報告会
※祝福紹介※
『鋼鉄の祝福』
大鉄塊の異名を持つゴーレムの『試練』を踏破した物が得る『祝福』。触れた物と己の肉体を鋼鉄に変化させる事が出来、あらゆる鉄を操作する事が出来る。しかし形や柔らかさ等を変える事しかできない為、液体状の鉄を作っても熱した鉄という事にはならない。
また鉄で補う事で欠損を修復する事も可能であり、最も汎用性の高い『祝福』の一つとして知られる。
「暗殺ギルドの、集会?」
「あぁ。定例報告を兼ねた話し合いが半年に一回行われるんだ。勿論、場合によっては緊急の集会を行う事もあるけどな。―――んで、今回の議題にちょうど獣王国の話が出るから、同伴するかどうか一応聞いておこうと思ってな」
「そりゃ行きてぇよ。けど部外者のアタシが、ギルドの大事な集まりに出席なんて……」
「その点は問題ない。ギルマス他、参加者のネームド達には話を通してある。先にお前に関係する話だけを終わらせて、その後は一度退出してもらってからギルドの話をするって流れにしてもらった」
「そっか。なら行くよ。新しい情報も欲しいし」
―――なんて会話をしたのが昨日の夜。
そして今は、件の集会が始まる五分前。
既に会議室の円卓にはギルマスを始めとした暗殺ギルドのネームド達が数人座っており、座っていないのは俺含め残り四人。
いつも以上に先に座っている人の数が多く、もしかして時間を間違えたのでは、と一応ギルマスに確認を取る。
「遅れましたか?」
「いや、いつも通り五分前だ」
「にしては、随分と気合が入ってますね」
「さて、な。取り敢えず座れ。嬢ちゃんの分の椅子も用意してある」
手で示されたのは普段俺が座っている場所。その隣の、本来何もないはずのスペースに、もう一つの椅子が置いてあった。
テーブルの上には、わざわざ二人分の飲み物まで用意されている。
「………コイツら、全員暗殺者なのか?」
「いや。殺しを仕事にしてないヤツもいる。両方仕事にしてるやつもな」
軽く見渡すも、当然誰とも目は合わない。馴れ合うような組織でも無いし当然だ。
……いや、カルマは手を振ってきたな。ご機嫌な野郎だ。
「全員揃った訳では無いが、今からする話に必要なメンバーは揃った。まだ来てない奴らには後々説明することにして、さっさと話を始めようか」
ギルマスが口を開くと、全員が一斉に彼の方へ顔を向ける。いつもと同じだ。一つ違うところは、居心地悪そうにソワソワしているガルムの存在だけ。
落ち着かない気持ちはわかるが、あまり他のギルドメンバーをジロジロ見るのはやめて欲しい。突っかかってくる事は無いと思うけど、面倒事になったら……面倒だ。そのまんまだけど。
「既に直近の調査報告を受け取ったお前らならわかっているだろうが、現在獣王国および『七人の魔王』が怪し気な雰囲気を漂わせている。そのことについて、まずは現地の調査をしてきたハイドから改めて報告してもらおう」
「了解」
ハイド。諜報部の中でも、依頼を受けるのではなくギルドの命令で動く部署のトップ。
コイツが定期報告で動くのは珍しい事ではないが、滅多な事が無ければアステリア国内の調査がメインのはず。
ギルマスも、そこそこ獣王国を警戒してた訳か。
「獣王国は表向き、通常通りの運営がなされていました。国民に変化は無く、人の流入も今まで通り受け入れています。しかし、王宮では新たに王女となったガルム・リザシラ・オルトリンデが行方不明であるとの話が密かに囁かれ、代理として王女ガルムの妹、リュカオン・シィム・オルトリンデが、その事実を公にすることなく国家運営を行っています。また、王女代理リュカオンに、『七人の魔王』が一人、魔王ルシファーが接触している可能性が極めて高いです。ここまでで、質問は?」
ハイドが資料を読み終えてすぐに、俺とガルムとギルマスを除く全員が手を挙げる。
彼らは一度視線を交差させると、言葉も無く一人を残して手を下ろし、残った者が質問を投げかけた。
「可能性が極めて高い、ということは確証が無いという事ですね?では何故そう判断するに至ったのでしょうか」
全員が頷く。
