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暗殺者ですが、狂戦士扱いされて困ってます  作者: 砂糖 多朗
第三章 召喚勇者、転生狂人
34/50

デレデレ

「ジーンっ」

「どした?」

「へへっ、なんでもねー!」

「………いやバカップルか!今日だけで何十回目だこのやり取り!?」

「こ、こら、ジン。王女様に失礼だろう」

「まぁまぁ、ジンに嫁入りする形を取ったんですから、私達の娘も同然。あまりへりくだる方がよろしくないですよ」

「た、確かにそうだな。うむ。―――あー、仲が良いのは本当、大変結構なんだがその……できれば共有スペースでは無く、自室でだな。具体的には跡取りをだな」

「っ!ジン!部屋行こうぜ!」

「お前キャラ変わり過ぎだろ!?」


あの公開告白の翌日。

混乱する獣王国はリュカオンが何とかすると事前に決めていたらしく、俺達は彼女にとても良い笑顔で見送られ、この世界での俺の自宅、ギザドア邸に来ていた。


てっきり立場的に俺が婿入りの形だと思っていたが、ガルムがどうしても嫁入りにして欲しいと頼んできたので嫁入りの方向で話が進んでいる。

当然だが最初この話をした時、俺とガルムが腕を組んで帰って来たのを見たとき、父母は冗談抜きで白目剥きだしで気絶した。二度も白目気絶って。どんな衝撃だよって。


結婚話も落ち着いて、何があったのかとか、俺が今まで隠していた事とか(ノガミの件は当然話していないが)色々していた訳だが、言葉が途切れる度に俺に密着しているガルムが今までにない甘ったるい声で名前を呼んでは何でもないと笑うのを繰り返していた。

因みに、俺のカウントに間違いが無ければこれで16回目である。いやバカップルか。


なおこれは豆知識だが、獣人は男女関係なく、つがいと認識した相手への態度が大きく変わる事があるらしい。その最もわかりやすい部分が声であり、甘えきった、蕩けきった声に変わるというのは良く知られた話だ。


にしてもキャラが変わり過ぎだと思うが。

もしかして、恋愛経験が無さ過ぎて、空回っているとか?


「まず落ち着け。まだ昼だぞ」

「……夜なら、良いのかよ?」

「―――くっついてるせいもあるんだろうけど、こんな濃い匂い嗅がされて黙ったままなんて無理だぞ?」

「~~~っ!」


父母に聞かれないように耳元で囁く。


因みに俺の言う匂いは汗臭さとかそういう話ではなく、フェロモンという意味での匂いだ。

これは誘っている相手にだけ感じ取れる香りらしく、原理は謎とされている。

人によって感じ方は違うらしいが、俺は脳がドロドロに溶けそうなくらい甘ったるい香りがしている。それもかなり強く。


このフェロモンというのは発情期になるとさらに匂いが濃く、多くなるらしい。

ガルムはまだ発情期の周期では無いらしいので、いざ本番が来た場合を考えるとちょっと意識が遠くなる。


ってか、今までの俺との接し方からここまで変わるモンか?一周回って怪しいだろ、何があったよ。


………と、流石に気になったので道中馬車の中で聞いてみたが、今までリュカオン関係の話で気を引き締めていただけで、無意識化では十分俺への好意があり、()()()()()の影響で自覚した挙句、憂い事の一切が無くなった為にこの有様なのだとか。

