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暗殺者ですが、狂戦士扱いされて困ってます  作者: 砂糖 多朗
第三章 召喚勇者、転生狂人
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おつかい任務と村娘ーズ

ヴィレニア大陸国家会議という大仕事を終えた俺達は、今までのような―――ガルムが王女である事を隠して一緒に学園生活を送っていた時のような生活に戻っていた。


「なぁジン!学校終わったら一緒に街行こうぜ街!散歩しよーぜ!」

「犬かお前」

「良いじゃねーかよぉー!」


訂正、今までとはかなり違う。


別に悪い事ではないのだが、俺としては全ッ然悪くないのだが、ガルムは学園でも全く人目を気にする事が無かった。

流石に大人しくなるかなぁ、とか思っていたが予想は大外れだったようだ。

もうすぐ夏休みだっていうのに、日差しも気温も気にせず密着状態二十四時である。


「くっ、うぅっ、実際に女性と交際するのはちょっとな、という思いはありつつも……!!」

「こうも見せつけられると……!!」

「に、憎いッ、憎いぞ……!!」

「お前らもお前らで暑苦しいな」


ガルムを撫でつつ、少し離れた所でハンカチを噛む三人を半眼で眺める。

まさか異世界にまで来て、こんな古典的な反応を見る事になるとはな。


「放課後は用事があるから散歩は無理だぞ」

「用事ってなんだよぉ。まさか、またオフェリアか!?」

「またってお前な……ただの仕事だよ。おつかい頼まれてて」

「なんだ、仕事か。ならアタシもついてきゃいいだけじゃん。別に国跨ぐわけじゃねぇだろ?」

「まぁ………場所的にも問題ないし良いぜ、一緒に行くか」

「おう!」


※―――


「つまり、シシリア村を拠点にしてる暗殺者にギルドマスターの手紙を届けに行くってワケだな?」

「見事に復唱したなァ」


木から木へと飛び移りながら、俺はガルムに用事の内容を伝えた。

目的地は、リン達の故郷、シシリア村。

宿泊地として有名で、それなりに稼いでいる裕福な村だ。


ギルマスの話ではネームド暗殺者、ダーティがシシリア村に住んでいるらしく、アイツに依頼が来ているから伝えて来いとの事。

そんな事にノガミを使うのか、と思うかもしれないが、ギルマスが個人的に動かせるのは基本ネームドであり、俺以外のネームドがほぼ全員仕事で出払っていたので今回俺がこうして走っている。


ま、俺は依頼料金が高すぎてあまり呼ばれないし、暇だから良いんだけどね。


あぁ、因みにだがダーティは元貴族だ。前に金髪の男と紹介した時点でなんとなく察していただろうが、一応ちゃんと言っておく。

だからと言ってなんという事も無いんだけど。


「―――はい、到着ッと」

「なんか久しぶりだなー。セナ、元気にしてるかな」

「ははははァッ、そりゃ入ってからのお楽しみだなァ」

「……お前、少し落ち着いてから行った方が良いんじゃねぇの」

「………いや、うん。大丈夫」


そんなやり取りを挟みつつ門へと向かうと、門番の男が俺達を見て「おっ」と声を出した。


「君はあの時の!隣の少年も、あの時リンちゃん達を助けに来てくれた」

「おう、久しぶりだな!」

「うん、久しぶり。で、今日はどうしてここに?」

「この村に、友人の友人が居るらしくって。ソイツが直接会えないし手紙も書けないから、呼んできてくれと」

「ははぁ、なるほど。とにかく、君達なら大歓迎だよ。良ければセナちゃんにも会ってあげてくれ。あの子、君達二人にお礼がしたいって言って色々頑張って――――まぁ、会ったらわかるよ」


門番に快く見送られながら、村へと足を踏み入れる。

前に来た時よりもずっと活気が良い。

なんて、ゴブリンの一件で村人たちの気が沈んでいた時と比較したら、明るくなってて当然か。


取り敢えず用事を済ませようか、とダーティの家がある方へ足を向けたその時、少し離れた所から名前を呼ばれた。

とても大きな声で、堂々と。


「ガルムさんっ、()()()()()()()!!」


元気よく駆け寄って来るセナ。明るい笑顔を見せる彼女にはきっと、悪意などないのだろう。

それによくよく考えれば俺は、彼女にちゃんとジン・ギザドアと名乗っていなかった。


だけど。だけども。

―――こんな人気の多い場所で、仮面非着用の俺をノガミ呼びするのはやめてくれないかなぁ!?


