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森の中

「えーっと……じゃあ、今日は手伝ってもらえるって事で良いのかしら?」

「おう。どんな依頼を選んできても大丈夫だぜ!何が相手でも、アタシは負けねぇからな!」


クィラの確認に、ガルムさんは明るい笑顔と共に答える。

ここは冒険者ギルドに併設された酒場。周りからは朝っぱらから飲み騒いでいる冒険者たちの声が聞こえてくる。


一人でここに来たかと思ったら開口一番「今日はアタシも一緒に連れてってくれ!」と言ってくるし、今日のガルムさんは少し変だ。

妹に命を狙われていた、という話を聞かされてから、真剣な顔をしている時間の方が多くなっていたようなはずだけど……なんでこんな、まるで自棄になったみたいに元気なんだろう。


「……因みに、ジンは?」

「知るかあんな奴!どうせ今日も天井とかに張ッ付いて、アタシの事見張ってんだろーよ」


鼻を鳴らしながら不機嫌そうに言い放つ。


どうやら、また喧嘩したようだ。この二人。


「今回は何があったんですか?」

「……ほら、マルクの話、一緒に聞いてたからわかるだろ?アタシがすぐにでも獣王国に行きたいって」


ガルムさんの言葉に小さく頷く。

そりゃ、彼女としては一刻も早く獣王国に戻って、妹さんと話がしたい所だろう。


こんな事を言ってくるくらいだから、きっと今回の喧嘩の原因はジンさんが「獣王国にはまだ行けない」とか言った事なんだろうな。


「けどアイツ、まだダメだとか言って全然取り合ってくれねぇの。理由聞いても「言えない」の一点張りでさ。んで、イライラするからお前らと一緒に魔物討伐でもやって息抜きしようと思ってここに来た」

「そうは言っても、今日は採取依頼でも取るつもりだったのよね。マナライト鉱石の報酬で懐はかなり潤ってるし」

「なら採取に着いてって、近くの魔物をアタシが倒しておくってのはどうだ?」

「下手に刺激して群れが来る危険性を上げるくらいなら、隠れて取った方が効率が良い」

「うぐ……確かに」


クィラやメイの言葉に苦々し気な表情を見せるガルムさん。

正直、私としても下手に討伐を取って危険な目に遭うくらいなら安全に採取をして今日のご飯代と宿代を稼ぐだけに留めておきたいけど、ガルムさんには恩がある。

ゴブリンの洞窟での件然り、マナライト鉱石の件然り。


それに、金が欲しくないのかと言われればそういう訳でもない。稼げるのなら稼いでおきたいし、ガルムさんは(今はこの話を本人にしない方が良いけど)獣王国の王女様。実力は相当の物だし、どうせいつかは行かなくちゃいけない討伐依頼を先に終わらせると考えれば悪くないのではなかろうか。


その事を二人に伝えると、少し考え込むような素振りを見せてから、二人とも頷いた。

賛同してくれたらしい。


「うん。せっかく手伝ってもらえるんだし、ここが稼ぎ時よね」

「杖の新調もしたい……」

「って事は、討伐か!?」

「はい。よろしくお願いします、ガルムさん」

「おう!任せとけ!」


嬉しそうに立ち上がったガルムさんだが、私には一つ懸念点というか、気になる部分がある。


この人、武器持ってるのかな?


※―――


「そういや、お前らの冒険者ランクってなんだっけ?」

「銅の一。後もう少しで銀ランクよ」

「へー。上から何番目だっけ?」

「……下から数えて六番目です」

「あー……なんか悪ぃ」


冒険者には、各人が安全に活動できるように『ランク』が割り当てられる。

依頼によって受けられる依頼や任務の内容が異なり、ランクが上がれば上がるほど難易度が高く、その分報酬が高額な依頼を受けられるようになる。


ランクは下から鉄級(アイアン)銅級(カッパー)銀級(シルバー)金級(ゴールド)白金級(プラチナ)、そして金剛級(アダマンタイト)

