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暗殺者ですが、狂戦士扱いされて困ってます  作者: 砂糖 多朗
第三章 召喚勇者、転生狂人
44/50

集う者達

神聖国シェンディリアの聖都、ルサルフォン。

第一回の時からずっと、ヴィレニア大陸国家会議の主催地を務めるこの場所に、今回もまたヴィレニア大陸に存在するほぼ全ての国家の王、皇帝、その他権力者が集う。


会場は四回目の時に建設されて以来ずっと使用されている、巨大なドーム状の建物。歴史ある外観をしているが、建物内はさながら新築のように綺麗で、通路や控室等、至る所に歴史的、金銭的価値のある調度品が飾られている。

実際に会議が行われる部屋なんて、王達が座る巨大な円卓もさることながら、天井、壁、ドア、至る所が豪華絢爛な装飾を施されている。


これは室内の豪壮さが強くある事で、出席者同士の装飾の差が目立たないようにする為である。


「……やべっ、もうほぼ全員揃ってるじゃねぇか」

「落ち着け、時間よりは早く来てるんだから別に問題ねぇよ」


ドアを開け、中に入った瞬間、円卓のほぼ全ての席が埋まっているのを見て、ガルムが呟く。

焦っている彼女を落ち着かせるように耳打ちしつつ、出席者の顔を確認。


どれも、暗殺ギルドに情報が保管されているようなビッグネームばかりだ。

同伴者ですら辺境貴族の俺とは比べ物にならない権力者である。(基本的に妻か夫の一人、居ない場合は側近を連れて来るのだから当然ではあるが)


「獣王国の新たな王女、ガルム・リザシラ・オルトリンデ殿ですね?お話する事すらも初めてでしょう。私の名はフェルナンド・ヒドゥン・クロウザード。亜人連邦加盟国第一国の国王……一般には、エルフ国と呼ばれる国を統治しております。以後、お見知りおきを」

「は、初めまして。獣王国143代王女、ガルム・リザシラ・オルトリンデです」

「そう緊張せずとも構いませんよ。して、隣の方は」


朗らかに笑う、見た目二十代前半の美青年。アステリアでは貴族、王族の色である金髪を腰辺りまで伸ばした姿は、忠誠的な顔立ちと体つきの分かりにくい服装も相まって、まるで女性のようにも見える。


彼の視線を受け、俺は慣れた動きで恭しく頭を下げ、挨拶する。


「お初にお目にかかります。私はジン・ギザドア。アステリア王国の北部、ギザドア領を治めるガトランド・ギザドアが次男であり、此度は彼女、ガルムの夫として、参加させていただきます」

「ほぅ。噂はかねがね聞いていますよ。魔王と狂戦士の戦いで崩壊した獣王国を、たった一人で修復したと。実の所ずっと、一体どのような魔法を使ったのかと気になっていましてね。よろしければ是非お教え願いたい物ですが」

「別段特別な魔法というわけではございません。単なる古代魔法ですよ」

「古代魔法!この時代に、まだソレを扱う者が居たとは!私が生まれた時には、もうすでに数える程しか公に確認されていなかったはずだが。一体どこで誰に学んだのか、教えてもらえるだろうか」

「相手の名前は憶えていませんが……幼少期に、古代魔法の研究を行っていたとある魔法使いの依頼を受け、古代魔法を実際に扱う役を務めたのです。私はどうも魔力量が人より()()多かったので、燃費の悪いと言われる古代魔法でも難なく扱える事がわかり、以来古代魔法を扱うようになりました」

「……くくっ、少し、か。それはそれは………んんっ。ともかく貴重なお話をありがとうございます。この会議では、同伴者であろうと誰であろうと、席に座れば皆同列。この先は互いに余計な気を遣わず、自然体で行こうではありませんか」


