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暗殺者ですが、狂戦士扱いされて困ってます  作者: 砂糖 多朗
第三章 召喚勇者、転生狂人
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少し変わった学園生活

俺達の学舎、アステリア王立学園。さながら城のような豪壮麗美で巨大な建物の中には、全生徒を収容してなお大いにスペースが余る、集会室と呼ばれる場所がある。

学園長やその他お偉いさんが全校生徒にお話をする時によく使われるソコに、今日も全生徒が集められていた。


「皆さんに、大事なお知らせがあります」


壇上に立った学園長が、静かに座す生徒達を見回しながら話し始める。

その背後には、綺麗な姿勢で立つとある二人の姿が。


「本日より、本校に新たな教員が在籍することとなりました。ではまず、()()()先生、ご挨拶を」

「うむ」


レイヴと呼ばれた女性が……ダインスレイヴが、ピシッとしたスーツ姿で前に出る。

拡声魔法が付与された魔道具の前に立つと、彼女は自己紹介を始めた。


「我はダイ………ンンッ。レイヴじゃ。主に剣術、その他戦術の指導を任されておる。よろしく頼む」


見目麗しい彼女に、生徒たちが騒めく。

最初ちょっと怪しかったけど、まぁ及第点だ。怪しんでいるヤツはいなさそうだし、問題なし。


一礼して下がった彼女に頷き、学園長はもう一人の方へ声をかける。

それに小さく頷き、彼女もダインスレイヴ同様、前へ出た。


美しい金髪を靡かせ、魔道具へと少し顔を近づける。


「初めまして。私の名前は―――」


一拍おいて、碧の目で全員を見る。

右から左へと動いていた視線は、俺と目があったところで止まり、そこで微かに、俺以外に気づかれない程度に彼女は口角を上げ、


「―――オフェリア・()()()()。この学園の生徒、ジン・ギザドア君の妻です」


打ち合わせとは違い、ほぼ本名を名乗る。

同時に明かした事実は全生徒、教師陣、そして何より俺に衝撃を与えた。


―――そ、それをここで言う奴があるか!!?


開いた口の塞がらない俺を、両隣のネイトとロイがジロリと睨む。

なお彼らにはガルムとの結婚の件で色々詰められたばかりである。


大きく口を開けたまま、俺はここに至るまでの記憶を辿ってみる。

あのカルマからの告白の後、何があったのかを。


※―――


「カルマに告白された?あぁ、なんだ、意外と早かったな。うん、全然良いぞ。アタシが抜け駆けしちゃった感じだし、寧ろ断らないでやってくれると助かる」


流石にガルムと結婚して二日ちょいしか経ってないのに新しい女というのはどうなんだ、という事で、俺達は急遽獣王国へと向かい、自室で仕事に勤しんでいた彼女へと何があったのかを伝えた。

で、その返事がさっきのアレである。


そ、そんなんで良いのか?マジで?


「い、いや、でもお前、カルマの事苦手じゃ」

「そりゃソリは合わねぇけどさ。それとこれとは別じゃん。同じ男を好きになったんだから、一緒に囲ってやりゃ良いだろ。あ、でも一番は譲らねぇぞ」

「はん!臨むところだ王女サマ。ポッと出のお前と七年弱の付き合いがある俺、どっちが上かなんて火を見るより明らかだけどな」

「そんな長い事一緒に居て、アタックする所か自分が女だって事すら明かせなかったお前が?お話にならねーぜ」

「言ってろ。結果が全てだからな」

「そうだな、二番手さん」

「自称一番手に何言われても響かねぇんですわ、これが」

「あん?」

「あー?」


睨み合う二人。やはり相性は悪そう……いや、本当に悪いのかコレ?


