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暗殺者ですが、狂戦士扱いされて困ってます  作者: 砂糖 多朗
第一章 狂乱の暗殺者、ノガミ
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転生し、今の俺は。

あらすじにも書きました通り、色々あって修正作業(設定の一部変更等)を開始しました。

暗殺者になりたかった。


淡々と命を奪い、一つの依頼に感慨を覚える事無く、常に冷徹に仕事に臨むクールな男。

それが俺の理想像だった。

だが、暗殺者になるのは極めてハードルが高い。

気配遮断、隠蔽工作、情報収集、死体処理。当然暗殺技能の高さそのものも要求されるし、これ以外にも山ほど必要な技能が存在する。


よしんばこれら全てをモノにできた所で、きょうび暗殺を仕事にする事は不可能に等しい。

フリーの暗殺者は、雇う側も損ばかりなのだ。仮にどうしても暗殺してもらいたい人間が居たとしても、貧乏人なら思い切って自分で手をかけるし、金持ちなら子飼いのヒットマンだの傭兵だのが居る。


そう、無駄なんだ。暗殺者を志す事も、その為に努力し続ける事も。

そんなの、大体小学校五年生くらいの時には理解していた。納得だってしていた。


―――けど諦められなかった!


法悦、とでも言えば良いだろうか。努力する度、叶わぬ夢に焦がれる度、俺の胸中には歓喜が去来した。


トレーニングに励み、人間の限界すら超えるつもりで鍛えた。

あらゆる武術の動きを研究し、模倣し、果てには我流の戦い方を身に着けた。時にはその技を試すべく、道場破りをした事もある。

勉学も本気で挑んだ。科目や内容を分け隔てる事無く、全力で頭に叩き込み、基礎から応用までを完璧にした。

ガスガンで素早く精確に構える練習をし、大人になってからは海外まで行って実銃で練習した。早撃ちから精密射撃、長距離射撃までなんでもだ。

当然、そんな努力が人様にバレてはダメだ。というか、努力を隠す事―――仕事(タスク)を隠す事さえ暗殺者になるための修行だった。

だから普段は、どこまでも普通の人間を装った。なんなら恋愛だってしたし、成人してからの恋人とは同棲さえしていた。


言っちゃなんだが、楽しかった。結局人を殺す事は無かったけど、暗殺者という密かな夢の為に人知れず努力し続けるのは、俺の人生を実に充実させてくれた。

だからトラックに轢かれる直前、これで死んでも後悔は無いって思えた。いや、結婚はしたかったな。恋人と別れたばかりだったけど。

まぁとにかく俺の、野上仁(のがみじん)としての人生は終わった。享年37歳。短いながら実に満足感のある人生だった。


………が、未練云々に関わらず、こういう機会は訪れるらしい。


異世界転生、というモノがあるだろう。前世の記憶、知識を引き継いだ状態で、異世界で新たな生を受けるアレ。

どうも俺は、その当事者になってしまったようで。

中世ヨーロッパ風の、剣と魔法のファンタジーな世界観。『祝福』と呼ばれる力があったり、亜人や獣人、魔人と呼ばれる種族がいたり、ハーレムが王族貴族から平民まで、宗教的にも倫理観的にも当たり前の物であったりと、前世と全く違う世界。

そんな世界に俺は、ジン・ギザドアという辺境貴族の次男坊として転生したのだ。


なんだかんだで手に入れてしまった人生二周目のチャンス。せっかくコンティニューがあるのなら、夢の続きを、理想の果てを追い求めるのが道理という物。


そうと決まればやる事は同じだ。前世で身につけた技能を再び体に馴染ませる鍛錬に始まり、人間の限界を超える為の肉体改造トレーニング、暗殺や戦闘の為の武術全般、魔力量の底上げ等。文字通り血の滲む努力を重ねた。


