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暗殺者ですが、狂戦士扱いされて困ってます  作者: 砂糖 多朗
第三章 召喚勇者、転生狂人
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必死の抵抗

……さて。カッコつけたは良いものの、こっからどうしたモノか。


まずは状況をまとめてみよう。

馬車は無事。ダインスレイヴも御者も馬も、誰も傷つけられていない。またダインスレイヴは近づいてきただけでは何もしなかったのか、傭兵達にも目立った傷は見受けられない。恐らくは俺達を包囲しただけ。何かを仕掛けた様子は無さそうだが……まぁ、警戒は一応しておくか。何か来た時にビビらずに行動する、程度に。


次にローラン。何故か学園をサボってここに居る。おい、真面目に授業受けろよ―――あ、もう授業終わってる時間か。

……それはさておき、奴が居るのが相当不味い。他の有象無象傭兵達だけなら『狂乱』を作戦の中に組み込む事も出来ただろうが、ローランなんて期待の大型新人、殺したら不味い事になる。

何よりコイツの事だ。ちゃんと「ジンを捕らえに行きます」と上司か何かに連絡してから来ているはず。ソレを最後に失踪したとあっては、俺が真っ先に疑われるのは自明の理。


とどのつまり、まーた『狂乱』無しで戦闘しなきゃ行けねぇのかよ、チクショウ。という事である。

しかも素手で、この人数を?一周回って笑えてくる。


傭兵の数はローラン含め、今見えている奴だけなら十三人。

使用武器で分ければ、弓三人、斧二人、盾三人と、残り五人が剣。

まったく。俺の弱さは前に戦った時に十分理解しただろうに、随分と準備万端整えてくれやがって。


「全員油断するなよ。彼は体力こそ少ないけど、技術は一級品だ」

「おいおい、買い被りすぎだろ。俺はそこまで強くねーぞ」

「街一つを個人で修復できる大魔法使いがかい?謙遜も過ぎれば嫌味になるって、俺も君も言われ慣れてると思うけど」

「そこでさらっと自分の情報入れて来る当たり流石っすね……」

「あぁ。俺は強いよ。まだ成長途中だけどね」


それが一番恐ろしいんだよ。


ローラン・アランデール・ゼパルス。他の有象無象だけなら、まだ『狂乱』無しでも御せる可能性はあった。

だがこの人数の中にコイツが一人いるだけで、一気に戦況があちら側へ傾く。


絶え間ない鍛錬を積んだのだろう。『聖光の祝福』を手に入れ、己の成果を思い知ったのだろう。

だからこその、この圧倒的なまでの『強さの自覚』。謙遜も増長も無い、精度の高い自己理解。

それが出来る人間が、一体どれだけいる?自分の力量を正確に測り、その上で戦えるヤツがどれだけいる?


「……ほんっと、お前と戦いたいとは思えねぇな」

「なら今からでも降伏してくれて構わないよ」

「はんっ。――――俺にもプライドはあるんだよ!」


馬車から飛び降り、ローランへ駆け寄る。

一歩踏み出した瞬間、全身から一気に力が抜け、足をもつれさせた。


派手に転倒しかけている俺へ、ローランはそれでも警戒を緩めることなく、光を纏った刃を振り下ろす。

叩きつけられれば即死。だが、ここまで読み通りだ。


情けなく地面に体を叩きつけるまでの僅かな猶予の間に、俺は地面に着いている方の足を捻り、体を少し回転させる。

さらに地面を蹴り、回転の勢いと合わせて真横へ吹っ飛ぶ。


攻撃を回避するだけではなく、本当に狙っていた相手の前に移動する為に。


「狙いは僕かっ、暗殺者!」


俺が意図せず必死に移動してきた、という顔をしていなかったからか、男はそう言い放ちつつ剣を上段に構えた。

しかし今から攻撃の準備をしているようでは遅い。


左手を背後に隠し、足払いを放つ。とことん弱体化された俺の蹴りでは、いつぞやのローランのように相手が動いているならいざ知らず、直立不動の足に当てた所で体勢を崩す事は不可能だ。


……だが、相手はソレを知っているはずも無く。わかりやすく飛んで、回避してくれる。

そこを狙って、俺は隠していた左手を敢えて見やすいように振りかぶり、何かを掴んでいるような握り拳を傭兵へ見せた。

何が来るのか、と突然飛び出してきた俺の左手にギョッとした彼だったが、しかし一瞬の隙を使って俺が彼へぶつけたのは左手では無く、ただの右手。拳で顎を殴り、脳を揺らす事に成功した。


