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暗殺者ですが、狂戦士扱いされて困ってます  作者: 砂糖 多朗
第三章 召喚勇者、転生狂人
35/50

封印の間

※祝福先行公開※


『死の祝福』

死に祝福されし者の証。その力は、あらゆる命を根絶させる。

視線が痛い。


中身が転生者ではあるものの、あくまでここは俺の家。ギザドア邸はジン・ギザドアの生家であり、心安らぐ場所のはず。

しかしながら、今は視線の筵。生暖かい、従者やら母やら父やらの視線が、いつでもどこでも追って来る。


―――この家に戻ってきて、二日経った。

その間もずっとイチャイチャしっぱなしだったからこんな温かい目を向けられている……というわけでは無い。寧ろ俺達は一切人目についていない。


なんてったって、二日経つまで()()()()()()()()()()()のだから。


………もうちょっと具体的に言おう。

俺とガルムのアレコレが、約二日続いたという事である。


そりゃ部屋から出て以来この視線にもなる。夕べは、どころか一日中お楽しみだった日があるのだ。

若いわねー、とか時折聞えて来るのがいたたまれない。俺もガルムもついハッスルしすぎたとは言え、流石に考え無しが過ぎた。

言い訳させてもらうのならば、鍛えていた俺と素でかなりの体力を持つガルムが、今まで抑え込んでいた物を一気に解放させたが為のコレなのだが……いや。にしても一日中やってたのは自分でも無いわ。無尽蔵すぎるだろ若者ボディ。


前世の俺も、そう高齢で死んだわけじゃねぇけど。


さて、そんな温かい視線があちらこちらから突き刺さる中、最低限風呂と食事を終えた俺達は、再び部屋に戻って来た。

流石に二日もぶっ続けでやっておいて、さぁもう一度なんて言う体力は互いに無く、静かにベッドに横たわっている。


そうしてしばらくの間雑談をしていた中で、なんとなく俺の武器の話題が上がった。


ルシファーとの戦闘の最中で、砕け散った市販の剣。特注でも何でもない、鍛冶ギルドが駆け出し冒険者やら貧乏傭兵なんかに売っている大量生産品の一振りだ。

そんな誰が持っていてもおかしくない剣だからこそ、俺とノガミの持っている剣が同じでも誰にも怪しまれなかった訳だが……ついに寿命を迎えてしまった。


別に俺は無手でも戦えるが、暗殺業務を考えると鋭利な刃物は必須。

その事を話すと、当然ガルムから「じゃあ今度一緒に武器買いに行こうぜ」と誘われる訳だが、俺にはとある約束がある。


厳密には、()()が。


「約束?」

「あぁ。今使ってる武器が壊れたら使ってやるって、誓っちまったからな。破ると何が起きるかわかんねーし、そろそろ取り出そうかな」

「部屋にしまってんのか?」

「細かく言うならこの部屋の中にある封印空間に、だけどな」

「は?封印?」


ベッドから降りて、部屋の丁度中心部分に立つ。

ガルムが体を起こしこちらを見て来る中、俺は虚空へ手を翳し、開錠の魔法を発動。

目の前の空間に楕円の穴が開き、封印空間への入り口が形成された。


もうすでに嫌な気配をひしひしと感じる。

やっぱ約束は無かった事に……いやいや、そっちの方が絶対酷い目に遭うから開いたんだろ、俺。


「っ、オイ。それ本当に大丈夫なヤツか?すっげぇ圧だぞ」

「正直何が起こるかは俺も予想できねーけど……ついてくるか?」

「……まぁ、せっかくだし」


俺の隣までやって来たガルムが、恐る恐る穴の中に目を向ける。

と言ってもここからは封印されている物の様子が確認できないので、中に入ってのお楽しみなのだが。


「因みにコレ、なんの武器が封印してあんだよ?」

「ただの剣だよ。色々特殊だけどな」


※―――


「俺がブギーマン扱い……子供の躾けで使われるようになったのは、ノガミを名乗り始めて二年経った頃。まだ俺が三大恐怖になる前からなのは知ってるか?」

「知ってるよ。暗殺者ギルドのネームド、ノガミの出現時からなんとなく噂は流れてたろ?狂ったように標的や目撃者を殺し尽くす暗殺者。姿を見た殆どの人間を殺してたから、次第に誰でも関係なく笑いながら殺す、何よりも血が大好きな殺人鬼って噂が広まる様になったんだよな。リンとかセナなんかはちょうど広まり始めの世代らしいぞ」

