表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暗殺者ですが、狂戦士扱いされて困ってます  作者: 砂糖 多朗
第一章 狂乱の暗殺者、ノガミ
15/50

狂乱と魚人

「マルク………お前、やっぱり」

「ほう?貴方の事だから、てっきり何もわかっていない物と思っていましたが……成長しましたなぁ。元従者として心に来るものがある」

「……元、ね」

「えぇ。元、ですとも」


何が何だかわからない私達を置いて、話は進む。


言っている言葉の意味はわかるけど、もしそのままの意味ならガルムさんが貴族とか、そこら辺の人って事になる。

でもアステリア王立学園唯一の平民出身だって自分で言ってたし、村長には獣王国の兵士って名乗ってたらしいし……どちらにせよ、身分が高い人って訳じゃないはずなのに。


隠してたって可能性もあるけど、身分って普通ひけらかす物だと思うけど……平民の私にはわからない、複雑な事情ってヤツがあるのかな。

別にガルムさんが貴族とか王族とかって決まった訳じゃないけど。


「で、その死体を残しっぱなしにして何がしたかったんだよお前」

「貴方をおびき寄せる為ですよ、ガルム嬢。死体自体は元々別の事情で回収していたのですが、つい先ほど、そちらのご友人方と海に潜る話をしていたのを聞いて、こちらで利用した方が有意義かと」

「なんでアタシを―――」

「その死体、元々何に使う予定だったんだ?」


ガルムさんの言葉を遮る様に、ジンさんが尋ねる。

するとマルクと名乗った魚人は肩を竦めながら、丁寧な口調を崩して答えた。


「別に大した予定は無かったさ。俺の調教(テイム)した魔物の餌にしようと思っただけ。―――あのノガミも死体がどうなろうと気には留めないだろうしな」

「その死体、やはりノガミの……!!」

「あぁ。奴の暗殺とやらを見せてもらったが、まさしく狂戦士(バーサーカー)。最後の一撃なんか、奴を崇拝する輩が居るのも頷ける『暴力』。神話ってのをその目で見た気分だったぜ」

「えっ」

「……ノガミ教団の話か。いくら『三大恐怖』などと呼ばれていても、所詮は狂人の暗殺者。単なる犯罪者を崇拝するなんて、悪いが気が触れているとしか思えないね」

「待って何その話知らない」


やけに狼狽した様子のジンさんが目立つが、二人は特に彼を気にする事無く、話を続ける。


「はははっ、狂った奴ってのは誰の手にも追えない領域に辿り着くもんさ。その最たる例がノガミで、それに続こうとしてるのが教団トップのあの女……なんだっけ?『狂愛』の―――まぁ良いか。今は関係ないしな」

「話せよ気になるだろ!!」

「あぁ、確かにどうでも良いな。―――死体を利用し、彼女をおびき寄せた?事情はともかく、お前が真っ当な奴じゃない事はわかった。傭兵ギルド所属の身として、見過ごすわけにはいかないね」