ただ前世と違い、魔力というファンタジックな力や前世で培ったノウハウが活きたのか、肉体年齢8歳の時には、己に課していた必要水準を満たす事が出来た。

ジン・ギザドアという肉体が持つ才能もあったのかもしれない。兄弟姉妹も全員優秀だし、ギザドア家自体がエリートの血脈なのだろう。うだつの上がらない辺境下級貴族一家だが。


さて、この世界には暗殺ギルドと呼ばれる団体がある。

表向きの名前は情報ギルドだが、実体は暗殺ギルド。つまりは暗殺者を派遣する組織だ。

当然、この世界での俺の目標……というか重要通過点はこの暗殺ギルドに所属し、ネームドと呼ばれる優秀な暗殺者に名を連ねる事。

9歳の誕生日を迎えてすぐに、俺は暗殺ギルドに向かった。勿論見た目ただの子供な俺が「入団させてください」と受付嬢に言ったところで馬鹿な子供の戯言程度にしか扱ってもらえない。

だから、ギルドマスターに直接、俺の実力を見てもらう事にした。


と、言ってもやった事は単純で、ギルドマスターの部屋まで監視達の目を掻い潜って侵入し、背後を取った状態で声をかけただけだ。

これが大人の状態でやった事なら、ちょっと凄い奴かも?程度で終わりだったろう。

だが、当時の俺は中身はともかく肉体年齢では9歳。ギルドマスターも随分と驚いていた。


……驚いていたのだ。優秀な暗殺者だったと噂されるギルドマスターでさえ、俺の技量に。

言われずとも、認められた気がした。三十余年の努力が、身を結んだ実感があった。


そこからはもう、有頂天だった。『暗殺者になる』という夢を叶えた今、後は理想を実現すべく走り続けるだけで良い。

認めよう。俺は慢心していた。


だから、今後数年以上に渡って俺を苦しめるあんなモノを、手に入れてしまったんだ。


俺を理想から遠ざける、呪いともいうべき『祝福』を。


※―――


「依頼、ですか」

「ああ、久しぶりのな。標的はルシウス・フェルシラス。お前なら知ってるだろうが、アステリア1と名高い大商人だ」

「その分、恨まれる事も多いと。……まぁ、ターゲットがなんだろうと関係ありません。日時に指定が無ければ、今日中に終わらせますよ」

「流石はウチの稼ぎ頭。依頼人曰く、日程から何まで全部任せるとの事だ。一応期限は一ヶ月との事だが……問題なさそうだな」


どこか呆れたように笑うギルドマスター。

暗殺は本来、ターゲットの行動パターンを把握し、殺害するタイミングや逃走経路等を綿密に計画して行うモノ。ソレは前世も今世も変わらない。

だが俺の暗殺は基本的に即日。行動パターンを把握せずともターゲットの居場所さえ把握すれば簡単に接近出来るし、気配を消せば誰も俺を追えないのだから逃走も容易。


だからこそ、俺は暗殺ギルドの稼ぎ頭になり、所属して僅か1年でネームドになる事ができた。こなせる依頼の数が他の暗殺者の倍以上な上、依頼完遂率は当然の如く100パーセント。我ながら超優秀である。


