表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀の針姫と青の剣  作者: 瑞木晶
第二章 不毛の大地レーン大陸
77/91

第七十五話

完結しました。第八十九話までの物語です。主人公レオーナの物語をお楽しみください。

 「ケンフォレン!マーモット!」

レオは彼らに抱きつき喜んだ。

「旅をしているのか?無事に過ごせた?よく私だとわかったな、変装していたのに」

レオは興奮気味に彼らに訊ねた。

「お前が分からない俺たちだと思うなよ。どんな姿でも分かる。お前も無事だったのだな。元気そうで何よりだ」

ケンフォレンは、両手でレオの顔を挟んで笑った。

「魔物は襲ってきた?」

「ああ、でも退治出来ている。だから、お前とも会えた」

「そうだよな、お前達は強いから大丈夫だと思った」

「当たり前だろう!このマーモット様がついているんだからな」

マーモットが自慢気に胸を張った。

「マーモットも元気だったか?相変わらず小さいな」

レオがもう一度抱きつこうと手を伸ばすと、うるさい!触るな、と彼は怒った。

「そういえば、ここで何しているんだ?」

レオはふと、冷静になってケンフォレンに訊ねた。

「俺たちもこの宿に泊まっているんだ。さっきまで広間に居たんだがな。・・・・・・それよりお前に見せたい風景があるんだ。行かないか?」

「見せたい風景?」

「素晴らしい所だ」「見たら驚くぞ」

彼らは口々にレオを誘った。

「うん、行くぞ。どんな所?」

レオは二つ返事で彼らの誘いに乗った。

「すんげえとこだよ」

マーモットが嬉々と笑う。

「そう、素晴らしい所だ。行っての楽しみだ」

ケンフォレンは八重歯を見せ笑った。




 「うわあ、花畑がこんなに?」

月夜の光に照らされた一面に広がる花々を見て、レオは感激した。

「こんな荒野に花が咲くところなんて見たことないな。ずっと向こうまで花畑だ」

レオは(かぐわ)しい花の香りを吸い込み堪能した。

「十年に一度、雨で荒野に、このように花が咲き乱れるのだそうだ」

ケンフォレンは、嬉しそうに眺めるレオの顔を見て、満足そうに笑った。

「こんな景色見たことない。嬉しかった、ありがとう二人とも」

レオはこの上なく優しい笑みを彼らに見せた。

「・・・・・・お前は少し変わったな」

ケンフォレンはしみじみとレオを見た。その表情は悲しそうに見えた。

「そうか?中身は変わってないと思うが」

レオは少し怪訝に思い、彼の様子を窺った。

「変わった。女になった」

ケンフォレンにそう言われたレオは、自分の顔が赤くなっていくのがわかり、恥ずかしさのあまり視線を逸らした。

「・・・・・・お前はセオドアに出るべきではなかった。俺たちも」

レオの視線の先にケンフォレンの影が揺らぐ。

「ケンフォレン?」

レオが何かの気配を感じ、頭を動かした。そして、その手には青の剣シェルシードが握られていた。

「違う、違う!」

青の剣シェルシードはレオに彼らが危険だと、敵だと振動で教えている。しかし、レオはそれを認めないのだ。

【銀の針姫よ。これが現実だ】

花畑から突如、魔類がレオの前に現れた。ケンフォレン達はその側に立った。

「嘘だ、ケンフォレン、マーモット」

レオは愕然とした。

「もう俺たちは、とうの昔に死んで、魔物の一部だ」

被りを振るレオに彼は続けた。

「魔物はセオドアの人の死んだ魂だ。第二の太陽をこの世に作り出した罪深き種族の呪いの果てだ」

「嘘だ!嘘だ!」

知りたくない真実にレオは叫び否定した。

「本当だ。俺たちは旅に出て、即殺された。魔物の一部となってお前を追い続けた」

「では私はセオドアの人の魂を倒し続けたというわけか?」

「そうだな、それによって不浄の彼らは清められた。その青の剣によって救われたのだよ」

レオの目の前で、マーモットが魔類にとり込まれていく。

「マーモット!」

「さよなら、レオ。お前と出会えてよかった」

彼の笑顔が魔類に消えた。

「ケンフォレン!マーモットを戻してくれ!」

レオが、すがった彼の足元から魔類の触手が伸びる。そして、ケンフォレンも魔類の中へと入っていく。

「嘘だ!嘘だー!」

レオの絶叫が荒野に響き渡る。

【さあ、浄化の子。我らを救いたまえ】

いつもより多い三体の魔類が、レオを囲む。

「・・・・・・もう嫌だ。人の魂を奪うのは」

レオの手にある青の剣シェルシードから、シデルートの剣士達が出てきた。

「レオーナ様、加勢させていただきます」

「嫌だ」

レオの思いと逆に青の剣シェルシードは動いた。こうなれば、レオの動きは完全に青の剣シェルシードの主導に入る。青の剣シェルシードは容赦なく魔類を倒していく。

「嫌だ!嫌だ!動くな私の腕!こうなれば、この手を引きちぎってやる」

レオの決意も虚しく青の剣シェルシードは、彼女の意に反して動く。

―非道だ。レオは月夜を睨みつけた。レオはケンドリーの最期の時の事を思い出した。あの時から私はこの剣で幾つ人を殺めたのだろう。あの時の決意は何だったのか。

「・・・・・・くっ」

レオの抵抗は通らず、最後の魔類を青の剣シェルシードが打ちのめした。

【これで良かったんだ。外の世界を見れて良かった。好きだったよ、お前の事】

魔類がレオの目の前で消えて行く瞬間、ケンフォレンの声が聞こえた。

【俺も親分の次に、お前が好きだった】

マーモットの声も聞こえた。

ひいひいと呼吸の乱れの中、レオは彼らのいない荒野を愁然として見続けた。

「・・・・・・」

レオは泣いた。ケンフォレンとマーモットが居ない世界に。彼らが魔類だったこと。この剣で彼らは本当に浄化されたのか?本当に幸せだったか?もう一度でいい、現れてはくれないのだろうか・・・・・・。皆死んでいく、センドリーもケンフォレンとマーモットも。私はセオドアから出るべきではなかったのでは?レオは自身に問いかける事しか出来なかった。―答えはまだない。

ドクン・・・・・・キイイン!突如として、レオの鼓動が高まり、耳鳴りが響いた。

―・・・・・・この感覚はソシアに何かあったか?レオは自身の身体中の今までない興奮が、治まりきらない事に動揺した。全身が悲鳴を上げて、叫んでいる感覚だ。

「ソシア様に命の危機が及んでいる可能性が!早く宿に戻りましょう」

レオがそう叫ぶとシデルートの剣士達は皆、光の玉になって青の剣シェルシードに戻った。

「もしかして、カルームの者があの宿に?」

レオは宿に向かって走った。

『おそらくは、そうかと』

とテニムスが答えた。

「それでは、ソード様の懸念のした通りになった、という事ですね」

『罠があるかも知れません。お気を付けて』

セノムが慎重に声をかけた。

「わかりました」

レオは耳鳴りの音の底にソシアの声を聞いた。苦しそうな声だった。その苦しみはレオの身体にも影響を与えてくる。

―ただ事じゃない。レオは自分の身体能力より上回る勢いで、宿へと向かった。心はケンフォレンとマーモットの姿が消えた花畑の荒野に残したままで。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