「アステリアの傭兵が、このマルク様に勝てると思わない方が賢明だがな。―――待ってなガルム嬢。この身の程知らずを殺してから、貴方も殺して差し上げよう」


マルクの言葉を聞き、彼女は咄嗟にジンさんの背後へ隠れる。それを見て笑みを深くし、直後目にも止まらぬ速さでローランさんへ接近。

彼が反応するよりも早く、その太腕が腹部へ鈍重な一撃を加えた。


水中でありながらその衝撃は離れた私達の下まで届き、ローランさんは近くの巨岩へ体を叩きつけられた。


「ッ、ローランさん!?」

「大丈夫、ギリギリ防げた。―――なるほど、強いね。今の一撃だけで、相当鍛えてるのがわかったよ」

「そりゃあどうも。なんせ代々獣王に仕える家系の生まれ。戦い方も鍛え方も、長く長く受け継いできてるのさ」

「あぁ。君は確かに強い。しかも地道に鍛えた上の力だ。―――だけど、俺はさらに上を行く」


ローランさんの右目が銀色に輝き、刀身が湯気のようなオーラを纏う。

それを理解した頃には、彼はマルクへ肉薄し、剣を振るっていた。


「手加減無用ッ、セイクリッド・ストライク!」

「へぇっ、『祝福』持ちかよ!!」


純白の極光がマルクを飲み込み、私達の目には見えなくなる。

だが、ローランさんの表情は優れない。あんな攻撃、一撃受けただけでも瀕死……最悪死ぬだろうに。


―――いや、受けてない。ローランさんの放った極光は、()()していた。


「五日前の死体を、まるで新しい死体のように維持させたり……今、俺の攻撃を止めたり。君の『祝福』、前に見た事があるね」

「『試練』の難易度は高くねぇからな。お前の職場にもいるんじゃねぇか?俺と同じ『固定の祝福』を持ってる奴がなぁッ!!」


置物と化した力の奔流を跳ね除け、マルクは右手を振るう。

ソレをローランさんは受ける事無く躱し、すれ違いざまに胴体を狙って一閃。

しかしその一撃はマルクの左肘に叩かれ、突如動きを止めた。


「あぁ、勿論いるね。ちょうど俺の先輩が同じ『祝福』の持ち主さ」

「そうか、そりゃ残念だ。知られてねぇ方がやりやすいからなぁ。―――ま、知られてようが関係ないな!」

「それは俺も同じさ。武器が無くても、相手が『祝福』持ちでも、ソレを超える力がある!シャイニング・バースト!!」


飛び退きながら技名を叫ぶと、突き出した右手の先に白い塊が生まれる。球体のソレは一瞬で膨張し、いくつもの光の筋となってマルクを襲う。


回避するなんて絶望的に見える弾幕を前に、しかし彼は怯むことなく前へ進み、一つ一つ攻撃を避ける。

時折体を掠めたり、いくつか攻撃を受けてはいるが、立ち止まる事は無かった。


そして駆け寄った勢いのままローランさんに衝突。肩で鳩尾を抉る様にぶつかった瞬間、最初の一撃で壊れかけていた潜水装備が完全に壊れた。

大量の空気が即座に上へ上へと泡の姿で消えて行き、海水を飲み込んでしまったローランさんは動きがさらに鈍る。


その隙を狙うように、岩に張り付いたまま動かない彼を連続して殴る。背後の巨岩ごと、何度も何度も、重く鈍い音を響かせながら。


「っ、『水の精霊よ、敵を貫く槍を』」

「無駄だぞお嬢ちゃん!俺に遠距離攻撃の類は通用しない!!」


メイが放った水の槍は、マルクの手に触れた瞬間静止する。ローランさんの光や、剣のように。


『試練』を乗り越えた人間に与えられる強大な力、『祝福』。

触った物を停める力も、『祝福』なら頷ける。持たない私には、理不尽な力に思えるけど。


「ど、どうしよう……」

「どうするも何も、このまま放っておいたらローランさんが殺されちゃうでしょ!?」

「あぁ。だろうな」

「っ、ジン!ローランさんと、友達なんでしょ!?早く助けに―――」

「言われなくてもそのつもりだっての。―――ただちょっと、色々考えてただけだ」


縋りついていたガルムさんの手を優しく離し、ゆっくりと歩き出す。

ただならぬ雰囲気の彼に、慌てていたクィラも押し黙り、後退った。


言いようの無い緊張感が私達を襲う中、彼は足を振り上げる。マルクも攻撃の手を止め、彼が何をするのか見つめていた。


「楽しんでるなぁ、お前。―――次は俺と遊ぼうぜ」


いつの間にか魔道具を外していたようで、何を言っていたのかはよくわからない。

だが、なんとなく口の動きを見る限り、そんな言葉を言っていた気がする。


言い終わると同時、振り上げた足が地面に叩きつけられ、私達の視界が真っ暗になる。

いや違う。大量の砂が巻き上げられて、視界が塞がれたのだ。


……目を閉じる直前。私の気のせいだろうが、不思議な物を見た。

ジンさんの右目が濁った虹色に輝き、彼の口が狂気的な笑みを浮かべているように、三日月の形に変わったような、そんな物が。


※―――


「随分派手な目潰しだな!」


いいや、目潰しはおまけだ。


『狂乱』を発動し、一瞬で肉薄。驚きで硬直した体を切り裂き、解除しつつ後方へ離脱。

水中で動きが鈍っているとはいえ、この一連の動作に一秒とかかっていない。動けてるぞ、俺。


『狂乱』発動の影響で消えていた水泡を再び出し、酸素を補給。

水中での戦闘は、『狂乱』発動中の魔法使用不可が一つの課題になってくる。水泡が水中で呼吸をする唯一の手段だから、魔法が使えない=呼吸ができないという事になる。

一応無呼吸、無酸素状態で一時間弱耐久するのは可能だが、戦闘……それもリン達に『祝福』を使っている事を知られないように気を使いつつ、となれば短いスパンでの呼吸は必須。