尻尾振りっぱなし、耳動かしっぱなし、目にハートの三コンボに、俺の今までのガルムのイメージが一気に崩れた。


……まぁでも?元々ガルムは俺好みの女。しかも性格とかまで文句なしと言った所。

そんな彼女からこうも熱烈な求愛を受けて断るなんて真似、普通に考えてしないだろう。

というか俺も全然、全ッ然バッチコイである。なんなら早速閨を共にする気でいる。

当然だが、フェロモンには相手の欲求を高める効果があるのだ。『狂乱』を発動している最中ならいざ知らず、ノーガードの俺の精神は絶賛性欲に削られ中である。


「……しかし、息子が国王か」

「あー、その話なんですけど、形式上は国王でも本当に名前だけらしいんですよね」

「あら、そうなの?てっきり辺境貴族から国王を輩出した一家にランクアップかと」

「獣王国は制度が違うので」

「国民たちは反対しないと思うけどな」

「貴族達が許さんだろ」


俺の顔に胸を押し当てて来るガルムに対し、密かに舌を強く噛むことで抵抗する。流石に家族との会話中に「たつ」ような真似はしたく無いのだ。


しかし限界は近いのでさっさと自室に籠りたいのだが、彼らの気にしている話題が少々大事な物なので真面目に応対する。


……そう。俺は王女ガルムと結婚するかなりの幸せ者な訳だが、国王という肩書はつくものの、権力は無に等しい。というか無い。

仮に独り身が王となり、在位中に結婚しても相手に権力を与えるなかれと法律に明記されているのだ。


まぁそうでもしないとハニートラップが横行するだろうしな。

寧ろちゃんと書いてるあたり大事な事を理解できているとわかる。


……王位を力で手に入れるシステムは、やはり脳筋と言わざるを得ないが。


「それに、ガルムの権力が存命中ずっと続くと決まったわけでも無いですし」

「ま、そう易々と負けてやるつもりはねぇけどな!」


元気はつらつに笑うガルムに、父母達は頼もしいと微笑む。もうすっかり義父母気取りだ。

まだ式の日程すら決まってないのに。


……というか、ガルムが「正式に結婚するのはもう少し後にしよう」と提案してきたのだ。

何かある事がわかりやすい態度ではあったが、獣人は一度本気で惚れた相手が出来るとそれ以外に対し恋愛的、性的な魅力及び感覚を一切感じなくなる特徴がある。

普通動物はつがいが死んだ後でも気にせず他の雄やら雌やらと交尾するモノだと思うが、獣人は動物と違い種では無く個を尊重する存在、という事なのだろうか。


「そういえば王女様との結婚で、すっかり忘れてたがジン。随分な魔法の才能を持ってたじゃないか。街を一人で復興できるだけの大魔法なんて、将来は宮廷魔法士か?」

「いやぁ、俺はもう情報ギルドに雇ってもらっていますし。結構身入りは良いんですよ」

「むぅ。暗殺者ギルドか……別に人殺し云々に関して何か言うつもりは無いが、犯罪者の誹りを受ける事にだけはなるなよ」

「えぇ、勿論です。それに、俺の魔法は戦闘、暗殺には使えないので」


具体的には人に使おうとすると魔力の維持すら出来なくなる。全部『狂乱』のせいです。

犯罪者の誹りは……うん。ノガミは指名手配らしいけどジン・ギザドアは諜報部扱いだから問題無いだろ。


「けど、街一つを元通りにするような魔法なんて、儀式魔法以外にあるんですか?」

「古代魔法です。魔力量にだけは自信がありまして」


母親の一人から尋ねられた事に、コレは素直に答える。

今の俺は、獣王国の現王女ガルムと婚約し、獣王国を一人で再生した古代魔法使いジン・ギザドアとしての顔と、『三大恐怖』最強にして絶対的な殺戮者ノガミとしての顔を持つ。

今は事件が起きたばかりという事でどちらとも同じ程度の知名度だが、すぐにジンの方は下火になるはず。これから目立つことも無いだろうし。

となれば、早いうちに情報を出し切って、ジンへの興味が尽きるのを早めるのが得策だと判断したのだ。


少しでも「気になる」部分が残っていると、ジンの話題を取り上げる奴が出る可能性に繋がるからな。

話しても多少問題無い事はどんどん話す。特に古代魔法は現在の魔法体系において無力化(ディスペル)の手段が無い数少ない魔法。なぜなら俺以外に使う奴が殆ど居ないからである。何より古代魔法は他の魔法と違って完全に個人で発動する魔法。精霊やら妖精やらとの繋がりを消す、という方法でしか魔法の無効化が出来ない現代においては、ネタが割れたところで問題無い。


