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姉妹喧嘩

※祝福先行公開※


『極地の祝福』

勇者に与えられる祝福の一つ。魔物からも竜からも神からも得る事が出来ない祝福。

自身が少しでも身に着けた技術、知識が最大の極地へたどり着く力。魔法は概要を聞くだけでその全てを習得でき、剣技は見るだけでその技だけを何年も鍛え上げ続けたかのような実力を発揮できる。


その代わり自身が情報を得ない限りは『無の極地』状態となり何もできなくなる上、ちゃんと『技』や『技術』の類でなければ効果を発揮しない為、例えば素振りが達人級になるとか、そういう事は無い。

神聖不可侵。歴史上何人にも傷つけられたことの無い、獣王国の王宮。

そんな場所が今、他ならぬこの国の王女と、その血縁者によって破壊されていた。


「『嵐牙(らんが)』ッ!!」


ガルムが剣を振り抜けば、まさに嵐と言うべき斬撃がリュカオンへ飛来する。


獣人剣術―――獣人のみ扱える剣術の遠距離技、『嵐牙』は、ガルムが得意とする技の一つ。

当然、妹のリュカオンが知らないはずも無く。


柄を手の中で回転させ、受ける面を増やし、真正面から斬撃を受け止める。

圧倒的なパワーを持つ彼女にとって『嵐牙』は斬られる心配が無ければただの風に過ぎなかった。


「うぉりゃぁああああっ!!」


お返しとばかりに接近し、そのまま大剣をガルムへ振り下ろす。一瞬隙だらけに見えるその構えは、しかし振り下ろす速度によって攻め入る隙の無い物と化していた。


しかし、ガルムは獣人の王。つまり、接近戦最強の女。

並大抵ならば防御か回避しか選択肢が無い状況でありながら、敢えて一歩踏み出し、刃の腹をリュカオンの胴へ叩きつけた。


大剣ごと吹き飛ばされた彼女は、壁に衝突し咳き込む。

今度は完全な隙だ。そしてソレを見逃すような優しさも弱さも、ガルムは持ち合わせていない。

壁に打ち付けるように、彼女の右肩に鋭い飛び蹴りを放った。


「づぅっ!?」

「終わりだよ。今の感触、骨が折れたはずだ。それも利き手のな。もう良いだろ?アタシと話を……」

「っ、ふざけるな!私はまだ負けて無い!」


無理矢理壁から肩を引き抜き、真横に跳躍して距離を取る。反射的に滲み出た涙を乱暴に拭い、まだ無事な左手で大剣を持つと、躊躇なく投擲した。


中々の速度。とは言え片手で荒々しく投げたソレは、呆気なく防がれる。


だが、リュカオンにとってはソレで良かった。


彼女は大剣に意識を裂いた隙にガルムへ接近し、()()()()硬く握りしめ、振り抜いた。

ガルムは容易にソレを防ぐも、何故か完璧に砕いたはずの右が生きている事に目を丸くし、わざと後方に跳躍して距離を取った。


そしてそこでようやく気付く。

何故リュカオンがこれほどの力を振るえているのか。なぜ砕いた右肩が既に治っているのか。


全ての答えは、彼女を鋭く睨みつける右目の輝きにあった。


「お前、『祝福』なんて手に入れてたのか」

()()()()()?冗談。確かにこれは『祝福』だけど、お姉ちゃんが王女になる前から持ってた力よ!!」


二人の拳が、足が、何度も交差する。共に武器を捨て、己の肉体のみでぶつかり合う事を選んだのだ。


真正面からの戦闘となればやはりガルムが優勢……かに思われたが、リュカオンも相当の実力者で、両者の実力は拮抗しているのが現実だった。


「『憎悪の祝福』!私の抱く憎悪がそのまま力となるこの『祝福』!四年前に手に入れてからずっと、こうして貴方に振るう機会を待ち望んでいたのよ!!」


