表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暗殺者ですが、狂戦士扱いされて困ってます  作者: 砂糖 多朗
第三章 召喚勇者、転生狂人
43/50

会議前夜

「でさ、でさ!リュカったら塩とフォーク間違えててさー!寝不足だからって、限度があるよな!」

「なんで仕事が忙しかったって話で塩とフォークがオチに登場するんだよ」


ゼロ距離なんてモノではなく、体から足から、全身をくっつけて楽しそうに話すガルムを撫でつつ、その話の脈絡の無さに冷静にツッコむ。

仕事を終わらせるために徹夜しては寝てを繰り返していると言っていたが、酷い隈だ。今こうして明るく振舞っているのも、多分空元気なのだろう。


「良いからお前、寝ろって。リュカオンもなんだろうけど、俺にはお前の方がよっぽど酷く見えるって」

「やだ!せっかく久しぶりに会えたんだから、もっと一緒に―――」

「会議終わったら王の仕事も一段落って話なんだろ?だったらその後一緒に居られるじゃねぇか。無理して倒れられる方が困るし、頼むから寝てくれ。休め」

「うぅ……」


俺の言葉に不満そうな声を漏らしながら、視線を真正面に座るシアンへと向ける。


一応説明しておくと、俺達は今馬車に乗っている。

ガルムと俺がくっついた状態で座っていて、向かいの席に綺麗な姿勢で黙ってこちらを見つめながら座っているシアンがいるのだ。無言無表情でのその視線は怖いので止めていただきたい。お前も寝てくれ。


「……いきなりライバルが出てくるなんて思わなかったし」

「はぁ?お前もしかして、シア―――ンさんと俺に何かあるんじゃないかって思ってんのかよ。可愛いの化身か?杞憂にも程があるけど」

「だ、だってお前、なんか人を惹きつけるなんかがあるっつーか……りゅ、リュカまでお前の事、良い男だって!」

「それはお前の彼氏だから褒めてるだけであって俺を狙ってるとかではねーだろうし、仮にそうだとしても寝不足故の適当発言だろ。良いか?お前とカル―――オフェリア。うん、オフェリアが稀有な例なだけだって」

「でもぉ」

「……ご心配なく、ガルムお嬢様。私はあくまで契約メイド。ご主人様へ恋慕の情を抱く事は決してあり得ません」

「ほらな」


なおも不満げな顔を見せたガルムだったが、少しすると「じゃあ寝る」と言って、俺を全身でホールドしたまま目を閉じた。

尻尾を腕に巻き付けて来る密着っぷりには脱帽する。


向かいの席のシアンは、相変わらず無言、無表情を維持している。

ガルムの見せる凄まじい甘えっぷり……傍から見ればドン引きレベルのいちゃつきっぷりにも表情一つ動かさず、ただ黙ってこちらを見つめている。


……なんでこんなに見つめて来るのか、聞いてみるか。


「えっと、何か?」

「いえ、特には」

「そ、そっすか」


車輪や車体が揺れる音だけが室内に満ちる。後は馬の蹄の音。パカラパカラと元気いっぱいだ。こんな夜中にまで走らせてごめんね。


静寂が場を包んで、どれほど経っただろうか。いつまでも目が会い続けるシアンに、まさか何か疑われているんじゃ?という感情さえ覚え始めた俺は、思い切って会話を試みる。


「……家政婦ギルドのメイドは、『五等級』から『一等級』の五つの階級で分類されている、ですよね」

「はい。その通りでございます」

「………し、シアンさんは、『一等級』のメイド、でしたよね」

「ありがたい事でございます」

「………ち、父の話では、依頼料金を下げたと聞いていますが、何かあったのですか?」


返事は無い。何度目かの沈黙が馬車内を以下略。


家政婦ギルド。女性だけが在籍するこのギルドは、メイドの育成と派遣を行っている。

孤児院やスラム街なんかから見た目の良い女児を拾いメイドとしての技能を身に着けさせ、その修得できた技能と練度に応じて五つの階級を与え、商品として売り出す。

料金は基本一律で決まっており、『五等級』ならば一日銅貨10枚。()()()()の場合は、一回で銀貨5枚。『一等級』にもなれば一日雇うだけで金貨2枚。一か月になれば40枚であり、特別業務をさせるとなれば金貨50枚はくだらない。永久雇用を依頼するとなれば、三桁枚は余裕で行くだろう。