―――そう。コレが俺の狙い。

まず最初にローランとの戦いを優先したように見せ、大技を発動させて隙を作る。弓使い達の意識をローランの援護へ向けさせるために、敢えて殺気を強めに放っておいた。

こうして全員が「ヤツはローランと戦う」と確信した所で、彼の技を回避するふりをしてそのまま本命の名も知らぬ傭兵の前へ移動。彼が俺を迎撃しようとしてくるのを足払いで転ばせる―――ふりをして、左手に隠していた秘密兵器―――()()()()()ので狙った通り右の拳で顎を殴り脳を揺らす。


一秒未満の間に繰り広げられる騙し合い。コレは前世から磨いてきた俺の暗殺者技術だ。

一対多の対策が必須なのは当然の事。本当はブラフやミスリードに銃を使ったり爆弾を使ったりする想定だったのだが、別に素手の戦闘でも問題は無い。


『狂乱』無しでも本気で顎を殴れば行動不能にする事は可能。そして『戦闘』の判定は相手が行動可能な時、或いは相手の命を奪おうとする時。

気絶したヤツには、『狂乱』のデメリットである弱体化を気にすることなく魔法が使えるのだ。


「『深眠』……これで一人だ。安心しろよ、殺しはしてない。寝かせただけさ」

「……やられたよ。俺達の攻撃を無駄打ちさせて、その隙に確実に一人を持っていく……このままバラバラだと不味いな」

「かといって集まらせるつもりも―――」


背後から飛んできた矢を、見ることなく首を傾げる事で回避。俺の向かいに居るローランへ飛来するが、彼は視線を向ける事無く矢を掴み、そのまま投げ捨てた。


「無いな。―――そら、次はお前だッ!!」

「くっ!?」

「落ち着け!まだ罠の可能性がある!後退しつつ行動を見極め―――」

「司令塔やってる場合かよローラン!!」


飛来する弓を回避しつつ、肺が痛み、心臓が激しく拍動するのを無視して傭兵の内一人へと駆け寄る。

男は斧を構え迎撃の姿勢を見せたが、ローランは先程のようにはやらせてくれないらしい。しっかりと声をかけ、自分は極光を射出する構えを取っている。


俺は彼に石を投擲し、視線と殺気を向ける事で「自分は狙いから外れている」と考えているだろうローランに危機感を抱かせようとするが、投石は呆気なく叩き落とされ、お返しとばかりに極光が一直線に俺の胴体狙って放出された。


「セイクリッド・ストライク―――」

「いい加減お前の十八番は見慣れてんだよっ!」


わざと自分の足を自分に引っ掛けて転び、攻撃がギリギリ当たらない様に倒れる。

しかしローランは不敵に笑い、言葉を続けた。


「『拡散(クラスター)』!!」

「マジかよぉっ!?」


描かれるはずの綺麗な一直線は、まるで木の枝のように無数に分裂し、小さな光の雨となって飛来する。

慌てて地面を手で殴って体を起こし、左足を軸に体を回転させつつ攻撃を回避していく。


あの技、発展性あったのか……っていうか『祝福』の技ってそういう応用あるのか。

『滅撃』とい『狂気汚染』といい『深淵』といい、どれもあまり使う機会が無かったしな……今度実験してみるか。


呑気にこの後の事なんかを考えてみたが、さて実際余裕はない。

俺が知る『聖光の祝福』の技は五つ。その内ローランが使える物、使った所を見た物は『セイクリッド・ストライク』『シャイニング・バースト』の二つ。

というか『拡散(クラスター)』って『シャイニング・バースト』との合わせ技か?光が広がって面を制圧する攻撃はまさしく『シャイニング・バースト』だが……そういう応用をしたって事は、まだ他の技が扱えていない証拠か?


だとすればまだ、つけ入る隙はある。


一先ず逃げ惑う間に一番近づいた傭兵へ向かい、攻撃を普通に回避して目を潰す。完全にではない。一時的に目が開かなくなる程度だ。加減したから問題無し。

怯んだ隙に最初の男同様に顎を揺らして行動不能にさせ、古代魔法で眠らせる。


これで二人目。


「……俺の仲間を、この短時間で二人も行動不能にするなんて……君、実力を隠していたのか」

「はぁっ、はぁっ……いや、げほっ。俺は別に、手を抜いた事なんて……ごほっごほっ、ねぇけど」

「……弱ったふりなら無駄だよ。君の罠には引っかからない」

「いや、これ結構マジなんですけど」


弱体化のせいで凄まじく体力が少ないのは重々承知していた事だが、ここまで酷いとは。

というか『狂乱』無しでの戦闘がここまで長引く事が無かったせいで気づかなかったけど、これって時間経過で段々弱くなってる?