各ランクごとに三から一までの数字が割り振られ、ランクが簡単に上がらないようになっている。

これは実力に見合わない依頼を受けさせない為の措置であり、実際このシステムが採用される前とされた後では、冒険者の死亡率は各段に違うのだとか。


冒険者ギルドはアステリア王国だけでなく色々な国に存在するが、人間の国家にしか存在しない為、獣王国出身のガルムさんが詳しく知らなくても無理はない。

そもそも冒険者について名前だけ知っていて、成ってから色々と仕組みについて知る人は結構な数いるのだ。

私も含めて。


「六番目とは言ったけど、鉄級なんてお試し期間扱いで、一か月もすれば終わっちゃうしねー……正直、冒険者としてのスタートラインは銅級みたいな物だから、私達は実質下から三番目って訳」

「……私は銀の二」

「でもパーティとしては銅の一でしょ。それにアンタのランクは魔法ギルド所属特権なんだから、あって無いような物よ」

「個人だと銅の二の癖に」

「それ言ったらリンだって銅の二よ!」


私を引き合いに出すのやめて欲しいなぁ、と思いながら、いつも通り言い合う二人を静かに見つめる。


冒険者ランクは個人ランクとパーティランクに分けられ、それぞれ『個人の実績』、『パーティでの実績』で昇格や降格が決まる。

私達三人は、冒険者として活動開始してからすぐにパーティを組んだから(魔法ギルド所属の恩恵で銀級スタートのメイは除き)全員同じようなランクだが、他のパーティになると上は金級、下は銅級なんて事も良くあるようだ。


因みにだが、パーティランクが上がると大抵個人ランクも一緒に上がる為、余り所属パーティとのランク差は発生しにくい。

仮に発生した場合は、ギルドから受ける依頼なんかについて色々と口出しされる事もあるらしいけど、私達にはまぁ、あまり関係の無い話だ。


「銅級だと、あまり討伐の依頼は受けられないんです。何ならあの時のゴブリン討伐だって、正式なギルドを通しての依頼じゃ無かったから向かえただけで、私達ならランク不足で受けられなかったんですよね」

「ま、調子乗ってて後先考えずに突っ込んじゃって、あんな事になったんだけどね」

「そりゃ自業自得ってヤツだな。―――んでも、ゴブリンの討伐すらダメなのに、今回は何の依頼が受けれたんだ?」

「スライムです」

「スライムぅ?」


ガルムさんの足が止まり、嫌そうな顔になる。

まぁ、気持ちはわからなくも無い。スライムに良い印象を抱く人はそうそう居ない。私だって、正直スライムは嫌だ。

だが受けられる依頼はこれしか無かったし、依頼書通りなら仮に失敗しかけても命を落とすような事にはならないから、今回はスライム討伐を受けたのだ。


「スライムって、悪食とかいうヤツの仲間だろ?今はもう『七人の魔王』とやらにやられたらしいけど、それでもアタシらの手に負えるような存在じゃ……」

「そっちじゃ無くて、女の敵の方。殺傷能力は持たないタイプ」

「分裂能力も斬撃耐性も無いし、攻撃力もほぼ無い雑魚。―――ただ一点、女性の装備や衣服だけを的確に溶かすという点を除けばね」

「は?服を溶かす?」


ガルムさんの言葉に、全員で首肯を返す。


そう。今回の敵は、俗に女の敵と呼ばれるスライム。女性に反応して飛びつき、その粘性の体で包み込んで服を全部溶かし、全裸にすると満足して帰っていくという謎の魔物。

どうもそれが大量発生しているらしく、依頼が来ていたのだ。


「しかも高い打撃耐性を持つから、素手で戦う予定のガルムは出番なしね」

「へ?いやいや、じゃあ何の為にアタシここまで来たんだよ?」

「私達がスライムを倒してる間に、近くに生息している他の魔物を倒しておいて欲しいんです。コボルトとか、リザードマンとか」

「この森、銅級パーティで潜っても大丈夫とは言われてるけど、銀級や金級じゃ無いと相手にならないって言われてるような魔物も普通に出てくるのよね」

「なるほどな。因みにスライムはどうやって倒す予定なんだ?」

「一般的なスライムは、打撃耐性以外に強みが無いので、私達三人の攻撃は全部通るんです。だから、いつも通りクィラとメイが離れた位置から攻撃して、私が前に出る予定です」