だが例外はある。それがシアンのような、容姿から技能から戦闘能力まであらゆる点で優秀な者(或いは一部の突出した才を持つ者)だ。

彼女達は一人一人の料金が違い、一人一人が『一等級』以上の価値を持つ。


シアンは家政婦ギルド一番の女。確か前に確認した所、彼女に一日仕事をさせるだけで金貨10枚は必要なはず。


当然、ギザドアなんて辺境貴族が雇うには無理がある金額だ。

まぁ、俺個人で言えば、シアンを永久雇用してもなお余る程の財力を持っている自信はあるがな。勿論そんな真似をするつもりは毛頭ないが。


話は逸れたが、要するにシアンは、細かくは知らないが相当な金額を引き下げたという事。

それほどの事が何かあっただろうかと、純粋に疑問なのだ。

同じく自分を、その仕事の腕を金で買ってもらう人間として、料金を下げるに至った原因というのが気になる。


しばらくの間黙っていた彼女は、ゆっくりと口を開き、語り始めた。


「………ご主人様は、昨日の出来事をご存知でしょうか?」

「昨日というと……ノガミの話?」

「はい。聞く必要も無い事でしたね。貴方は暗殺ギルドに所属しているのだとか。であれば、同業者であるあの『狂戦士』の話は自ずと耳に入って来た事でしょう。―――では、ノガミの出没した貴族の屋敷に、ちょうど私が居たという事は、ご存知だったでしょうか?」

「…………新聞は、毎日読むようにしているし。ある程度は」

「ならば、私が料金を引き下げた理由もお分かりいただけるはず。………あの狂人を相手に、雇い主をお守りできなかった。言ってしまえば、私の価値に傷がついたのでございます。それも昨日が初めてというわけではございません。過去に一度、彼と相対した事がありました。その時もまた、私一人だけが見逃されたのでございます」


淡々と語る彼女は、しかし無表情ながら悲し気な顔をしていた。

自分の無力さを、不甲斐ないと嘆いているのだろう。相手が悪かった、と言い訳をして諦めていない辺り、彼女も俺と同じで、自分の仕事に対してそれなりのプライドを持っているのだろう。


……考えれば、わかる事だった。寧ろなぜ聞かねばわからなかったのか。


俺は命を奪うのが仕事。逆に標的を殺せなかった時、俺の価値は大いに下がる。依頼達成率100パーセントの輝かしい実績が砕け散るからだ。


では、シアンの仕事は何か。メイドとして家事に勤しむ事?確かにそれもそうだろう。

だがあの時、あの場での彼女の仕事はただ一つ、雇用主を俺から守る事。命を奪わせない事だった。

ソレを俺の手によって失敗させられたせいで、彼女の価値は大きく下がった。

戦闘面でもギルド最強、と名乗っていたのだから、当然と言えば当然だろう。


教室で彼女の事をいつか雇えたらなーとか言っている生徒がいたが、実際今彼女を雇える立場に居る者達は、自分の命を守れないメイドの為に大金を使うより、もっと違うモノに金を費やす事を選んだわけだ。


うーむ、なんだか申し訳ない気がするが、しかしコレは俺の仕事と彼女の仕事がぶつかった結果、俺の方が仕事力という点で勝ったというだけに過ぎない。

なんなら『狂乱』のSTAGE1で事足りる、どころか余裕があったしな。殺しまくってテンション上がってたってのもあるんだろうけど。


「……護衛としての役割も期待されている以上、私に戦闘能力をも求めている事はわかっています。当然、私は全力、全霊を尽くしてご主人様に奉仕させていただきます……が、しかし、それでもやはり過去に二度も敗北した事がある私を、信頼できないでしょう」

