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暗殺者ですが、狂戦士扱いされて困ってます  作者: 砂糖 多朗
第一章 狂乱の暗殺者、ノガミ
14/50

鉱石探し

紹介できる祝福が無くなったので、前書きはお休みします。

作中に祝福が登場し次第再開します。

「それで、俺達に何を頼みたいって?」


海辺の飲食店で、私達三人とジンさん、ガルムさんの二人が向かいあって座っている。

せっかくの旅行中に、私達の都合で呼び出してしまって申し訳ないという思いと、今からもっと情けない頼み事をする事とで顔が真っ赤になっているのを感じながら、私はゆっくりと口を開く。


「その……どうしてもお手伝いして欲しい事が、ありまして」


うぅっ、恥ずかしい……!!こんな事を、よりによってこの人達に頼むなんて、なんて情けない……!!


俯いて言葉に詰まる私に代わって、潜水装備に身を包んだメイが、眉尻を下げながらボソボソと頼み事の内容を伝えた。


「……マナライト鉱石探しを、手伝って欲しい」

「だろうと思った」


即答されちゃった。


呆れたような笑みと共に溜息を吐いたジンさんに、私達全員が一斉に下を向く。


そう。ビットリアに来てから既に一週間と三日。ジンさん達がアステリアに帰るまで後もう四日程度しかなく、それに合わせて帰る予定の私達は切羽詰まっていた。

探せど探せどマナライト鉱石は見つからず、明日何とかなる、明日こそ見つかると話し合い続けていれば時間はあっという間に過ぎていて。


何なら本格的に探し始めたのは三日前。それまでは大半遊んで過ごしていたせいで、こんなギリギリになってしまったのだ。

もう少し遊ぶのを我慢していれば。早く見つけて残りの時間を遊びに割けば。きっとこんなことにはなっていなかっただろう。


まるで顔が燃えているみたいに熱い。なまじ憧れの二人だから、こんな醜態をさらす事になって辛い。

これも全部、ビットリアに興味を惹かれる店が沢山あるのが悪い。私達の自制心の無さはこの際考えない。


「当てようか。少し前まで『どうせすぐに見つかるだろうし、先に観光しておこう』とか言って遊んでて、いざ本格的に探したら思いの外見つからずに時間だけ過ぎて、俺達が帰るタイミングに合わせるためにはそろそろ見つけないと不味いって事で頼んできたんだろ?」