へー、と返事をした直後、彼女の耳がピクピクと動いた。


「この息遣い……魔物だな」

「早速スライムのお出ましかしら?」

「いや、コイツは多分……マナウルフだな」


マナウルフ。普通の狼が、エレメントと融合し『魔物化』した魔物だ。

エレメントとは魔力の塊のような物で、他の生命体と合体し乗っ取る事で『魔物化』させる。この前王都の図書館で読んだ本には、最初の魔物はエレメントと融合した普通の動物だったという説が現在有力であると書かれていた。


エレメント単体だとあまり脅威は無いけど、魔物化させた後は危険だ。どういう仕組みかはいまいちわかっていないが、魔法が使えるようになるだけでなく、体が頑丈になったり能力が向上したりするのだとか。


虫の類を『魔物化』させた物なら一応銅級でも相手できるけど、マナウルフは金級推奨。

私達だけならすぐにでも逃げる。


「マナウルフ……戦うつもり?」

「あぁ。スライムは生憎見た事無かったが、マナウルフならアタシも何回か戦った事あるし大丈夫。そら、もうすぐ出て来るから、魔法で強化かけてくれよ」


別に無くても大丈夫ではあるけどさ、と笑う彼女に、メイが精霊魔法で強化を付与する。

ちょうどその次の瞬間、草むらから一匹の大きな狼が姿を現した。


肌にピリピリ来るこの感覚、魔力だ。


「本当にマナウルフだ……!!」

「ォオオオン!!」


マナウルフが咆えると、その周囲に魔力の塊が発生する。バチバチと音が鳴っているソレは、恐らく雷属性の魔力。


近付く事さえ憚られるような電撃を纏い、魔力弾を発射しようとするマナウルフへ、ガルムさんは獰猛な笑みと共に一直線に突っ込んだ。


「はんっ、おせぇんだよッ!!」


左拳のストレートが顔面を抉る様に襲う。肉を強く打った時特有の破裂音と共に、マナウルフは近くの木に叩きつけられた。


「だ、大丈夫なんですか!?電撃喰らってるように見えるんですけど……!?」

「あぁ、問題ねぇ。昔何度も喰らったから、電撃だけは得意なんだ。アタシはあんま魔力とか詳しくねぇけど、マナウルフが持ってるのは大抵雷属性の魔力なんだぜ」


心配する私にそう答えつつ、彼女は起き上がったマナウルフへと再び肉薄。

今度は右足で顎下から蹴り上げ、宙に浮いた体を右のストレートで地面に叩きつけた。


「剣も良いけど、たまには素手も悪くねぇなッ!」


呻くマナウルフの頭部を、踏み砕いて止めを刺す。


金級推奨の魔物を、こんな呆気なく倒すなんて……やっぱりガルムさんは凄い。

驚く私達に、彼女はピースサインと共に、スッキリしたと言うかのような笑みを見せるのだった。


※―――


「……で、肝心なスライムは一体どこにいるんだよ?」


魔物の死体が大量に詰まった袋を背負いながら、しかしその重さを全く感じさせない涼しい顔と共にそう尋ねて来る。


歩き始めて早二時間ちょっと。私達では倒せないような強い魔物ばかりと遭遇し、肝心なスライムがどこにもいない状態がずっと続いていた。


因みにガルムさんが魔物の死体を袋詰めにして持ち歩いているのは、冒険者じゃ無くても魔物の死体を買い取ってもらう事である程度のお金が貰えるからだ。

本人はあまり金に困っていないらしい(言いにくそうにしつつも、ジンさんに必要な物も欲しい物も買ってもらえると話してきた)ので、この稼ぎの半分を私達にくれる予定なのだとか。


なんか申し訳ないけど、実際生活がやや困窮気味なのは確かなので、お言葉に甘える事にした。

クィラやメイは迷わずに「本当!?ありがとう!」なんて言ってたけど。そこは遠慮気味に行こうよ。


「おっかしいわね……確かに銀級、金級推奨の魔物もいるって話ではあるけど、大抵は銅級でも倒せるような魔物ばかりだって話だし……」

「このままじゃ依頼失敗の可能性もあるかも」

「そういう不吉な事言うのやめなさいよ」


歩きながら話をしていると、段々と雰囲気が重たくなってきた。

森に来た時と完全に逆転している。ジンさんと喧嘩してやや不機嫌気味だったガルムさんは魔物と何度も戦って機嫌を良くし、意気揚々と森に来た私達は依頼失敗の言葉が脳裏を過り、焦り始めている。


