光と狂気
今回は後書き部分を別の事で使うので、先に言わせていただきます。
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「悪ィな。コイツがさっきの小細工の隙に逃げようとか寝ぼけた事言ってたんで、黙らせてた」
「……もはやどうでも良い。ノガミ……お前が俺の前に立ち、邪魔をするというなら、戦って勝つ。捻じ伏せて黙らせる。それだけだ」
「威勢の良いヤツだなァ。ヒャハハッ、良いぜ。派手にやろォやァああああああッはぁッ!!」
『狂乱の祝福』STAGE1。
ようやく、ローランとまともに戦える。
まず最初に仕掛けたのは俺だ。接近し、体を綺麗に真っ二つにする勢いで振り下ろす。
攻撃を一瞬防御する素振りを見せたローランだが、しかし直感でソレが危険だと判断したのか、慌てて右方向に体を放り投げた。
空ぶった刃は、触れることなく地面を大きくえぐり取る。その光景を見たローランは、苦笑いと共に頬を手の甲で拭った。
「―――『極光』」
「使ってる場合か?」
「んぶぉっ!?」
剣に光を収束させ始めたが、放つよりも、何なら構えるよりも先に接近し、無防備な顔面に肘打ちを叩きこむ。
そうして仰け反った隙に肩を掴み鳩尾に膝を喰らわせ、くの字に体を折り曲げた彼の背中を押す。まともに立つことができずふらつくローランの後頭部を剣の柄で打ち、地面に倒れさせた。
普通ならこれで意識を失って終わりだが……『聖光』の自動回復能力がある今、コイツはすぐに復活するはず。
俺の考えは正しく、ローランは三十秒と経たずに起き上がり、鋭く俺を睨みつけて来た。
「……狂戦士と言う割には、随分と洗練された技術を持ってるな」
「勝手に周りが呼んでるだけだ、自称した事なんてねェよ。―――んじゃ続きだァ!」
ローランが構えるか構えないかの所で既に背後を取った俺が、鎧ごと体を斬り裂く。
彼は苦悶の声を漏らしつつも体勢を崩すことなく、すぐさま振り返って反撃してきたが、その攻撃は虚しく空を斬り、剣を振るう瞬間の隙を再度背後を取った俺に斬りつけられる。
傷は即座に再生するが、彼の息は荒い。
精神的な疲弊があるのだろう。たったこれだけのやり取りで、俺と彼との間にある圧倒的な力量差が痛感できたのだろう。
だが、やはりその目は輝きを失わなかった。
「ははははッ!まだまだ頑張れるみたいで安心したぜェ?こっちは全然本気出せてねェンだからさァ!」
「……『一等星・極光極撃』!」
「ただの極光一発で俺を倒せるとか思い上がってんじゃねェええええぞッ!!」
ただの一発、と表現はしたが、今までの『極光極撃』よりも明らかにサイズの巨大な柱が俺を襲う。
回避は容易だったが、シングルだのダブルだのが技の同時発動個数だけを示す単語ではないと知った今、その正体を出来る限り正確に暴きたいという欲求に駆られていた。
ローランは俺のライバルだ。今後こうして戦う頻度も増えるだろう。
ならば、今のうちにヤツの手札を暴いておく必要が―――今まで戦ってきた『聖光』の持ち主には無い彼だけの発想、技術を入手しておく必要がある。
思い出せ。ただの『極光極撃』と『一等星・極光極撃』の違いは、サイズ以外に何があった?
ローランと敢えて剣戟を繰り広げつつ、頭の片隅で考える。
何のリスクも無い純粋な強化なら『一等星』をずっと使っていれば良かった。だが圧倒的に格上であるダインスレイヴに対し『極光天聖』を放った時、『一等星』の言葉はつかなかった…………あの状況で、所謂舐めプなんて真似をするとは思えない。となると『一等星』や『二等星』といった強化は、通常よりも消耗を激しい事がうかがえる。あの天才は『二等星』を発動した時点でそれに気づき、温存していたのだ。
『一等星・極光極撃』と『二等星・極光開闢』の直前直後は、思えばどちらも体を包むオーラが消失していたように見えた。
STAGE4の彼を包むオーラとはつまり、基礎能力を高め、自動回復、自動修復を行う光。
これが示すのは『一等星』『二等星』は彼の命綱をも武器とする、一歩間違えれば死に直面しかねないハイリスクな技という事。
ならなぜさっきソレを使った?