「………おっしゃる通りです」

「だって、どのお店も珍しい物ばっかり売ってて」

「う、海でとれる素材は、水魔法の触媒に向いてるし……」

「別に責めてるわけじゃねーからそう落ち込みすぎんなって。別に石探しくらい手伝うさ。なぁ?」


彼に同意を求められたガルムさんは、やけにジトッとした目を向けて、「ふーん?」とだけ呟く。

意味深な態度だが、ジンさんはどういう感情が込められているのかわかっているようで、上手く説明できない微妙な表情を見せた。


「……ジン・ギザドアとして頼まれただけなんだもんな。そりゃ前みたいな面倒くさい言い方しねぇよな」

「え、どういう事?」

「あー、知らなくていい。うん。ほら、陽が昇ってる内に探した方が良いだろ?さっさと行こうぜ、うん」


立ち上がり、私達を急かすように足早に店を出ていく。よくわかっていない私達が顔を見合わせていると、ガルムさんが鼻で笑ってから後をついて行った。


……なんだかわからないけど、手伝ってもらえるなら良いや。


※―――


「今更なんだけどアタシ、マナライト鉱石って良くわかってないんだよな。どんな石なんだ?」


比較的人のいない場所……あまり迷惑にならない場所でメイが先んじて買っていた全員分の潜水装備(魔物素材の、鎧……?)を着ながら、そんな話をする。


そういえばマナライト鉱石について説明してなかったっけ。私は一応魔法使いでもあるから何となく知ってるけど、そうじゃ無かったら知らん無くてもおかしくない。

まして獣人のガルムさんが、魔法関連の知識を幅広く持ってるとは思えないし。


「体内に魔力が残留してる魔物の死体がいくつか集まって、土の中で固まった物の事で……見た目は、緑色の宝石」

「透き通ってて綺麗だから、見つけたら直ぐにわかると思うよ。………まぁ、結構深く掘らないと見つからなさそうだけど」

「特徴さえわかりゃ大丈夫だって!アタシ、力仕事は得意なんだ!」

「マナライト鉱石は壊れやすいから、力任せに掘り続けてたら気づかないうちに粉々になってた、なんて事になりかね無いぞ」

「げ、マジかよ」


笑顔でツルハシを素振りしていたガルムさんが、露骨に嫌そうな顔をする。繊細な作業は嫌いなのだろう。


とはいえ最初から細かく力加減を気にする必要は無い。どうせかなり奥の方に埋まっているのだから、しばらくは雑な採掘で問題ないはずだ。


その事を伝えると彼女は再び元気を取り戻し、意気揚々と海に足を踏み入れて、


「ちょっと待った!!」


後方から男の人の声がかけられ、私達全員が足を止めた。


振り向くと、そこには水着姿で剣を携えた、金髪の男の人が立っていた。

す、凄いイケメン。なんで水着で武器を持ってるのか全くわからないけど。


「今からここら一帯の調査が……って、ジン?君、どうしてこんな所に?」

「えっ、ジンってこのイケメンと知り合いなの!?」

「……まぁ、一応」

「友達さ。俺はローラン・アランデール・ゼパルス。ジンと同じ、アステリア王立学園の生徒だよ」


爽やかに笑うローランさんに、クィラの目が輝く。

面食いで常に玉の輿を狙う彼女にとって、イケメンで貴族(或いは大商人などの金持ちの子供)な彼は、何としてでも逃したく無い相手だろう。


あからさまに距離を詰め、やや高くした猫撫で声で「調査って、何をするんですかぁ?」と質問した。

友人のこんな姿を見て、私はどう思うのが正解なんだろう。少なくともメイは深くため息を吐いたし、ジンさんは愉快そうに吹き出して居るが。


「五日前、この近くで凄まじい音が響いたのは覚えてるかい?」

「覚えてるも何も、あんな音と振動。そう簡単には忘れられない」

「もしかして、あの音って魔物のせいだったんですか?」

「いや、魔物なら音を出すだけで済むはずがない。……ここだけの話だが、僕は傭兵ギルドに所属しててね。ビットリア支部にも先日挨拶に行ったんだ」

「傭兵ギルドって、凄いじゃないですかぁ!冒険者とかと違って、入団がとても大変って聞いてますもん」


う、うわー、必死すぎる……。


見ているこっちが恥ずかしくなる様な媚の売り方だが、ローランさんは笑顔を絶やす事なく当たり障りのない返事をして受け流し、説明を続ける。


「そこで聞いた話なんだが、どうもあの騒音、ノガミが関わっているらしい」

「の、ノガミ!?」

「あの狂戦士が?どうしてビットリアに……?」


ノガミ。少なくともアステリア王国……どころか今生きている人の殆どが知っているだろう『三大恐怖』の一角。

狂気的な高笑いと共に隠れる事なく標的の前に現れ、圧倒的な暴力で殺害する。彼が標的とした人間は必ず殺されており、金さえ払えばどんな依頼でも受けるという。


笑顔のような模様の描かれた不気味なお面で顔を隠し、黒いローブに身を包んだ彼は、まさに恐怖の象徴。

私もセナも、お母さんから「悪い子にしてるとノガミを呼ぶよ」と叱られた。それはきっと、メイもクィラも同じだろう。


「あの轟音の発生地……つまりこの砂浜の近くに住んでいる人、或いは近くを通りがかった人達が、皆口を揃えて『狂ったような笑い声を聞いた』と証言したらしい」

「で、でもなんで砂浜に?ノガミって、普通は大金持ちとか、貴族とか、王族とか……そういう人達を狙うんじゃ」

「理由はわからない。海辺に居た要人を狙ったのか、理由も無く暴れていたのか……暗殺ギルド内に裏切者が出て、その粛清を行ったという説すらある。―――けど、大事なのは奴が戦闘を行ったという事。そしてノガミと思しき人物がビットリアに滞在している可能性が非常に高いという事さ」

