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後始末

ルシファーの死体探し、なんて無駄な事に興じてみるのも悪くはないと思いつつも、まずはリュカオンを何とかする方が先である。


『狂乱』STAGE5。今まで戦闘で使った事の無い領域まで解放しただけあって、いつも以上に動けたし、いつも以上にが気分が高揚していた。

途中途中で解除して何とか平静を保とうとはしていたが、余韻が凄くて結局常時発動しっぱなしレベルのテンションだったなー、というのが率直な感想だ。


普段使いは無理だな。多分次に使うのは、仮にルシファーが逃げおおせて居て且つ反撃して来たら、の時くらいだな。後は他の魔王とか、難しそうな依頼を受けた時とか。


以外と遠くまで移動していたが為に戻るまでちょっと時間がかかった物の、ガルムとリュカオンのすぐ近くに到着。

俺が居なくなったことでガルムの近くにまで来ていた野次馬達が、俺の姿を見るや否や離れていく。


お望み通り発狂してやろうか?


「終わったぞ、っと」

「っ、ノガミ。けど、リュカがまだ苦しそうで……このままじゃ、アイツの言ってた通り本当に―――」

「あぁ、種だけっか」


苦しそうに胸を抑えているリュカオンの傍を離れないまま、ガルムは焦った様子でこちらに縋りつくような目を向けて来る。

一国の王女が大勢の前で狂人相手に頼るような真似をして良いのか、という思いが一瞬浮かぶが、その疑問は野次馬達のざわめきですぐに答えが出たので放置。

後の事はガルム本人が何とかするだろ。


……さて。問題のリュカオンだが―――正直、なんら焦る必要はない。

これで種が魔法関連の物じゃ無かったらまた違ってきただろうが、ちょっと研ぎ澄ませば魔力がリュカオンの体内で蠢いているのが容易に感じ取れる。

つまり、種は魔法ないし魔力に関係する物という事。


「それくらいなら―――こォすりゃ簡単にッ!終わりだァあああああッはははァ!!」

「なっ!?」


再び『狂乱』を発動しつつ、苦しむリュカオンへ思いっきり拳を振り下ろす。テンションも一気に上昇し、つい笑いが零れた。


俺の拳を止めようとガルムが手を伸ばしてくるが、遅い。何より必要ない。

俺が拳を振り下ろしたのは『狂乱』の力の一つ、魔力殺しの効果をリュカオンの体内に効かせる為。だから元々、当てるつもりは無いのだ。


「ほら、これで元通りのはずだぞ」

「へっ?―――え、いや、ただ拳を寸止めしただけじゃ」

「ん、んんぅ……」

「っ、リュカ!?」


リュカオンが瞼を擦りながら起き上がると、ガルムは言葉を途中で切って彼女の肩を掴み、顔を覗き込んだ。

お手本のようなリアクションをありがとう。リュカオンも起きるタイミングバッチリだったぞ。姉妹で芸人目指せるレベルだ。それは流石に芸能界を舐めすぎか。


起き上がったリュカオンは、不思議そうに自分の体を見回して、キョトンとした顔をガルムへと向けた。


「だ、大丈夫か、リュカ!?まだ痛いか?精神に異常とか―――」

「ううん、大丈夫。でも、びっくりしちゃって。いきなり痛みが全部消えて、それどころか寧ろ前よりも元気というか」

「推測だが、魔力殺しで種を消す時、種が侵食した精神の一部も一緒に消えたんだろ。良い部分も悪い部分も無差別だが、その様子を見るに悪い部分だけが消えてくれたっぽいな」

「ま、魔力殺し?」

「俺の能力だよ。名前の通り魔力とか魔法とかを問答無用で消滅させる……オーラ?的な」


俺の言葉に、二人は再び顔を見合わせ、そして同時に溜息をついた。

仲良いなオイ。良い事だけどさ?俺への呆れで絆発揮した事を除けば。


因みに野次馬達は俺がいつまで経っても二人を殺さない事が不思議らしく、小声で色々好き勝手言ってくれやがっている。

俺、別に依頼以外での殺しはそうそうしてないからね?