隣の机で黙々と作業を続けていたリュカオンが顔を上げ、こちらを凝視してくる。

視線に気づいて目を合わせると、なんかすっごく業務的な笑顔を向けられた。


なんだよ、言いたいことがあるなら言えばいいじゃないか。


「あの狂戦士が女誑しだったなんて驚いたわ」


言って良い事と悪い事があるだろ。


それに、別に俺が女誑しって訳ではないと思う。

カルマは長い年月一緒に行動して段々と気に入ってくれた感じだろうし、ガルムは自分の今後に関わる大きな問題について一緒に解決してくれたから好きになったっていうのが大きいだろうし。

状況とか環境とか、そういうのに恵まれただけだと思う。それを誑しと言うならこれ以上否定はできないが。


「まぁ、好かれて悪いとは思わねぇけど……ここ最近で色々と起こりすぎじゃねーかな」

「仮にも一国の王女と関わっちまったんだから仕方ねーだろ?俺もそのおかげって訳じゃねぇけど、こうしてお前に色々話す決心がついたわけだし。そういう意味じゃ、お前にも感謝してるよ。王女サマ」

「アタシは逆に、お前に言われなかったらジンとの関係を考えるのはもうちょい後になってたからなー。こっちも感謝だ」

「…………はぁ。えっと、取り敢えずじゃあ、後は俺の返事次第って事?」

「そうなるな」

「ま、面倒臭い事は考えないで、お前がカルマの事をどう思ってるかってだけで良いと思うぞ」


ペンを置き、書類を片付けながらガルムは微笑む。

俺は最大の懸念、というか一番気にしていた事が一番問題なかった事がわかったので、改めてカルマから告白されたという事を素直に受け止めてみた。


ぶっちゃけて言うと、凄く嬉しい。


元々気の合う友人だし、一緒に居て楽しいヤツだと思っている。それが女で、しかも俺を好きだと言ってくれるのなら、ガルムの時も自問自答で言った事だが、わざわざ断る理由があるだろうか。

いや、無い。


「………俺としてはカルマとも、そういう関係になりたいと思う」

「ッ!ぃよっしゃぁッ!!」

「じゃ、コレで二人だな。―――ダインスレイヴは良いのか?前にジンへの恋心がー、とか言ってた気がするけど」

「別に構わん。ここに至るまでのジンの発言や態度から、粗方のすべきことはわかった。―――要は、接する時間か密度、それが必要という訳じゃろ。カルマの方は時間を、ガルムの方は密度を過ごして居る。じゃが我は敵対者として接して以来、何度かその力を振るい、扱える事を確認したっきり封印扱いじゃったからのぅ。我もそれで良いとは思っていたが、結果として時間と密度の両方を得る事が出来なくなっていた。―――まぁこの先は一緒に行動するわけじゃから問題は無い。この肉体であれば篭絡する事も容易かろうて」

「だから俺は見た目だけで人を選んだりは………ま、別に良いか」


兎にも角にも、これで二人。二日弱にして、俺は二人も妻が出来たらしい。

異世界モノの主人公か!ってな。異世界転生した俺が言うとなんかシュールだけど。


しかし、転生したての頃からは想像もつかないくらい女との関係が増えたな。

前世からの悲願、最高の暗殺者の夢は未だ道の途中だが、それとは別に所謂『男の夢』を叶えつつあるような気がする。というか叶えてるな、うん。


「……せっかくだし、少しくらい仕事手伝おうか?」

「え、マジで!?助かる助かる!んじゃ、ここにある書類を―――」

「お姉ちゃん。これ、仮にも国の重要書類なんだから、王族扱いの私はともかく獣王国の人じゃないノガミに頼んじゃダメでしょ」

「うぐ……うん、ま、そうだよな。悪ぃ、手伝ってもらうのはまた別の機会に頼む。お前もほら、そろそろ学園に向かわないと不味い時間だろ?お互いやる事もあるし、ここいらでお開きとしようぜ」

