第七十九話
完結しました。第八十九話までの物語です。主人公レオーナの物語をお楽しみください。
「あははは!これで世界は私のもの!全ての知識が私のものに!」
ジーンが高笑いで姿を現し、レオの元に近付いてきた。頬には赤の線が左右対称に二本浮かび上がり、目は獣のように金色が煌めいてレオに迫る。その様子はまるで魔類の長のよう。
「知識ってこんなにも素晴らしいの!もっと私に知識を与えて、古来からある知識全てを!」
ジーンはどうやら、古代の知識を何かしらで吸収しているようだ。
「・・・・・・」
ジーンの周りには濃い青が充満している。これを振り払えば、彼女の野望は潰えるのか?レオは努めて冷静に考えを導こうと、よくジーンの様子を見つめた。
「嘘!嫌よ!こんなの嘘よ!」
ジーンは突然頭を抱え苦しみだした。
「嫌!嫌!知りたくないの!知りたくない」
泣き叫ぶジーン。レオはその様子から、何か彼女にとって、受け入れられない何かが起こったのだろうと推察した。
「―!」
その時、ジーンの背から腹に剣が貫かれた。
「姉様には役目が決まっているのよ。私に殺されるという役目が」
フレイが剣で、ジーンの身体を貫いていた。
「・・・・・・お前?何を?その剣は青の剣シェルシード?」
フレイの手には青の剣シェルシードが握られていた。
「私もマスターの候補だったのだから、手に取る事が出来るのですよ、姉様。姉様は私と同じ青の剣のマスター候補。本来のマスターなんて嘘です。真のマスターはレオーナですよ」
そう言うフレイは晴れやかな顔をして満足そうだ。
「お前、裏切ったのね」
苦悶の表情でジーンはフレイを睨んだ。
「最初から味方ではありませんよ」
フレイは青の剣シェルシードを動かし、ジーンに止めを刺した。
すると、光の柱が現れ、ジーンはその光に覆われ消えて行った。青い光はジーンがいなくなった後でも濃い色を残しとどまっている。
「姉様!」
ジーンの触手から解放されたレオは、フレイの元へと駆け寄った。
「レオーナ」
フレイはレオの手を取り自分の傍へと導いた。
「お前の命に代えても妹を守れ、これがお母様の遺言。お前を守るように、お母様と約束したの。これで私の願いは叶った」
彼女は優しい眼差しでレオを見た。初めて姉が微笑んでくれている。レオは戸惑った。
「そうね、お前を自分から遠ざけるように、冷たい態度しかとらなかったのだもの、いきなりでわからないわね」
フレイは仕方ない事よねと少し下を向いた。
「ジーン姉様の取り巻きに徹したのはお前を守る為、そして、その事を悟られないようにお前に辛く当たりました。許してね。私は、いつも身を切られる思いでした。常に、お前の事だけを考えて生きていました。これだけは信じて」
と彼女はレオの手を取ってギュッと握った。
「姉様」
レオはワッとフレイに抱きついた。自分の過去の孤独が一気にレオの心に溢れかえった。
―寂しかった。私は寂しかったのだ。
そう言うレオの背をフレイは優しく撫でてくれた。その手がレオの子供時代の孤独を幸福感で癒すような感覚がして、レオは心がじんわりと温かくなっていくのを感じた。
「そうだ、旦那様!旦那様を元に戻さないと!」
レオは急に我に返りフレイに必死に訴えた。
「これを使ってイノス様の身体を元に戻すのよ」
フレイはレオに青の剣シェルシードを手渡した。
「濃い青い光はイノス様の身体。剣を持って念じれば、お前の元に蘇るでしょう」
「本当ですか?ありがとう、姉さま」
レオは心から喜んだ。
「―その前に、やらなくてはいけない事が起こりそうね」
フレイは二人だけの空間に、黒い何かがやって来るのを見て険しい表情を作った。
「我が娘よ、よくここまで来た」
黒い者の正体は父王リンカー・ランド・バーンズその人だった。
「父王様、どうしてここにいらしたのです?」
レオはそう怪訝になって父王に問うた。
「・・・・・・それはな、お前の中にあるジ・タ・ハークを我が物にする為」
「やはり、私の中にジ・タ・ハークがいるのですね?」