「ともかく、これで一件落着という事で―――んんっ。リュカオン様からの御依頼、王女ガルムを獣王国へ帰さないは既に達成済み。その後に受けたガルム様からの御依頼、獣王国への帰還の手助け及び王女代理リュカオンと会話する機会を設ける、は、ルシファー撃退を以って達成となります」

「……えぇ、そうね。もう、お姉ちゃんに居て欲しくないなんて思っていないもの」

「アタシも、リュカと和解できたし大満足だ」

「それは何より。―――では王女ガルム様、並びに王女代理リュカオン様。この度はご利用ありがとうございました。今後も政敵の暗殺、敵国の要人の暗殺、その他諸々の依頼があれば、いつでもお声がけくださいませ。此度の報酬は後程お支払いしていただきますので、私はこれで失礼させていただきます」


恭しく頭を下げ、丁寧な口調と上品な立ち振る舞いを意識する。

当然普段はやらないが、今回は依頼主を知っているどころか直接依頼された訳だし、何より人目が多い。

ここで俺が真っ当な暗殺者である事をアピールすることによってイメージアップを図るのだ!


さて、成果の方は?


「なんで『狂戦士』が頭を下げてるんだ?」

「きっと偽物なのよ」

「でも魔王ルシファーを倒してたぞ」

「しかも凄く強かったし……ノガミなのは間違いないわね」

「つっても、何が狙いなのか不気味ではあるな」

「やっぱノガミ怖ぇーわ。王女様達、良くあんなヤバいヤツを前に平然としていられるな」

「流石王女様達だな!」


いやガルム達の評価が高まっただけかいッ!俺不気味がられただけかいッ!


途端に虚しくなってきたのもあって、俺はすぐにその場を離れようと、『狂乱』STAGE1を発動して身体能力を強化し、そのまま跳躍しようと足に力を入れた。

が、飛び上がる動作を制するように、ガルムが俺を呼び止めた。


「待ってくれ、ノガミ。最後にもう少しだけ付き合って欲しい」

「……まだ、何か?」

「そんな大した事じゃ無いんだけどさ。―――皆!聞いてくれ!」


ガルムが声を張り上げると、ヒソヒソ話で盛り上がっていた野次馬達が一気に静かになる。

力でもぎ取った、歴史的権威の裏付けのない王位とは言え凄いな。カリスマ、というヤツだろうか。


「詳しい事は後でしっかり説明するけど、簡単に何が起きたのか、これからどうするのかだけ伝えさせてほしい!―――まず、さっきの魔王ルシファーも、ここに居るノガミも本物!人型四種と魔王軍の戦争は、近いうちにまた始まる!」


随分断言するな、とは思ったがルシファーが活動していた以上、アイツよりも短絡的な(と前に会ったイメージだとそんな感じ)魔王達は静観を決め込んでいるとは思えない。

戦争は起きるだろう。問題は俺が動員されるかどうかだが。


「けど、安心して欲しい!アタシもリュカも、見てもらった通りノガミに()()()()()()()!コイツは、アタシらの味方だ!」

「あ、オイ」

「頼む、今はそういう体で居てくれ。詳しくは後で話す」

「………続けてどうぞ」


助けたのは事実だが、俺はあくまで金で動く武器。100円入れたら動き出す動物を模した乗り物とほぼ同じである。

今回はガルムの依頼もあって二人の味方として立ち回ったが、他の奴から依頼をされて、尚且つ殺すに足る理由があると判断したら俺は容赦なくこの二人であっても殺す。いつまでも味方という訳ではないと、ちゃんと留意しておいてもらいたい物だが。


