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銀の針姫と青の剣  作者: 瑞木晶
第二章 不毛の大地レーン大陸
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第八十二話

完結しました。第八十九話までの物語です。主人公レオーナの物語をお楽しみください。

「―そんな事はないと思います」

「死にたいと願っている人の多さを実感したことは無いか?」

「確かに自殺願望が多い気がしますが、滅亡までは望んでないと思います」

―死にたい、生きたくない。早くこの世が終わればいいのに。私の耳に声が響く。

「こうして、滅びを願っている。泣いている、生きているのが辛いと」

ディ・フォンは玲緒奈に訴えた。

―死にたい・・・・・・。この響く声は私の心の声だ。あれは学生の時。

「名前負けしてるのよ、あんた」

星野玲緒奈という名前とは裏腹に、平凡な顔をした私を罵倒する声が蘇る。あの時苦しくて死にたかった。この世が終わればいいとも思った。

―死にたい、死にたいと言う少女の声がする。このまま眠ればお腹が空くことも無いかなあ。死んだお母さんに会いたい。

別の少女の声がする。手籠めにされ私は生きていけない。この身は汚された。この状況から逃げ出したい。死にたい。消えてなくなりたい。

とある少年の声がする。・・・・・・奴から逃げられない。毎日のように殴られる。もう生きる気力が無い。全て終わってしまえ、こんな世の中。

少女は泣く、この汚水を飲んで弟は死んだ。でも、この水を飲まないと生きていけない。生と死が並んでいる。

少年は呟く。物心ついた時から、この農園で働かせられている。この農作物を僕らは何に使われているのか知らない。一生この地で生きて死んでいくのだ。

逃げてきた少女が嘆く。家を焼かれ両親は殺され、着の身着のまま国境を越えてきた。

亡命した、その国の者に冷たい目で見られ続けている。生き延びても希望が無い。

早く魂の解放を願う。

―魂の解放を願う。皆の声が揃った。

世界の悲惨さを目にし、涙が流れる。幸せだと思うのは一部の人間であることを知った。

彼女の涙が流れる時。世界は終わる。

「そうやってお前は世界を滅ぼすのだ」

ディ・フォンの声と共に震える玲緒奈が持つ剣が金属音を立てる。

「私は・・・・・・私は」

―何をやってきたのだろう?惨状から目を向けていなかった。こんなにも世界は悲惨に満ちていたというのに。何という事だ、泣いている者の数の多さよ。いや私は知っていた。私は知っていて、この事態から目をそらし続けていたのだ。事実に気が付いていた。見ていた。しかし、人ごとだった。周りが幸せなら、それでいい。この国さえ平和なら。そう心の奥底で感じていた。残酷なまでに。

「だから、私は人類を滅ぼすのですか?」

「その手の剣でな。剣は、この世全ての兵器に繋がっている」

ドクン、ドクン私の右手に剣の鼓動が伝わる。

―こんな世界無くなってしまえばいい!

彼らの声がする。人類が泣いている。

―もう、消えてしまいたい。これが人類の答えか。

・・・・・・ああ、そうだ。私は涙を流しながら、こうやって、人類を滅ぼしたのだ。

何回も、同じ事を繰り返したのだ。ジーンがやらなくても、私自身が人類を核兵器で滅ぼしたのだ。私はナシェル。元凶でありレオーナであるセオドアの罪深き一族の祖。

「・・・・・・」

右手の剣が蠢く。私の右手が力を持って動く。

その反面、私の心の心情は、かなり騒めいていた。

このように簡単に人類を滅ぼす事が許されるのだろうか。滅ぼせ、滅ぼせ。と迷う私の心の内側で声が響く。

―私は生きたい。

ポツリと少女の声がする。先程の死にたい、死んだお母さんに会いたいと言った彼女だ。

私は生きて、こんな生活から抜け出してやる。

彼女の決意が私の胸を打つ。

他の者も声もする。・・・・・・私にはやりたい事がまだまだある。死ぬのはそれをやり遂げた時だ。

―生きたい。死にたい。

その声の繰り返し。

「・・・・・・」

私は力みなぎる剣を降ろした。

「ほう?今回はどうするのだ?」

ディ・フォンは意外そうな顔をして私を見た。

〔この子に全てを決めさせるのは酷です〕

私の奥底から声が発せられた。

「お前か?とうとう目覚めたか、我妻サーチフォム」

〔そうです、私はサーチフォムです。私は眠っていたわけではありません。女性の奥底に潜み、遠い世界からこの世界を見守っていただけ。・・・・・・あなたは記憶を取り戻したようですね〕

「うむ、この人類の始まりの時からワシは全てを記憶している。物語の中のワシとは違う。物語のワシが記憶が無いのは、お前達の記憶が戻って無かったからじゃ。お前はインシュリットであり、サーバンであるワシの妻であり、エイシャンであるリンカーの始祖ナシェルの友だ」

〔そうでしたね。私はいつでも、この娘の一族と共に、人類のあらゆる事を見聞きし生きてきましたよ。あらゆる女性の心の深層から、あるいは津々浦々に生息している昆虫から人類を観察してきました。ただ表に出てこなかっただけです。あなたが私の記憶が無いとそう思い込んでいただけ、私があなたの記憶が無いと勘違いしていたように。私達がお互いに仕組んだもの、別れ再び会うまでの隠された記憶の誤作動〕

私の唇が勝手に動く。それでも、この声を発しているのは、私自身だという自覚もあった。私はジ・タ・ハークの過去から今までを思い出したのだ。遠い昔、私はディ・フォンの妻サーチフォムだったことも。そして、このやり取りは何度も行われていたことを。

〔私は今回は人類を救う事にします。この子が感じているように、人は生きたがっているのも真実。この子はナシェルにはならない。結論は出ました。今回の賭けはあなたの勝ち、私の元に彼らは来るでしょう。人類を救って下さい、あなたの手で〕

私の目が、サーチフォムの目がディ・フォンを真摯に見つめる。

「・・・・・・お前は気ままに滅ぼしたり救ったりするのだな。いつもの事か」

まあいい、と彼は目を伏せ一息吐くと、お前に、これからの人類に英知を授ける。心して聞くがいい、こんな風にお前の判断が良い結果になるとは思わなかったが、と私に微笑んで見せた。


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