父王の言葉にレオはジ・タ・ハークに憑りつかれているのではなく、自身に中に存在していることに合点がいった。だから、どこに居ても、ジ・タ・ハークの声が聞こえていたのだ。ディ・フォンが言った通りだった。
「そうとも、あらゆる全ての女には皆ジ・タ・ハークがいるのだ。表に出てこないだけだ。今まで脈々と続いた代々の女の記憶だ彼女は」
父王の身体の一部が、魔類へと変化した。彼の周りから触手が蠢く。
「父王様!あなたも魔物になってしまわれたのですか?」
レオは父王の変化に驚いた。
「セオドアの者は皆、元は魔物なのだよ。呪いのようなものだ。罪深き血族のなれの果てだ。範囲の外に出たものは全て魔物に姿を変わってしまう。青の剣シェルシードに選ばれた、お前を除いて。ワシの思惑通り、お前は青の剣のマスターとなり、ジーン倒れた後、今やジ・タ・ハークの最たる宿主となった」
父王は触手をレオに向けて放った。
「早く父王をその剣で切りなさい!」
レオの前に出たフレイは、父王の触手の攻撃を受け身体が貫かれた。
「姉様!」
レオはフレイの無残な姿に悲鳴を上げた。
「もう、あれはお前の知っている父王ではありません。・・・・・・迷うことなく殺しなさい」
息絶え絶えにフレイは、レオにそう告げると頭を落とし、うな垂れた。
「姉様!しっかりして下さい!」
どうしてこんな事に・・・・・・レオは心が辛かった。フレイにこのような事をする父王が信じられないし、彼を憎む事が出来ない自分が嫌だった。
「どうして、フレイ姉様にこんな酷い事を?」
レオは父王に問いかけた。あの優しい父王が娘の身体を、いとも容易く刺すことが出来るのか。彼女は動かなくなった姉に焦りを感じた。
「魔物はもう既に命を奪われているようなもの、その程度で亡くなることも無い。念があれば再び姿を現す事も出来る。つまり、我が強い者は、この世にしがみつくのだ。それよりも娘に隠れたお前。ワシの元へ戻ってきてはくれぬか?」
父王は急に優しい声色でレオに語り掛けた。
「父王様?」
レオは彼の言動が理解できない。
「レオーナ、お前には用が無い。ジ・タ・ハークの中に居る、お前の母システィーヌに呼び掛けているのだ。お前という大きな存在を産み落として、その身が耐えられなかったため亡くなったシスティーヌに。この青の世界が復活した今、過去の死者の魂に触れられるのはこの時のみ。ジ・タ・ハークが目覚めるこの時だけだ」
「私の中にお母様がいらっしゃるのですか?」
レオの質問には答えず、父王は我が手を取り生きてほしい、と熱い眼差しで彼女の瞳に訴えた。
「それは無理だろう」
レオ達の頭上から声が響いた。レオが顔を上げるとディ・フォンの姿が見えた。彼はソシアの姿はしていなかった。
「ディ・フォン様?どうやって、ここにいらしたのです?ソード様や、クレア様は何処にいるのです?」
レオは不思議に思ってディ・フォンに聞いた。
「お前には見えないだけだ、彼らはお前の傍にいる」
それ、とディ・フォンの声が朗々と響いた。すると、しばらく経つとレオの周りに彼らが胸の上に手を組んで眠っている状態で現れた。
「ソード様!クレア様!アーシェさん!レッシー!」
レオは彼らに近寄り触れようとした。
「触れるでない!」
ディ・フォンが強い言葉でレオを止めたが、既に彼女の手はレッシーに触れてしまっていた。―ジカッ!レオの手に電流のような痛みが走った。
「今から彼らには知られたくない事をする。だから、触れるな」
痛みで右手を押さえたレオにディ・フォンは命令した。
「彼女達は大丈夫なのですか?」
レオは心配気にディ・フォンに訊ねた。
「ああ、眠らせているだけだ。命に別状はない」
「そうですか」
良かった・・・・・・レオは少し安心したように軽く目を閉じた。
「ディ・フォンよ、久しいな。お前がどうしたとしても、彼女が手を取るのは私だ!」
父王は怒号を響かせ近づいてきた。
「まだわからぬか?そこのお前。物語を紡いだ者たちよ、思い出せ。ジ・タ・ハークよ、我妻サーチフォムよ、我が手を取るのだ」
ディ・フォンはレオに不思議な言葉を投げかけた。
「どういうことです?」