「一つ聞きたいんだが、どうして傭兵ギルドが―――いや、お前の独断かもしれねぇが、ノガミなんて危険人物を追うような真似をしてるんだ?()()()()()所属の人間だからって、追いかけて捕まえるだの殺すだのするわけにはいかないんじゃねぇのか?」


ずっと黙っていたジンさんが口を開くと、ローランさんは少しだけ考え込む素振りを見せてから、小さく「構わないか」と呟いて答えた。


「傭兵ギルドには常時出されている依頼がある。それはどの国のどの支部も同じでね。―――罪人の捕獲ないし、殺害。指名手配されているような人間は勿論、暗殺ギルド所属の連中も罪人扱いさ。何せ、情報ギルドなんて名前を偽って、金で人の命を奪うような連中だからね。どの国もどの貴族達も大っぴらに口にしないだけで、常に多額の賞金がかけられているのさ。俺は金に興味は無いけど、ビットリア支部はそうでもないらしい。俺にまで支援を要請して、ここ数日間は砂浜から近辺を何度も何度も調査して、奴の影を追ってるよ。―――という事でここを一度離れて貰いたかったんだけど、構わないかな?」

「……へぇ、そりゃ知らなかったよ。良い事聞いた、ありがとな」


どこか含みのある口調で礼を告げると、ジンさんは潜水装備を脱ぎ、ツルハシを地面に置いた。


ローランさんの言葉に従って、ここから離れるのだろう。だがそうなると困るのが私達だ。

一分一秒すら惜しい今、調査の為とは言え鉱石探しができないのは不味い。


「あの、私達も今、どうしても海に潜らないといけない理由があって……」

「そうは言われてもな……調査自体はさほど時間もかからないだろうし、違う所で時間を潰してもらえたりはしないかい?」

「………別の場所から海に入るのは、可能?」

「いや、この砂浜一帯を傭兵ギルドで封鎖してるから、調査の間海には入れないけど……」

「そこを何とか、出来ませんかぁ?」

「うーん、参ったな……」


悩む素振りを見せるが、恐らくこれではダメだろう。彼の意志は固いように見える……というか、彼の一存で決められるような事ではない。仮に他の傭兵に確認を取った所で、断れられるのがオチだ。


チラ、とジンさん、ガルムさんに視線を向ける。あんな恥ずかしい事情を話して協力を頼んだ後だ。他の事で頼るのに、躊躇いは無い。

私達三人の視線を向けられると、二人は互いに顔を見合わせて、すぐにジンさんが肩を竦め、ローランさんへある提案をする。


「なぁローラン。ここの調査はお前一人でやるのか?」

「?あぁ、そうだな。俺の実力を買ってくれてるのか、五日目になれば諦めてるのか。それが?」

「もし良ければ、調査ついでに俺達の手伝いでもしないか?」

「手伝い?」


頷いて、ジンさんは彼に潜水装備とツルハシを手渡す。そのまま簡単な説明を始めた。


「俺達……というかコイツ等がマナライト鉱石を数日以内に見つけたいらしくってさ。正直一分一秒も惜しい訳だ。人手は多い方が良いし、お前は海中の調査のついでに手伝う体を取れば問題ない。―――まぁ、そんな詭弁に乗っかりたくないって話なら別だが」

「………なるほど、ね。これ、何かと思えば潜水用のアレか。本当なら断るべきだけど、ビットリア支部自体がすでに諦めムード。俺もそこまで乗り気じゃないし、困ってる友人達を助ける方がよっぽど有意義だね」


遠回しに手伝うと告げ、ジンさんの潜水装備を身に纏う。そしてツルハシを受け取り、海へと歩き出した。


結局私達はマナライト鉱石探しをして良い、のかな?それもローランさんが手伝ってくれるみたいだし、良い事尽くし……って、これじゃジンさんが潜れないんじゃ?