人々は『狂戦士』が味方という言葉が俄かには信じられないらしく戸惑っているが、どこか既に浮足立っている気配を感じられる。

少なくとも俺とガルムの今の小声のやり取りは気づかれなかったようだ。


「王都は壊れたけど、獣王国は無事だ!これからもな!この先もアタシが――――()()()()が、国の為に、皆の為に頑張るから!」


だから大丈夫だ、と、叫んだのは、お世辞にも王の言葉とは言えないものだった。

だが同時にそれは、彼女の心からの言葉だという事が良く伝わるものでもあった。


……まぁ、今くらいは野暮な事は言わないでおこう。

俺へ計三回も依頼をしたという事が、一体どれだけの金銭的重みを伴っているのか。国民たちも、ガルム達自身も盛り上がっている今、態々突きつけてやる必要はあるまい。


全員の意識がガルムへと向かっている隙に、俺は気配を消して、跳躍。

今更かもしれないが、これ以上目立つような事になって欲しくも無い。

ガルムに任せておけば、後は何とでもなるだろう。


―――帰ろう。まずはギルマスに報告しに行かないといけないしな。


※―――


王女ガルムとリュカオンの洗脳。魔王ルシファーと狂戦士ノガミの出現、戦闘。そして王都の崩壊。


あの一件から既に一週間が経過した訳だが、未だに人々の盛り上がりが収まる気配は無い。

そりゃ、仮にも『三大恐怖』の一角を担う、七人も存在する魔王達だ。その内の一人が獣王国の王女姉妹に干渉していたなんて、話題にならないはずが無い。


何食わぬ顔で学園に戻って来た俺だが、日陰者同盟のメンバー含め、獣王国で起きた事件と、魔王達とノガミの話題をしないヤツはいなかった。

というかここ最近それ以外の話をまるでしていない。


別に良いんだよ、獣王国とか、ルシファーの話をするのは。

でも俺の事を俺の前で話すの、マジで辞めてくれねぇかな!?本当は目立ちたくねぇんだわ!

しかも話題に出す時、毎回(ノガミ)の事を絶対的な恐怖みたいな扱いするし!別に怖がるのは良いけど過大評価が過ぎるだろ!?

一応、ガルム達に頭を下げたシーンの話とかも広まっているのだが、全くと言って良い程俺の狂人イメージは拭えていない。

どころか寧ろ、俺とルシファーの戦闘部分の方が大きく取り扱われ、笑いながら魔王を一方的に斬りつけ、殴り、蹴っていた事ばかりが広まっている。


また知る人ぞ知る密かな闇社会の住民から一歩……いや相当な歩数分離れてしまった。千里の道を踏破しきっているかもしれない。


「言われた通り、ある程度綺麗な服装にはしてみたけど……お前から見て大丈夫そうか?」

「おう。今のお前なら、あの仮面付けて『祝福』使わねー限り問題ない。貴族のパーティーに混じってダンスしてても怪しまれねぇぞ」

「変装のプロにそう言ってもらえると安心感が違うな。というか、あの一件と言い今日と言い、最近付き合ってもらってばっかで悪いな」

「へへっ、いいって事よぅ。俺は貴族は嫌いだがお前はす――――好き、だからな。あぁ、力だって貸してやるぜ。依頼の範疇に入らない頼みなら、タダで引き受けてやるさ」

「………異性に好きって言うのがなんか照れくさいってのはわかるが、今はオッサンの見た目なんだからどもらないで欲しいな」


元の世界で言ったら配慮が足りないとか怒られそうな発言だが、気分的になんか嫌なので言っておく。

その言葉にカルマ(髭面ハゲのオッサン姿)は若干頬を赤く染めながら「すまん」と小声で謝って来た。

そういうのをやめてくれって話なんだけどなー……。


さて、会話にあった通り、俺は今正装に身を包んでいる。貴族らしい、社交界に出る用の姿だ。

中身が完全一般人なので外見がどうしても気になり、第三者の意見を求めてカルマに質問してみたが、問題ないらしい。


ではなぜ俺がこんな格好をしているのか。それはガルムからの呼び出しがあったからに他ならない。


呼び出しの理由の前に、まずは俺が獣王国を去ってから何があったのかを、俺が知っている範囲で説明しよう。


ルシファーと俺との戦闘により獣王国が受けた被害は、王都の完全崩壊、周辺街の都市機能停止(俺達は王都の外にまで移動していたらしい)、王宮は倒壊寸前、戦いの余波を受けて重軽傷者合わせて20人弱。

………そして、俺の姿を見て心的外傷を負ったモノが30人強。


最後の30人ちょっとは正直認めたくない被害だが、よく考えれば俺の戦闘を見たリン達も酷い精神的ダメージを負っていたし、もしかしたら『狂乱』のSTAGEを上げ過ぎて、無意識のうちに『狂気汚染』のオーラをまき散らしていたのかもしれない。

