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暗殺者ですが、狂戦士扱いされて困ってます  作者: 砂糖 多朗
第三章 召喚勇者、転生狂人
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メイドの女

バルガドル帝国。

アステリア王国の辺境、ギザドア領と隣接する帝国。

なんか強そうな名前とは裏腹に、国力はアステリア周辺国家の中で最低。なぜなら熾烈な権力闘争のせいで、碌に国として機能していないからである。


そんなバルガドル帝国の貴族達は、実はこの俺ノガミのお得意様が多い。

なんてったって権力闘争がこの大陸で一番激しい国家の貴族様。潰し合いの為に優秀な暗殺者を求めるのは当然の事で、行きつく先は暗殺ギルド最強の俺……って訳だ。


「ヒャッハァッ!!イッツァ、パーリィータイムだァッ!!ギャハハハハハハハ!!」

「や、やめろっ、来るぎゃっ!?」

「くそっ、なんでよりによってノガミが―――ぐわぁっ!?」


込み上げてくる笑いをそのままに、ターゲットを守ろうとする兵たちを切り裂いていく。


相ッ変わらずやかましい暗殺だ。こんなに心は冷静なのに、どうしていつもいつも飽きずに叫べるんだろうか、俺は。


「くっ、き、貴様らやる気が無いのか!!ソイツを追い払えばいくらでも金は出すんだぞ!?」

「あははっ、ギャハハッ!!無駄無駄無駄ァ!金は人を動かせても人を強くはできねェンだぜェ?ほォら待ってな!今テメェの内臓も、この兵士みたいにズルズルズルズルズルゥッと!!」

「そこまでです」

「―――あン?」


ターゲットの小物感満載な発言についついテンションが盛り上がった俺が今しがた殺したばかりの兵士の腸を器用に剣で引き抜いていた所、首元に背後から刃を突きつけられた。


凛として落ち着いた女性の声。なんだろう、どこかで聞いた事があるような気が―――ッとォ!


「ひゃははッ、躊躇なく首を狙った一閃ンッ!良いね良いね、お嬢ちゃん気に入―――って、お前は」

「覚えていましたか、『狂戦士(バーサーカー)』ノガミ。この私を」


思いっきり上半身を仰け反らせて攻撃を回避し、体勢を整える勢いに任せてその場を離脱した俺は、声の主の姿をここで初めて確認した。


とても見覚えのある姿。

肩辺りまで伸びた紺色の髪と、ソレを飾るホワイトブリム。ミニスカタイプのエプロンドレスだが、装飾はそう多く無く、前世的な言い方をするならばクラシカルメイドとフレンチメイドを足して二で割ったような見た目のメイド。


「シアン・ザトレイル……はッ、テメェを忘れるかよ。能面みてェな顔して、一番イカれた事しやがるテメェを」

「イカレているとは、これはまた不思議な事を。貴方程狂った人間はいませんよ」

「おいおいおいおいおォい。俺はジョーシキ人だぜ?お前みたいなアウトローとは違ェよ、違ェ。全ッ然違ェ」


シアン・ザトレイル。コイツを忘れるわけが無い。

無論、美人だからとか胸がデカいからとかそういう話ではない。


コイツは家政婦ギルドの頂点。使用人としてのスキルは当然ながら、何より高い戦闘能力を持つ。

アステリアが現状世界最強の国として居られる理由の一つは、間違いなく彼女だ。


「し、シアン君か!はははっ、良い、良いぞ!家政婦ギルド最強の君なら私の命だって守れるはずだ!この際なぜ初めから参戦しなかったのかは問わんから、ノガミを殺せ!」

「………かしこまりました」

「従順な態度は結構だが、随分渋い顔すンなァ。ま、前に一回俺に出し抜かれた―――つゥか、俺に雇い主ぶッ殺された経験があるから、今回もそうなるって思ってんだろ。ギャハハハハハッ!!んでもって大正解!お前はまたしても、雇い主目の前でぶっ殺されて負けンだよォォオオオッ!!」