「お前の潜水装備はどうすんだよ?」

「ん、あぁ。いや、実は俺要らなかったんだよな。魔法で何とでもなるから」

「えっ?」


ガルムさんが私達の懸念を代弁すると、彼は周知の事実を話すようにあっさりと答えた。

だが少し待って欲しい。確かに私達の指導をし始めた時、魔法についても詳しいみたいな話はしていた。けれど、魔法が本当に使えるなんて言っていなかったし、なんなら水中で活動できるようになる魔法なんて知らない。


魔法は、魔力という通貨を利用しての取引だ。その相手によって魔法の種類や名前、効果が変わる。

基本的には、妖精と個人間の契約を結び、その妖精の属性の魔法のみを専門に扱う『妖精魔法』か、魔法として起こしたい現象に合う精霊に頼む形で詠唱し、魔法を発動する『精霊魔法』の二つが知られており、他にも信仰魔法とか儀式魔法とか、色々な魔法が存在する。


だが潜水装備が一般的に普及するくらい、水中活動を可能にする魔法は知られていない。というか、使い手が居ない。

だというのに、なんでそんな気負うことなく「魔法で何とでもなる」なんて……。


「ま、詳しくは見りゃわかるさ。ほら、速く入ろうぜ?時間も無いんだから―――さっ!」


駆け出したジンさんが、勢いよく海へ飛び込む。当然装備も無いまま、元気よく。


最初こそ全員が困惑していたが、あれだけ自信満々に飛び込まれてはついて行くしかない。時間が無い事も事実だし、海に近いガルムさんを先頭にして、私達も海に入っていった。


一瞬視界が白い泡に包まれるがすぐにソレは消え、海中の様子がよく見えるようになる。

碧色の装備に身を包んだ四人と、頭部に何か巨大な泡が包み込むように付いているジンさんの姿が、しっかりと。


「『水泡』って魔法でな。呼吸のできる泡のヘルメットが作れる」

「す、すごい。何その魔法、知らない……!この鎧と同じで、風属性の魔法で呼吸できるようにしてるの?外枠は水魔法?泡なんて壊れやすい物の形状を維持させ続けるのも別の魔法?」


水中での会話を可能にする魔道具(ネックレスのような物)のおかげで、魔法マニアのメイが初めて見る魔法を前に大興奮している声も、ややくぐもった感じで聞こえてくる。

私はさほど魔法に詳しく無いが、メイの言葉を聴くと凄い魔法を使っているんだなぁという事はわかる。


「まぁ、古代魔法だからな。燃費悪いし、あんまり良い魔法でも無いよ」

「こ、古代魔法?!嘘、初めて見た!あんな覚え難くて燃費悪くて実用性の無いネタ魔法、本当に使う人いたんだ……!!」


ひ、酷い言われようだ。心なしかジンさんの目尻に涙が見える。


でもメイの言った事は、残念ながら事実だ。

古代魔法は文字通り、魔法技術が発展する前……まだ人間が魔力や魔法について詳しく理解出来ていなかった時に生み出された魔法体系。


本来属性の混合というのは避けるべき行為である。なぜなら人に魔法を扱わせてくれるのは、より魔力に近い上位存在……妖精や精霊といった存在。彼らは一人一つの属性しか持たない為、複数の属性を同時に使うという事は複数の上位存在に力を借りるという事になる。

当然相性が悪ければ効果も下がり、よしんば相性が良かったとしても消費する魔力は通常の何倍にも及ぶ。


しかも詠唱をしていないところを見るに、彼の古代魔法は彼自身で発動している。

魔人や亜人でも無ければ単一属性の魔法ですらまともに使えないのに、人間が複合属性の魔法だなんて。最悪魔力枯渇に陥って死亡するリスクすらある。


「大丈夫なんですか?魔力とか……」

「あ、あー。それは大丈夫。有り余ってるから。さ、時間もないしさっさと下の方に行って、掘り始めようぜ」


ツルハシ代わりに片手剣を持った彼は、より深い方へと泳ぎ出す。

随分迷いなく泳いでるけど、マナライト鉱石がどんな場所に出来るか、わかるのかな?