まぁ、そこは確かに気になる。敢えて不確定な情報として出す理由は、果たして何か。
ハイドは一度咳払いをしてから、返答する、
「確証はありませんが、ほぼ確定と言えます。なぜなら、王宮内部に魔人の姿が確認されたからです」
「獣王国の王宮に?獣人以外は、例え他国の王であっても不可侵とされる聖域に、ですか?」
「ええ。しかも、私のように潜入しているのではなく、堂々と仲間として行動していました。うち一人を拘束し、自白魔法にて情報を吐かせたところ、魔王ルシファーが主であるとの情報を得ました」
「待て、拘束して自白魔法まで使って、何故確証が得られなかった?」
「情報一つを吐かせた瞬間に、魔人の体は爆散。恐らくは敵方の魔法。魔王ルシファーは理を外れた魔法を操ると聞きますし、そのような対抗魔法があっても不思議ではありません。また、他の魔人を捕らえようにも一人が居なくなった事で警戒網が敷かれ困難になり、一先ずここまでの情報を伝えるべく一時帰還させていただきました」
ハイドが「他に質問は?」と続けるが、誰も手を挙げない。
……なるほどな。あの簡易報告書じゃ正直よくわからんところが多かったが、これで粗方わかった。
既存の、一般的な魔法の枠組みに収まらない魔法。それが出てきた時点でルシファーが関わっている事は確定で良い。
何せそれこそが『傲慢の祝福』の力だからだ。
そのことを知る者は多くないが、この場で話す必要も無いし黙っておく。
情報共有したとて、俺に追随するようなヤツなんて居ないし、そもそも他のヤツも別件で忙しいしな。話すだけ無駄だ。
「知っている者も多いだろうが、『七人の魔王』は過去にノガミによって全滅一歩手前まで追い詰められた。その際に、今後魔王勢力は他種族へ干渉しない代わり、ノガミが魔王勢力に干渉することの無いようにと条約を結んでいる。つまり今回の件が事実であれば魔王側がノガミを、ひいては俺達を裏切った事になる」
「まさかぁー、全面戦争とかですかー?」
「いや、仮にそうなった場合戦うのはノガミ一人だ」
「えぇー、私もノガミ様のお力になりたいのですがぁー」
「様……?とにかく、誰もが知っている通りコイツは規格外。個人で『三大恐怖』に名を連ねる異常者だ。その戦闘能力も、戦闘の様相も、当然知っているだろ?」
テーブルに身を投げ出し間延びした声で話す少女へ、ギルマスが懇切丁寧に俺の嫌がる事を言ってくる。
異常者扱いって酷く無いですかね。
ってかノガミ様ってどういう事よ。人の名前に敬称つけるタイプ?
別にそれなら良いけど、いつぞや聞いたノガミ教団とか言うやつの仲間だったりしないよな?
「何よりノガミ。聞くが、同じ『三大恐怖』の魔王達を相手にして、どう思った?」
「別に、いつも通り標的相手にやることやっただけですよ」
「……だ、そうだ。とにかく、この件で暗殺ギルドが動くとすれば、戦闘面では無く主に情報面。今は水面下だが、これが表沙汰になった場合、獣王国だけでなく、様々な国が大きく揺らぐ事になる。その混乱を抑えるも活かすも、新鮮で確かな情報と、それを使う頭が必要不可欠。今後は依頼の最中であってもこちらを優先してもらうから、それだけ覚えておけ」
全員が無言で了承の意思を示すと、ギルマスは「俺からは以上だ」と告げ、再度の質疑応答(?)の時間を設けた。
ふむ。じゃあ、せっかくだし欲しい情報をここで仕入れておくか。
「ハイドに聞きたいことがある。王宮で警戒網が敷かれているという話があったが、それは今もか?仮にそうなら確認した範囲で良いからどのような警備だったのか説明してもらいたい。一応警戒網が敷かれる前の警備についても頼む」
「は、はい。恐らくは、今も警戒網は敷かれたままかと。兵士達の配置やその他魔導具等の情報は、後程全てをまとめた地図を差し上げます」
「そうか。ありがとう」
「い、いえ……」
何で緊張気味なんだろうね。同じギルメン同士、一応対等なはずなんだけど。
とはいえ得るものは得た……というかこれから得るから良しとしよう。
今俺が受けているのはガルムをリュカオンと会わせるという依頼。なんならリュカオンを連れてくる方が手っ取り早いし楽なのだが、流石にそんな事をするほどイカれちゃいない。