だから今回俺の取る方法は、『砂埃で相手の視界を奪いつつリン達に俺の姿が見えないようにする』、『狂乱で接近と一撃を強化し、当てたら即離脱』、『相手に間合いや立ち位置を知られないようにしつつ水泡で呼吸』、の三つ。これの繰り返し。


「ぐっ!?くそっ、チマチマした攻撃しやがって!」

「ヒャハハハハハッ!!愉快なダンスだなァッ!!」


勿論水中。魔道具を外した俺の声は誰にも聞こえない。ついでに水泡がない状態で口を開いている為、巻き上げた粉塵が入ってくる。

うへぇ、ジャリジャリする。


地面を踏みつけ、砂塵に紛れて接近し、一閃。それをひたすら繰り返しながら、しかし相手に読まれ無い為に攻めるタイミングを微妙にズラすなどの工夫を怠らない。


まさしくダンスだ。俺のエスコートに合わせて、マルクがうめき声と共にステップを踏む。

一つ残念な事と言えば、砂塵のせいで誰もダンスが見えない事か。まぁ、見えたら俺の顔も見える事になるし、砂を巻き上げるのはやめないけど。


「ぐっ、このクソ野郎ッ!!」


しばらくの間一方的に攻撃されていたマルクは、正確なカウンターを諦め乱暴に両腕を振り回す。

魚人は水中では、陸上よりも力は強く、体は堅牢になる。種族特性というヤツだ。

ただでさえ硬い腕が豪速で振り回されれば、攻撃も通らなくなる。やはり水中で魚人と戦うのは分が悪い。


当然、勝てない事は無いが。


「視界を奪ってチマチマ殴ってりゃ俺を倒せると思ったか!?悪ィがお前の攻撃、全然効いてねぇぞ!」


そりゃ水中ブーストかかってるなら当たり前だろうよ。


職業柄あらゆる存在を相手にする身だ。

魚人を殺す事くらい何度も経験している。相手に有利な状態……こうした水中での暗殺も、当然経験済み。

だからこそ、そのタフさや厄介さを熟知している。

一撃でも喰らえば、全力で防御しなければ致命傷になりかねないとか。普通の人間なら即死級の一撃だろうと、場合によっては無傷で済まされる事があるとか。


マルクが無茶苦茶に暴れ始め、攻めにくい状況が生まれる。

追いつめられた水中の魚人が必ず取る行動だ。つまりアイツは口先では強がっている物の、この手段を使う他ない状況まで追いつめられているという事。


「そして弱点も対処法も、全部理解してるんだぜ?ヒャハハハッ」


愛用の片手剣を地面に突き刺し、水泡の中で嗤う。


殺しはしない。ガルムの関係者である以上、色々聞き出す必要がある。

ただ今後一切抵抗できないように、完全に無力化するだけだ。


そう。()()()()()殺さない。


「どうしたどうしたァッ!!全然効いてねぇってんで、ビビってんのか!?」


俺が砂塵を上げる必要はない。暴れるマルクが、勝手に俺の姿を隠してくれる。

今度は視界を奪う事で、俺が攻めにくい状況を作っているつもりなのだろう。

つくづくテンプレ通り、わかりやすい奴だ。


水中でも怒号が良く聞こえるが、それに一々返事をするような真似はしない。

ただ静かに構え、右手に『狂気』を集める。


時に、人の心というのは弱い。

心臓に毛が生えたような人とかそんな言葉が存在するが、それは外的要因(失恋とか別離とか)にある程度の耐性があるだけで、精神そのものを直接破壊する攻撃には耐えられない。


―――例えば『狂気』に精神を蝕まれた時。

自我は崩壊し、侵された人間は、その個人として死亡する。


ゆっくりとマルクへ近づき、俺の接近に気づくことなく周囲を乱暴に破壊し続けるヤツの体へ触れる。

『狂気』を纏った、ドス黒い右手で。


「ッ!!?ァッ、が……ッは」


呻き声と共に、マルクは動きを止める。砂塵の供給が無くなり、俺達の姿が露になる。

だがもう関係ない。『祝福』は既に解除している。

決着が着いたのに、いつまでも狂乱する必要はないからな。


「う、あ、うあぁあ、っ、ははっ、ハハハッ!!あーッ、ああああッ!!」


笑い、泣き、怒り、叫ぶ。規則性の無い感情を爆発させ続けるマルクは、頭を抱えて蹲っている。


これが『狂気汚染(インフェクション)』。物理的な破壊力は持たないが、相手の精神を徹底的に汚し、凌辱し、破滅させ、崩壊させる。


因みに『狂気汚染』をとことん薄めて使う事で、逆にメンタルケアにも使える。ガルム達に使ったのが良い例だ。崩壊した精神を直したり、沈み切った気分を高揚させたり。そういう使い方もできる。


