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暗殺者ですが、狂戦士扱いされて困ってます  作者: 砂糖 多朗
第一章 狂乱の暗殺者、ノガミ
3/50

日陰者同盟

あらすじの主人公の名前が書き溜めしている違う作品の主人公の名前と混同していました。お恥ずかしい限りです。

「災難でしたなぁ、ジン殿。まさかあのローラン殿と、あんな大勢の前で戦う事になるとは」

「いやー、勝手にお前の名前使って悪かったな。なはは」

「ふ、ふひひ……ま、まさか本気で信じるとは全く思ってもいなくて……」

「お前らそこに並べ。全員ぶん殴ってやる」


大勢の前でローランにボコボコにされたあの一件の翌日、何故俺が見たこともない女に恨まれていたのかの説明を俺の友人にして今回の諸悪の根源である三人から受け、結構本気でキレていた。


なんでも、彼らがエリザ・カミュ・レストレア(ローランの婚約者)の悪口を言っていたのを本人に聞かれ、咄嗟にその場に居なかった俺の名前を出し、全ての責任を押し付けたのだとか。

俺は全く知らなかったが、エリザはいわゆる悪役令嬢みたいな女らしく、その横暴な振る舞いを目撃したのが発端だったらしい。

実際彼女は嫌われ者らしく、婚約者のローランを恐れて誰もが表立って悪口を言うことは無いが、今回の一件で溜まっていたフラストレーションが発散された人も居たとか居なかったとか。


「……で?結局何しててなんて言ったんだよ?」

「とっ、取り巻きの女を人目も憚らず貶し、笑い者にしていたので。貴族にしては品性に欠ける。これでは令嬢というよりも家畜だな……と」

「エルメス殿の言葉は鋭い上、内緒話が苦手なのはジン殿もご存知でしょう?」

「んで、顔真っ赤にしてコイツに詰め寄ってたから、俺が咄嗟に『って、ジンって奴が言ってました!』って助けたんだ」

「お前何してくれてんだ!!」


エリザがやっていた事は確かに見ていて気分の良い物ではなかっただろうし、それに悪口が出てしまうのもまぁ、分からなくは無い。

ただし俺の名前を咄嗟に出した?それは違うだろう。


「い、いやぁ、悪かったとは思ってるぜ?俺ら日陰者同盟の中でも一際目立ちたがらないお前に、あんな大舞台用意しちまって」

「最悪だよ!ってか運が悪かったら死んでたんだけど!?」

「生きているのだから良いでは」

「ねぇよ!!せめて事前説明しとけよ!」


昨日は本当に突然呼び出されて、気づいたら闘技場だった。せめて少しでも準備していたら、俺の危険ももう少し抑えられただろう。

サプライズってか。やかましいわ。


「し、しかしジンがあそこまで強いとは思わなんだ。て、てっきり我らの中でも最弱かと……ひひ」

「いや、強くは無かっただろ。俺がやったのなんて、避けて足引っかけて息切らしてただけだぜ?あんな大勢の前で体力の無さが露呈して、寧ろ恥ずかしいくらいだろ」

「確かにジン殿の体力不足は素人目にもわかったが……それ以上にあの技術。歴戦の兵士かと錯覚させられましたぞ」

「俺ら日陰者同盟もこれで安泰だなー。またなんかあったら頼むわ!」

「ふざけんな!」


俺は目立ちたいわけではない。凡庸で争いごとの無い貴族生活を送りつつ、裏社会では通り名が密かに噂になる程度が理想だ。

だというのに『狂乱の祝福』でも今回の一件でも、どちらの世界でも俺はそこそこの(ノガミとしての名前はそこそこなんてモノではないが)知名度を有するようになってしまった。どんどんと俺の願いから離れていくような感じがする。

最後の砦として、ノガミ=俺という情報を知っているのがギルマスとカルマ以外に居ないことがあげられるが、それもいつまで持つか。仮に誰かから依頼されれば、カルマは直ぐにでも教えるだろうし。


