第七十一話
完結しました。第八十九話までの物語です。主人公レオーナの物語をお楽しみください。
「なかなか、森を抜けませんね」
レオは鬱蒼とした森を見上げ空を見た。もう、空は夕闇に染まっていた。
「・・・・・・辺りは暗くなる。ここらで、野宿するか」
ソードは皆をみた。
「この先に大きな楠があるのが見える。そこを宿りにしよう」
クレアが提案した。
「そうしよう」
ソードが賛同し、他は頷いてみせた。
「ああ、凄い。近くで見ると相当大きいですね」
樹齢がどれくらいあるのかわからない程大きく、その楠は枝を広げレオ達を向かい入れた。
「ここなら、雨露をしのげますね」
レッシーが楠を見上げ、安心したようにレオに微笑んだ。
「さ、食事の準備をしましょうか。アーシェ、荷物を降ろし食物を出しなさい。ここだと火を起こしても大丈夫そうです。未開の地のようですし」
アーシェはレッシーに言われた通りに、食物をあれこれと出した。
「随分と食物を持って来たのだな」
地面に広げられた食物の数々をみて、大変だったな、とソードが声をかけた。
「ええ、こんな時の為に、保存してあった食物です。もっとあれこれ持って来たかったのですが。残念です。私のお鍋さんが・・・・・・あれがあれば、たくさんの料理作れるのに」
とアーシェはしゅんとなった。
「鍋なら、小さいがあるぞ」
クレアが落ち込むアーシェに自分の鍋を見せた。
「ああ、これより私のお鍋さんの方が優秀です。使い勝手が違います」
彼女はより一層落ち込んだ。
「じゃ、代わりに調理しようか?この鍋は私の方が使い勝手が分かるし」
とクレアが提案すると、「とんでもないです!私の仕事です。この鍋でも仕方ありませんが、料理は作れます。私のお鍋さんには及びませんが」私の仕事です。とアーシェはもう一度そう言うと、せっせと調理を始めた。
「私も手伝います」
レオは張り切ってアーシェの傍についた。
「私も手伝おう」
クレアもそう言いレオの反対側の方のアーシェの傍についた。
「私の仕事です。私の命です。誰にも邪魔されたくありません」
アーシェは黙々と包丁を動かし続けた。
・・・・・・おお、ここにも、こんな料理好きがいたとは。真摯に料理に向き合うアーシェの様子を見て、レオは彼女の気持ちをよく理解出来た。レオも料理をする時は、全て一人でやりたいものだと思っていたからだ。
「野菜を切ったり、一人じゃ大変だろう。お前の邪魔はしないから、手伝わせなさい」
クレアは唇をかんだアーシェの顔を覗いた。
「・・・・・・じゃあ、切る作業は任せます」
アーシェは、この野菜の皮を剝いてください、と彼女達に指示した。
「今日も終わりか」
食事も終わり、ソードが青いランタンを灯し空を仰いだ。
「アーシェさんの料理とても美味しかったです。保存食があんなに美味しいものだとは。やはり、料理の腕が違いますね。とてもアーシェさんには、及ばないです」
レオは少し高揚気味にアーシェに声をかけた。
「ありがとうございます。レオーナ様・・・・・・リオ様とお呼びになった方がよろしいでしょうか?」
「そうですね。でも、リオと呼び捨てにしてくださいね。そう呼んでいただいた方が、自然に慣れると思います」
「かしこまりました。では、リオと呼ばせていただきます。リオも料理がお上手でした。手付きが慣れていらっしゃいます。どこで、その腕磨かれましたか?」
「故郷のクインシーという女将に習いました」
「そうですか、セオドアやウェンデルの高貴な方は料理をしないものと聞いていましたから、正直意外です」
「そうですね、故郷でもウェンデルと同じく恥とされていました。けど、私は料理が好きです。作るのも、食べるのも。あのじゅうじゅうと鍋を焼く音や、まな板と包丁の音、立ち込める美味しい匂い、大好きです」
「わかります。鍋のぐつぐつした音、台所に漂う香ばしい香り、滑らかな包丁の輝き。たまりませんね」
「たまりませんよね」
レオとアーシェは顔を見合わせ笑い合った。
「二人とも本当に料理がお好きなのですね、あんな手間のいるものを喜びに変えられるお二人には頭が上がりませんよ」
レッシーが眼鏡を拭きながら笑った。
「・・・・・・そういえば、ここのところ魔類が襲って来ないな。なぜだろう」
クレアはソードに問いかけた。
「確かに・・・・・・人里には現れないのはわかっていたが。ここの地は彼らに不都合があるのかもしれないな。それにしても、解せぬ、奴らの行動は」
ソードは厄介だと吐き捨てた。
「―魔類の行動・・・・・・この森では襲わないとは限らない。気を付けなくては」
クレアの意見に、皆頷いた。




