第八十七話
完結しました。第八十九話までの物語です。主人公レオーナの物語をお楽しみください。
『これは?』
―青の剣シェルシードだった。そうだ違いない、玲緒奈が想像した通り青く輝いている。
『青の剣ですか?これは』
「そう、代々私の家が秘宝として受け継がれたものです。今あなたが使うものなのですよ、青の剣シェルシードのマスター」
ソードの声が朗々と響いた。
【ひい!青の剣!】〈それは嫌、それは嫌〉
玲緒奈が青の剣を手にすると、声が次々と消えて行くのが感じられた。
「レオーナ様私を使って下さい」
剣の柄に埋め込まれた緑の宝石が光る。そして、光と共に人が現れた。
「お久しぶりです!レオーナ様」
明るい赤い髪の下には緑色の光の瞳を持つ優しい笑顔。
『もしかしてだけど・・・・・・エーメ?エーメなの?』
玲緒奈が彼女を思い描いた通りの優しさが表情にあった。
「ええ、エーメ・ロードです。私はずっと傍にいたのですよ。長い旅の時も」
ふふ、と笑うと、こういう風に顔を合わせて、お会いしたかった。本当に会いたくて堪りませんでした、と涙を溜めて玲緒奈を見つめた。
「さて、どうしてくれましょうか。神々と自分で名乗っているくらいだから、お強いのでしょうね」
とエーメは玲緒奈の中のジ・タ・ハークに対して果敢に挑んだ。
「ラピス!私を手伝って!」
エーメは青の剣の柄の青の宝石に呼びかけた。
「呼んだ?僕の愛する奥様」
青の光と共に淡い水色の髪と青の瞳を持つ青年が現れた。
『―彼があなたの婚約者?』玲緒奈が訊ねると「ええ、今では私の愛する旦那様です」と嬉しそうに笑った。
『いつの間に結婚したの?』
「ウェンデルを出た時に、一生添い遂げる誓いを立てました」
エーメは微笑み彼を見た。
「初めまして、ラピス・ラズリと申します。エーメには、レオーナ様の事をいつも嬉しそうに聞かされておりました」
ラピスは玲緒奈に礼を取ると、このような事している場合ではないですね、と玲緒奈の中のジ・タ・ハークに向けて身構えた。
【ああ、嫌。ただの柄の飾りだと思っていたのに、こんな仕掛けがあるなんて、おのれディ・フォンめ!】
「その声はジーン様ですか?嫌な声はすぐにわかりますね。まだ、存在するなんて未練がまだまだあるのですね」
エーメは玲緒奈の内に潜むジーンに向かって睨みを利かせた。
【お前は嫌い!こうやって私をいじめるから】
「レオーナ様から消えてなくなりなさい。お前はその役割を果たしたのだから」
【役割ですって?】
「このようにレオーナ様の敵となり、消えて行く役目ですよ」
―こうやってね!とエーメは玲緒奈の手にある青の剣を奪い、一気に玲緒奈の胸を貫いた。
『え?どういう・・・・・・事?』
突然の攻撃に戸惑う玲緒奈に、エーメは安心してください、あなたの魂の一部ジ・タ・ハークを貫いているだけです、肉体的には何の損傷もありませんよ、と囁いた。
【やめてぇ!何でもするから、消さないで】
ジーンの必死な叫びが響く。
「もう一押しかな、他の者も消えて無くなりなさい」
ラピスがエーメに加勢する。青の剣を握るエーメの手に自分の手を重ね、自身は青い光を纏い始めた。呼応するようにエーメも緑の光を放つ。
「シデルートの剣士達も加勢お願いします!」
エーメがそう叫ぶと、赤・青・黄色、三色の光が青の剣から光り放たれた。
「よし、我らの出番があったか」「我らが加勢すれば百人力」「もうこれでとどめが射せますね」
ゲルダム、テニムス、セノムの三人もエーメ達に加わった。
【嫌よ、嫌!どうして彼らは玉から出ないように、呪いを憑けたはずなのに】〈私がイノス様の傍に居る立場になりたいのにどうして?どうして?〉〘私達はこの辺で引きましょう〙
様々な歴代の女性達が叫ぶ。―カッ!閃光が走る。かつてのラディンディラのように魂が光放つ。阿鼻叫喚の中、サーチフォムの声も静かに消えて行った。もう彼女はここに存在しない。
「私とラピスの力によりシデルートの剣士達は解放されたのよ。これはディ・フォン様に与えられた力の一つ。・・・・・・まだ、離れないものが居るわね、女の執念は怖いわ。もういい加減大人しく消えて無くなりなさい」
エーメは力を入れるため、少し顔を歪めたが、最期は私達が止めを刺すのよと気を張った。ラピスは彼女の手に重ねた手に力を入れて、集中するため目を閉じた。
「我らも、この時の為に力が与えられているのだ」
シデルートの剣士達も自身の力を振り絞った。
光は最後には大きく輝き放ち、彼女達の声は断末魔の叫びに変わった。
―消えて行く。
玲緒奈は自身の身体に起こる感覚により、ジ・タ・ハークの存在が無くなりつつあるのを感じた。
「これで、おしまい。彼方へと消えて行きなさい」
エーメ達は青の剣を玲緒奈の身体にもう一押しして、彼女達を玲緒奈から完全に消し去った。全ての女性の中にある悪い感情が消え失せたのだ。