笑いながら、彼女を無視してターゲットへ駆け出す。

そんな俺に微かに眉を顰めながら、しかし冷静に俺の進路上に飛び出して、刃を振り下ろした。


※―――


「おい、聞いたか?バルガドル帝国の貴族が」

「獣王国でルシファーとやり合った後は、また人殺しかよ」

「いつか私達の家に来ちゃったりして!?」

「や、やめてよ~」

「居合わせた家政婦ギルドのシアンさんが応戦したって書いてあるぞ」

「一番美人で一番腕が立って、一番強いあの人が?くぅ~っ、あの人雇えるとか、殺された貴族は相当な金持ちだったんだな」

「俺、将来あの人雇えるくらいの金持ちになるんだ……!!」


翌日。教室の至る所から、そんな噂話が聞えて来る。


獣王国の興奮もまだ冷めやらぬ内にノガミが動いたとなれば、そりゃこれくらい盛り上がっても無理はない。

相変わらず暗殺じゃ無くて惨殺とか言われてるのが癪だが。確かに途中テンション上がり過ぎて遊んじゃったけどさ。


「ごきげんよう、ジン殿。お疲れのようだが、寝不足かな?」

「ん、あぁ。おはよ。まぁそんなとこだよ。中々寝付けなくってさー」

「ふひひ、それも仕方なき事。昨日の夜と言ったら、あのノガミが新たな犠牲者を出した日」

「ま、学生寮に居たんだ。音も何も聞えねねぇよ、ってな。―――しっかしノガミも大忙しだよな。魔王との戦いがこれから始まるだろうってのに、準備するどころか普通に仕事がんばっちゃってまぁ」


ルシファー相手に何を準備する必要があるんだという話なのだが、そんなのネイトが知るはずもないので曖昧な笑みで誤魔化す。

というか俺が知っててもおかしな話だしな。暗殺ギルド所属なのはバレててもその正体がノガミとまではバレてないし。


「うーむ、『狂戦士』……我はどうも、その強さを信じる事が中々難しい。同業者のジンの前で言うのは悪いが、『三大恐怖』の中でも我らだって頑張れば勝てない相手ではないような気が……」

「じゃあお前は魔王とか『堕ちた不朽の英雄』とか、そう言うのにも勝てるのかよ?」

「むぅ、ネイト……決してそうは言わんのだが……相性というヤツなのではと思ってだな」

「―――まぁ、誰しも想像してみる事ではありますわな。僕なら、私なら、あのノガミにだって勝てるかもと。一度は通る道でしょう。例えば私なんかはそうですな、ノガミが笑いながら振り下ろしてきた刃を躱し、反撃の顎への一撃を華麗にお見舞いするとか」

「な、ならば我は、背後に立つノガミの一撃を美しく躱し、逆に鋭く蹴りつけて……!」

「俺は真っ向から剣術勝負だなぁ。んで、激しい剣戟を経て勝利した俺が、切っ先を向けながら勝利宣言……!!どうだ?ジン、お前ならどうする?」

「えっ」


俺に聞く?ねぇ。俺の前で俺を倒す話した上で、俺に聞く?