スタミナ切れもあるんだろうけど、にしてはやけに足に力が入らない。

寧ろどんどん力が弱くなっているような気さえする。

視界も眩んできたし、そろそろ不味いな。


畜生、せっかく光明が見え始めたと思ったらコレかよ。

『狂乱』に狂わされ過ぎじゃないか?俺の二度目の人生。


「全員、タイミングを合わせて武器を投擲してくれ」

「でも、躱されたら」

「大丈夫。逃げ場を武器で潰してくれれば、『拡散』で倒せる。演技とは言ったけど、実際ジンは体力が無いからね」


いつの間にやら一か所に集まったローランと仲間たちが、俺を鋭く注視しながら各々武器を構える。


不味い。この状態で『拡散』を使われるだけでも十分死にかねないのに、逃げ場潰しのピンポイント投擲まで追加と来たか。


―――どうする?この際、使うか?『狂乱』さえ発動すれば、弱体化中に消耗したスタミナも回復するし、コイツ等如き一分と経たずに皆殺しに……いや、ダメだ。そもそも俺は依頼以外で殺しをしないようにしよう(必要があればするが)と心に誓っている。

暗殺は、殺しは商売道具だ。楽をするための物でも、まして娯楽でも無い。


けど使わないと俺が死ぬ……ッ、不味い、来る!


「セイクリッド―――」


一際強い光を纏った刃が振り上げられたその瞬間、甲高い音が響き、彼の手から剣がすっぽ抜けた。

いや、弾き飛ばされたのだ。


そしてそれをやった本人は、優雅に馬車から降り、俺の傍に立った。


「ジンはこれ以上戦えなさそうじゃしのぅ。次は我が遊んでやろう」

「今のは………君が何者かはわからないが、邪魔をするなら容赦はしないよ」

「ぬかせ。お前は我の攻撃を、防ぐ事すら能わんよ」


指を鳴らす。音が消えるよりも先に、ローランたちの体を無数の斬撃が襲う。

彼らの鎧は砕け、血が噴き出す。


「お、おい!殺すのは―――」

「案ずるな、わかっておる。お前が態々死にかけてまで加減した相手じゃ。理由がある事くらいわかる」


少し、甚振りはするがの。


そんな呟きが聞えたかと思えば、再度斬撃が彼らを襲う。

熊をバラバラにするような一撃が、腕の一本も斬り落としていないあたり手加減はしているのだろう。

でもあの出血量じゃ簡単に死ぬぞ?ちゃんと考えてるんだろうな?


不安は拭えないものの、体は動かない。

正直立っているだけで限界だ。気を抜いたら多分、気絶する。


「しゅ、『祝福』か……!?この攻撃、一体……」

「残念、不正解じゃ。ほれ、我の瞳は一切色が変わっておらんじゃろ。まぁ考えても力の正体は当てられんよ。―――さ、終いにしようか。何気絶させるだけじゃ。ただ、ジンを苦しめた分、倍以上の苦痛を味わって気絶してもらうがな」


ダインスレイヴが手を伸ばし、熊にやったように開いた手を閉じようとする。

しかしその前に、なんと傷だらけのローランが立ち上がった。


見れば鎧もあまり砕かれておらず、攻撃をギリギリで防ぎ、回避していた事がうかがえた。

それでもダメージは随分と大きかったようで、フラフラではあるが。


まさか凌がれていたとは思わなかったのか、ダインスレイヴは素直に称賛の声を漏らす。


「ほぅ。まさか耐えていたとは。なるほど、ジンが殺さぬわけだ。お前はここで死ぬにはあまりに惜しい」「君達に俺を殺すつもりが無くても、俺は君たちを捕らえるつもりがある……」

「ならばどうする?貴様の技では我に傷一つ負わせられんぞ」

()()()()()()、だろ」


剣を手に、ローランは脱力する。

自然体で立つその姿は、まるで何か力を貯め込んでいるような―――そして、ソレを解き放つタイミングを見計らっているかのような、そんな雰囲気を感じさせた。


「………俺の想いに、応えてくれ!『聖光の祝福』よ!」


ダインスレイヴという強大な敵を前に、ローランは瞼を閉じたまま叫ぶ。

するとその言葉に呼応するように、彼の全身を極光のオーラが包み込む。

それは、セイクリッド・ストライクを放つ直前の剣のような姿だった。


……いや、オイ。まさかコイツ、この状況で。


「―――凄い。力が湧き上がってくる。そうか、『聖光』にはまだ、先があった……!!」


自分の体を見回しながら、興奮した様子で呟く。

あぁ、そうだろう。きっと凄い全能感が彼の中にあるはずだ。


何故ならヤツは、新たなステージへ至ったから。


「―――STAGE、2。俺はもう、止まらないぞ」


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