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想う

ここからハーレム要素が段々強くなっていきます。多分。

馬車旅を始めて体感一時間少し。全くの無言が続いていた車内に、俺の声が響く。


「そういえば、宿の話がまだだったな」

「宿?」


ガルムが首を傾げ、カルマも視線だけをこちらに向けて話を聞く姿勢を取る。


「あぁ。流石に一人一部屋だと枠が無いだろうしな。となると誰か二人で相部屋って事になるんだが……カルマの姿的にガルムと同室の方がありがたいけど、お前ら仲悪いっぽいし嫌だろ?」

「コイツと同じ部屋で一晩明かすとか無理だぜ」

「俺も願い下げだね」

「となるとどっちかが俺と同じ部屋にしないといけないんだが……なぁ、カルマ。お前本当はどっちなんだ?」


俺の問いかけに、考える素振りを見せる。

馬車が揺れる音だけが聞える時間が少しの間続き、カルマは「やれやれ」というような肩を竦める動きをした。


「どっちでも良いだろ?どっちにでもなれるんだから」

「あのなぁ……まぁいいや。なら、男って事でお前が俺と相部屋で―――」

「女だぞ」

「へ?」

「だからソイツ、女」


ガルムが呆れたように答える。


いやいや、女って。確かに女の姿してるけども。

なんで付き合い長い俺が知らないコイツの性別を、なんか犬猿の仲らしきガルムが知ってるんだよ?


「なんでお前が知ってんだよ」

「さっき聞いた」

「えぇ……お、おいカルマ。俺に性別教えねぇでコイツに教えたってどういう事?友好度足りなかった?」

「―――チッ」


舌打されちゃったよ。え、何?ガルムは良くて俺がダメな理由がわからないんだけど。

男だからなの?