「ま、まじかぁ……」


落ち込む俺に、ガルムは「で?それがどうしたよ?」と続きを促す。

今の話はただの前置き。大事なのはこの後なので、気を取り直して話し続ける。


「ともかく俺はノガミになった時点でそこそこ有名だった。けどその時は本当に誰もが知る、って訳じゃ無かった。―――俺が今のノガミになったのは、それこそ誰でも知ってる通り二年前。当時存在していた『三大恐怖』の一角『堕ちた不朽の英雄』を、俺が一人で殺した時。俺が新たな『三大恐怖』になった時だ」

「殺人鬼ノガミは『三大恐怖』であっても殺せる実力者……だから、無差別に人を殺す狂人もまた、『三大恐怖』入りさせるべきだ、とかそんな流れだったよな」

「長々と話しておいて悪いが、別に俺の『三大恐怖』入りについてはどうでも良いんだ。問題はこの剣が、()()()手に入れた剣だって事」


腕を組みながら、数多の鎖に縛られた剣を眺める。

実際には鎖ばかりで剣本体は見えないのだが、暴虐的なオーラはその姿が見えずとも肌を刺す。


俺が『堕ちた不朽の英雄』から手に入れた剣。

彼を『堕ちた不朽の英雄』に変えた剣。


―――名を、ダインスレイヴ。


「『堕ちた不朽の英雄』は、元は異世界から召喚された『勇者』の一人だった。歴代の中でも最強と謳われる程の素質と努力、なにより人と繋がる力が強かった男……だと。仲間想いで、一度知り合った人全員から好かれていたらしい」

「それをやったのが、この剣……って事かよ」

「厳密にはコイツが『させた』訳じゃ無いがな。―――詳しくは、直接聞くと良い」


右目に極彩色の輝きが宿る。

心臓の拍動が加速し、口許が愉悦に歪む。


『狂乱の祝福』。STAGE1だが、魔力でできた封印の鎖を壊すには、この状態で事足りる。

どのSTAGEだろうと、魔力殺しの力は変わらない。変わるのは効果範囲だけだ。


伸ばした手が直接触れるよりも前に、鎖が粉々に砕け散る。

そうして姿を現したのは、鞘に収まった一振りの剣。

とても無骨な見た目をしている……まるで先日砕けた俺の剣とほぼ変わりない見た目をしている物の、放つ威圧感は比ではない。


そもそも、武器自体がオーラを放つなんて事が異常だ。


「久しぶりだな」


宙に浮くダインスレイヴへ、『狂乱』を解除し声をかける。

するとダインスレイヴは突如柄を俺へ向け、素早く落下してきた。


風を切る轟音と共に飛来したダインスレイヴを、ギリギリで回避しつつ柄を握る。

勢いに任せて一回転すると、予想に反してすぐ大人しくなった。


『久しぶりじゃのぅ、ジン!お前が来たという事は、前の剣が役目を終えたという事だな?』

「あぁ。つい先日な。約束は約束だし、ちゃんと迎えに来たぞ」

『うむ!我は信じておったぞ?お前は約束を守る男だと』


壁を一枚隔てているかのようなくぐもり方をした、幼い少女の声が剣から聞こえる。


歴史上、唯一確認されている『意思を持つ剣』。それがダインスレイヴである。

剣に人間の魂を移植した、とかではなく、剣として生み出された時に意思が宿ったのだ。


平たく言うと、この剣は『のじゃロリババア剣』なのである。


「け、剣が喋ってるって、マジかよ」

『む。なんじゃそこの女は。見たところ、犬の獣人のようだが』

「狼だよ。―――コイツはガルム。獣王国の王で、俺と結婚する予定のぐっ!?」


言い切るより前に、俺の腹部に強い衝撃と熱、そして痛みが襲い掛かる。

俺の手に握られていたはずのダインスレイヴが、俺の腹を貫いたのだ。


彼女はその身を引き抜き、血に濡れた刀身を怪しく輝かせつつ不機嫌そうに話す。


『結婚?なんの冗談じゃ?』

「冗談も何もねぇ、よ。ガルムからプロポーズしてきて、俺がオッケーしただけ―――」

『この浮気者ぉっ!!』


ザシュッザシュッ、ザシュゥッ!!


怒りの声と共に、ダインスレイヴが勝手に俺の体へ振り下ろされる。寸止めとか柄とか峰とか、そんな優しさは無い。

刃が無抵抗の俺の体を何度も何度も切り刻み、周囲に鮮血をまき散らす。


『我は数年間、この空間にて鎖で縛られ寂しい想いをしてきた!我以外の剣なんぞの力を使うなんて、この身が砕け散ってしまいそうな程心苦しかった!それでも耐え忍んできたのは、我を握っても自我を失わず、真の意味で力を合わせられる唯一の男であるお前への恋心があったからこそ!だというのにお前はァッ!あろうことかその女と結婚、結婚だと!?ふざけるのも大概にしろ!我は重婚は認めても、一番は譲らぬと決めている!今すぐその女との婚約を破棄するのじゃ!我と契りを結んだ後でなら考えてやらん事も無いが我よりも先にだなんて許さん許さん許さぁあああああんッ!!』