今まで確認した事が無かったが、STAGEを上げての戦闘後に周囲の人間に被害が及んでいるので、今度確認してみる必要があるかもしれないな……っと、話が逸れた。


とにかく獣王国はかなりの被害を受けた。復興にはどれだけ頑張ろうと数十年はかかると見積もられ、必要資金も相当の物だと算出された。

当然の話ではあるが、ここへさらに上乗せされるのが俺への依頼料金。因みに合計で獣王国の国家予算175年分を徴収する事になった。第一次大戦後のドイツよりも酷い吹っ掛けられ方である。

俺もギルマスに少しくらいは安くしてやれないか(街を壊した手前申し訳なさがあった)と頼んでみたのだが、どう安くしても普段の依頼料金と照合すればこれが限界らしい。


実際、俺が貴族や国王、皇帝なんかの依頼を受ける時、随分な報酬が入って来る。

今までの最大報酬は『三大恐怖』を国の命令で相手した時だろう。あの時は国家予算4年分を徴収した。

4年分から175年分はインフレしすぎッ!……と思っただろうが、ここでリュカオンの依頼を受けてからの俺の動向を思い出して欲しい。

今までの俺なら依頼を受けてから(相手が例え『三大恐怖』であっても)即日で依頼を達成してきた。

しかし今回の拘束時間は一週間やそこらではない。しかもその間、一切の依頼をこなしていない(ギルド命令は除く)のだ。まずこの時点で、国で無ければ支払えないレベルの額になる。

その上俺が相手したのは王族(ガルム)三大恐怖(ルシファー)。例え一日で終えたとしても国家予算数年分は行く。

―――で、何より問題なのは俺が()()()()()という事。ギルマスはここが一番問題だと語る。


俺はガルムの依頼である『リュカオンと話がしたい』を遂行すべく、彼女への攻撃を一切禁じられた。万が一、億が一にも理性が持たない可能性を考慮して『狂乱』を使わずに彼女の攻撃を喰らった。

鍛えていたから普通に魔法を発動する余力があったが、実際かなりのダメージを負い、もし露骨に頭部などの急所を狙われていれば殺されていたかもしれない状況に陥った……つまりは、暗殺者ギルドの大看板『絶対に対象を殺す世界最強の兵器・ノガミ』が失われるリスクがあったという事。

なんならコレだけで国家予算100年分は徴収できるらしい。まぁ、確かにそうだ。暗殺者ギルドを支える柱として、俺の存在はあまりに大きすぎる。それを依頼内容のせいで失いかけたとあっては、気が遠くなるような額を吹っ掛けたくなる気持ちもわかる。


とはいえ国の復興と俺への支払いで、せっかく生き残った獣王国が国として崩壊していくのはあまりに夢見が悪い。


と言う事で、俺は名も無き貴族、ジン・ギザドアとして獣王国に再度干渉する事にした。

具体的には古代魔法の大盤振る舞いで、国を直してやったのだ。完璧元通りに。

そのせいで魔力枯渇で二日寝込んだが、結果として獣王国は復興に金を使う必要が無くなり、俺への支払いだけが残った訳だ。

ただやはり、凡百の田舎貴族ジン・ギザドアが突然現れて解決するのもおかしい。という事で、仕方なく俺は暗殺者ギルドの暗殺者である事(人殺し経験は無い物とした)、ノガミの指示によりガルムと個人的な関係を持つようになっていた事、相当の魔法の腕を持ち、それを知っていたガルムが復興の応援要請をした事、等々をでっち上げ、多少無理はあるながらも世論を納得させた。


―――そう。俺が今正装している理由、ガルムに獣王国へ呼ばれた理由、それは獣王国復興の最大の功労者として、公の場で俺へ大々的に感謝する為である。


この際目立つ事は諦めた。暗殺者としての名前が売れなければそれで良い。

……なによりあまりにここ最近の俺の動きが、普通の田舎貴族の範疇を大きく超えていた。ある程度の言い訳が聞くなら、多少の注目も受け入れるという……一種の妥協だ。どうせこの先、魔王達との対立なんかがあればさらに無理のある行動が目立っただろうし。早め早めの、である。