……なーんて口が裂けても言えないので、それっぽい事を言って誤魔化す。


「い、いやぁ、俺はちょっと想像できないかなぁ……」

「いやいや、ジン殿ならば獣王国を一人で直す程の大量の魔力で災害が如き魔法を起こし、ノガミも力及ばず……だとか!」

「おぉー。ジンにピッタリな勝利の方程式だと思われるが」

「魔法のジン。剣術で俺、んでもって残りが二人………完璧だな!」

「はぁ………好きにしてくれ」


溜息交じりに会話を離脱する意志を示すと、三人は俺を置き去りにしてノガミ討伐の妄想話で盛り上がり始めた。

多分、学校に侵入したテロリストを制圧する自分の姿を想像するアレに近いのだろう。その対象が目の前にいるという事を除けば、別段おかしな事でもない。


コイツ等が本気の俺と戦って無事で居られるかどうかは甚だ疑問だが。


―――にしても、シアン・ザトレイル。

昨日会って、二年ぶりくらいだろうか。俺が『三大恐怖』になった後が初めての出会いだったから間違いないとは思うが……正直二度と会いたくないタイプの女だった。


イカれている、とは言ったが、別に俺みたいに戦いながら笑いだすとか、そんな事は無い。

ただ、その戦闘方法が異常なのだ。


「あ、居た居た。ジン・ギザドア少年、少し良いかな」

「あ、はい」

「ん?なんだジン、お前まーた呼び出しかよ」

「今度は男性教師でありますがな」

「ひひ、素行不良がバレたの巻」

「別になんもしてねーんだけどなぁ」


教室の外から、教師に呼び出される。俺とは接点の無い先生だ。名前は憶えていないが。


エルメスなんかが失礼な事を言ってくれるが、教師の顔を見るに俺にとって悪い話があるわけでは無さそうだ。

まぁ仮に悪い話でも呼び出された以上無視はできないし、素直に教室の外へ出る。


「えっと、何かありましたか?」

「ご実家の方から使者が来ていてね、大事な話があるらしいからすぐに来るようにと」

「何があった、などは話していなかったのですか?」

「詳しくは直接話す、との事だが……急用とは言え、そこまで深刻な話では無いから安心してくれ、とも言われているし、あまり気負う必要は無いと思うぞ」

「そうでしたか。わかりました。―――では、今日は授業を受けずに、という事でしょうか?」

「そうなるな。迎えの馬車が入口まで来ているから、すぐに向かうと良い。先生方には私の方から伝えておくから」

「はい、ありがとうございます」


一礼し、一度教室へ戻る。

言葉にはしないものの「気になってます」と書かれているも同然な顔を見せる彼らに溜息一つついて、実家からの呼び出しだと簡単に告げた。


「また実家の方で問題が……大変ですなぁ、ジン殿」

「ギザドア領は比較的平和だと聞いていたが……うぅむ、現実、そう上手く行かぬものなのかと」

「別に大した話じゃないらしいけどなー」

「ま、気を付けろよ。お前は暗殺ギルド所属らしいし大丈夫だろうけど、ギザドア領はバルガドル帝国と一番近い場所なんだ。あのノガミが通りがかって、ついでに領民領主皆殺しなんて事になってもおかしくは」

「いやおかしいから。ノガミは別に殺人狂って訳じゃねぇって」

「殺人狂だろ」

「殺人狂ですな」

「殺人狂以外の何者なのか」

「お、お前らなぁー……」


※―――


ギザドア邸に到着すると、そこにはガルムが居た。


いや、まぁ、第二の実家って事になるんだろうけども。コイツは王としての仕事が山ほど残ってて、ソレの消化が終わるまでは執務室に軟禁状態って話じゃ無かったのか?

と、疑問に思ったので素直に質問すると、なんでも近くに控えたとある行事に備え、今の内から外に出て準備をしているのだと。

俺が呼び出されたのもソレ関係だ、と途中から話に参加してきた父親も語っていた。


「で、その行事ってヤツがさ、ヴィレニア大陸国家会議なんだけど」

「うわぁ想像の遥か上を行くビッグイベント」


つい日本語が飛び出してしまったが(全員不思議そうな顔と共に首を傾げた)それくらいには衝撃的な一言だった。


ヴィレニア大陸国家会議。魔王軍の国家を除く、この大陸に存在する人型四種が運営するあらゆる国家の代表が呼び集められ、今後についてを相談する会合。

基本的に魔王軍への対応についての話や、その他大災害、『三大恐怖』の被害についての話が行われるその会議の場に、どうやら俺も呼び出されるらしい。彼らの口ぶりだと。


確かにガルムと結婚するんだから、王族になると言っても過言ではないんだろうけど。権力も何も与えられない名ばかりの男だぞ俺。

それを言ったらビットリアの国王もそうだけどさ。


「俺なんかが出席して良い会議じゃねぇだろ」

「肩書上は問題ねーぞ。……何より、リュカを連れてけない以上、頭が良いヤツが必要っていうか……獣王国はほら、ノガミを引き入れたって公表しちまったせいで、アステリアとシェンディリアなんて大国二つに睨まれてるわけでさ。会議の場で何が起きるかわからねぇし、お前の力を貸してもらいたいんだよ」