「そ、そんな事はありませんって!それに、過去の二度の敗北は、どちらもノガミとの戦闘でしょう?彼は『三大恐怖』に名を連ねる程の強者ですし、仕方ないのでは」

「家政婦ギルド最高位のメイドとして、相手が悪かった、の一言で済ませてはならないのです。……しかし、ご主人様が私を信頼してくださっているというのなら、ありがたい限りです。この身に代えても、ご奉仕させていただきます」

「………うん」


取り敢えず微笑んで、彼女に「期待してます」の意をくみ取ってもらい、会話を終える。

寝息を立てるガルムの頭を優しく撫でながら窓の外を見れば、月と星の微かな灯りだけが照らす幻想的な夜の景色が目に映った。


前世では滅多にお目にかかれなかった美しい景色を前に、俺は心の中で、盛大な溜息と共に呟いた。


やっべー。思ったよりこの人、引きずってたわー。


※―――


「ウィレム。ヴィレニア大陸国家会議は明日じゃな?」

「はっ、その通りでございます。国王陛下」


玉座に座る白髪の男に、高級感のある服に身を包んだ男が恭しく頭を下げる。


ここはアステリア王国の国王、エオスと、彼の許可を得た者のみが入る事の許される王の間。

腹心の部下であるウィレムだけがエオスの傍におり、広い部屋の中には他に誰の姿も見えない。


「明日、明日か………」

「いかがなさいましたか?」

「めんどい」


荘厳な雰囲気を纏っていた彼は、途端に脱力し、視線をボーっと上へ向ける。

ヴィレニア大陸国家会議。魔王への対応等、ヴィレニア大陸の今後を決める重大な会議に対しこの一言、聞く人が聞けば国王相手だろうと小言が飛び出すだろう。


しかしウィレムは、彼が脱力すると同時に恭しい態度を辞め、呆れたように答えた。


「休んじゃダメですよ?」

「わかっておるわ。じゃが愚痴の一つくらい良いじゃろ。シェンディリアのジジイは態度が鼻に付くし、ビットリアの代表商人はタヌキみたいで好かん。バルガドルの帝王なんてワシの何歳下じゃ?バレリアの帝王はワシとほぼ同年代のはずなのに、筋肉ムキムキで若々しいし」

「だから国王陛下も運動なさればと」

「嫌じゃ嫌じゃ。ワシ、子作りすらできんヨボヨボじーさんじゃぞ?」

「はぁ……」

「あーっ、露骨に溜息なんか吐きおって!不敬!不敬罪じゃ!」

「はいはい、すみませんでしたすみませんでした」


色々ととんでもない会話だが、二人はいつもこうなのだ。

アステリア王国国王、エオス・ダイバー・フォン・ジィク・アステリアと、彼の教育係にして親友、ウィレム・ユーヤ・サクラギは、二人っきりの時はいつもこんな風に話をする。


「……はー、他種族の国は若い女ばかりが権力者じゃしな。エルフ国とドワーフ国は別じゃが」

「他種族と言えば、獣王国については今回、どのような態度で行くので?」

「あぁ、ノガミを引き入れたに等しい事を宣ったあの小娘か?ふんっ――――あんま仲悪くしたくないのぅ。怖いから」

「何故そんなに弱気なんですか」

「おまっ、忘れたのか二年前の事を!?『堕ちた不朽の英雄』がアステリアに侵入し、あわやリストバルナすら滅ぼされそうになった時、どうにでもなれと国内のギルド全てに依頼をばら撒いた結果!あのイカレ殺人狂ノガミが、あの『堕ちた不朽の英雄』を倒したなんて知らせが来た時の事!!」

「あ、あまり興奮しないでくださいよ。早死にしますよ」

「お前がわかっていない事言うからじゃろォが!!たわけがぁっ!!良いか、ワシが今まで強気でいられたのはノガミが暗殺ギルド所属で、暗殺ギルドはアステリアに本部を設置していたからじゃ。じゃが!ノガミとかいうバランスブレイカーが獣王国に渡ったとすればもう……仮にあの小娘がアステリアに攻撃を仕掛けるとか言い出して、ノガミが動員なんかされたら………魔王軍を単身で打ち滅ぼすバカじゃぞ!?誰が勝てるんじゃ誰がぁっ!!」