ノガミ、という言葉に反応して、全員がこちらを見て来る。

ギョッとした様子で、まさか、と言いたげな顔で。


いや違うから!違くないけど、違うから!!


「お久しぶりです!」

「お久しぶりだけどちょっと良いかなセナちゃん。お兄さんから結構大事なお話があるんだけど」

「はい?なんですか?」

「俺はノガミじゃなくって、ジン。ジン・ギザドアね?確かに同じ暗殺者だけど、別人別人」

「?あっ、ノガミさんの本当のお名前ですか?すごい暗殺者の人は、本当のお名前以外の名前を名乗れるようになるって聞いた事あります!」

「んんんん゛ん゛ん゛ん゛……!」


頭を抱える俺に、セナは不思議そうな顔を見せるばかり。

いや、違くないのよ、全然間違ってないのよ。でもソレをこう、堂々と言われると困っちゃうのよ。


ガルムが隣でゲラゲラ笑ってるのが腹立たしい。コイツ、他人事だと思って……いや実際他人事だけど。


周囲も段々と騒がしくなっている。

やばい。このままじゃジン=ノガミがバレてしまう可能性が……!?


「こ、こらセナ!なんて事を言ってるの!―――すみません、娘が大変失礼な事を……!」


万事休すか、と思ったその時、見た目三十代くらいの女性が現れ、深々と頭を下げてきた。


言動から察するに、セナの母親だろう。

ノガミ扱いが失礼な事というのもなんだか一言モノ申したくなるが、この際これに乗っかって正体バレを防ぐ他ない。


「い、いえいえお気になさらず。同じギルドに所属してますし、勘違いしてしまっても無理はありませんよ」

「それでも、あの『狂戦士』()()()と同じ扱いだなんて……!!セナ、あなたもちゃんと謝りなさい!」

「え、でも、ノガミさんは―――」

「セナ!」

「……ご、ごめんなさい」

「そ、そう謝らなくても、わかってもらえれば全然、もう全然大丈夫なんで」


セナは全然間違っていないので、寧ろ俺が申し訳ない。

自分は何も間違っていないし悪くないのに叱られるなんて、さぞ嫌だろう。俺も前世で同じような事があったから良くわかる。

正体を隠すためとはいえ、悪い事をした気分だ。


周囲の人間も、セナ母が謝る姿を見て「なんだセナちゃんの誤解か」と納得して興味を無くした様子。

取り敢えず危機は脱したな。何度も立ち上がるローラン相手にした時くらいにはビビった。


「あ、改めまして、俺はジン・ギザドアと言います。セナちゃんの……お母さん、ですよね?」

「はい。セナの母の、エムと言います。お隣の方は、ガルムさんですよね?セナからもリン達からも、お話は聞いています。―――本当ならあの日、ちゃんとお礼を言うべきだったのですが……」

「あの時は、せっかくの再会に水を差すのはどうかなって思ってたんで大丈夫です。―――取り敢えず、場所を変えましょうか。ここだと邪魔になりますし」

「でしたら、是非ウチへ来てください。あまり大層なおもてなしは出来ませんが、お茶くらいなら出せますので」


※―――


「………はぁ」

「おめでと、リン。これで本日100回目、先週からの合計1000回突破よ」

「おめでとう」

「ありがとー……じゃないよ!!なんで私の溜息なんてカウントしてるの!?」


大声と共に立ち上がり、リンはクィラとメイを睨む。

二人はテーブルにだらしなく上半身を寝そべらせた状態のまま彼女を見て、少しの沈黙の後口を開いた。


「アンタがあの二人が結婚したって知って以来ずっとそんな調子だからよ。心配して声かけても、なんでもないの一点張りだし」

「仕方ないから数えてた」

「べ………別に、そんなに落ち込んでるつもりは」

「誰が落ち込んでるなんて言ったのよ」

「い、言ったも同然でしょ!今のは!」


はいはい、と適当な返事をしたクィラに頬を膨らませつつ、窓の外へ視線を動かすリン。


現在彼女達は、リンとクィラの故郷であるシシリア村へ来ていた。

シシリア村付近に大量に自生するとある植物を採取する依頼を受けたからである。既に必要な分は採取し終えており、今は王都へ帰る前の一休み中だ。


「……なんとなくわかってた事だけど。やっぱりアンタ、ジンの事好きだったのね」

「すッ!?――――ま、まぁ、そう、だけど」


大人しく席に座り、俯くリン。

これ以上隠せるとも、また隠す必要があるとも思わなかったからだ。


認めた彼女へ、口笛を吹きつつクィラは尋ねた。


「で、いつから?」

「………二人が結婚したって知った時」

「横恋慕趣味?」

「違うわよっ!」


メイの発言を強めに否定したリンは、咳払いをして切り替えた後、ぽつりぽつりと語り始めた。


「……元々、ジンさんの事は素敵な人だなぁって思ってたの。ゴブリン……というか、あの気持ち悪い人から助けてもらって、ありきたりだけど、なんだかお姫様気分だったっていうか」