鋭いボディーブローがガルムを襲う。一瞬体が揺らいだガルムだが、お返しとばかりにリュカオンの側頭部へ蹴りを叩き込み、距離を取った。


『祝福』を持つ相手との戦いに弱いと自称する彼女だが、それはあくまで遠距離から攻撃してくる相手には攻めあぐねてしまうというだけの話。

『憎悪の祝福』の全容を知ったわけでは無いにしても、近距離攻撃主体の相手に、そう易々と負けるつもりは毛頭なかった。


「『憎悪』ね……火に油ってヤツだろうけど、なんでアタシをそこまで憎んでるんだ?まるで王女になる前からアタシを憎んでたって口ぶりだが」

「……覚えているかしら?四年前の事。崖から落ちた私を、()()()()()()()()()事」

「―――えっ」


目を見開いたガルムから、ほんの微かに声が漏れる。リュカオンの言葉が、彼女に大きな衝撃を与えた証左だ。


黙り込む彼女を無視して、リュカオンは離れた所に立つジンと、戦闘中に彼が密かに回収していたカルマへ視線を向ける。

せっかくだから教えてあげる、と、彼女は四年前の話を語りだした。


「私とお姉ちゃんはね、今を見る分にはわからないでしょうけど、昔は仲良しだったのよ。だからあの日も、一緒に向かった。―――あの、ファザム山に」


廊下の壁を叩き壊し、外が見えるようになる。彼女が指さした先には、微かに巨大な山が見えた。


ファザム山。獣王国の端にある山であり、この大陸で高い山。

『試練』を与える魔物が多数生息している。竜の住処がいくつかある。神が一柱そこにいる。

事実から噂話まで沢山あるが、そのどれもが山の危険性を訴える物ばかり。その分山で採れる物は有益な物、高価で取引される物が多く、腕に自信のある冒険者が挑むような場所として有名だ。


「お姉ちゃんは、天才だった。その肉体も、戦いの技術も、何もかもが同世代―――いえ、何なら大人ですら敵わないレベルだった。そんなお姉ちゃんを私は尊敬していたし、お姉ちゃんと一緒なら何でもできるって思ってた。だからあの日、お姉ちゃんが腕試しにファザム山に挑戦するって言いだした時も、迷わずついて行った。そして難なく、山の中腹までたどり着いた」

「四年前って事は、13歳で中腹までたどり着ける程の実力があったって事か。末恐ろしいな。比較的安全って言われてる麓ですら、ワイバーンが普通に飛んでるような危険地帯だろ」

「ええ。当時ですらお姉ちゃんは金級冒険者相当の実力を持っていた。危険な魔物から私を守りつつ、あの山を登れるくらいに強かった。―――だけど、そんなお姉ちゃんが敵わないような相手と遭遇した」


拳を固く握り、歯を食いしばりながらファザム山を睨みつける。右目の輝きが、さらに増した。


「『暴欲竜』ファフニール。常に欲望を満たすべく漫遊し続けるアイツと、運悪く鉢合わせた」

「ファフニールって、竜種の最強格じゃねぇか!?」

「ええ。当然、お姉ちゃんも私も、成すすべなく撃退されたわ。とはいえ知っての通り、ファフニールのような上位の竜は他を殺さない。殺すのは、自身が認めた相手だけ。―――生き延びたのよ、私達は」


再びガルムへ視線を向ける。

どこか困惑した表情の彼女を、溢れんばかりの憎悪を込めた目で睨みつけながら、リュカオンはさらに言葉を続ける。


「だけど、たった三度攻撃されただけで、周囲はボロボロ。地形が変わっている部分もあったし、崩落しかけの場所もいくつもあった。私が落ちた崖も、崩落しかけの場所の一つだったわ」