そうなると結局、獣王国の王宮へ侵入する必要があるわけで。
力でゴリ推して侵入した場合、数を捌き切れずに逃げられる可能性がある為、可能な限り戦闘は避けて行きたい。
地図と警備の状況は必須だ。
「あ、じゃあノガミ様に質問ですー」
テーブルに突っ伏した子が、相変わらずの間延びした声と共に手を挙げる。
いや、良いんだけどさ。やっぱり、様ってのが気になる。
「その、隣の子はどちら様なんですー?」
「へっ?」
少女の質問に、ガルムが素っ頓狂な声と共にこちらを見てくる。
なんでそんなに驚いてるんだろう、と思ったのも束の間、彼女は小さく「アタシのこと話してるって言ってただろ」と呟いた。
……あー、はいはい。ギルマス他参加者に事情を云々ってヤツね。
アレは別に外部の関係者を呼ぶから獣王国の話をしてくれって言っただけで、ガルムの素性とかは一切明かして無いんだよな。誤解させてたか。
「コイツは……言っても良いか?」
「言いふらすような奴らじゃ無いだろ?」
「まぁな。……コイツはガルム。ハイドの報告にあった獣王国の現王女だ」
静かだった室内が、途端に騒がしくなる。
流石に、行方不明の王女がここに居るとなれば動揺もするか。
「元々はリッツァ盗賊団に捕らえられていたが、とある人物からの依頼で盗賊団を壊滅させた上で、彼女を故郷に帰さないようにと言われてな。殺す予定だったが、逆にコイツが依頼主の暗殺を依頼してきたので、こうして一緒に行動している」
「故郷に帰さないように依頼したのは?」
「それも話に上がっていた通り、王女代理リュカオンだ。その真意は不明だが、獣王国の王女の座を自ら戦わずして得ようとしていることは間違いない。今回の報告を受けて、魔王ルシファーが王女代理の目的と関係がある可能性が浮上したが、それもまだ確定的では無い」
質問は?と一通り全員を見るも手を挙げる者はおらず、静かに思案するばかり。
「ところで、そこの……突っ伏してるお前は、誰だ?新入りか?」
誰も特に無いなら、と、一番気になっている事を尋ねる。
思えばあの少女、一度もこの会合で見たことが無い。
「あー……私、トールって言いますー」
「コイツはお前よりも前から在籍している。まぁ、ネームドになったのは二ヵ月前だがな」
二ヵ月前……なら、俺が知らないのも無理は無いか。
「ここ最近、結構話題になってるんだぜ?その子」
「特に聞いた覚えが無いが……街でトールの話が広まっていると?」
「ギルド内でだよ。お前ほどじゃないが、殺し方が暗殺者らしくねぇからな。バカでかいハンマーで標的を叩き潰すんだと。つってもギルドで話す相手なんて俺かギルマスしか居ないお前にゃわからねぇ話だったかもな」
説明してくれた事に関してはありがとう。だけどカルマ、お前は後で殴る。『狂乱』使ってぶん殴ってやる。
俺を煽るような言い方に、他の暗殺者達が微かに動揺する。
過去に何度も会議に出席してるというのに、俺がすぐに発狂して誰彼構わずぶっ殺しまくる狂戦士だと思ってる奴らがほとんどなのだ。
恐らく、カルマに挑発された俺がヒャッハーし始めると警戒しているのだろう。
別に俺は快楽殺人者では無いのに。後でカルマは殴るけども。
「元は総合部で、最低限の依頼しかこなして居なかったが、ここ最近自ら暗殺部への移動を申し出てきてな。前よりも精力的に依頼を受けるようになったし、実績も申し分無いのでネームドの仲間入りを果たしたわけだ」
「以後お見知り置きをー」
「あぁ、よろしく」
ネームドになるには、一定以上の依頼をこなすか、圧倒的な実力を示すしか無い。その大変さは良くわかっているので、乗りこえて今この場にいる事への賞賛、そしてこれからも頑張ってくれという激励の意図を込めて挨拶するが、そんな俺に周りの反応はというと、お察しの通り。
信じられないというようにざわめきだし、殆どの連中が「一体何を狙っている……?」とか失礼な事を呟いて居る。
もうお望み通りヒャッハーして皆殺しにしてやろうかな。しないけど。