俺みたいな魔力殺し持ちが出てきたら話は違うが。


「古代魔法といえばもはや使う人は居ない失われた魔法。扱いにくさ故に廃れたとは聞きますが、良くも習得できましたね」

「魔法ギルドで古代魔法の使い手になってくれる人材を募集している人が居まして。彼は精霊魔法使いだった為に古代魔法を直接使い、その効力を観測する事が出来なかったので、当時まだ精霊とも妖精とも契約していなかった俺が名乗りを上げたんです。おかげさまで、英雄扱いまでされて。支払ってもらった報酬を全額返してもお釣りが来ますね」

「お前はそれだけの事をしたんだよ。アタシなんて、特に助けられたしさ」


それはジンではなくノガミにだと思うが……まぁ、同一人物だしな。


同一人物だってのに、光の英雄ジンと闇の英雄ノガミが獣王国の二大英雄だって、世間一般の連中は騒ぎたてている。

俺一人で光と闇担当しちゃったよ。


この後も、ガルムの密着攻撃が若干弱まったのもあって父母達との会話は続いていたが、三十分程が経過した所で父が手を叩いた。


「……さて。そろそろ二人きりの時間を過ごしたい頃合いだろう。昨日の今日だ。まだ本当の意味で二人っきりで、ゆったりとした時間を過ごせてはいないはず。使用人たちにも、部屋には近づかないようにと伝えておくから……うむ。是非くつろいでくれ。風呂は沸かしておくぞ」


………俺、真昼間から父親に「その女を抱け!準備は整えてやる!」って言われてるんだよな。

中身が転生者で、この人が本当の父親だって実感がやや薄めだから多少大丈夫だけど、仮に純度100パーセントこの人の息子だとして同じ状況になったら、どんだけ気まずいんだろうか。


優しい目を向けて来る母親たちに背を向け、俺はガルムの手を引いて自室に向かった。出来る限り、バレない程度の駆け足で。


※―――


「なんつーか、面白い人達だったな。お前の親達」

「全員悪い人じゃないんだが……なんか悪いな。色々急かすような事言われて、あまり良い気には」

「なったよバカ。寧ろ感謝してるよ。―――親公認なんて、最高じゃん」

「お前の両親は良いのかよ」

「アタシの方は大丈夫。式典の前に家族全員に話し通しておいたから」

「用意周到だな……」


いつの間にか巨大な物に変えられていたベッドの上で、大半の部分を無駄にしつつ、くっつき合う。

ガルムから告白された事、それも中々の衝撃だったが、今(どころか告白が終わってからほぼずっと)くっつかれている状況がどうにも現実の物に感じられなくて、俺は古典的ながらもつい頬をつねった。

当然痛い。夢では無かった。


俺の姿を見て、ガルムは愉快そうに笑った。


「はははっ、まだ戸惑ってんのかよ」

「そりゃ、なぁ。そもそも告白なんてされると思ってなかったし。―――セナのお願いの件と言い、余り好かれるような事を率先してやって来たつもりは無かったからな」

「お前今までのアタシへの接し方思い出してみろよ。確かに意見の食い違いで喧嘩する事はあったけど、お前に何度救われたと思ってんだ。命だけじゃなくって、精神的にもさ」


そんなだからアイツも苦戦するんだろーけど、と付け足しつつ、彼女は足を絡めて来る。

大きく露出した足からは直に体温が感じられるが、恐らく平常時よりもかなり熱い。体が火照っている、というヤツだろうか。心なしかフェロモンもさらに濃くなっているような気がする。


「ま、詳しいのは全部あの時言っちまったし、こっぱずかしいからしばらく言わねーけど。でもアタシがお前を好きなのは、正真正銘、ほんとの事だから」

「………まぁ、信じてはいるけどさ。でも流石にバカップル感が強すぎないか?あそこまで露骨に求愛されても……いやすっげぇ嬉しいけど。人前だと流石にどうなんだって思いがだな」