血管を浮き上がらせつつ、エオスは怒鳴る。

その剣幕にやや引き気味になりながら、ウィレムは「しかし」と続けた。


「あの時は流石に驚きましたよね。国内に『三大恐怖』を置いておくなんて神聖国に何言われるかわかったもんじゃないって事で、運よく相討ちになってくれれば御の字、取り敢えず死んでくれって事で、『七人の魔王』の本拠地に一人で、しかも殺しを最終目的にせず向かわせた時」

「………いや、ほんとに生きて帰って来るとか誰がわかるんじゃあんなの」

「しかも逃げて来たとかじゃなくって、魔王軍の九割を殺して魔王達すら半殺しにして不戦条約を結ばせたなんてとんでもない成果を無傷で持ち帰って来たのが大問題ですよね。あの時怖すぎて漏らしましたよ俺。ズボンなんてもう、びっちゃびちゃでした」

「ワシは小便どころか大便まで漏れたわ」

「うわ汚ぇー」

「梯子を外すな!!」


『三大恐怖』となったノガミの最初の依頼は、アステリア国王による罠だった。

単身で『七人の魔王』の根城、魔王城へ赴き、彼らの兵力を減らした上で、魔王は勇者の為に殺さずにおき、可能ならしばらく戦わない旨を約束させろ―――なんて、普通に考えれば不可能オブ不可能な事を依頼し、ノガミが死ぬか魔王達と相討ちになってくれる事を期待したのだ。


だが実際は今もノガミが普通に活動している通り、彼らの下にちゃんとノガミは帰還し、魔王直筆の不戦条約の書類と、彼らの側近として有名であった強者の生首を大量に持ち帰って来た。


後々確認させれば、無造作に放置された魔王軍の兵士たち、魔物達、その他大勢の無残な死体が魔王城一帯に転がり、魔王城そのものは消滅していたという。


「まぁ、大丈夫でしょうよ。獣王国は神前試合とやらで勝利した力自慢が王女なんでしょ?確かに感情論で動きかねない恐ろしさはありますが、きっと変化を恐れる世襲の貴族達が止めてくれますって。最悪戦争になっても、ノガミは金で動くヤツでしょう?獣王国以上の金を払えば終わりですよ」

「……アステリアの財力なら、獣王国との支払い競争に勝つことも可能じゃろうが……じゃが勝った後何が残る!アイツの依頼料金法外すぎじゃろ!?」

「それは国王様に身銭を」

「ワシの小遣いお前より少ないんじゃが!?」

「え?マジで?俺金貨5枚ですけど」

「あ、ワシ金貨6枚じゃった。すまんな。―――ってなるかボケぇっ!!金貨1枚の差なんかヤツの依頼料金の前にゃ関係ないわぁッ!!」


肘掛けに拳を叩きつけ、息を荒くして叫ぶ。

運動するなんて無理、と語っていた老人にしては中々のアグレッシブさである。


「それに、ノガミだって人間。それも男じゃ。獣王国のあの小娘なら、ワシらではできん雇い方も可能じゃろう」

「体を……ですか。確かにガルムとかいう今の王女、見た目は中々ですものね」

「あの乳にあの尻じゃ。仮に処女で技が無くとも、素材だけで十分篭絡できるじゃろう」

「……しかし、彼女は先日、ジン・ギザドアとかいう辺境貴族と結婚したとか」

「国と自分の命が懸かった場面で、操を立てるとか言っとる余裕があるか?それにこれはあくまで仮の話じゃ。ワシは可能な限り獣王国と対立したくはない。―――神聖国のジジイは別らしいがな」

「兎にも角にも、全ては明日の会議次第って事ですか」


二人が同時に溜息をつく。ヴィレニア大陸国家会議。毎度毎度胃が痛くなるモノではあるが、今回のは一際胃に来るものだった。


少しの間黙り込んだ二人は、もうこの話は止めようと互いに考えたらしく、どうでも良い話をし始めた。


―――夜は長い。

会議までは、まだまだ時間がある。

一日に二話も更新するより貯めた方が良いとは思いますが、申し込まさせていただいている賞の内一つが今日までのはずなので、せっかくなので更新。


感想評価ブックマーク、よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