因みに挨拶された側はというと、なんだか感極まったように両手で口を押さえ、目を輝かせていた。こっちもこっちでどういう扱いなんだ俺。
しばらくの間続いた騒がしさが落ち着くと、また一人手を挙げる者が。
「あ、あのぅ、今更なんですけど、この話に関連した情報を持っているので、お、お時間いただいてもよろしいでしょうか……?」
「構わないが……お前が今回担当したのは、神聖国シェンディリアだろう?魔王の侵攻が一時中断されて以来、勇者召喚も何もしていなかったはずだが」
「えっと、その事なんですけど……うわぁっ、資料が!」
立ち上がった彼の名前はダーティ。見た目はサイズの合わない大きな眼鏡が特徴的な、金髪の男の娘。
しかし総合部に所属し、確かに功績を上げている実力者。
資料をばら撒くなんてドジを見せたが、それは他者に侮らせる為の演技である。
これを知るのは俺やギルマス、後はカルマくらいだ。なぜなら過去に同じ依頼を受けたから。
「ぼ、僕はえっと、シェンディリアの調査を任命されたのですが……ご、ご存じの通りシェンディリアには『勇者召喚』があり、国の危機、宗教の危機、人類、ひいては世界の危機が訪れた際に必ず召喚を行ってきました。それが、近日中に行われると言う情報を得ました」
神聖国と呼ばれる通り、シェンディリアは宗教の国。この世界の世界宗教であるヴィレス教の総本山であり、異世界から『勇者』を呼び出す儀式魔法、『勇者召喚』を唯一扱える国。
そもそも『勇者』とは、異世界の人間(何故か俺が知る限りでは現代日本の人間ばかり)がこちらの世界に、『試練』を受けずに『祝福』を得て、ついでに能力に大幅な補正を受けた状態でやってきた者を指す。だからいつぞやのゴブリン洞窟の男のような、『はぐれ』も一応分類上は勇者だ。
逆にシェンディリアが召喚した勇者を『召喚勇者』と呼び、基本はそちらを真っ当な勇者として扱う。『はぐれ』は大抵『異世界人』呼びされるのが一般的なのだ。
『勇者召喚』は人類の切り札と呼ばれている。
一度の儀式で、運が良ければ十数人単位の、竜が与える相当の『祝福』を持った人間が呼び出せるのだ。そりゃあ切り札と呼んで差し支えない。事実、召喚された『勇者』は最終的に『三大恐怖』を除くあらゆる災厄を打ち滅ぼしてきた。
かつては召喚した『勇者』に上手いこと教育を施すことによって、自国の戦力とした事もある。というか今現在のシェンディリアの兵たちは、ほぼ全員が(この世界に残って生きていく事にした)『勇者』である。
その為つい二年前まではシェンディリアが人型四種最強の国だったが、今はアステリアにその座を譲っている。
なんでって?暗殺ギルドが(というより俺が)いるからだよ。
「理由は彼らが語っていた通りであれば魔王軍の討伐。ルシファーの動向について知っている様子ではありませんでしたが、『狂戦士』と『七人の魔王』とが結んだ条約がいつまで、どこまで有効なのか怪しいというのが討伐決定の要因となったそうです」
当然だが、俺と魔王達の間で結ばれた条約は世界的に公表されている。しかし互いに『三大恐怖』とは言え、俺はあくまで個人で人間。その力を―――ひいては実績を、疑う人が居たとて無理はない。
寧ろ、良く二年間も召喚せず黙っていられたな。なんで今になっていきなり始める事にしたんだろうか。
「とはいえ、この件に関しては今まで通り近日中に世界的に公表する予定との事なので、あまり重要ではありません。―――問題は、獣王国が勇者たちの訓練地として自国に呼び寄せようとしている、という事です」
勇者召喚に際して、シェンディリアは足並みを揃える意味を込めて、各国にその旨を伝える。他の国々に戦争を吹っ掛ける場合は別だが、魔王やその他災厄に対しての勇者召喚であれば、必ずだ。
だから、ここまでは良い。だが獣王国の動向。これがどうも気になる。
他国が勇者の訓練地に名乗りを上げるのは別段珍しい話ではない。己の国内で鍛えた勇者が戦果を挙げれば自分達の功績にもなるし、シェンディリアよりも愛着を持ってもらえれば、仮にシェンディリアと戦争する事になった時に寝返ってくれる可能性があるからだ。