「うぐ……だ、だってアレくらいしないとお前、アタシの想いの強さ、わかってくれねぇじゃん」

「あんな露骨じゃ無くても気づくわ!」


ジトーっとした目が俺を見つめて来る。

おい、なんだその目は。俺がおかしな事を言ったとでもいうのか。


なんだか腹が立ったので、反撃にと彼女の耳を無遠慮に触る。

獣人にとって動物的パーツはとても重要な場所。本当に心を許した相手にしか触らせないし、触ってはいけない。


……なんというか、用心深すぎるとは思うが、これが最後の確認のような物だ。

あれだけ言われてもこれだけ示されてもどうしても疑ってしまう自分に止めを刺すための、最終手段。


これで露骨な拒絶反応が出ようものなら、恐らく今彼女が感じているのは一時的な感情の盛り上がり。心の奥底ではさほど俺への想いは強く無い事の証明となる。


触れた瞬間、彼女の肩がビクッと跳ねた。当然だ。例えるなら、突然胸を思いっきり揉みしだかれたような物である。

例えある程度好きな相手でも拒絶したっておかしくは無い行動。


だが、それに対する彼女の反応は、わかりやすくシンプルだった。


「……ん、ふ」


突然の事で、確かに驚いたのだろう。だが触られただけだと理解した彼女は、あろうことか心地よさそうに瞼を閉じ、より体を密着させ、耳を触りやすいように頭を俺の胸板へうずめた。


ここまで受け入れられてなお、その気持ちは一時の激情だとか、嘘偽りだとか、そんな無粋な事を言える程俺はバカではない。


―――わかっていた事だが、ガルムは本当に、本気で俺が好きなんだ。


「?」


動きの固まった俺を、上目遣いで見つめて来る。

男勝りな普段の姿からは想像できないその表情からは「やめんのか?」と寂しそうにしているのがありありと伝わって来た。


「あんまりこういう事、しちゃいけねぇんだろうけどさ。―――最後にもう一回だけ、試しておきたくって」

「……ま。お前は疑り深いっつーか、妙なところで慎重派だからなー。良いぜ、気のすむまで触ってくれ。ってか触れ。うん。アタシも収まりが悪い」

「正直、触ってみたくはあったしな」


すり、すり。くにくに。


ガルムの耳を優しく手で弄ぶ。温かく、柔らかい。前世で飼っていた犬を思い出す。

彼女は決して不快がる事は無く、寧ろ嬉しそうに鼻息を荒くし、時折嬌声のような声すら発し、身をゆだねてきた。


どれだけの時間、そうしていただろうか。


突然俺から離れ、ガルムは無言のまま体を起こす。

別に痛い思いはさせていないはずだが、何か逆鱗にでも触れただろうか?と一瞬考えたが、そんな俺に覆いかぶさるように彼女はベッドに手を付いた。


少し顔を伸ばせば唇が触れる。そんな距離で、俺が組み敷かれるようにして、見つめ合う。


「……もう、良いだろ……?」


何が、なんて今更言わない。


なんせ、俺も思っていた事だ。


敢えて言葉を発することも無く、頷く。そして彼女がさらに顔を近づけようとしたところで、彼女の肩を掴んで横へ押し、体勢を逆転させる。


「悪いな。俺はリードされるよりする側の方が良いんだ。―――未経験だけど」

「小声で言っても聞こえてるっつーの。まぁ?小っ恥ずかしいけど、アタシは御姫様に憧れてたっつーか……こういう時くらいは、扱われる側が、良いっつーか、だし……わ、笑うなよ!?」

「笑わねぇよ。寧ろ大喜びだ。俺は普段男勝りな女の乙女な部分にドキッとするタイプなんだ」

「………ぷっ。なんだよ」


笑って、ガルムは俺を見上げる。

目を真っ直ぐに見つめ、潤ませながら、恐らくは事に及ぶ前の最後の言葉を発する。


「アタシら二人、なんでも相性抜群じゃん」

第三章突入。気持ち的には二章までがプロローグで、ここからが本編ですね。


なお今更ですがここからハーレム要素が露骨になっていきますので、苦手な方はご注意ください。

勘違いやギャグ要素もマシマシで行けたらなー、と思っていますが、結構行き当たりばったりなので明言は避けておきます。


後、これからは忘れない限り、後書きの最後に「感想評価ブックマーク、よろしくお願いします!」を付ける事にします。

他の方の作品を見るとつけているのがそこそこ多かったですし、真似したら僕の作品も伸びるかなと思ったので。

長くなりましたが、次回もお楽しみに!


感想評価ブックマーク、よろしくお願いします!

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