気持ち早歩きになりながら、血眼でスライムの痕跡を探していると、突然ガルムさんが私達を突き飛ばした。


「ちょっと、いきなり何?」

「バカ、立つな!そこの木見て見ろ!」


警戒する様に周囲に視線を巡らせながらガルムさんが指さした先には、木の幹に刺さった矢が。


それを見た瞬間、私達は一気に血の気が引いた。

全く気付かなかった。もしガルムさんに突き飛ばされていなければ、位置的に後頭部に直撃していたかもしれない。


「あの、ありがとう―――」

「今は礼は良い!静かにしててくれ。全く気配がねぇんだ。音も聞えねぇ……!!」


苦々し気な顔をする彼女に、私達は咄嗟に自分の口を手で塞ぐ。


この場で一番強くて頼りになるのはガルムさんだ。なら、私達はその邪魔にならない様にしなければならない。


「『火の精霊よ、彼女に猛き力を』」


小さな声で魔法を発動し、メイがガルムさんを強化する。すると感覚が強化された事で敵の存在に気づいたのか、舌打ちして拳を固く握りしめた。


「……んだよ、そういう事か。おい!どこに隠れてんのかはもうわかった!面倒臭ぇから出て来いよ!」


ガルムさんの言葉に反応するように、木の上から、草むらから、至る所から人が出てくる。


気づかない内に、囲まれていた。

だからあんな苦々し気な顔をしたのか、と納得する一方で、この最悪な状況に、私は逆に冷静になってしまっていた。


「この隠密、暗殺者か?」

「聡いな、ガルム・リザシラ・オルトリンデ。その通り、俺達は暗殺者だ。―――と言っても、かの暗殺ギルドとは別の組織に所属しているがな」


真っ黒なローブに身を包んだ男が、代表する様に一歩前に出る。


暗殺ギルド以外の、暗殺者集団……?私達が知らないだけで、他にもあったの?


「生憎、暗殺ギルド以外に暗殺者集団が居るなんて聞いた事もねぇな」

「ふっ、知らなくても無理はない。俺達はまだ、一部上流階級にしか知られていない、いわば駆け出し………だがここで貴様を殺す事で、その名は一気に世に広まる事となる。何故かわかるか?」

「さぁな。王女一人殺しただけで有名になれるなんて思えねぇが」

「あぁ、貴様がただの王女だったらな」


男が短剣を取り出し、手の中で弄ぶ。


私も短剣使いだし、冒険者活動だけで金が稼げない時は曲芸なんかで小銭稼ぎをするから良くわかる。

あの手の動き、慣れてる。短剣の魅せ方、扱い方を熟知していて、その上で馴染ませているんだ。


「俺達に依頼をした人物は、とても興味深い話をしてくれた。―――どうも貴様は、かの『狂戦士』ノガミの所有物らしいじゃないか」

「……なんだ。そういう事かよ」

「そうとも!貴様を殺すという事は、ノガミを出し抜くという事!それ相応の実力がある事を示し、俺達が暗殺ギルド以上の暗殺者組織である事を知らしめる!何ならいっそ、ノガミを俺達が殺しても良いかもしれんな……とにかく、貴様を殺す理由はそれだ。依頼かどうかは二の次で良い」


『狂戦士』ノガミ。『三大恐怖』の一角を担う最強の個人。その噂は様々で、中には『七人の魔王』を相手に個人でその軍勢を壊滅させたとか、最強と呼ばれた龍を一撃で殺したとか、御伽噺みたいな話だってある。