なおガルムが公式に世界へ公表したのはルシファーによる洗脳と、ノガミ()ジン()の協力、そして戦争が始まる可能性が極めて高い事。現状はこの三つである。

この一週間、それ以外のニュースが紙面に書かれる事は無かった。


「んじゃ、そろそろ迎えの馬車に乗って来るとしますかね。―――にしてもお前、高貴な身分というか、こういう表彰されるようなヤツが大っ嫌いなイメージあるけど、大丈夫なのか?」

「さっきも言ったろ。お前は別さ。なんてったって、あの発狂具合だぜ?身分も名誉も、全部台無しになってるさ」

「すげぇ全く褒められてる気がしねぇ。―――ま、それでお前が仲良くしてくれてんならそれで良いか。俺も、お前だけはこのギルドの中でも一際特別だしな」

「ッ、そ、ソレって」

「なんてったって、最初に組んだヤツだもんなー。今まで性別すら教えてくれなかったのはちょっと文句あるけど。なんで俺より先にガルムに明かしたんだよ」

「………そういうとこだよ」

「どういうとこだっつの」

「おいジン、外に迎えが来てるぞ」

「はい。了解です、ギルマス」


ドアが開き、ギルマスが馬車の到着を知らせてくれる。カルマが何か言いたげな顔を、よりにもよってオッサンモードでしてくれているが、どうせ後で聞けば良いし一旦放置。


さーって。妥協した物の、嫌な事には変わりない、目立ちまくりの式典タイムだ。


※―――


「―――では改めて、この国の復興に最も力を貸してくれた英雄、ジン・ギザドアへ、再度感謝を」


長々と既に誰もが知っている俺の功績を読み上げる時間が終わり、観衆たちやお偉いさんたちが一斉に拍手をしてくる。

ここは大広場。獣王国において、大きな行事が行われる時の中心地である。

今は貴族も一般市民も揃って集まっており、全員の視線を一身に集めながら、狐の獣人、ケイリーさんは手元の紙を仕舞った。

そのまま目を俺とガルムへ向けて合図し、自分は下がっていく。


式典も佳境だ。人の目はどうも慣れないが、別に後ろめたい事は………無い、とは言い切れないが堂々としていれば大丈夫。問題ない。


ガルムが前に立ち、俺は一歩後ろで綺麗な直立不動を見せる。

仮にも一国の王と辺境貴族。立場をわきまえた立ち方をするのがマナーだ。


「何度も聞かされた事だろうが再度言おう!獣王国はジン・ギザドア、この人に大いに救われた!ソレだけでは無く、件の魔王ルシファーの引き起こした一連の事件の際、このアタ―――私に大いに協力してくれた、文字通り救国の英雄!私、並びに獣王国はこれに惜しみない感謝と称賛を送る物とし、今後彼に対し獣王国内での一部特権を認める物とする!」


わーっ、と市民が沸く。貴族達も形の上では拍手しているが、その目はどことなく不満げだった。

……まぁ、立場に差のある市民たちはともかく、同じ貴族が(それも他国の)がこうも持て囃され、特権さえ許されては不満も湧いて出るものだ。冷たい視線は甘んじて受け入れよう。


ってか特権とか貰って良いのか?打ち合わせの時は無かったけど……まぁ、カンペにそう書いてるなら、お偉いさんの総意って事になるんだろう。ガルムの一人称がちょっと丁寧なのがその証拠だ。