※―――


「よし、これで10個目!」

「はははっ、流石ジン!だけど俺はこれで11個目だ」

「その内一個は俺と同じ場所で見つけたじゃねぇか!ノーカンだろ!」

「でも先に取ったのは俺だろ?」


私の心配は杞憂に終わり、二人は一時間足らずで20個近くのマナライト鉱石を発見、回収していた。


因みにだがジンさんは私達に「多分ここにマナライト鉱石あるぞ」と適当なタイミングで教えてくれている上、そこを掘れば必ずマナライト鉱石が出てくるので、実際の彼の発見数は16個だ。


「あぁっ、また砕けた!」

「もう四つも壊してるじゃん!マナライト鉱石は希少なんだから、もっと丁寧に掘らなきゃ!l

「う、わ、わかってるけどよぉ……」


耳を垂れさせながら、ガルムさんが居心地悪そうに肩をすくめる。

クィラの言うように、ガルムさんは発見した四つ全てを粉々にしてしまっている。一応破片を回収しているが、当然回収しきれていない分もあるし、確かに勿体無い。


「どうだ、リン。足りそうか?」

「あっ、はい。おかげさまで。後もう二つでも見つかれば、十分だと思います」

「後二つ、ね。……あぁ。ここの下、軽く掘れば出てくるぞ。多分」

「え、本当ですか?」


試しにツルハシで地面を削ってみると、彼の言う通りマナライト鉱石が出土した。

本当に凄い。なんで的中させる事ができるんだろう。


「どうしてそんなにわかるんですか?」

「んー。ローランもやってる事だけど、マナライト鉱石って、魔力を浴びると共鳴……で良いのかな。まぁ、波長を返してくるんだよ。だから、魔力を放出して、反応がある場所を掘れば………ほら」


話しながら抉った場所には、確かにマナライト鉱石が埋まっていた。彼は特に自慢げに振舞う事も無くソレを手で取り、傷がついていない事を確認してすぐに回収箱の中にしまう。


「あ。コレで必要な分終わりか。そろそろ引き上げる?」

「はい。ありがとうございました。―――けど、全部ジンさん達に任せっきりになっちゃいましたね……」

「コツさえわかりゃ誰でも取れるさ。何なら試しに一回、探知やってみる?」


少し離れた場所の採掘を一人黙々と進めるローランさんや、力任せに地面を掘り進めるガルムさんとソレを制止するクィラ。皆の様子を一度確認して、ジンさんがそんな提案をして来る。


ふむ。こういうのは教えてもらってすぐに実践するのが良いと言うし、皆もまだ終わりにするムードではない。

ここはお言葉に甘えて、魔力探知を練習させてもらおう。


頷くと彼は、じゃあ早速と前置きして剣を地面に突き刺し、私の手を握った。

突然の事に驚き、心臓が飛び出たかに錯覚したが、魔力操作の指導をする際に肌を触れ合わせるのは別段おかしなことではない。寧ろ魔力を同調させる都合上、出来る限り身体接触すべきだという事は今時幼子でも知ってる常識だ。


なのに、なんで私、あんなびっくりというか……照れちゃった、のかな。


一瞬の変化だったが、彼には気づかれてしまったらしい。眉尻を少し下げながら、苦笑い交りに謝って来た。


「悪い、いきなり手を掴まれたら驚くよな。配慮が足りなかった」

「い、いえ。寧ろ、こんな当たり前の事でびっくりしちゃって……は、早く始めちゃいましょう!」

「お、おう。―――んじゃ、まずは体内の魔力を……」


私の態度に、恐らく長々とこの話を続けるべきではないと判断したのだろう。何事も無かったかのように繕い、彼は真面目に魔力探知の仕方を解説し始めた。


ストレッチ代わりの魔力操作から始め、その動きを応用して魔力を体内から体表、そして体外へ。

言葉にすればその程度だが、いざ実際にやってみると体表から体外へと放出する工程が難しい。


しばらく苦戦していると、ジンさんは「魔力を放出するよりも、剥すイメージの方が向いてるかも」とアドバイスしてくれた。


試しに魔力を放出するイメージから、体表を覆う魔力の皮を剥していくイメージにすると、先程までの苦戦が嘘のように魔力が流れていく。


「できました!」

「流石。アドバイス一つでここまで上達できるなんて、凄いぞ」

「え、えへへ……そんな事ないですよぉ」


つい口元が緩む。

ここ最近、彼に褒められた時だけ妙に嬉しい。別に滅多に人を褒めないという訳でもないのに。


「じゃあ、次は魔力を出しながら、マナライト鉱石が返してくる魔力の波長を読み取ろうか」

「え、魔力を出したままですか?」

「ステップアップしすぎかもしれないけど、これ以上段階を踏ませるのも難しいしな……こうして魔力を放ってる時点で、ここら一帯のマナライトは全部反応してるし。―――ってか多いなこの辺」


