第七十七話
完結しました。第八十九話までの物語です。主人公レオーナの物語をお楽しみください。
「・・・・・・ここまでね、レオーナ」
宿の裏に移動した途端、アイファラントの口から聞き覚えのある声が響いた。
「その声は、・・・・・・まさか姉さま?」
レオは相手を睨みながら、青の剣シェルシードに手をかけた。
「そう、簡単なものね。お前をだますのは」
アイファラントからレオの最も憎い、ジーンの姿へと変わって行った。
風を受け広がる黒い巻き毛、その歪んだ唇の赤、今まで倒したどの敵も可哀想でしかなかったが、彼女は違う。全ての元凶がここにいる、レオの血は滾った。
「どうやってダーラの長に変化できるのです?」
「私が魔物だから自由に変化できるの。本物のアイファラントはもうこの世にはいないわ」
事も無げにそう言うとジーンは笑った。
「ダーラの長を殺したのですか?」
レオの声は低く静かだったが、その声とは裏腹に怒りが体内で頂点に達していた。
「そうよ、こちらから味方にならないか譲歩したのに抵抗したのよ、彼」
「―・・・・・・なんてことを!」
レオの手はジーン目掛けて振りかざした。青の剣シェルシードの動きではなかった。レオの憎悪の方が遥かに上回って、彼女の手が動いたのだ。
「え?」
レオは青の剣シェルシードの急な動きに驚いた。なんとジーンの身体に剣が届く前に右へとレオの身体を反らしたのだ。
「あら、賢明ね。さすがは青の剣シェルシード、罠を見抜かれたみたいね」
くく、とジーンは嘲るように笑った。
「罠?」
「レオーナ様、敵の懐にいてはなりません!」
セノムがレオの前に立ちはだかった。
「ぐっ!」
そのセノムが首を押さえて苦しそうだ。
「セノムさん?!どうしました?!」
レオは驚きと共に、苦しそうな彼の表情を覗き込んだ。
「ふふふ」
ジーンの右手がギュッと絞り出すように捻られた。
「あああ!」
彼はより一層苦しんだ。
「セノムさんに何をしたのです」
レオはジーンに問うた。
「そうよ、私の邪魔をする者は一捻りで殺せるの。カルームの呪術とジ・タ・ハークの魔力でね」
「セノムさん!玉に戻って!早く!」
レオはセノムを玉に戻るよう命令した。
「―すみません」
セノムはキラキラと玉となって青の剣シェルシードに戻った。
「レオーナ様、ここは我らに任せて、お逃げください」
レオの前にゲルダムとテニムスが並ぶ。
「ゲルダムさんとテニムスも玉に」
レオはそう命令すると彼らは玉となりレオの元に戻った。
「これでいい」
レオは自分に言い聞かせて頷いた。そして、弾かれたようにレオは走った。彼女は反射的に動いた。
『レオーナ様!危険です、我らを外へ!青の剣シェルシードを奪われますよ!』
レオの頭で叫ぶ、シデルートの剣士達の声音が尋常ではなかった。
「どういうことです?」
『懐に入られたら剣を奪われます!気を付けて下さい』
「私が青の剣シェルシードのマスターなのに?」
『とにかく、逃げて下さい!』
レオは駆けた。憎き相手ジーンの前にして逃げ出すなんて、彼女自身信じられなかった。ジーンの様子が彼女に知らずに恐怖を与えていたからかもしれない。
「・・・・・・?」
レオの背中に何かが迫ってきていた。その気配は彼女を震撼させた。
「私から逃れられるとでも?」
ジーンの声がする。
「・・・・・・」
今はまだ振り向いたら駄目だ。レオは必死に駆けて行く。ケンフォレンとマーモットがいた荒野に。
「ふう・・・・・・」
レオは一呼吸すると、後ろを振り返った。
「ククク、観念したみたいね」
ジーンの姿は服の裾野から魔類へと変貌していた。触手はレオの間近で蠢いている。
「ここなら、他の人に危害が及ばないとでも?」
ジーンは嘲り笑いながら近付いてきた。
『彼女から早く離れて!』
セノムの声がレオの頭に響く。
「ここは我らに任せて、お逃げください!」
シデルートの剣士達が再びレオの前に現れた。
「勝手に玉から出てこないでください!危険です」
レオは叫んだ。
「姫様の窮地に役に立てないとは我らには羞恥なことです!」
とゲルダムがレオーナを守るように手を広げた。
「無駄よ、そんなことしても」
ジーンは余裕をもってレオに近付く。触手がシデルートの剣士達を獲りこんでゆく。
「その場から離れて!」
彼らは苦しみながらレオに訴えた。しかし、何故かレオの身体は、すくんで動かない。ジーンがレオに迫った。
「青の剣シェルシード!我が手に!」
信じられない事に、レオの手を離れて青の剣シェルシードが、ジーンの手に渡った。
「私が本来の青の剣シェルシードのマスターなのよ。だから、自在に操られるの」
そんな・・・・・・レオの声は小さく弄る風に消えた。
「なのに、私を選ばなかった。シェルシードは、お前を選んだけどね。あの夜、私の後姿に向かって、なんて言ったと思う?・・・・・・鼻につく、クソだな、そう侮蔑したのよ。それでも、私は諦めなかった。そんな事を言われても、あの方の元に嫁ぎたかった。私はあの瞳に心奪われたのよ。あの美しい瞳に。これからは私のもの。そして、これからが本番」
ジーンは青の剣シェルシードを地面に突き立てた。
キイイイイン!金属音を立てて、青の剣シェルシードは地面に青の色を広げてゆく。
その中心のジーンの足元から、異空間が現れ始めた。
「お前も来るのよ」
ジーンの触手がレオを獲りこんだ。
「・・・・・・」
レオは抵抗する間もなく異空間へとジーンと共に入って行った。