「終わったぞ」

「い、いつの間に……って言うか、マルクはその、どうなってるんだソレ」

「さぁ?気でも『狂った』んじゃないか?」


白々しく答えると、なんとなく察したのか、彼女は押し黙った。代わりにリンが俺の下まで駆け寄り、腕を掴んだ。


いきなりどうした、と目を白黒させたのも束の間、彼女は俺の腕から始め、目に見える範囲を軽く見渡して安堵の溜息を吐いた。

どうやら、俺が怪我をしていないか心配になったらしい。


そりゃ、ローランがあんな派手にやられたんじゃ不安にもなるだろう。

素直に感謝を伝えると、ふと我に返ったように顔が真っ赤になり、掴んでいた俺の腕を突き放した。


さっき魔力同調した時も、手を掴んだら照れてたし……年ごろだからな。俺は人生二週目だしあんまりそういうの無いけど。


「つーかそうだよ。ローランどこ行った?潜水装備破壊されてたし、その後ボコボコに殴られてたけど」

「あっ!そ、そうだローランさん……!」

「……もしかして、アレ?」


メイが静かに頭上を指さす。

その先に視線を向けると、水面近くに浮かび、漂っているローランの姿が見えた。


いや、不味くないか!?


流石にアイツに死なれては(色々と)困るので、急いでアイツの下まで泳いで向かい……とその前に、リン達にマルクを連れて上がるように指示し、ローランを回収。

すぐさま砂浜にヤツを運び、呼吸を確認。


当然息はしていない。水を飲んでしまったらしいし、気絶している。


ならここは人工呼吸―――と思うかもしれないが、流石は古代魔法。この状態から回復する魔法が実はある。


「『人体操作』、『水流操作』、『空気操作』―――」


古代魔法の基礎の基礎、何かを操作するという簡単な工程。それをローランの体で行い、気道の確保、飲み込んでしまった水の排出、人工呼吸を再現。

多分第三者目線で見れば中々エキセントリックな光景だろうが、やっている俺としては至極真面目だ。


何せこの男、とんでもない話をいくつか聞かせてくれたのだ。


暗殺ギルドの暗殺者たちに賞金がかけられているという事。五日前の俺とアインの戦闘で傭兵が動き、今でも俺を探して傭兵たちが行動しているという事。


前者はまだ良い。王様にすら何度か依頼された事のある俺だが、所詮は人殺し。金で犯罪やってる俺達なんて、現行犯なら捕らえられても文句は言えない。

どこか裏切られたような気もするが、そもそも金で裏切ったり寝返ったりを簡単に行うのが暗殺者。私的な感想は敢えて口にしないのが華である。


だが傭兵たちが俺を追っているという事実。それは良くない。

ローランの話だと既に諦めムードらしいが、ここでローランの死体が発見されたなんて話が広まれば、きっと連中はこう考えるはずだ。


『イカレた殺人鬼、ノガミを追っていた将来有望な少年が殺された。きっとノガミを本当に見つけて、戦ってしまったんだ』


当然そんなはずが無い。つーかする訳ねぇだろ、誰が快楽殺人者だ。殺すぞこの野郎。


しかしソレをいつもの仮面をつけたノガミモードで傭兵ギルドの拠点まで向かい、お偉いさん相手に「いやー、誤解っス」なんて挨拶した所で信じてもらえるわけがない。ノガミを名乗る偽物と思われるか、よしんば本物だと思われたとて何らかの罠と誤解されるのがオチである。