気味悪ぃ、と呟くジンさんに、私も内心で同意する。


マナライト鉱石は、言ってしまえば石になった魔物の死体。それもかなりの数が集まってようやく小さな一つが完成する希少な鉱石だ。

それが、ジンさん達の探し方が優れてるにしても、やけに見つかり過ぎではないだろうか。


「み、皆!大変!」


魔力操作の事が頭から抜け、ここ近辺に一抹の不気味さを感じていた私は、メイの焦ったような言葉に意識を引き戻された。


そういえばメイ、さっきからどこにもいないと思ったら……なんであんなに慌ててるんだろう。


そもそも運動が得意じゃないあの子が、あんな必死に泳いで向かってくるなんて。

バカにするわけじゃないけど、全然前に進んでないし。


「どうしたのよ。そんな慌てて」

「む、向こうの方に、死体が!」

「ッ、なんだって!?」


メイの言葉にローランさんがまず血相を変え、すぐさま泳ぎ去って行く。それをジンさん、ガルムさんが追い、私達はさらに遅れてついて行く。


泳ぐのが苦手なメイを、クィラと一緒に引っ張りながら。


体力が尽きたようで、既にぐったりしている。

魔法使いに体力はさほど重要じゃないとは言え、これでは冒険者として、仲間として心配だ。

今度ガルムさんに、からだ作りについて教えてもらった方が良いかもしれない。勿論その時は、私も一緒に指導を受けよう。


……痩せたいし。


「―――これは」


しばらく泳いでいると、ローランさんが止まる。その視線の先には、確かに人の姿があった。


だが、メイの言う通り。アレは死体だ。その背中にはまるで剣で刺殺されたような痕が残っており、服に血の跡が広がっている。

恐らく、死んでから沈んだ物だ。


「まさか、ノガミが……?」

「いや、違う。俺も一瞬思ったけど、この死体はまだ新しい」


死体へと近寄ったローランさんが、クィラの言葉をすぐに否定する。

丁度こちらに背を向ける形を取っているのでわからなかったが、腐敗はさほど進んでいなかったようだ。

水中だからじゃないのかな、と一瞬疑問に思ったが、私よりもよっぽど詳しいだろう彼が言うのだから間違いないのだろう。


「ノガミの出没は五日前。仮に五日前に殺された死体なら、もっと違う状態になっているはずだ。―――少なくとも、沈んでいるはずが無い。つまり」


ローランさんが、真剣な顔をこちらに向ける。

携えていた剣を抜いて、何かを警戒するように。


「殺した人物は、まだ上に居る」


だから、まだ上がるわけにはいかない。

私達にそう告げたローランさんを、第三者の声が()()()()


「残念ながら、その死体は五日前の物さ。―――何せ俺が、死体が変化しないように細工したからな」


言葉と同時、岩陰から姿を現す何者か。


その姿を見たガルムさんが、息を呑んだのが確かに聞こえた。


「ご機嫌麗しゅう、ガルム・リザシラ・オルトリンデ嬢。覚えているかな、この俺を」


魚の生物的特徴を持つ獣人……魚人の男が、恭しく頭を下げ、顔だけをこちらへ向ける。


その右目は、緑の左目と違い、白く輝いていた。


「誇り高きマルク。お待ちしておりましたよ、プリンセス」

たった数日とはいえ続いていた一日一回投稿が途切れてしまい申し訳ございませんでした。

これからも不定期更新になりますので、気長にお待ちいただければ幸いです。


ただ、もうしばらくは短いスパンで投稿できる……と、思います。

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