入学当初からの友人であり、会話中で何度か名前が出てきた『日陰者同盟』のメンバーとして仲間意識も高かった彼らだが、この一件で一気に嫌な奴らに見えてきた。前世同様、学生生活は完全一人で過ごす方が良いのだろうか。

灰色の青春をもう一度。うーん、それはそれで嫌だな。


因みに『日陰者同盟』は俺達四人のお遊びグループである。特に目的も活動実績も無い雑談グループであり、縛りもルールも何もない。

日陰者の名前の通り誰もがメンバー以外と話す機会は滅多にないが、それは俺達のコミュニケーション能力の低さや個性の強さが原因であって、互いに「俺達は俺達とだけ仲良くしような」なんて示し合わせた訳ではない。何なら俺以外は一定の自己顕示欲を持ち合わせており、ローランのようなイケイケ男子が所属するようなコミュニティと接点を持ちたいと考えつつ、女子生徒ともお近づきになりたいと常々考えているようなヤツばかりだ。

俺含めて、可哀そうな、灰色の連中である。

あれ、じゃあここに所属するのも一人で居るのも同じ……?


「ねぇ!」


突然背後から肩を叩かれる。女子の声で呼ばれたようだ。日陰者同盟なんかに所属して、外部との関係をほぼ一切絶っていたような、俺が。

見れば俺の向かいに座っていた三人が、信じられない物を見るような目をしている。

慌てて振り返ると、そこには一人の女子生徒が明るい笑顔をこちらに向けて立っていた。


「えーっと、俺?」

「うんっ。ジン君、だよね?ちょっとお話があって……良いかな?」


頬をやや赤く染め、モジモジとしながら問いかけて来る。誰がどう見ても告白する気満々と言った姿に、日陰者同盟の仲間たちは口を大きく開けて震え始めた。


「……悪い。ちょっと行ってくるわ」

「っ、ま、待ちなされジン殿!それは罠だ!貴殿にそのような春が訪れるはずがない!」

「そ、そそ、そう!いくらジンが先日活躍したとは言え、その程度でそんな可愛い子から声をかけられる事があり得るとでも!?」

「う、裏切り!裏切り者だコイツ!」


中々失礼な連中だが、多分俺が同じ立場なら同じような事を言うと想像できたので敢えて何も言わず、席を立つ。

少女は喧しく騒ぎ続ける三人と俺を交互に見た後、困惑気味に俺についてきた。


彼女とは道中一切の会話をせず、人気のない建物の隙間まで連れ込み、念入りに周囲の人気を確認した上で口を開いた。


「で?依頼の内容は?」

「……んだよ、わかってたのか」

「学園に侵入して、尚且つ俺に直接会って話が出来る人物なんざお前しかいないだろ。カルマ」


ポニーテールの活発そうな美少女は、先程まで作っていたあどけなさのある表情から一転、底意地の悪そうな顔になり、ポケットから葉巻を取り出して吸い始めた。

一応ここ、全面禁煙なんだけど。先生ですら吸っちゃダメな場所なんだけど。


「ははっ、でも良いのか?お友達に勘違いされてたみたいだが」

「じゃあ責任取って俺の彼女役やれよ。俺が卒業するまで学園生活な」

「良いけど、俺は高いぜ?」


紫煙を吐き出して笑うカルマ。彼とも彼女ともわからないソイツは、懐から一枚の紙を取り出し、俺に渡してくる。

薄汚れた紙だ。材質から、犯罪者の手配書だという事がわかる。実際中身を見ると、とある盗賊団の名前と生死不問の文字が記載されていた。


「こういうのって、傭兵ギルドとか騎士団とかの仕事じゃねぇの?」

「それが、依頼主はソイツらの首以外にもう一つ、必要なモノがあるらしくってな。そいつらの盗品も一緒に殺せとのご依頼だ」

「盗品を殺せ?それまた不思議な事を」


リッツァ盗賊団。手配書に書かれていた盗賊団だ。連中の活動範囲はアステリア王国から隣国のバルガドル帝国に及び、主に略奪品の売買で活動資金を稼いでいると言われている。盗賊団専門の商人は山ほど居るし、金貨銀貨そのものよりもよっぽど稼ぎになる品を奪う事も多々あるだろうし、中々合理的な連中だ。