なおも剣戟は続く。いざ実際に切り結べばわかった事だが、『祝福』の成長はともかく剣術はお粗末な点が目立つ。
確かに上手いが、基本に忠実すぎる。意外性が無く、お手本通りだから合わせやすいし崩しやすい。
そう。ローランは未だこの程度。彼も自分の未熟な点は十分承知しているだろうし、だからこそあまり派手な無茶や賭けに出るような真似はしないはず。
だというのに、防御と回復を捨て、あの一撃を放った。ただの考え無しという可能性も無いわけでは無いが、そんな事をこの土壇場でするかと言われれば、首を傾げざるを得ない。
―――とはいえ、『一等星』だの『二等星』だのの意味は粗方想像できた。
後は推測が正しいかどうかを確かめるためにもう一度使わせて……もし正しければ、前後の隙を狙って気絶させれば、回復する前に『祝福』が消えるはず。
勝利条件が見えてきた所で、俺はわざと剣を振るうタイミングをずらし相手の呼吸を乱させ、無理矢理生み出した隙をつくように胸の中心当たりを殴りつけた。
ローランの体は軽く吹っ飛び、地面を何度か跳ねて転がり、止まる。すぐさま土汚れは消え、立ち上がり綺麗な姿勢で構えるローランだが、いつまで経っても攻撃を仕掛けに来ない俺に訝しむような表情を見せた。
「どうした。まさか、今俺を吹っ飛ばしただけで勝ったというつもりは無いだろう?」
「だがこれで終わりにしようとは思ってるぜェ?ぎゃははッ!なァ、お前の『祝福』、『聖光の祝福』だろ?ラストチャンスってヤツだ。真正面から受け止めてやるから、テメェの全力をぶつけて来い」
「……馬鹿にしているのか?」
「さっきまでのやり合いでわかってンだろ?お前と俺には、圧倒的な差がある。こと剣術においては顕著になァ。だが『祝福』に関しては中々目を見張るモンがある。―――別に、剣術の方が自慢ならそっちで来ても良いぜ?待っててやるから好きにしな。ひゃははははッ!!」
親の仇でも見るような目を向けて来るが、ローランは俺の言葉にこれ以上何か言う事は無く、静かに集中を高める。
全身を包む輝きはどんどんと増し、あまりのエネルギーに森の木々が激しく揺れた。
「『聖竜極覇』………『一等星』―――」
「来いッ!テメェの全力、真正面から―――」
「―――『天聖極撃』!!!」
「ぶっ壊してやるからよォオオオッ!!」
技はいらない。
ただ、出力を上げるだけで良い。
月よりも、太陽よりも輝く純白の奔流。
万全の状態で放たれる、STAGE4の最高の一撃。
だがソレは、『狂乱』を纏った刃に容易く切断される。綺麗に、真正面から、真っ二つに。
「なっ」
次に、ローランが驚きと絶望の声を微かに漏らす。
真っ二つになった光の中を通って、俺が接近してきたからだ。
そして俺も、彼を見て自分が正しかった事を知る。
ローランの体を包む光は、すっかり消えていた。
「じゃあな、ローラン・アランデール・ゼパルス」
俺の剣の腹が、彼の脇腹を強打する。
回避も防御も回復も、なんの抵抗もできない彼は、そのまま崩れ落ちた。
そこでようやく『天聖極撃』の破壊の音が遥か背後から聞こえ、俺は込み上げてくる愉悦を抑え、『狂乱』を解いた。
「俺、が、負け……」
「あぁ、負けだよ。―――ま、あんまりこういうのはガラじゃねぇんだけどさ。お前は自分のダチの事気にするより、もっと強くなる事を考えるんだな。それこそ、俺を超えるとか」
「………ジンに、関わるなと?」
「別に?同業者がお困りのようだったんで手助けしてやっただけだ。そこまで仲良くもねぇし、肩入れしてやるつもりもねー。―――けど、お前みたいな強くなる素質のあるヤツが間違った道を突き進んでいくのはどうも無視できなくてな。暗殺者って仕事を悪く思うのは仕方ねぇが、一旦そういうこだわりは捨ててみるのをお勧めするぜ?って話さ」
「…………光栄な、限りだね。あのノガミに、認めてもらえるなんて」
「あぁ、誇って良い。お前は強いし、この先も強くなる。次戦う時、俺が負ける可能性だって十分ある程にな」
「そう、か」
無理矢理仰向けになって、ローランは空を眺める。
