力共に高水準。ただ金に目が無く、出世欲も自己顕示欲も高い。何度か話した事があるが、あまり良い印象は持てなかった。

まぁ、元仲間だから殺すのが大変だ、とかそんな事は全くないとだけ言っておこう。そもそもこういう世界に身を置いている以上、仲間とかそういう概念はあまり持たない方が良いと思っているし。


まぁ、カルマを仲間だと思っているのは置いておいて。


「大方、次の侵略先であるアステリア王国の情報と暗殺ギルドの優秀な戦力を欲したんだろうな。多分だけど、傭兵ギルドとか冒険者ギルド……なんなら家政婦ギルドにも声かけしてそうだな、あの国。アインの場合、良い待遇と土地さえ提示されりゃリスクそっちのけで裏切るだろうし」

「ま、戦争の事とか考えるのは国のお偉い様方だからな。俺らは言われた事だけやりゃ良いのよ。……んでもう一つ。こっちは依頼っちゃ依頼だが……」


そこで言葉を切り、含みのある笑みを見せる。

カルマがこういう顔をする時は大抵ロクな話じゃ無いし、正直聞きたくないが、依頼というなら聞く他無い。


さっさと言えよ、と小突くと、冗談でも言うような調子で一言。


「お前に、小さなお客さんが来てるぞ」

「………はぁ?」


何言ってんだコイツ。

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