「ま、待て待てお前やり過ぎだろ!!」


早口でまくしたてながら俺の体をズバズバ斬りつけていたダインスレイヴを、剣が勝手に動くという現象に半ば呆然としていたガルムが意識を取り戻し、止めてくれる。

直接ダインスレイヴを掴むのでは無く、フランベルジュで弾き飛ばしたのだ。


ナイス判断だ。なぜならダインスレイヴは、柄を握るだけで精神汚染してくる魔剣。俺を助けるために柄に触れた瞬間、ガルムの自我は暴虐的な破壊衝動によって塗りつぶされ、消滅していた事だろう。


痛みと出血で頭がくらくらする中、何とか魔法で傷を癒す。

失った血液も再生させ、ようやく一息。


「悪い、助かった」

「お、おう……勝手に動いて、しかも刺してくるなんて、随分おっそろしい剣だな……ってかなんで抵抗しなかったんだよ?」

「……アイツは半殺しにはして来るが、死なないラインは見極めて来るからな。下手に反撃して信頼関係を失って、仕事中とかに勝手にいなくなられたりしたら困るし、甘んじて受け入れてた」

「別の剣買えば良いだろ」

『ふん、そうも行かんさ』


ふよふよと浮かびながら戻って来るダインスレイヴ。その姿を見た瞬間ガルムは剣を構え迎撃準備をするが、彼女が攻撃を仕掛けて来る事は無かった。


『我とジンが結んだのは『誓約』。決して破られてはならぬ、絶対のルールだ。破れば最後、どのような存在であろうと回避する事の出来ないペナルティが課せられる。我とジンが結んだ内容ならば、永遠の苦痛と言った所だな』

「まぁそういう訳だから、機嫌を損ねてコイツが使えなくなるのが不味いって話。『誓約』の話を持ち掛けられた時は、その重さと強制力がどれほどのモンか知らなかったから結んじまったが……今は絶賛後悔中だ。絶対に解除できない呪いがかけられる直前まで来てるって事だからな。今の状況」

「……お前って、ほんっと変な所で抜けてるよな」

「言うなよ、気にしてるんだから」


『狂乱』の時もそう。神から貰える『祝福』なんて凄いに決まってる!って思った結果がコレ。


露骨に溜息をつくと、ダインスレイヴが切っ先をこちらへ向け、剣呑な声を発した。

また切り刻まれるのはごめんだと即座に謝罪し、姿勢を正す。


「さて、と。悪いけど、ガルムとの婚約を無かった事にはできない」

『……我よりもその女の方が良いと?』

「あぁ。俺はガルムが好きだ。外見も性格もな。別れるつもりなんてサラサラねーよ。こればっかりはお前に嫌われようと譲れねぇ」

「ジン……!」


それに、大勢の前で告白する度胸を見せたガルムを、仕事がし辛くなるなんて理由だけで一度振るような真似、するわけが無い。


これで突き刺してくる物なら反撃するぞ、とわかりやすく『狂乱』を発動し、極彩色の右目で鋭く彼女を見つめる。

しばらくの間黙っていたダインスレイヴは、不機嫌さを隠すことなく話す。


『我が剣だからじゃろ』

「……はい?」

『我は剣、その女は獣人。要は種族が悪いという事なんじゃろ?』

「え、いや、種族も何も関係ねーって。俺はただガルムが一番―――」

『ふんっ、そう言っていられるのも今のうちじゃ!』

「話聞けよ!!」


俺の言葉を無視して、何かを勘違いしたまま彼女は床へ突き刺さる。

その次の瞬間、ダインスレイヴの全身が強く光を放ち、俺達は反射的に瞼を閉じた。


なんだろう。オチが読めるし嫌な予感がする。


光が収まり、恐る恐る目を開けると、そこには驚愕の、しかしどこか予想通りの結果があった。


「どうじゃ!この『人間形態』は!これならそこの女にも劣るまい!」


ダインスレイヴが突き刺さっているべき場所には、一人の女性が立っていた。

長い黒髪に光の無い瞳。腕と足だけが騎士甲冑に包まれ、体はガルム程ではないにしろ体の形が分かりやすい、露出度高めの服で隠されている程度。背丈も高くスタイルも抜群で、顔も人間離れした美貌をしている。

だが、ふんすと胸を張っている姿があまりにミスマッチで、一気に魅力を落としている。


いや、うん。人間になるんだろうなぁ、とは予想できたけども。


―――「のじゃロリババア」じゃなくって、ただの「のじゃお姉さん」だったかぁ……。


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