「あ、あー……うん、まぁ、女なんだな?よくわかんねぇけど。んじゃ、カルマとガルムでじゃんけんしてくれ。負けた方にしようぜ、俺と相部屋になるの」

「……これが狙いかよ、王女サマ」

「別に。お前が問答無用でジンと相部屋になるのを止めてやっただけだよ」

「そこまで罰ゲーム扱いする必要無くない!?」


異性と相部屋ってのは確かに嫌かもしれないが、別に襲ったりとかしないのになんでこうも敬遠されてるんだ。

いっそ俺だけ違う宿取って来るか?こういうの金の無駄っぽくって嫌だったけど、正直金なんていくらでもあるし……。


想像以上に嫌われていた事にショックを受けつつも、冷静に解決策を考える俺を放って、二人は拳を構える。

じゃんけんする気満々らしい。別に俺だけ違う宿取って来るで良いのに。


因みにこの世界にじゃんけんが普及しているのは、かつて召喚された勇者が広めたからだ。

異世界転生モノあるあるだよね。先駆者の広めた現代知識。


「ッ、クソッ!」

「アタシの負けだな」

「えっ、あー、カルマ。負けた方が俺と相部屋だぞ?勝った方じゃないからな?」


露骨に悔しがっているカルマの勘違いを訂正するも、返事は舌打ちだけ。

いや、喜ぼうよ。そんな俺と相部屋なのが嫌だったらさ。


再び窓の外に目を向け、不機嫌さが良くわかる顔をしたまま黙り込むカルマ。多分何を言っても返事は無いだろうな、と諦め、ガルムの方を向く。


「……えっと、じゃあ、ガルムが俺と相部屋って事で良いのか?」

「おう。ま、アタシは特に何も気にしてねぇし安心しろよ」

「何を?」


返事は無い。


……よくわからないけど、解決したっぽいし良い……うん、良しとしよう。なんか考えたら俺が傷つく未来しか見えないし。


再び馬車の中は静まり返り、なんだか剣呑な雰囲気なまま、獣王国へと真っ直ぐに走るのだった。


※―――


「思ったよりもあっさり泊めて貰えたな」

「お前が男の姿になってたからな」


ジンは自分のベッドの上に荷物を広げ、何かを確認しつつ適当に返事をする。


馬車で話していた通り、宿はアタシとジンが同室、カルマが一人で泊まる事になった。

実はこの宿、王女になる前に一度使った事がある。『神前試合』に参加した時の滞在場所が、ちょうどこの宿だった。


あの時は一人部屋だったし、全く同じ場所というわけでは無いんだけど。


「……さっきから、何やってるんだ?」

「王宮の警備体制その他諸々の再確認。獣人の聴覚なら、地図を開く音とかで隠密がバレそうだからな。可能な限り音を立てないように、いつも以上に念入りに準備してるんだ」

「なるほどなぁー……因みにどのルートを通る予定なんだ?」

「あぁ、取り敢えず第一候補はこれだな」


ジンの人差し指が裏口に当たる部分に置かれ、警備兵を示しているらしい黒い丸が無い、或いは少ない部分をなぞって、最終的に王女の自室に辿り着く。

なるほど。一番ローリスクで、短いルートだ。


「どうだ?何か、俺が知らなそうな情報があれば教えてもらいたいんだが」

「警備兵の配置も、この道を通る奴が殆どいないって事も、全部あってるよ。んでも、会議の時に警備が厳しくなったって話してなかったっけ?」

「祭りの間、というかリュカオンが外に出てる間は、その身辺警護の方に人員を裂くだろ?警戒態勢の状態で人員を裂くなら、ちょうど通常の警備レベルに落ちるんじゃないかと思ってな。他にも二つ程候補があるし、そっちも話すか」


地図をベッドから机へ移動させ、ジンは改めて侵入について解説してくれる。

話しはちゃんと聞いているが、こうして肩同士が触れ合うくらい近くにいるというのになんの反応も無いというのがどうにも気になる。


―――前にアタシの事、タイプだって言ってたくせに。


思い出すのはアステリアの王都で、カルマと交わした会話。あの時のカルマの言葉が、どうにもアタシの心を揺さぶっていた。


その証拠に、今までなら気にすることも無かったジンとの距離が、やけに近く感じられる。


「―――んで、仮に警備が予想よりも厳重だった場合だけど……聞いてるか?」

「っ、お、おう。聞いてる聞いてる」

「……まぁ、馬車旅ってなんか疲れるし、もう夜も遅いしな。まだ一日あるし、今日はもう寝るか」


アタシが疲れていると勘違いしたらしく、ジンは地図を片付けて、ベッドに寝そべった。欠伸交じりの声で「灯りを消しておいてくれ」なんて頼んでくる。


アタシはソレに軽く返事をして、一度窓の外へと目を向けた。


夜。見える範囲の街は既に寝静まり、いくつか見える小さな灯りは恐らく酒場の物だろう。祭りにはまだ時間があるというのに、元気な事だ。


「………お前()どうなのか………か」


隣の部屋にいる、どうも好きになれないあの女の言葉を思い出す。

今頃アイツも寝ているだろうが―――いや、酒飲みながら一人で愚痴ってるな。少し耳澄ましたら聞えて来た。


そりゃま、気が気じゃ無いだろうな。自分の()()()()が女と同じ部屋で寝てるなんて。


「アタシも寝るか。今はまだ、そっちを考える余裕もねーし」


魔道具を停止させ、開けていたカーテンを閉める。ベッドに身を投げ出した途端、急に瞼が重たくなってきた。


今日は色々と疲れた。

明日は王宮に入る準備もあるし、しっかりと休もう。


アタシが眠りにつくまで、そう長い時間はかからなかった。


※―――


「コイツと組めって?」

「あぁ。子供だが、中々優秀でな。この調子なら、近日中にネームドに昇格させても良いくらいだ」


手元の紙には、ギルマスのいう「子供」の情報が仔細に書かれていた。

名前はジン・ギザドア。年齢は9。アステリア王国の貴族一家、ギザドア家の次男坊にして、現在総合部所属。


正直言って、嘘としか思えないような情報だった。


貴族のガキが、それも年齢が二桁にすらなっていないガキが、依頼達成率100パーセントで、ギルマスがネームドにしようと考えるレベルの実力者、だなんて。


「……それは命令か?俺が大の貴族嫌いだと知った上で」

「俺はこのギルドの長だぞ?お前の身の上も、貴族嫌いも、全て理解しているさ。その上で命令した。つまり返事は一つ。黙って従え」

「へいへい。んじゃ、失礼しますよ」


俺は貴族が嫌いだ。王族が嫌いだ。高貴な身分のヤツが、富や権力を持ったヤツが大っ嫌いだ。

俺を捨てたヤツらは勿論、それ以外のヤツも同じだ。権力、地位、名誉名声金その他諸々!そんなしょうもない物の為に、自分の身ばかり考えるような連中、誰が好きになれるというのか。