……まぁ、今俺が稼ぎ頭なのは違う理由なんだけど、ソレは一旦置いておいて。


懐から財布を取り出し、金貨を二枚ほど机に置く。ルシウスについての情報を購入する為だ。


暗殺ギルドには情報部、暗殺部、総合部という三つの部署があり、それぞれ暗殺任務、諜報任務+情報販売、その他雑務(前二つの仕事も行う)を担当する。

今回は情報部に金を払ったわけだ。なおルシウスのような『標的になる可能性が高い人間』はギルド命令で定期的に情報収集が行われている為、即日で情報を得ることができる。


「すぐに用意させる。が、少し待つ事になるな。適当に時間でも潰しててくれ。順番にもよるが、三十分も経てば用意できるだろう」

「わかりました。では、失礼します」


一礼して部屋を出る。

どこで暇を潰そうかと考えながら廊下を歩いていると、ポニーテールにミニスカートな、暗殺ギルドに似つかわしくない格好の少女と出会う。

若々しい魅力に溢れた容姿ながら、堂々と葉巻を吸っているソイツは、良く俺とペアを組んでいた情報屋。


「よぉ、カルマ。仕事帰りか?」

「ん?ノガミか!そうそう、冒険者相手にハニトラしてきたトコ。お前は?」

「俺は情報待ち。久しぶりに依頼が入ってさ」

「あ、じゃあ一緒に飯食いに行こうぜ。どうせ三十分くらい待つんだろ?今なら空いてるだろうしさ」

「おう、良いぞ。待っててやるからさっさと報告済ませてこい」

「へいへい。待ちきれねぇからって暴れんじゃねぇぞ?『狂戦士(バーサーカー)』!」


元気よく廊下を駆けていくカルマ。ミニスカ姿なんだからヒラヒラを気にして欲しいものだ。


……なんーて、アイツは性別不明、本名不明、何もかも全部が不明の謎人間。

一国のお姫様のような姿で品の無いジョークを繰り出し、渋い魅力を感じさせる初老の男性姿で乙女の様な素振りを見せる、掴みどころの無い奴。

スカートの中なんざ気にもならないんだろう。気にしてたらこんな仕事できないか。


そうそう。俺の活動名はノガミ。ギルマスに頼み込んでコレにしてもらった。

せっかく前世と全く同じ容姿で同じ名前なんだ。苗字も使おうと思ってな。


「―――誰が『狂戦士(バーサーカー)』だコラァッ!!」


※―――


暗殺者ノガミ。俺の名を知らない者は居ない。

それはここ、アステリア王国だけに限った話ではない。隣国は勿論、別の大陸にある国でも同じだ。


……正直、名前がこうも広く知られている時点であまり喜ばしく無い。

俺の目指す暗殺者は、根も葉も無い噂話のように、ほんの僅かな者達の間で語られる程度の知名度の存在。

なぜならターゲットは理解する間も無く殺され、それ以外の者は俺の存在も痕跡も見つけられない……というのが理想だから。

名前も姿も正体も知らない、ただいつの間にか背後に現れて命を奪うナニカ―――それが俺のゴールだった。


では何故、俺の名前が広く知られているのか。

痕跡を隠すのが下手だから?暗殺が下手だから?まだまだ努力が足りなかったから?


―――どれも違う。

ただ、俺にはどうしようも無い力が働いているのだ。


「ギャハハハハハハハ!!死ね、死ね、死ねェッ!!」


窓から差し込む月明かりに照らされながら、鉄の鎧を纏った男達を次々と殺していく。

鍛冶屋に行けば乱雑に投げ売られているような片手剣が、狂笑と共に振るわれる。


誰の笑い声かって?そんなの決まってるだろ?


「や、やめろっ、来るなぁ!!くそっ、だ、誰だ!?誰が貴様を――――()()()を雇った!?」

「ハハッ、ギャハハハハハ!!!良いぜ良いぜルシウス・フェルシラスゥウウウ!その顔その声その態度、最ッ高にブチ上がるからよォオオオ!!」


目の前で子飼いの兵士たちが惨殺されていく様を見ながら、ルシウス―――俺のターゲットが涙と鼻水に顔面を汚す。

その悲痛な叫びによりテンションが上がった俺は、顔を隠す為の仮面の下で大口を開けて笑う。


遂に兵士が全員死ぬと、最後に残ったルシウスは地面にへたり込んだまま動けずに、受け入れ難い現実に泣き叫びながら両断された。



俺の夢見た、俺の目指した暗殺とは程遠い蛮行。

隠れ潜む事なく真正面から突撃し、喧しく笑いながら標的以外の命もテンションに身を任せて殺し、消す術が無いほどの痕跡をそのままに去っていく……受け入れ難い、情けない現状。

窓に反射する、血塗れになりながら両手を広げて笑う自分を瞳に映し、俺は内心呟いた。




――――――どうして、こうなった。


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