そう言って、彼は自分の席へと戻った。

俺達も指定された座席へ座り、シアンがいつの間にか用意していた飲み物を貰う。


……絶対敬語とか間違ってたけど、相手が気にして無くって良かったー。


「えっと、後来てないのは他に誰が居るんだ?」


極めて普段通りの口調に戻ったガルムの頭を、俺は咄嗟に引っ叩いた。

この一連の流れに、室内の全員が目を丸くし、フェルナンドは堪えきれずに噴き出した。


「な、何すんだよ」

「お前な、自然体っつっても相手はお前と同じで一国の代表。多少の無礼は互いに目を瞑りましょうって意味なんだよ、さっきのは」

「別に口調くらいどうでも」

「こういうちゃんとした場くらい敬語は維持しとけって。間違ってても良いからさ」

「うー、こういうの苦手なんだよぉ」

「奇遇だな、俺もだ」


暗殺者とは、刃を直前まで隠し、なんなら命を奪うその時すらも刃に気づかせない者である。

その刃を気づかれない位置まで近づける必要がある、つまりは上流階級に近づくなら上流階級のふりをする必要があるという事で、前世含め俺は、こうしたフォーマルな場に居ても恥ずかしくないような演技の練習を重ねてきた。


だが悲しいかな、こういう敬語とかそういうのは、極めて難しい。

マナー、エチケットなんて言うが、人間みんな違って何とやら。気にする所も気にしない所もバラバラなのに、統一なんて不可能である。

よりわかりやすく言うと、暗黙の了解が多すぎてわからないし、敬語も若者敬語とかが混ざり過ぎたせいで何が正しいのかよくわからないのである。


ヒソヒソと話す俺達に、ちょうど真向かいに座っている男が咳払いをする。

慌てて姿勢を正すと、若干言いにくそうにしながら彼は話し始めた。


「えぇと、先程のオルトリンデ王女のご質問だが、後は亜人連邦加盟国第四国のディマ王女が来れば始められる状況ですぞ」

「そっか、ありがと―――じゃなくって。そうですか、ありがとうございます」

「………態度だとか言葉だとか、あまりお気になさらずとも構いませんぞ。というか、獣王国の王女はどの代でもそうであったというか……良くも悪くも、身分だとか立場だとか、そう言った物を厭う者ばかりでして」

「有り体に言えば我々も慣れたのだ。―――まぁ、おかげで私もこうして気楽に臨めるし、寧ろ感謝しているがな。良いぞ小娘、私同様、これくらい砕けても構わん」

「……ど、どうも」


真向かいに座る小太りの男がビットリアの代表商人レンブル。ビットリアの政治権力をほぼ独占している大商人会のリーダーだ。


砕けた口調だが、言葉の端々に鋭さというか力強さがある女性がバルガドル帝国の現皇帝の祖母、ザナキア・レネース・バルガドル。

権力闘争の末に息子を殺されて以来、まだ未成年の孫、オットー・ゴエティア・バルガドルを皇帝にし、裏で操っている実質権力者である。

豪快な人だとは聞いてたけど、まさかガルムを小娘なんて呼ぶとは思わなかった。


まぁ、他にこういう人が居るならガルムが普段通りでも問題ない……か?


