第六十八話
完結しました。第八十九話までの物語です。主人公レオーナの物語をお楽しみください。
「今から、ここの主に会うことになっています。奥の事を聞くと、かなり動揺していました。ソシア様の言う通り、奥に何かがあるのかもしれません」
レッシーはそう言いながら、食料などを自分の鞄に入れ、レオ達にも食料を渡し荷物に入れるよう伝えた。そして、レッシーはアーシェに、ここを頼みますよと声をかけた。
「その者も一緒に来るように」
ソシアがレッシーの揃えた材料を小さな瓶の中で混ぜ合わせながら、急にそう言った。
「どうしてですか?」
レッシーとアーシェが同時にソシアに訊ねた。
「この者もここを離れなくてはいけない状況になる、いいからついて来なさい。ここには帰って来れないと思う事だ」
ソシアの言い分に反論の余地が無かったのか、レッシーは頷きアーシェに身支度をしてきなさいと命令した。
「わかりました。少々時間がかかります。皆さまは外でお待ち下さいませ」
とアーシェはせかせかと動き始めた。
―数分後、アーシェが店から出てきた。ありとあらゆる物を身に着け小さな身体が倍になり丸い生き物のようだ。
「アーシェ、荷物を減らしなさい。それでは坑道を歩けませんよ」レッシーがそう諭すと「思い入れのあるものたちなんです。ここを離れるのでしょう?だったら持って行かないと」とアーシェは鼻息を荒くした。
「・・・・・・」
ソシアが黙ってアーシェの荷物を取っていった。
「何をするのです?ああ、大事な鍋が・・・・・・水色ちゃんは大丈夫でしょうね?」
嘆くアーシェに目もくれず、レッシーもソシアが荷物を取っていくのを手伝った。
「これでよし。じゃあ、皆さま行きましょうか」とレッシーはにっこりと笑い、レオ達に声をかけた。
「ああ・・・・・・」
アーシェは痛嘆の声を上げたが、ソシアに冷たい目で一瞥されると、諦めたのか黙って皆の後に続いた。
鉱山の街中はまだ、フェマリーンを掘り出そうと様々な人が躍起になっていた。レオ達はその人々の間を抜けて行く。嘆く者、苛立つ者、街はいつもより、更に騒がしくなっていた。誰もレオ達に関心が無いように見える。
砂が混じった風を受けながら、レオはここが本当に先程まで、フェマリーンで輝いていた場所なのだろうかと疑いたくなった。
ここが主の家です、レッシーが街の一番高い場所にある小さな木造の建物に案内した。
鉱山の主の家にしてはわりと小さいな、と思っていたレオは、入口からは想像できない家の中の広さに驚く事になる。鉱山の岩を削り出した跡を利用して作った家のようだ。奥に行くほど広がっている。しかも、壁は金色をしており、様々な装飾品に彩られていた。・・・・・・さすが主の家だな。レオは延々と続く廊下をきょろきょろと見渡しながら歩いた。
「こちらです」
レッシーは一際大きな扉の前で立ち止まった。扉が開く。
主らしいふくよかな身体の持ち主が、広い広間の豪奢なソファに鎮座していた。
「私が、ここの主アイバートだ。お前達か、こんなお宝がとれそうな忙しい時に、山の奥に行きたいと言っているのは」
開口一番、主のアイバートはそう言って不満気な顔をした。
「はい、どうしても行きたいのです。お許し願えますか?」
レッシーがそう懇願すると、アイバートは唇を噛みしめた。
「あんな怖いところよく行くな。山の奥には怖い魔物がいる。行くのは勝手だ。自分たちで行くがいい。お前達に付き合っていられないからな」
ああ怖い、ぶるぶるとアイバートの頬が震える。
「・・・・・・例の物は用意してあるだろうな?」
低い声で彼はレッシーに、にじり寄った。
「これで、フェマリーンを剥がすことのできる溶剤のレシピです」
レッシーはアイバートに紙を渡した。溶剤のレシピはレッシーが材料を揃え、ソシアが作ったものだ。
「ナシアンクの鉱石とラシュの水にココウス砂、色々あるな・・・・・・ふむ、このような物で、あのフェマリーンが取れるのか。元から硬かった層の中にあるのは皆フェマリーンなのかね?」
「ええ、これで、採るのが困難なフェマリーンはあなた様のものです」
「証明できるか?」
「はい、この部屋も、薄い層ですが、フェマリーンに覆われております。何やら硬い物で守られているようです。その為このフェマリーンは採掘できないのです。今からこの溶剤で壁を溶かして見せますが、よろしいでしょうか?」
構わないとアイバートが答えると、では・・・・・・レッシーは溶剤を入れた小さな瓶を胸元から出し、部屋の壁に掛けた。
ジュ・・・・・・溶剤は音を立てて部屋の壁の一部を溶かしてゆく。溶けた内容物に玉虫色のフェマリーンが含まれているのを見つけたアイバートは興奮してレッシーを見た。
「この溶剤をかけるとこのようにフェマリーンが溶けます。これを丸めれば、フェマリーンは持ち運びが可能となります」
よろしいでしょうか?レッシーはアイバートを真っ直ぐに見据えた。
「いいだろう。これが地図だ。持って行くがいい。奥地にはこの道を行くのがよいと思う。他の道に行くなよ。他は大事なお宝が埋まっている場所だからな。まあ、他の場所は鉱夫がいるから、お前達の事はすぐにわかるがな」
お宝は取るなよと細い目でレオ達を睨むとレッシーに地図を渡した。
「ありがとうございます」
レッシーは礼を言うと、彼の気が変わらぬうちに行きましょうと皆を外へと促した。
「彼は気まぐれですから。今は街に張り巡らされたフェマリーンのことで、頭がいっぱいですから今のところ、大丈夫でしょう」
レオ達は速足で、主の家を後にした。