「いつか、届く。届いてやる。その時までは………俺も、自分を、みが―――」
最後まで言い切る事は無く、そのまま意識を失った。一応脈と呼吸を確認したが、どちらも異常なし。
これでようやく、一件落着という事だ。
それを理解した途端、一気に疲れが噴き出し、俺もローラン同様に地面に倒れ、思いっきり声を出した。
「まぁーじで疲れたー」
「お疲れさん。ま、あんだけ派手に笑ってりゃ疲れるわな。戦ってる間ずっと笑うなんて、良くもまぁやるよな」
「別にソレが一番の理由って訳じゃねーよ。笑うのはもう慣れた。さっさと直したいとは、常々思ってるけどさ。問題はアイツだよ、アイツ。ローラン。アレもう『狂乱』入ってるだろ」
「……確かに、お前に対する執念が恐ろしかったのぅ。男色家なのか?」
「いや、婚約者いるし、政略結婚とは言え関係は極めて良好って話だし違うと思う。どっちもイケるってんなら話は違うけど……友情にも言える事だけど、俺別にローランにここまで気に入られるような事してないっつーか。あんま関わってねぇんだよなーって。恋愛感情なんてもっての外だな」
たった二か月前後で俺にベタ惚れしてくれたガルムが居る以上、そういう可能性が無いと言い切れるわけでもないが……極めて低いだろう。
というか俺に暗殺者を辞めさせようとしてたのは、アイツの正義感が暴走しただけって話のはず。その正義が狂気になっていたから恐ろしかったのだが……思い返すだけでもゾッとする。あの血塗れの状態から立ち上がるの、本当に心臓に悪かった。
「取り敢えずカルマ、本当、本ッッッ当に助かった」
「良いって事よ。ま、報酬は後でちゃぁんといただくがね」
「うげ、終わった後に依頼扱いかよ……金に困ってるわけでもねぇから良いけどさ。んでも、なんで態々こんな所まで来てたんだ?他の依頼でも受けてたのか?」
寝転がったまま尋ねると、カルマは何故か俯いて黙り込んだ。
そんなに答えにくい質問だったか?と思いつつも、同業者とは言え受けた依頼について話すのはあまり良くないかと勝手に納得して、謝ろうとする。
だが、俺が体を起こして口を開こうとするよりも先に、カルマが声を発した。
「……お前に会いに来たんだよ」
「なんだ、依頼でも来てたのか?ならもうちょいだけ待ってくれ。少し休んだら概要聞いてそのまま――――」
「依頼の報告じゃねぇ」
起き上がった俺の目を真っ直ぐに見つめ、カルマは続けた。
頬を赤く染め、瞳を潤ませながら、絞り出すように。
「………決着を、つけに来た」
「は、はぁ?」
表情にそぐわない言葉に、俺は今年一番の素っ頓狂な声を漏らすしか、出来ないのだった。
【獣王国に『魔王』出現、英雄は『狂戦士』か?!】
先日、獣王国に魔王ルシファーが出現し、居合わせた狂戦士ノガミによって撃退された。魔王はリドゥリアン祭の為に集まった人々の前で自らの正体を明かし、王女とその妹を洗脳していた事、獣王国を裏から操ろうとしていた事を公表した上、ソレ等が全て事実であると王女達自身も認め、世間を騒がせている。
しかし魔王に侵略される一歩手前だったにも関わらず、彼女達は危機は脱したと公言している。その理由は彼女が密かに雇っていた狂戦士ノガミが、この先も獣王国を守るために戦うからとのこと。
暗殺ギルド、ひいてはアステリアに帰属する物とされていたノガミが獣王国に今後力を貸し与えるという事実は、各国から強い批判を集める事になり、中でも元々狂戦士に対し批判的であった神聖国シェンディリアのペイトロス教皇帝と、ノガミを自国の戦力としていたアステリア王国のエオス国王は獣王国に対し堂々と批判的な意見を述べた。
またルシファーに記憶操作をされていた者をこのまま王座に据えるのかと問題視する声が上がっているが、意外なことに国内ではガルム現王女が次の神前試合の時まで王位を持つ事に賛成する機運が高まっている。その理由は狂戦士が魔王を撃退した後の演説や、復興事業等の対応が素早かった事が理由ではないだろうかと噂されている。
某月某日のとある新聞より抜粋