「それにしても、随分と仲睦まじい様子じゃないか。手を繋ぎっぱなしとは恐れ入る。私が若い時だって、夫とそれほど距離を詰めた事は無かった」

「これくらいが普通なんじゃねぇのか?」

「まさか。人間誰しも、愛する気持ちは可能な限り表に出さない。というか、出したくないと思うのが普通だが………若さか、それともその夫がよほどの色男だったか」


くつくつと笑う彼女に、俺は愛想笑いで誤魔化す。

色男ってなんだよ、誰の事を言ってんだよ、と飛び出しそうになったツッコミを咄嗟に抑えたが故の曖昧な笑みだ。


さて、改めて円卓の面々を確認する。

ガルムやザナキアの態度に対し、特に不快さを面に出している者は居ない。どうやら本当に、多少(?)砕ける分には構わないようだ。

かといって、辺境貴族に過ぎない俺が気を抜いて良いわけでは無いのだが。


「……本日の議題はやはり復活した魔王達への対処について、となるのでしょうか」

「まだ会議を始めるには早いですぞ、ケルニウス殿。それとも何か、それ以外の話があると?」


髭面の小柄な男、ドワーフのケルニウスの言葉に、レンブルが首を傾げる。

全員の視線が集中する中、彼は少し間を空けてから口を開いた。


「……我が国南部の巨大森林にて、終焉蟲が確認されました」


円卓に緊張が走る。

『七人の魔王』だけが間近に迫った危機だと思っていた彼らにとって、この報せはどこまでも絶望的なものだった。


そもそも終焉蟲は、人の形をした魔蟲。

大量の魔蟲を率い、不規則的に世界を移動し続ける悪夢の権化。圧倒的な力と数故に対処が不可能であり、ヤツのせいで滅んだ国は、記録に残っているだけで39もある。


今まではアポロニア大陸の広大な砂漠地帯を右往左往していたはずだが、いつの間にか海を渡ってヴィレニア大陸まで、それも亜人連邦加盟国第二国(ドワーフ国)のすぐ近くまで来ていたらしい。


ケルニウスの話によると、今はまだ森の中を動き回っているだけらしい。だがソレは森の中の生き物を食い尽くそうとしているだけで、少なくとも一ヶ月後には森を移動し、ドワーフ国へと向かってくるはずだ……と、険しい顔で彼は語った。


「魔王だけでなく終焉蟲とは、さながら神に試されているかのようですなぁ、ペイトロス殿?」

「笑う余裕がお有りか?フェルナンド殿。仮にこのまま亜人連邦加盟国第二国が滅ぼされた場合、次に襲われるのは貴殿の国のはずだが」

「何を言う。そもそも第二国が滅びるような事態にはなりませんよ。させない、と言って良い。貴殿も良く知っているでしょう?『三大恐怖』でありながら、人型四種がある程度手綱を握れる存在を」

「………あの野蛮な狂人を利用すると?」


誰が野蛮だコラ。


シェンディリアの教皇であり皇帝である絶対権力者、ペイトロスを煽るようにフェルナンドは笑う。

普段民衆の前に立つ時は常に落ち着きを持った優しい表情をしているペイトロスが、剣呑な表情を見せた。


まぁ、仕方のない事だ。

神聖国にとって、人型四種の敵である『三大恐怖』は魔王に並んで最も憎むべき相手。

ましてノガミは本来勇者が倒すべき魔王を、魔王軍を個人でほぼ全滅まで追い詰め、その結果一部で英雄視すら(なんなら信仰すら)されている。

表立って言うわけにはいかないのだろうが、多分魔王と同じかそれ以上に憎く思われているはずだ。特に教皇帝なんて、神聖国そのものと言って良い立場の人間であれば。


でも野蛮呼ばわりは物申したい。


「当然。寧ろそれ以外の手があるとでも?貴国の勇者は確かに強力だ。それこそ、あの男が現れるまでは人型四種の最高戦力だった。だが『三大恐怖』は勇者を含めたあらゆる人型四種が、決して勝てぬと、抗えぬとした称号のはず。毒を以て毒を制す、と勇者たちの言葉では言うのでしたかな?」

「その毒の手綱をいつまで握れると?」

「アレは金で動く。それはエオス国王陛下がご存知のはずだ……っと、今は獣王国がその力を所有しているのだったかな」

「あっ、いや、今日はその話をしたかったんだけど―――」

「『狂戦士』がどこに籍を置こうと関係ない!『三大恐怖』に金を払い、頭を下げ、恐れ慄きつつその庇護下に無ければならない事が人型四種に対する許しがたい侮辱行為であり、シェンディリアがソレを容認するわけにはいかないという事だけが事実だ!!」