「だな。んじゃ、頑張れよ」

「おうよ!」


※―――


以上、回想終了。


要するに俺とカルマはちゃんと付き合っているし、結婚も確定しているという事である。


だがソレを、まさかこんな初手で明かすとは思わなかった。

そもそもカルマはナターシャ・セメダインという他国の貴族を演じる予定だったのだ。当然俺との関係は皆無。なんならセメダイン家なんて存在しない。

学園長が特に驚いていない所を見るに、俺には何も言わず、学園長にだけ先に話を通していたという訳だ。コイツ、ちゃっかり用意周到で居やがる。


「私は専門科目は無く、各教室の補佐を行う予定です。基本的にはジン君の居るクラスにお邪魔させていただくので、よろしくお願いしますね」


柔和な笑みを浮かべ、生徒達全員に視線を向けつつ挨拶する姿はさながら聖母。

大半の生徒達はカルマ……オフェリアの姿と纏う雰囲気に呑まれ、男女関係なく頬を赤く染めている。

だが一部、というか日陰者同盟の三人はなおも俺に対する鋭い視線を止めない。節操無しめ、と視線で語っているのが丸わかりだ。


……元々は俺と一緒に行動する時間を増やす、とダインスレイヴが我儘を言ったのが始まりだった。

今まで俺の都合で封印してきた負い目が無いわけでは無いし、ダメ元で学園長に袖の下を渡して交渉した所、二つ返事で「教師にする、という事でどうでしょう?」と言ってもらえたのだ。

本当はダインスレイヴ一人の予定だったが、そこでカルマがちゃっかりと「じゃあ二人分の枠をよろしくお願いしますね」なんて言って、自分も教師になる事にして……いや、仕事はどうした仕事は。俺と違って仕事にかかる時間がそこそこ長いんだから(諜報は基本的に仕事一回一回の時間が長い)教師なんてやってる暇ないだろ。

……とか思っていたが、なるほど。サポートを仕事にしておくことで、居ても居なくても問題ない形に収めたのか。ただコイツに補佐なんてできるのかという思いはあるが……まぁそれはすぐにでもわかる事か。


頭を下げて壇上から降りるカルマを眺めつつ、俺はこの後待ち受けている詰問タイムを想像し、静かに溜息をつくのだった。


※―――


ダインスレイヴとカルマが教師として学園に在籍する様になってから早一週間。

最初二日間は日陰者同盟を始めとした大勢の生徒達に色々と(特にカルマとの関係、ガルムとはどうなったのか、等)を詰問されてばかりだったが、三日目にもなれば沈静化し(俺とカルマで考えた嘘のバックストーリーが受け入れて貰えた証拠だ)今までとあまり大差ない生活が戻ってきていた。

因みに、カルマが本来の名前であるオフェリアを名乗っているが、スカーレット家に関係する人間が学園に居ない事を確認した上で名乗っているので問題は無いらしい。


今日はというと、俺達のクラスが初めてダインスレイヴ……レイヴ先生の授業を受ける日。

前にローランと大勢の前で戦ったあの闘技場に集合し、各々の武器を手に整列していた。


「さて、今日初めてお前らの授業を行う訳じゃが……一先ずどの程度の実力なのか測らせてもらおう」

「先生と戦う、という事でしょうか?」

「いや違う。ただ武器を構えてもらうだけじゃ。我は人を測る目には自信があってな。構え方だけである程度の力量を察する事が出来るのじゃよ。他のクラスもやった事じゃ。さ、各々持っている武器を構えよ」


生徒の質問にそう答えると、彼女は手を叩いて構えるように催促した。

生徒達は少し困惑しつつも、全員素直に武器を構えた。

俺もちゃんと悪目立ちしないように、普段通りの構えを見せる。


前世は銃を使っての戦闘(暗殺)がメインだったとは言え、様々な状況を考えた戦闘訓練(所謂シャドー)を毎日欠かさず行ってきたのだ。当然、剣を使う場面を想定し、構えから相手を殺すまでの動きは完璧に身に沁み込ませた。

こちらの世界に来てからなんて、基本的に一日中剣を握ってるか筋トレしてるかだったからな。魔力トレーニングは同時並行で進められたし。


「ふむ……ネイト・アトラクと言ったか?相当鍛えているのが良くわかる。まさしく『静謐』という言葉が良く似合う構えだ。全てにおいて迷いを感じない。じゃがあともう一歩物足りんな」