そんなただでさえ貴族という生き物が嫌いな俺が、よりによって貴族のガキの子守?ふざけているにも程がある。


憤りながらも、ギルドに所属している以上マスターの命令は絶対。

ジン・ギザドアなる子供とコンビを組む様に命令されてから三日後、俺は早速、件の子供と一緒に依頼を受けることになった。


顔合わせ即仕事だなんて、ギルマスも何を考えていたのやら。夜の街を音も無く走りながら、その時の俺は呆れの溜息が止まらなかったのを良く覚えている。


「あの屋敷が、標的の住む場所か」

「そっすねー。侵入者対策の魔道具が大量に仕掛けてあるらしいんで、俺が侵入して解除してくるから、その後侵入してねー」

「……構わないが、アンタはどうやって侵入するつもりなんだ?」

「おいおいおーい。期待の新人いえどもわかってないねー。俺の商売道具が関わってるんで、いくら貴族様のご質問でもお答えできかねます。というかウチは同業者同士の詮索なしなんですよねー。ま、アンタの仕事は貴族様らしくふんぞり返って合図待ってるだけなんで。んじゃ、ごゆっくりー」


アイツとの最初の会話はこれだ。あの時の不満げな顔も良く覚えている。


嫌え嫌え。相性最悪ってわかりゃギルマスもコンビ解散させてくれるだろ。

そう考えてのウザったい態度だった。


だけど、アイツは俺を嫌う事は無かった。

最初の依頼だって、アイツは俺の合図があるとすぐに標的の部屋に侵入して二分とかからずに仕事を終えたし、それ以降の仕事も全部、俺の言葉に文句を言いつつも指示には必ず従っていた。

貴族だとかガキだとかそういう事を抜きにすれば、アイツは俺の知る中でも、一際仕事の出来る同業者だった。


まるで暗殺者になるために生まれてきたような男。当時のギルマスの言葉は、まさしくその通りだった。

そう、思っていた。


アイツとコンビを組む様になって一年。態度対応を変える事は無い物の、最初の「何としてでもコイツとのコンビを解消しよう」という考えはとっくに消えていた。

貴族は嫌いだが、素直に言う事を聞く、俺には無い高い戦闘能力と任務遂行能力を持つジンは同業者として手放したくない人材だったからだ。


―――だが、ヤツがネームドになってから一週間。アイツは、変わった。


「ヒャッハーッ!!ぶっ殺してやるぜェ、テメェら全員まとめてなァッ!!」

「なっ、何真正面から突っ込んでんだバカ!」


隠れ潜み、闇に生きる事こそ本望。そう語っていたとは思えない程の喧しさと共に、ヤツは目に映る敵を全て殺すようになった。

ジン・ギザドアからノガミへと変わったアイツは、同時に暗殺者から狂戦士へと変貌したのだ。


二か月近く、ギルマスが頭を抱えていたのを覚えている。

そりゃそうだ。期待の新人としてネームドにしたヤツが、殺し無しの隠密任務ですら狂ったように叫んで笑いながら目撃者皆殺しにし始めたなんて、悩みのタネにも程がある。


いつしかアイツは暗殺以外の依頼を受けなくなり、俺と一緒に行動する機会も減っていった。

だからと言ってアイツの事を忘れるとか、そんな事は全くなく。寧ろアイツの活躍(そのやらかし具合も含めて)を聞く度、何故か自分の事のように嬉しく思っていた。

何より俺は、アイツが狂戦士になってくれて嬉しかった。


アイツは貴族だけど、貴族じゃない。俺の知る貴族は、俺の嫌う貴族は、あんな野蛮なヤツじゃない。

寧ろアレは、あの姿は、俺と同じ物だ。


それ以来、アイツへの態度は変わった。そりゃあ軽口は叩くし弄りもするけど、前程の棘は無い。

一緒に依頼を受けた時なんざ、我ながらかなりの上機嫌だった。

隠密潜入その他諸々特化の俺に、完全戦闘特化のノガミ。最強のコンビだと、今でもそう思っている。


―――そして、二年前。アイツが『三大恐怖』に名を連ねる事になった、あの事件。

俺が死にかけて、アイツに助けられて―――ついに、アイツを『男』として意識する様になったあの日。


今でも鮮明に覚えている。

まさに神話級の戦いを繰り広げて見せたあの二人の姿を。そして、アイツに抱いた想いを。

過去編入りそうな雰囲気ですがここではまだ入りません。

章タイトル通り、主役はガルムなので。

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