「これは良い機会だと思わないか?ジン、お前は優秀な子だ。各国の王が集う場でも、きっと活躍できると私は確信している。今までは何故か実力を隠していたようだが、獣王国で大魔法を使った以上、もう隠すつもりは無いのだろう?ならば次は私に、各国の王と渡り合えるだけの知略を見せて欲しいのだよ」

「い、いやぁ、頭の出来の方は生憎と自信が無く……」

「何を言う。今まで私達に暗殺ギルド所属である事を一切感じさせなかったのは、周到さだけでは成せない事だ!聞けばオフェリアなる女性とも婚約したようだし、結婚のペースが速くとも気にしないのだろう?ここいらで他の国の王女だとかにも接点を作ってだな」

「そういうのは当分結構ですので!!」


オフェリア、つまりはカルマとの結婚もちゃんと話した。

当然父は大いに喜び、なんか俺に女を誑す才能があると勘違いをし始めたのだが……それがここに来て発揮されるとは。


知略云々もそうだが、俺は別にそう言った点が優れているわけでは無い。

前世含め、暗殺者になるための努力は重ねてきたが、それ以外は大分おろそかにしてきたわけだし。


「あぁ、そうそう。大いに期待しているという事でな、お前にちょっと奮発したプレゼントがあるんだ」

「は、はぁ……?」

「王女と行動を共にする訳なのだから、護衛が必要だろうと思ってな。それ以外にも家事だとか色々な雑務を任せられる、メイドを雇ったのだよ」

「あぁ、家政婦ギルドの……料金を考えれば、別に『四等級』辺りで良かったのですが。奮発したとなれば、『二等級』辺りですかね」

「ふふふ、まぁ、実際に会えばわかるさ。―――入って来たまえ」


手を叩き、大きな音を響かせる。すると奥の扉がゆっくりと開き、父が雇ったというメイドが姿を現した。


紺色の髪、琥珀の目、家政婦ギルドの制服とも呼べるミニスカクラシカルメイド服。

極めて見覚えがある、というか何なら昨日会ったばっかりのメイドが、ゆっくりと歩み寄って来た。


「―――初めまして、ご主人様。本日より貴方にお仕えする事となりました。()()()()()()()()と申します」

「ぇっ」

「知っているか?ジン。なんと彼女は家政婦ギルドの最高級メイド!本来なら長期契約をするなんて私達の家計では厳しい所があるが……なんでも、詳しくは知らないが先日何事かあったようでね、しばらくは通常よりも遥かに安く仕事を請け負ってくれるそうだ。いやぁ、それでも中々手痛い出費だったがね。だがこれで、私の、私達ギザドア家の、お前に対する期待と信頼がわかってもらえただろう?」


だから是非、ヴィレニア大陸国家会議で活躍してくれ。

そう語る父の目は、とても輝いていた。


………い、言えない。家政婦ギルドの中で、一番俺が会いたくないヤツをよりによって雇ってくれやがってこの野郎なんて、口が裂けても言えないっ!


「…………あ、ありがとーござます」


凄く間をおいて、なんとか感謝の言葉を絞り出す。気の抜けた、片言な言葉ながら、彼は満足げに何度も頷いて「では早速会場へ向かうと良い。ここからだと遠いだろうからね」と言って退室していった。


後に残されたのは、俺とガルムと、シアンの三人。

何故かジトっとした目で俺を見て来るガルムと、無言無表情で見つめて来るシアンに、俺は軽い絶望感と共に、天井を仰ぐ他できないのだった。


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