「へいへい、それは良ぉくわかってますよ」


時折頷きながら無言で生徒を一人一人見ていたダインスレイヴは、ネイトの前で立ち止まると彼を誉めた。

しかしネイトにとってはその誉め言葉はあまり心に響く物では無かったようで、最後の「一歩足りない」の言葉にばかり反応しているようだった。


きっと親やその他指導してくれた人達に良く言われていたのだろう。

確かに俺の目から見ても彼の構えや剣の振るい方は、他と比べれば全然良いのだが物足りなさがあるって感じだし。


「それと―――――」


一瞬、彼女の目が俺を映す。思えばダインスレイヴから見た俺の評価って実はあんまり聞けてないし、少し気になる―――が、今それを言われると「国一つを直すだけの大魔法使いでありながら剣術でもクラスでトップクラス」なんてスーパーボーイという事になってしまう。


え?褒められると限ったわけでは無い?いやいや、俺は他の生徒と違って実戦で鍛えられた剣でもあるんだ。未熟すぎて声をかけられるなんて事は無い。というか未熟者に『三大恐怖』が務まるかよ。いや恐怖扱いは未だに異議申し立て中だけど。心の中で。


という事で、おい。何も言うな、わかったか?わかるよな?


視線で訴えかけると、ダインスレイヴは小さくため息を吐いて頷いて、一言。


「オットーと言ったか?お前も中々良いぞ」

「あっ、ありがとうございます!」


俺の隣にいる他の生徒を褒める事で、何とか誤魔化してくれた。

視線で礼をすると、彼女は片目をそっと閉じて微笑み、小さく口を動かした。


えーっと、「貸し一つ」?何言ってんだアイツ。


さて。その後は誰の名前も呼ばれる事は無く、実力を測る時間は終了。

クラスの総評は「実戦経験の有無はともかく、中々筋は良い」との事で、生徒達は少し上機嫌だった。

残り時間は素振りと簡単な型を教わった。意外な事に、というとアレかもしれないが、教え方は中々上手かった。剣だからこそ、使い手の指導が上手なのだろうか。いや剣だから剣術に詳しいってなんだよ。


「いやはや、疲れましたな。剣術訓練を真面目に受けたのはコレが初めてですが、なかなかどうして体に響く」

「ふひゅっ、つ、疲れた……」

「お前らへばりすぎだろ。今日やったのなんて、初歩も初歩だぞ」

「ネイト殿は鍛え慣れているでしょうが、我らは元々外に出て運動する機会すら少ない身。直接的に言うなら出不精なのでな」

「……お、驚くべきは、じ、ジンの方だな。過去にローランと戦った時は、それはもう凄まじい体力不足を披露していたと記憶しているが」

「あー………人前だと緊張して体力調整下手になっちゃうんだ」


戦闘訓練が本日最後の授業だったので、俺達は廊下を歩き、学生寮へと戻っていた。

息を切らし汗を流すエルメスとロイに対し、俺とネイトは普段通り。体力の差が露骨に出ている。


「にしても、レイヴ先生って一体何者なんだ?あんな教え上手がいたなら、もっと前から雇っておけば良かったのに」

「恐らくではありますが、彼女は冒険者か何かだったのでは?それを偶々ヘッドハンティングできたとか」

「ま、そう考えるのが妥当か……それにしては随分とこう、人間らしからぬ恐ろしさみたいのを感じたけど」

「あー、うん。考え過ぎだろ」


ネイトはこういう時勘が良いから困る。ゲルド・アトラクなんて強者が家に居るからだろうか。

昔、俺の正体も気づかれそうになったくらいだしな。必死に誤魔化して事なきを得たけど。


……さーって。そろそろ時間かな。


立ち止まり、三人へと声をかける。


「悪い、ちょっと用事があるんだった」

「呼び出しでもされてんのか?」

「いやいや、仮に教員に用事があるとすれば、オフェリア先生とのアレコレに違いありませんぞネイト殿」

「む、むむぅ。ガルム王女だけでなく、あの美人教師まで手籠めにするとは……何度聞いても信じられん」

「失礼なヤツだなー。ま、詳しい話は省かせてもらうぜ」


踵を返し、彼らから遠ざかる。

目指す先は職員室……な、わけが無く。

俺の用事というのは、そもそもこの学園に関係する事ではない。


何ってそりゃあ、アレだよ。


――――仕事の時間さ。久しぶりのな。


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