「……それって、お前の注意不足じゃないのか?」

「そうかもしれないわね。落下したのは確かに私のせいかもしれない。ファフニールのせいかもね。だけど私が許せないのはその後よ。言ったでしょう?お姉ちゃんは私を見捨てて逃げ出したって。言葉通り、お姉ちゃんは私を置いて逃げ出した。崖から落下して、動けなくなった私を放ってね」


ジンもカルマも押し黙り、ガルムの方を見る。

両者とも脳裏に「あのガルムが?」という疑念があったが、リュカオンの言葉の端々に滲み出ている憎悪は、とてもじゃないが嘘と断ずる事が出来ない物。


状況が状況なら仕方なかった、というヤツだろうか。考えを巡らせる彼らに、リュカオンがさらに情報を付け加える。


「まだ『祝福』を持たなかった私は、痛みと不安とで泣き叫ぶしかできなかった。その声は勿論聞こえていただろうし、何よりお姉ちゃんは崖の下に居る私を確かに見た。―――気づかなかったとか、死んでいると思ったとか、そんな言い訳が通用する状況じゃ無かったわよ」

「……そりゃあ」

「話を聞く分には、ガルムに恨みを抱いても無理はないな」

「ま、待て!違うッ、そんなはずが無い!!」

「そんなはずが無い、ですって?おかしな事言わないでよ。まさか忘れたなんて言い出すつもり?貴方は確かに私の無事を確認して、その上で私を置いて逃げ帰って―――」

「四年前のあの日!!リュカは病気で寝込んでいたはずだ!!」

「―――は?」


ガルムの言葉に、リュカオンは当然ながら、ジンもカルマも大きく首を傾げる。

だって、その言葉が正しければリュカオンの話は前提からおかしい事になるのだから。


「ファザム山が危険な山だって事くらいアタシも知ってるし、いくら腕っぷしに自慢があったからってあんな危険な所、普段なら腕試しにもいかない!それでもあの日山に向かったのは、リュカの病気を治すために必要な薬草を取りにいく為だ!」

「……そ、んな……そんなはずないわよ、あり得ない。だって、私はお姉ちゃんがファフニールにやられる所をその目で見て、確かに落ちた時の痛みも……」

「ダメじゃないっすかぁ、そんな話するなんて」


奥の方から、突然男の声が響く。

一斉にそちらへ視線を向けると、十数人程度の人影があった。


全員頭部から角が生えている―――魔人だ。


「っ、それはどういう」

「俺達の仕事って、協力者リュカオンの王位継承を完遂させる事と、()()()()()()()()()()()()が復活しかけた際の妨害なんっすよねー」

「改、竄……?」

「つまりぃ」


混乱するリュカオンの眼前に、魔人の男が気づかれる間も無く急接近し。


「ちょっと、痛い目見てもらうって話っす」


躊躇なく、魔力を込めた拳を顔面へと振るった。


―――が。


(なんだ、コイツ。いつの間に割り込んで……っていうか、なんで俺の魔力が()()()―――?)

「ギャハッ、結構いいパンチじゃねぇか。なんで二年前にはいなかったのか不思議なくらいだ」


防ぐ余地なんてあるはずの無かった一撃は、しかし現実、刃によって防がれている。

防いだ主を見れば、羊の獣人―――?