「ならばいつまでも勇者至上論の幻想に浸っていると良い」

「神聖国をも侮辱するか!」

「我が国の現実的な意見を幻想で否定する貴殿こそ、第一国を侮辱している」


睨み合う両者の間に、重苦しい空気が流れる。

何かを話そうとしたガルムは挙げた手を下ろす事も、よりはっきりと挙げる事も出来ず、困ったように俺を見つめてきた。


いや、俺に聞かれましても。


というかまだ会議は始まっていないというのに、随分な白熱具合だ。

論争の火種となっているが俺なのが何とも気まずい。別に俺何も悪くないのに。

むしろ毒だの野蛮だの好き放題言ってくれやがる教皇帝の方が、俺からすれば悪い。まぁ、彼の立場を考えれば仕方ない発言なんだけどね。


……しかし、なぜフェルナンドはここまでペイトロスを煽るような真似をしているんだろうか。

事前に仕入れた情報を思い返しても、この二人がここまで激しく対立する理由はわからない。


確かに、神聖国には人型四種の中でも人間を頂点に据えて物事を考えている節があるけど。それが気に入らなかったんだろうか。


「殆ど会議でやるような内容に足を突っ込んでいるが……小娘。さっき言いかけていた、『狂戦士』に関する話をしてもらえるか?」

「あぁ、獣王国にノガミが協力してくれるって話なんだけど、アレ実はハッタリなんだ」


ザナキアに促されてガルムが語った内容は、円卓に座す全員を黙らせるに十分なモノだった。

俺だって、ここまで後先考えない発言をするとは思ってなかったから、酷く驚いた。


誰もが一言も発せない中、彼女は堂々と続ける。


「王女のアタシとその妹がどっちも魔王に洗脳されてて、しかもその魔王のせいで街が全壊したってなって、国民たちを安心させる殺し文句的なのが必要だったからさ。咄嗟に嘘ついたんだ。嘘って言っても殆ど事実なんだけど……助けてくれたのはあの時アタシが依頼してたからって話で、別にノガミがこれから獣王国に帰属するって話じゃないんだ」

「…………そ、そんな事を堂々と話して、よろしいのですか?」

「アタシなりの誠意だよ。あの発言のせいで前の王女達が頑張って結んだアステリアやシェンディリアとの友好関係が一気に破綻しかけて、色々思う所があったんだ。別にノガミが獣王国だけの戦力になった訳でもないのに、魔王軍どころか人型四種の国からも睨まれて挟まれちゃ、溜まったもんじゃないしな」


どこまでも真実だけを語る彼女に、睨み合っていたペイトロスとフェルナンドすら毒気を抜かれたように席に戻り、何かを考え込むような素振りを見せた。


ここで、今まで一言も発していなかったエオスがおもむろに口を開いた。


「……その事実は、いつ公表する予定で?」

「少なくとも一か月以上は後になると思う。まだあの事件の衝撃が収まった訳じゃないし、変に混乱を招いたら後が怖い」

「ふむ………なるほど。すまなかった。事情も知らず、アステリアは獣王国に対し厳しい態度を取ってしまった」

「いや、アタシも――――獣王国も、友好国に対し迅速な連絡を取れなかった事は非常に申し訳なく思っています。今後も従来通りの国交を望みたいのですが、構わないでしょうか?」

「こちらとしてもその申し出は非常にありがたい。これからも友好関係は維持して行こうではありませんか」


なんだか良いかんじにまとまったようだ。

俺としてはガルムがちゃんと、国同士の会話になったとわかったら敬語に直した事が喜ばしい。まるで子の成長を見守る親の気持ちだ。

上流階級のやり取りに関しては俺の方が年季入ってるからな。出来はともかく。


大胆な情報開示によってアステリアとの関係を修復した所、ペイトロスも何か考えがあるのか、神聖国もアステリア同様に従来通りの関係を望むと発言。

当然ガルムはソレも受け入れ、獣王国は一先ず、俺のせいで陥っていた窮地から脱出する事に成功した。


……問題はこの事実を国民にも伝える必要がある点だが……どこまで考えているのやら。


こうして一段落ついた所で、ドアが開き、最後の一人が従者らしき女性を引き連れて入って来た。

遅れてごめんなさい、と挨拶一つして彼女が席に座った所で、司会進行を務める男が全員の顔を改めて見渡し、結構な声量で告げた。


「ではこれより、第416回ヴィレニア大陸国家会議を開始いたします」


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