第七十五話
完結しました。第八十九話までの物語です。主人公レオーナの物語をお楽しみください。
「ケンフォレン!マーモット!」
レオは彼らに抱きつき喜んだ。
「旅をしているのか?無事に過ごせた?よく私だとわかったな、変装していたのに」
レオは興奮気味に彼らに訊ねた。
「お前が分からない俺たちだと思うなよ。どんな姿でも分かる。お前も無事だったのだな。元気そうで何よりだ」
ケンフォレンは、両手でレオの顔を挟んで笑った。
「魔物は襲ってきた?」
「ああ、でも退治出来ている。だから、お前とも会えた」
「そうだよな、お前達は強いから大丈夫だと思った」
「当たり前だろう!このマーモット様がついているんだからな」
マーモットが自慢気に胸を張った。
「マーモットも元気だったか?相変わらず小さいな」
レオがもう一度抱きつこうと手を伸ばすと、うるさい!触るな、と彼は怒った。
「そういえば、ここで何しているんだ?」
レオはふと、冷静になってケンフォレンに訊ねた。
「俺たちもこの宿に泊まっているんだ。さっきまで広間に居たんだがな。・・・・・・それよりお前に見せたい風景があるんだ。行かないか?」
「見せたい風景?」
「素晴らしい所だ」「見たら驚くぞ」
彼らは口々にレオを誘った。
「うん、行くぞ。どんな所?」
レオは二つ返事で彼らの誘いに乗った。
「すんげえとこだよ」
マーモットが嬉々と笑う。
「そう、素晴らしい所だ。行っての楽しみだ」
ケンフォレンは八重歯を見せ笑った。
「うわあ、花畑がこんなに?」
月夜の光に照らされた一面に広がる花々を見て、レオは感激した。
「こんな荒野に花が咲くところなんて見たことないな。ずっと向こうまで花畑だ」
レオは香しい花の香りを吸い込み堪能した。
「十年に一度、雨で荒野に、このように花が咲き乱れるのだそうだ」
ケンフォレンは、嬉しそうに眺めるレオの顔を見て、満足そうに笑った。
「こんな景色見たことない。嬉しかった、ありがとう二人とも」
レオはこの上なく優しい笑みを彼らに見せた。
「・・・・・・お前は少し変わったな」
ケンフォレンはしみじみとレオを見た。その表情は悲しそうに見えた。
「そうか?中身は変わってないと思うが」
レオは少し怪訝に思い、彼の様子を窺った。
「変わった。女になった」
ケンフォレンにそう言われたレオは、自分の顔が赤くなっていくのがわかり、恥ずかしさのあまり視線を逸らした。
「・・・・・・お前はセオドアに出るべきではなかった。俺たちも」
レオの視線の先にケンフォレンの影が揺らぐ。
「ケンフォレン?」
レオが何かの気配を感じ、頭を動かした。そして、その手には青の剣シェルシードが握られていた。
「違う、違う!」
青の剣シェルシードはレオに彼らが危険だと、敵だと振動で教えている。しかし、レオはそれを認めないのだ。
【銀の針姫よ。これが現実だ】
花畑から突如、魔類がレオの前に現れた。ケンフォレン達はその側に立った。
「嘘だ、ケンフォレン、マーモット」
レオは愕然とした。
「もう俺たちは、とうの昔に死んで、魔物の一部だ」
被りを振るレオに彼は続けた。
「魔物はセオドアの人の死んだ魂だ。第二の太陽をこの世に作り出した罪深き種族の呪いの果てだ」
「嘘だ!嘘だ!」
知りたくない真実にレオは叫び否定した。
「本当だ。俺たちは旅に出て、即殺された。魔物の一部となってお前を追い続けた」
「では私はセオドアの人の魂を倒し続けたというわけか?」
「そうだな、それによって不浄の彼らは清められた。その青の剣によって救われたのだよ」
レオの目の前で、マーモットが魔類にとり込まれていく。
「マーモット!」
「さよなら、レオ。お前と出会えてよかった」
彼の笑顔が魔類に消えた。
「ケンフォレン!マーモットを戻してくれ!」
レオが、すがった彼の足元から魔類の触手が伸びる。そして、ケンフォレンも魔類の中へと入っていく。
「嘘だ!嘘だー!」
レオの絶叫が荒野に響き渡る。
【さあ、浄化の子。我らを救いたまえ】
いつもより多い三体の魔類が、レオを囲む。
「・・・・・・もう嫌だ。人の魂を奪うのは」
レオの手にある青の剣シェルシードから、シデルートの剣士達が出てきた。
「レオーナ様、加勢させていただきます」
「嫌だ」
レオの思いと逆に青の剣シェルシードは動いた。こうなれば、レオの動きは完全に青の剣シェルシードの主導に入る。青の剣シェルシードは容赦なく魔類を倒していく。
「嫌だ!嫌だ!動くな私の腕!こうなれば、この手を引きちぎってやる」
レオの決意も虚しく青の剣シェルシードは、彼女の意に反して動く。
―非道だ。レオは月夜を睨みつけた。レオはケンドリーの最期の時の事を思い出した。あの時から私はこの剣で幾つ人を殺めたのだろう。あの時の決意は何だったのか。
「・・・・・・くっ」
レオの抵抗は通らず、最後の魔類を青の剣シェルシードが打ちのめした。
【これで良かったんだ。外の世界を見れて良かった。好きだったよ、お前の事】
魔類がレオの目の前で消えて行く瞬間、ケンフォレンの声が聞こえた。
【俺も親分の次に、お前が好きだった】
マーモットの声も聞こえた。
ひいひいと呼吸の乱れの中、レオは彼らのいない荒野を愁然として見続けた。
「・・・・・・」
レオは泣いた。ケンフォレンとマーモットが居ない世界に。彼らが魔類だったこと。この剣で彼らは本当に浄化されたのか?本当に幸せだったか?もう一度でいい、現れてはくれないのだろうか・・・・・・。皆死んでいく、センドリーもケンフォレンとマーモットも。私はセオドアから出るべきではなかったのでは?レオは自身に問いかける事しか出来なかった。―答えはまだない。
ドクン・・・・・・キイイン!突如として、レオの鼓動が高まり、耳鳴りが響いた。
―・・・・・・この感覚はソシアに何かあったか?レオは自身の身体中の今までない興奮が、治まりきらない事に動揺した。全身が悲鳴を上げて、叫んでいる感覚だ。
「ソシア様に命の危機が及んでいる可能性が!早く宿に戻りましょう」
レオがそう叫ぶとシデルートの剣士達は皆、光の玉になって青の剣シェルシードに戻った。
「もしかして、カルームの者があの宿に?」
レオは宿に向かって走った。
『おそらくは、そうかと』
とテニムスが答えた。
「それでは、ソード様の懸念のした通りになった、という事ですね」
『罠があるかも知れません。お気を付けて』
セノムが慎重に声をかけた。
「わかりました」
レオは耳鳴りの音の底にソシアの声を聞いた。苦しそうな声だった。その苦しみはレオの身体にも影響を与えてくる。
―ただ事じゃない。レオは自分の身体能力より上回る勢いで、宿へと向かった。心はケンフォレンとマーモットの姿が消えた花畑の荒野に残したままで。