「・・・・・・」
玲緒奈から、青の剣が引き抜かれる。エーメは彼女の手に青の剣を握らせた。
「もうこれで大丈夫ですよ」
エーメは玲緒奈に微笑みかけた。
「私・・・・・・私の声ね?この声は」
玲緒奈は身体のあちこちを大丈夫か確認した。青の剣が刺さった場所は何もない。
「そうですよ、もう、ジ・タ・ハークに縛られることはありません。神々は去ったのです」
ラピスが安心してくださいと呼びかけた。
「そう、これは私の声。私なのね」
玲緒奈は自分の声がしっかりと響いていることに安堵した。まだ、自分自身だという実感が沸かないが、もうジ・タ・ハークの気配は感じない。大丈夫だ、と自身に言い聞かせた。
「青の剣シェルシードは本物?」
玲緒奈は手にある剣を興味深げに見た。剣には[玲緒奈を守る為、我が身を携えることを許す]と日本語で刻まれていた。
「そうです。本物の青の剣シェルシードです。敵にも味方にもなる諸刃の剣ですね」
「この剣には私を守る為、剣を携えることを許すと刻まれているわ」
「ええ、レオーナ様の命に差し障る時は、私達守護の者が青の剣を振るうことが出来るのです」
他では一切手に取る事も出来ませんよ、ラピスが説明してくれた。
「レオーナ様、あなたが青の剣シェルシードのマスターなのですから」
良かったとエーメが玲緒奈を抱きしめた。その優しい声に玲緒奈は安心したように彼女の肩に顔を埋めた。
「お前達夫婦二人だけで、退治出来たんじゃないのか?」
テニムスが揶揄うと、「あなた達がいなければ無理でしたよ。そんな事言わないで下さい」とラピスが困り顔で答えた。
「そうか、悪かったな」「そうだぞ、我らはマスターを守る為にあるのだからな」「我らの力が役に立って良かったです」
シデルートの剣士達は口々に話始めた。
「・・・・・・」
玲緒奈は顔を上げ彼らを見た。
「本当にありがとうございます。今の私でいられるのは、あなた方の力があったからこそ。感謝します」
彼女はそう言うと再びエーメの肩に顔を埋めた。緊張が解け、泣いているようだ。
「感謝だなんて、どうも照れるな」「とんでもない事でございます」「そんな風に言っていただいて本当に嬉しく思います」
彼らは玲緒奈の言葉に浮き立った。
「本当に良かったです」
エーメとラピスは二人で玲緒奈を抱きしめた。
「けど、エーメはこんなにも強いのに、どうしてセンドリーには無抵抗だったの?」
「私の力は愛の為のもの、レオーナ様の愛する人を傷つけることは出来ません。そのように作られたのです。私に課せられた制限です。オートマタ、感情を持つ操り人形なのですよ、私は」
「そうなの?」
「このように」
エーメは剣を玲緒奈に向けた。すると、エーメは苦しみだした。エーメは身体を動かそうとしたが強い力で押さえつけられているようだ。彼女の目から血が流れる。
「ああ、なんて事。エーメわかった。わかったから、もうやめて。私の発言を許して」
「センドリー様には悪い事をしました。申し訳ありません。抵抗が出来なかったというのが、本当のところです。そのせいで、あの方をレオーナ様の手で死なせてしまいました。それをレオーナ様が苦しまれたのも私のせいです。レオーナ様が苦しみ続けたのを身近で感じてきました。私は自分が許せないです」
「エーメもういい」
玲緒奈は彼女を抱きしめた。もういいと言う玲緒奈に、申し訳ありませんと、エーメはようやく、剣を下ろした。
こんなに血を流して、大丈夫?と玲緒奈は指でエーメの血を拭った。
「エーメがそんな風に制限されているとは思わなかった。誰も責められない。こうなる運命だったのだよ。センドリーは私に殺される運命だった。彼には酷い事をした。彼は許してくれるだろうか」
「センドリー様はあそこにいらっしゃいます」
エーメが玲緒奈の後ろを指す。
「・・・・・・センドリー?」
玲緒奈はエーメの指差す方へと顔を向けた。
「・・・・・・」
部屋の端にセンドリーがそこに立っていた。
「センドリーすまない。私はどうやってこの罪を償ってゆけばいいのか」
玲緒奈は彼を涙で見つめた。この時、玲緒奈の心は、既にレオーナそのものとなっていた。感情が物語のレオーナとして罪を贖う気持ちで一杯になっていた。完全に玲緒奈はレオーナとして、そこに息づいていた。レオーナとして魂が長い年月を経て心が蘇ったのだろうか。心だけ始祖返りをしたとでもいうのだろうか。
「・・・・・・」
センドリーは何も言わず微笑んで見せた。首を振りそして頷いた。
もういい、いいのです。センドリーの口がそう動いた。
「すまない、すまない」
玲緒奈はひたすら謝った。彼女が殺めた数々の人。同郷の人、敵国の者。全てに。光の柱が現れ彼は消えて行く。
「レオーナ様、泣かないで。あなたの苦しみは今は癒えないでしょう。けれど、時がその心を救うでしょう」
エーメは玲緒奈を抱きしめた。