シェンディリアもソレを容認する事で、自分達から他国に戦争を仕掛ける事は無いと示す事が出来る。この訓練地貸出システムが、今の平和の礎の一つと言える。
しかし、獣王国が既に動き始めているというのは妙だ。俺達暗殺ギルドのように秘密裏に情報を得ているならともかく、そういう密偵のシステムが無い(はずの)獣王国が、未だに公表されていない召喚勇者たちの訓練地に名乗りを上げているのはどういう事だろうか。
リュカオンが密偵部隊を作ったか、もしくはルシファーの介入か……。ガルムと目を合わせ、秘密部隊の存在を視線で問うも、彼女は思案顔のまま小さく首を横に振った。
なるほど、ここでもルシファーが手を回している可能性があると。
「それは獣王国が既に申し出ている、という事か?」
「は、はい。とは言っても勇者召喚を行おうとしている事を知っている、と明言するような内容ではありませんでしたが……ん、んんっ。『光の妖精よ。手紙を投影したまえ』」
ダーティが魔法を発動すると彼が持っている紙が淡く光り、円卓の中心にその紙のホログラムのような物が大きく出現した。
立体映像の正体は、遠回しに「次に召喚する勇者はウチで預からせてもらおう」と書かれている手紙だ。
「み、見ての通り、どちらとも取れる文章になっているんです。勇者召喚が行われるかどうかは知らないが取り敢えず次にやる機会があるなら訓練地に立候補する、とも、勇者召喚を行う事は既にわかっているから、その勇者達は獣王国で訓練させろ、とも」
「しかし、表向き何もないこの時期に突然その手紙を、か。確かに妙だな」
ギルマスの呟きには同感だ。
俺が先程「何故今頃になって勇者召喚を?」と考えたように、今はまるで何も起きていない時期。勇者召喚があるかもしれない、なんて考えは普通浮かばない。
……まぁ、獣王国がルシファーに内側から乗っ取られそうになっているのに対抗する為、奴の目を盗んで勇者を呼び寄せるつもりだった―――と考えられなくも無いが、訓練地として貸し出すという話ならやってくるのはまだ平和ボケの抜けきらない日本人(何度でも言うが召喚されるのは何故か日本人ばかり)なので、どちらかというと罠にかけて殺すという意図が読み取れてしまう。
「一応聞かせてもらうが王女ガルム。獣王国が勇者召喚が行われる事を先んじて知っていたと仮定した場合、どのような方法でその情報を早期に入手する事が出来る?」
「アタシの知る限り、獣王国に外部の情報をいち早く手に入れる手段はねぇ。仮にあるとすれば、今実権を握ってるリュカオンが新たに設置した諜報部隊があるか、前に話に出てたルシファーの仕業か……そのどっちかだろうな」
「ふむ、なるほどな。―――報告は以上か?」
「は、はい。獣王国関連の話は以上です」
ダーティがわざとらしい演技と共に答えると、ギルマスが再び質問の機会を設ける。
しかし俺含め誰一人手を挙げなかった為この話は終わり、再度自由に話す時間が出来るが、そこでも特に誰が話すという事も無く。
いつの間にやら円卓は全ての席が埋まり、獣王国の話も粗方終わったという事で、ガルムに退室してもらう事に。
「……あー、ガルム」
「なんだ?」
去り際に、彼女を一度呼び止めてから小さく耳打ちする。
その言葉に一瞬、わけがわからないという顔を見せた彼女だったが、不承不承ながらも頷き、俺から金貨五枚を受け取って出て行った。
ま、いきなりあんな事言われたら不思議に思うだろうな。
戦闘になるかもしれないから、外で遊んで来い―――だなんて。
ノガミ=ジンを知る生者は、現状ギルマス、カルマ、ガルム、セナの四人。
ジン=暗殺者を知る生者は、現状ギルマス、カルマ、ガルム、セナ、リン、メイ、クィラの七人。
ノガミ=ジン=祝福持ちを知る(祝福持ちであると明かされている)生者は、現状ガルム一人。
なおギルマス、カルマは過去に彼の戦闘を見た事で祝福持ちである事と薄々感づいており、ローランはビットリアにて暗殺ギルドの事を情報ギルドと呼び直した事から暗殺者である事を疑っている。
が、未熟者で甘い彼は、それを見て見ぬふりに留めている。