早い話、ローランがここで死ねばノガミとしての俺の立場が危うくなる、という事だ。

勿論助けられるヤツは、殺せと依頼されていなければ基本助ける主義の俺である。そういう意味でもコイツにはまだ死んでもらいたくない。


「………げほっ、ぐ、がはっ、ごほっ!―――っ、こ、ここは?」

「やっとお目覚めか。陸地だよ陸地。海から上がってすぐの砂浜」


咳き込みながら目を覚ましたので、魔法を解除して軽く挨拶。

それに対し小さく会釈を返してきたので、異常無さそうだとようやく一安心。


「あの、魚人の男は?」

「俺が倒しておいた。お前の介抱先にするために、アイツの方はリン達に任せちまったがな。ただあの体の大きさじゃ、四人でも持ってくるのは厳しいか」


正直ローランの意識が戻るよりも先に帰ってくると思っていたが、しかし水面は穏やかに波が行ったり来たりを繰り返すだけ。

実際マルクは巨体だったし、重さも相当の物のはず。少女たちに任せるには酷だったな、と軽く反省しながら、俺が取りに行こうと海に足をつけたその時。


「はぁっ、やっと上がったー!」

「……つ、疲れ……た」

「メイは私達に着いてくるだけで必死で、この人持ったわけじゃないでしょ」

「おー、お疲れさん。後は俺が運ぶよ」


戦闘中で無ければ弱体化は無い。三人で持ち上げていたマルクを受け取り、その辺に置く。そして波打ち際で力尽きたように倒れているメイを丁寧に抱き上げ、海から少し離れた場所へ運んでから優しく降ろす。ヘルメットを外して、外の空気を吸えるようにする配慮も忘れない。


「あ、ありがとう」

「おう。けど頑張ったな。ちゃんと三人に合わせて泳いで来れて。魔法使いってなると、必然的に体力不足、力不足になるモノだからな」

「……けど、それで言い訳するのも、情けない」

「なら体力づくり頑張らないとな。王都に戻ったら一緒にやるか?」

「うん、やる……」


その返事の後、メイは目を閉じて深呼吸に集中し始めた。

こりゃ体力不足が深刻だな。潜水装備を纏って泳ぐだけでも体力は結構使うが、それにしてもこれは酷い。


脳裏で俺が昔やった事をベースに最適なトレーニングメニューを考えつつ、リン達の方も労う。

ガルムにも声はかけるが、少し探り探りというか……なんせ旧知の仲に襲われた後なんだから、どう接するのが正解が難しい。


何が問題って、今のガルムは前にも言った通り精神がまだ安定していない状態。

今はまだ保てているが、俺が余計な事を言って精神崩壊させては不味い。


幸いガルムはあまり喋ろうとしない。どこか不気味なくらい静かに、やや俯き気味に黙っている。


「じゃ、マルク。色々聞かせてもらうが………その前に、できればリン達には離れて貰った方が」

「いや、良い。どうせさっきの会話でなんとなくわかってるだろうし、ここで明かして良いよ」

「……本当に?」

「リン達なら問題ねー。寧ろいつまでも隠しておく方が気分悪ぃよ。―――ま、あまり良く知らないローランに聞かれるのはちょっと怖いけど」

「なら、俺は席を外すよ。多分だけど、彼女にとって大事な話なんだろう?なら、まだ会ったばかりの俺が聞くのはマナー違反さ」


そう言って、ローランは覚束ない足取りながらも離れていく。

きっと近くに居るだろう傭兵たちに話をしに行くんだろう。ノガミは見つからなかったが、代わりにその被害者らしき死体を発見した、とか。マルクという魚人が、自分の友人達を襲った、とか。


ローランが去り、後にはマルクを除けば普段のメンバーが揃う。

メイだけは横になったままだが、全員の視線がガルムに向かった。


「えっと、さ。もうわかってると思うけど、一つ隠してたコトがあって」


申し訳なさそうに、視線をあちらこちらへ移動させながら、たどたどしく言葉を出す。

どこか震えた声は、今から言う話を受け入れて貰えるかどうか不安に思っている事が容易に感じられた。


「………アタシ、実は」


数秒後に口を開き、そしてそこで言葉を切り、俯くのをやめ、リン達の目を見る。


その目に、迷いはない。


「―――獣王国の、王女なんだ」

祝福の紹介は次回です。


因みにですがローランがあっさり負けたのは相手の有利な場所であり、自分が圧倒的不利な状態(水中かつ潜水装備)であった為なので、総合的な力自体ではマルクにはギリギリ勝っています。

とはいえ戦闘経験という部分においてローランが勝てる相手はそうそう居ないので、マルクに負けたのは必然と言えば必然です。


圧倒的火力でゴリ押せる相手以外にはまだ弱いんです。まだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