「気持ちはわかるわ」

「それに第一印象だけじゃなくって、交流を持ってからもずっと優しくって良い人で……」

「それで好きになりつつあった所に、あの二人が結婚したって話を聞いて、今までわからなかったか目を背けてた感情の正体に気づいた……って感じ?」

「実際そうなんだけどなんでそこまで的確に文章化できるの?」

「私、結構恋愛小説とか読むから」


ぶい、とピースサインを見せるメイに、リンもクィラも呆れ顔で笑う。


そしてリンが101回目の溜息をついた所で、クィラが上半身を起こし、笑顔で提案した。


「とにかく、ジンが好きならアンタも告白して、結婚させてもらえば良いじゃないの」

「い、いやいや無理でしょ。だって、貴族と平民だよ?ガルムさんは王女様だから問題無かっただろうけど、流石にどこにでも居る村娘じゃお話にならないって」

「そーんな挑む前から後ろ向きでどーぉするのよ!良いリン、私の夢を言ってみなさい!」

「えっ、クィラの夢って……」

()()()()()()()()()()()()()()()()()!!王族でも可!当然私は、いつかコレを叶えて見せると心に誓っているわ!」

「う、うわー……」


ドン引きだった。

所詮夢だ。語るだけタダではある……が、にしても何の変哲もない、多少美人なだけの平民冒険者娘が掲げるにはあまりに大きすぎる。


だが、クィラは別に引かせる為に立ち上がった訳ではない。

曇りない瞳で真っ直ぐにリンを見つめ、力強く続けた。


「勿論、この夢がどれだけ無帽かはわかってる!だけど、そんな無謀な夢を掲げている私の友達が、たかが結構仲の良い辺境貴族一人に告白するくらいでウジウジしててどうするのよ!」

「そ、そういう問題じゃないでしょ!?それに、もし身分も立場も気にしないって言ってもらえたとしたって、ガルムさんが重婚反対派の可能性だって―――」

「冒険者なんだから、そこは力で」

「獣王国の王女様は!!獣王国最強の女なの!!知ってて言ってるでしょ!?」


リンの怒声にメイが両手で耳を塞ぐ。

冗談のつもりだったのに……と不貞腐れたように頬を膨らませて呟くメイに苦笑しつつ、クィラは座り直して笑った。


「ま、悩むくらいなら取り敢えず告白しないな。それ以上の事もそれ以下の事も言えないわ」

「するだけタダ」

「…………でも」


不安をさらに言葉にしようとしたリンだったが、その言葉はドアが開く音に遮られた。

庭仕事をしていたエムとセナが帰って来たのだろうか、と三人が視線をドアの方へ向ける。

そこには、確かにセナが居た。


とても良い笑顔で、ガルムと手を繋いだ状態で。


「ただいまっ、お姉ちゃん!」

「よっ、なんか久し振りだな!」

「――――ガルム、さん?」

「おまけに俺も居るぞ」

「うわぁああああッ、ジ、ジジ、ジジジジジンさんッ!?」

「ここまで拒絶される事ってある?」


笑顔で手を挙げて挨拶してくるガルムに困惑していた所に、わざと隠れていたジンが二人の間からひょっこりと顔を覗かせた。

タイミングが悪かったというのも勿論あるが、何よりこの男、さらっと暗殺者技術フル活用で気配遮断をしていたので驚かれても無理はない。


というか驚かしてやろうという意図があったので自業自得である。


「どうしてシシリア村に?」

「ちょっとした頼まれごとでさ。まぁ、仕事って訳じゃないんだけど」

「お前らはどうしてここに?依頼か?」

「ええ。採集依頼でね。特に問題無く終わって、今はのんびりしてた所よ」


和気藹々と会話をする彼らを、というよりもその内のただ一人、ジンを呆然と見つめるリン。

エムから「ぼーっとしてないでお茶の用意をしなさい」と言われ、ようやく我に返った彼女は、手際よくお茶を淹れながら、心の中で叫んだ。


(ど、どうしてよりによって今日会っちゃうのぉおおおおおおおッ!!?)



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