第七十四話
完結しました。第八十九話までの物語です。主人公レオーナの物語をお楽しみください。
宿屋と思われる建物に、近づくと人がワイワイと話す音が聞こえた。
「・・・・・・意外と人が多いな。うん、この広さなら、どうやら宿屋とみて間違いないようだ」
ソードは宿屋の小窓から、中の様子を伺い、大丈夫そうだと皆に言った。
「行くぞ」
ソードが宿屋の戸を開け中へ入った。皆もそれに続く。
「いらっしゃい。食事かい?それともお泊りかい?ここらは泊るところが無いから泊まった方がいいよ」
店の主人がソードに声をかけた。禿げ頭の下で鼻につく笑顔を彼に向けている。
「そうだな、食事と泊まりをお願いしたい」
「へえ、じゃ前金制なんで、お金をもらえるかな」
笑顔の目尻がさらに下がる。
「わかった。これで足りるか?」
ソードは、この地での相場より多めの金を主人の前に置いた。
「へえ、へえ、十分でございます」
お金に目を輝かせた主人は急に丁寧な敬語を話し始めた。
「お食事はここの大広間で済ましてください。今から部屋に案内します」
頭を何度も下げ主人は部屋へと皆を案内した。
「ここの部屋は広いので、六人様でも過ごせます」
主人は自慢げに部屋の戸を開け、皆を導いた。
「ああ、確かに広いな」
確かに天井も高く奥行きも広い。二段重ねのベッドが四台あるが、部屋にある大窓のせいか左程圧迫感もなく、大きな真ん中のテーブルが配置してあっても余裕が十分あった。
「でしょう?本宿の自慢の部屋ですから」
へへ、と主人は頭を下げた。
「この街は廃墟のようだが、ここだけ何故繁盛しているのだ?」
「へえ、ここの辺りでは、ここしか宿屋が無いのでございます。人里も遠く旅人に重宝がられております」
「そうか、そういう事か。わかった」
ソードは少し不審に思いながらも納得した。
「では、食事の用意が出来ましたら、お呼びしますね」
そそくさと主人は部屋から出て行った。
「・・・・・・どう思う?この宿」
ソードは皆にそう切り出した。
「客も左程怪しい奴は居なかったみたいだが、不審な点があるのか?」
クレアは口に手を当て考える夫を見つめた。
「何かこう・・・・・・整いすぎる気がする。何がどうというわけではないが」
ソードは言葉を探りながら答えた。
「ふむ、私も何も感じなかったが、一応お前の懸念、心にとめておこう」
ソシアはそう言うと黙り込んだ。
「他の者は不審な事はないか?」
とソードは皆を見渡した。
特に何も、と皆が答えると、ソードはそうか・・・・・・そうだなと自分を納得させるように頷いた。
「・・・・・・」
レオはソードの様子を見て、何かがあるのかと不安に思った。
ふと、外を見ると枯れ草が舞っている。確かにこんな荒れた僻地に、このように設備の整った宿があるのだろうか、そんな考えに陥ったレオはソードの疑念が現実にならないよう祈った。
「お食事の用意が出来ました。皆さま広間の方へお越しくださいませ」
扉の向こうで主人の声がかかる。
皆で広間へと移動すると、広間は客の声で自分たちの会話が聞こえないくらいだった。
「こちらです」
レオ達は広間の奥の窓側に案内された。
テーブルには丸鶏のグリルとサラダ、芋の煮つけ、肉のソテーなど、どれも美味しそうに並んでいる。
「美味しそうです。食材が豊富で、びっくりです」アーシェが料理の多さに驚くと、「へえ、毎日うちの者が往復二十キロ離れた人里にて仕入れておりますので、このような料理でおもてなし出来るのです」と主人は禿げ頭をかいた。
「そうか、大変だな。毎日このような食材運ぶのは」
ソードが労うと、ありがとうございます。うちの者は屈強ですから。へへ、と主人は笑った。
「さ、お召し上がりください」
主人は皆に礼を取りその場を離れた。
「美味しいです!鶏の柔らかい事!どのようにして調理されたのでしょう?弱火で焼いていくのかしら」
アーシェは口の中一杯になりながら、嬉しそうに笑顔を見せた。
「この芋もホクホクして美味しいですね」
レオも嬉しそうに破顔した。
「―・・・・・・」
コツコツとレオの後ろの窓から音がする。
「?」
レオが外を見るとそこには懐かしい顔が姿を見せた。ケンフォレンとマーモットだ。
「・・・・・・!」
レオは芋に喉を詰まらせながら彼らを見た。彼らはレオが声を出そうするのを、口に人差し指をあて止めた。そして、外、外とレオを誘った。
「・・・・・・」
レオは無言で頷き、傍に居るクレアに、お手洗いに行ってきますと声かけ、席を離れた。