そいつらの売る品の中には、生き物も―――奴隷も、確かに居る。前に依頼で潰す事になった人間屋(ヒューマンショップ)の店主が、リッツァ盗賊団の名前を出して俺を脅してきた事があったし、少なくとも繋がりはある。


ただ、奴隷を生きて解放するではなく、殺せ?依頼主にとって不都合な人間が捕らえられているとでも言うのか……依頼人の詮索をしないのも俺の美学だし、これ以上は考えないが。


「あー、すまん間違った。厳密には何も殺すだけじゃなくって、盗品を元の場所に戻らないようにするだけで良いんだと。何ならお前の所有物にして良いってさ」

「……まさかとは思うが、報酬はソレだけ、なんて言わないだろうな?」

「まっさか。つーかあのギルマスがお前にそんな程度の金で仕事させる訳ねぇだろ。前金から結構な額が入ってるらしいぜ」

「なら良い」


金に困っているなんて事は全然ないが、こういう仕事は一回の料金が自分の価値に直結する。要らないと思っていても、受け取る事が大事なのだ。

その分密かにバカみたいな使い方をしているが、今の所誰にもバレていない。


「で、その盗品ってのは何なんだ?ペットなら喜んで飼いたいが」

「さぁな。俺は詳しく知らないが……ギルマスから聞いた話だと、依頼主はソイツを『彼女』と呼びかけたらしい」

「なんだ、人か。犬とか猫なら可愛がろうと思ったんだけどな」

「お前寮暮らしだろ。大丈夫なのか?」

「金で何とか押し通せない事は無い……と、思うけど」


前世で飼ってたから知識はあるし。

まぁ、異世界に柴犬もチワワも居ないんだけどな。

因みに俺は犬派である。なぜならそれ以外はアレルギーが酷かったから。


「ま、依頼は伝えたぜ。因みにリッツァ盗賊団の情報が欲しけりゃお前の前金の二割で調べてきてやっても良いが?」

「一割五分」

「七分が限度だ」

「ならそれで頼むわ」

「へへっ、どうも。んじゃ早速調べて来るわ。明後日には簡単にまとめて来るよ」


そう言って、カルマは壁を駆け上って去って行った。残された俺は、あまり好みではない葉巻の匂いに少しだけ眉を顰めてから、服に匂いが移っていないか確認し、三人の居る場所へと戻る。

別に葉巻やたばこを吸う事は悪いとは思わないし、俺の憧れる暗殺者は一仕事終えると必ず一本タバコを吸っていたが、自分では吸おうと思わなかったのだ。その分酒は浴びるように飲んだが。


「あっ、裏切者が帰って来た」

「裏切ってねぇし、なんも無かったよ」

「う、嘘に決まってる!き、きっとこの時間に既に子種を仕込んで―――」

「十分も経ってねぇだろうがバカ!!」

「しかしジン殿。これは我ら日陰者同盟に対する立派な利敵行為であって」

「んじゃお前ら俺の名前を勝手に出して面倒ごとに巻き込んでくれたのは利敵行為じゃねぇのかよ」


全員が一斉に顔を背け、そして数秒間の硬直の後に、何もなかったかのようにこちらに向き直る。


「我らの友情は不滅ですな」

「ふ、ふひひ、やっぱ、日陰者同盟、さいこー」

「裏切りとかありえねぇわ。互いを認めあって、許し合う。これに尽きるな!」

「やっぱ最高だわお前ら」


見事なまでの手のひら返しに、俺は賞賛の拍手を送った。

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狂喜乱舞します。

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