「――――そしてッ!!」


数秒間が空き、ガルムが一際大きく声を張り上げる。

拍手喝采の音が一気に消え、人々は次の言葉を待つ。


……おかしいな。打ち合わせの時は、俺への感謝の言葉の後、ガルムの合図で俺が一歩前へ出て、硬く握手をして終わりって話のはずだったけど。


尻尾をせわしなく揺らし、耳をピクピクと動かす彼女は、どうも緊張しているように見える。

確かに普段よりも露出の少ないドレス姿で落ち着かないとは言っていたが、さっきまでは耳も尻尾もあまり動いていなかったはず。

なんだろう、またしても打ち合わせに無い何かが来るんだろうが、今度は少し嫌な予感がする。


「………あ、()()()は、コイツに、何度も命を救われた。道中喧嘩だってしたし、それでもコイツはアタシの傍に居てくれた。すっげぇ感謝してる。コイツが居なかったら、アタシ、今頃死んでた。―――それに、コイツは気の良いヤツでさ。国に帰れなくって、リュカと喧嘩っつーか、そういうので心細さとか感じて、時々顔に出ちまった時とか、決まって気分転換に遊びに連れ出してくれたり、面白ぇ話してくれたり……本気で、命だって懸けて、アタシを守ってくれて」


口調が普段通りの砕けた物へと変わっている。

つまりは彼女の本心からの言葉という事だが、結局俺を賛美する物である事に変わりはない。

……自分の言葉を改めて大勢の前で言うのは恥ずかしいってヤツかな?カンペ読むだけならまだしも。


――――と、考えていた俺だが。

その考えの甘さは、すぐにわかる事となる。


「強くって、頼りになって、良いヤツで、良いヤツ、過ぎて………っ!ジン!」

「お、おう」

「――――好きだッ!!!」

「………はっ?」


顔を真っ赤にし、俺の顔を見ながら、今にも泣き出しそうな顔で、彼女は叫んだ。

頭の中が真っ白になった俺が呆然とするのも気にせず、いや気にする余裕も無いのか、さらに言葉を続ける。


「大好きだ、心の底から、どうしようもなく愛してるっ、お前じゃ無きゃ絶対やだ!だから……だからっ、アタシと、結婚してくれ(つがいになってくれ)!!!」


あまりに突然の告白に、俺はやはり何も言えない。

こんな大勢の前で、しかも前触れも……いや、前触れはあったが、それにしても唐突に、告白されるなんて。

しかも交際とかではなく、既に結婚前提である。


ガルムは勢いに任せ、俺に抱き着いた。そして真っ赤な顔を近づけ、頬と頬を擦り合わせてきた。


……因みにだが。獣人は動物同様に意思や感情を動作で表現する事がある。それは得てしてかなり強い思いを示すのだが、中でも有名なのはとても好ましく思っている異性に求愛する際に、頬同士を擦り合わせるという物。


言葉だけなら、まだ国の為に俺と関係を持っておこうとしている物とも考えられた(とはいえ「つがい」という言葉も獣人にとってはかなり重い物なのだが)。

だが、こういう具体的な動作までされて、偽りの告白であると疑う真似はできない。


どうやら俺は、本気で彼女から求愛されているらしい。

辺境貴族が、一国の王女から。


「あっ、えっ……へっ?」


やべぇ、頭が回らねぇ。でもいつまでも黙ってるわけにもいかねぇよなコレ。

つっても簡単に「はい喜んで」って言って大丈夫なのか?大丈夫じゃ無かったら………いやこの際後はもうどうでも良い!ガルムと俺の間の身分差その他諸々を差っ引いてコイツについて考えろ!


問1:純粋にガルムを一人の女性とした場合、ジン・ギザドアに断る理由はあるかないか。

解答:無い。


問2:ではガルムの本気の求愛を受けて、どう思ったか。

解答:死ぬほど嬉しい。


以上の事から導き出される、俺の心からの返事は――――。





「―――お、俺もお前の事が好――んぶぅっ!?」


返事、は。


感極まったらしいガルムの熱烈なキスで、激しく遮られた。

荒々しく、舌を絡め取られて。



第二章、これにて完結です。

王女ガルムの章タイトルに違わぬ、彼女が主役な終わり方でしたね。


本当はもっとリュカオン周りの話とか説明が足りなく感じている部分とかはありますが、収まりが悪いのとそこまで無理して書かずとも後々説明する形にすれば良い、どうしても書かないといけないわけでは無いという事でこれにて終了とします。

修正は後からでもできますしね。


それにしてもこの作品を読んでくださる方、評価してくださる方、ブックマークしてくださる方、いいねしてくださる方、感想をくださる方と、いつも感謝が尽きません。

これからも取り敢えず書きたいように書き続けていきますので、今後とも是非、応援よろしくお願いします。

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