そんな男に、真正面から喧嘩を売ろうとしているなんて。途方もない話過ぎて、眩暈がする。

だけど私達が無関係で居られる話でもない。ガルムさんは大事な友達で、何なら私達も目撃者って事で殺されるかもしれない。


つまり、このまま黙っているなんてありえない、って事。


足が震えるけれど、何とか立ち上がる。

それはメイもクィラも同じ。足手まといかもしれないけど、一緒に戦いたいんだ。


「……お前ら」

「邪魔にはならないわよ、私達。―――多分」

「足は引っ張りません。―――きっと」

「魔法支援なら、任せて。―――それなりに」

「おう。そんなに自信ないのに立ってくれて嬉しいよ。けど、多分アタシらがやる事はねぇよ」


ガルムさんの言葉に、私達は勿論、周りの暗殺者たちも訝しむような素振りを見せる。


「おかしな冗談を言うな。言っておくが、この場に貴様の飼い主は居ないぞ?周囲の警戒は何度も行って、完全にフリーな状態だったから狙ったのだ」

「ばーか、お前アイツを舐めすぎだ。―――っつーか、さっきから言ってる事滅茶苦茶なんだよ、お前」

「何?」


小馬鹿にした態度で両手を広げると、男がさらに一歩前へ進んだ。


勘だけど、あの人多分沸点低いよね。

既にちょっとキレ気味だし。


「アイツが言ってたぜ?暗殺者ってのは目立たねぇで、殺す直前まで隠れ潜んで、何なら殺す瞬間すらその存在を誰にも知らせねぇ物だって。常に冷静で冷酷で、誰かに噂される事も恥なんだとさ」

「……それを、よりによってあのノガミが?くっ、はははっ、傑作だな!ヤツの姿とは全くもって正反対じゃないか!下手な冗談は止せよ。あの狂人が、『狂戦士』が、そんな殊勝な事を言うかよ。そもそも話が通じるかどうかも怪しいがな」


ガルムさんには申し訳ないけれど、こればかりはあの男の意見に賛成だ。

『狂戦士』は、本当に狂っているから『狂戦士』なのだ。なんなら自分が暗殺者である自覚も無いような気がする。勝手な予想だけど。


しかし彼女は不敵に笑うだけで、何もしない。

警戒心の欠片も無いその佇まいに、男は不快そうに舌打をすると、右手を掲げ、振り下ろした。

攻撃の指示だ。全方位から、矢が襲い掛かる。


このまま何もしなければ、間違いなく死ぬ―――。


私達が咄嗟に武器を構えると、信じられない光景が目の前に広がった。


「……はっ?」


男の間抜けな声が響く。

だがそれも無理はない。何せ、矢が全て落とされたのだから。


誰に?


その正体は、ちょうど男の正面に、彼と同じように黒い外套に身を包んで、立っている。

嵐の前の静けさと共に、その手に剣を携えて。


「き、貴様……貴様、まさかっ!?」


新たに現れた何者かは、俯いていた顔をゆっくりと上げ、その正体を見せる。

正確には顔は見せていないが、その正体を示す仮面が、私達にも、勿論暗殺者たちにも見えた。


―――ノガミだ。


噂で聞いた。新聞で見た。話に何度か上がった。似顔絵のような物で、その仮面も姿も何度も見た。


「ふふっ、はは、ハハハハハッ――――ヒャァーッハハハハハ!!!」


空を仰ぎ哄笑するその姿は、まさしく恐怖の権化。

『三大恐怖』の中で最も異質で最も強く、何より狂っていると言われる『狂戦士』は、直接その姿を見る事は無いだろうと思っていたその男は。


「暗殺者なんだってなぁ、お前らッ!!ギャハハァッ!良いぜ良いぜ、んじゃ俺と一緒に人殺し勝負しようぜ勝負勝負勝負ゥッ!!どっちが先に全滅するかどうかァッ、俺一人とお前ら全員でやろォオオオオオぜェエエエエエエッ!!」


今、私達の前に、居る。

おまけですが、冒険者ではない主要メンバーを戦闘能力のみでランク分けするとこんな感じです。


鉄級→祝福無しのジン(鉄の二)、セナ(鉄の三)

銅級→日陰者同盟三人(銅の三)

銀級→カルマ(銀の一)

金級→ギルドマスター(金の一)

白金級→ガルム(白金の一)、ローラン(白金の一)

金剛級→ノガミ(金剛の一)


なお金剛級は存在自体はありますが歴史上そのランクに生きた状態で到達した冒険者は四人しかおらず、全員が金剛の三で止まっています。

現在その中の一人が生きていますが、ランクアップまではまだ遠いようです。


また、金剛は人外の領域という言葉が存在するように、そもそも金剛級は死亡後の二段階上昇以外で到達する物ではないと考えている人が多いです。

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