「ルシファーの部下だな?色々聞きてェ事もあるし、何より俺の依頼人の邪魔されちゃ困るんで―――そうだなァ、取り敢えず全員大人しくなってもらおうか」


拳を押し返し、次の瞬間には姿が掻き消える。

そして次にジンの姿が現れた時、既に魔人たちの両腕と両足は切断され、全員が地面に崩れ落ちていた。


「う、そ。私の攻撃で、死にかけてたはずじゃ」

「色々理由があンだよォッ、ヒャハ―――っと、あっぶね。取り敢えず『熱封』」


『無貌』で作られた顔が狂気に歪みかけるが、すんでの所で正気を取り戻し、魔法で魔人たちの傷口を焼いて止血。


たかだか数発の攻撃で死にかけていた弱いはずの男が、指折りの強者ですら容易にはできないだろう芸当を余裕を持ってやって見せた事にリュカオンは酷く混乱する。

しかし今はソレよりも魔人、ひいては自分の記憶が改竄されたかもしれないという話だ。

頭を振って逸れかけた興味関心を元に戻し、地面に情けなく這いつくばる魔人へと近づき、鋭く睨みつける。


「クソ!なんだよコレッ、こんなバケモンが居るなんて聞いてねぇぞ!!」

「喚かないで。記憶を改竄だとか、聞くべき話が沢山―――」

「それについては私から説明しよう」


先ほど自分へ拳を振るった男の胸倉を掴み、持ち上げていた彼女は、背後に突如出現した長身の男によって魔人から引き離された。

その声と気配に、既に『裏切られた』と考え始めている彼女はその顔を碌に確認する事も無く蹴りを放つ。


「おっと。淑女がみだりに足を振り上げる物じゃないよ?リュカオン王女……あぁ、いや。まだなっていないんだったっけか」

「ルシファー……ッ!!貴方、私に何をしたの!?」

「んん?はて、なんの話をしているのかな?」

「とぼけないで!!貴方が私の……私とお姉ちゃんの記憶を改竄したって話よ!!」


リュカオンが咆える。『憎悪』が激しく輝き、その威圧感は眼光だけで人すら殺してしまいそうな程だが、しかしルシファーは飄々とした態度を崩さない。

寧ろ楽しんでいるかのように、「だから」と再び聞き返す。


「私は『どの』話をしているのか聞いているんだがね」

「――――!!」


怒りのあまりに脳が沸騰したかのような錯覚を覚えながら、リュカオンは喉を裂かんばかりの怒声を轟かせ、全力でルシファーに殴りかかる。

先ほどの蹴りとは比べ物にならない速度。当たればルシファーと言えど無傷では済まないだろう『祝福』された一撃を前に、彼はしかし余裕の笑みを崩す事は無かった。


「『王威(グラビティ)』」

「あぐっ!?」


まるで巨大な手に押しつぶされるかのように、リュカオンの体が床へ沈む。

最初こそ抵抗し立ち上がろうとしていた彼女だが、ガルムとの戦闘で受けたダメージのせいか、すぐにされるがままになる。


「説明する、と言っただろう。大人しく話を聞こうという気には……ならないか。まぁ、話してあげるから押しつぶされながら聞くと良い。周りの獣人達もだ。とはいえ、私の名を聞いた時点で逆らう気も失せているとは思うがね」


傲岸不遜な態度だが、誰も動かない。

当然だ。相手は魔王、それも『三大恐怖』の一角を担う『七人の魔王』。その中でも最強と呼ばれる男なのだから。


……ある一人は全く別の理由で成り行きに任せているのだが、それはさておき。


「さて。まずは交錯する思惑の整理から始めようか。そも、王女の座を狙った彼女が何を目的としていたか。なぜ魔王である私が一介の獣人に過ぎなかった二人の少女へ記憶改竄を行う必要があったのか。全ての真実を、明かしてあげようじゃないか」


まさしく魔王らしい態度で、ルシファーは両手を広げた。

混沌としつつあったこの場を、自分ただ一人の舞台であると宣言する様に。

ジンは『狂乱』のせいで使わないだけで、魔法の腕も並大抵のソレを大きく上回ります。

というか、彼レベル(魔力の総量も込みで)が所謂ビッグネームばかりなのでその時点で大分お察しです。


何故そこまで鍛えたのかというと、暗殺者を目指す上で魔法が一般的な世界なら前世で言う『銃』に相当する暗殺道具が『魔法』になるんだろうな、という考えがあったからです。

人間の限界を大きく超えた魔力を使えるようになるまで、実は何度も死にかけています。


まぁ、『狂乱』のせいで暗殺に魔法使えないし、無駄になったんですけどね。

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